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第二部 第一章 誘うは闇の咎
余話─弓と獣 1─
しおりを挟む──魔導戦艦上での戦闘から少し時間を遡り、バランガの鍛冶場
「おいおいバランガ……ちょっとこりゃ重すぎねぇか?」
「ぬはは! そうじゃろそうじゃろ? 重いじゃろ?」
「まあ引けねぇことはねぇけどよ。もしかしておめぇ……使い勝手よりも、俺が引けねぇ弓を作ろうとしたんじゃねぇだろぉな? 形もなんか普通の弓と違うしよ」
「そ、そんなことはないぞ!」
「本当ですか師匠? 僕に『これならあの筋肉長も引けんだろう! ぬははっ!!』って言ってませんでした?」
「ぐうぅ……」
ルカスに告げ口をされ、バランガが目を逸らす。
ここはバランガの鍛冶場なのだが、ノヒン達はパランとの死闘を終え、弓を受け取りに訪れていた。ノヒンの過去については話し終えた後であり、それを聞いたマリルが号泣。泣き疲れ、ヴァンガルムを抱きながらベッドで寝ている。ヴァンガルムはヴァンガルムで魔素を使い過ぎ、疲れたようだ。
「ちっ……まあだが、これならとんでもねぇ威力の矢が撃てんのは確かだな」
「そ、そうじゃろそうじゃろ! そ、それにここを見てくれんか!」
そう言ってバランガが矢をセットする台座の先端を指差す。そこには大砲や銃のような砲身があり、どうやらその砲身の中を矢が通るようだ。
「この筒はな、大砲で言うならば砲身じゃ。この中を通ることで矢がブレることなく飛ぶんじゃよ。砲身の中に螺旋状の溝を作ってな、中を通る矢に回転する力を与えて直進性……っと……聞いておるのかノヒンよ?」
「ん? ああ聞いてるぜ? すげぇ威力で真っ直ぐ飛ぶんだろ?」
「ぬははっ! お主に話すだけ無駄だったようじゃな! そうじゃ! とんでもない威力で真っ直ぐ飛ぶんじゃ! お主の力があるからこそ! 火薬よりも凄まじい威力の矢が放てる! どれ、弓の装着の仕方を教えてやろう」
「装着だぁ? 普通に持って使うんじゃねぇのかよ」
「バッカもん!! このバランガ様がそんな普通のもんを作るわけがなかろう! お主にはルイスが鍛えた最高の呪具である鉄甲があるではないか! その鉄甲と弓を擦り合わせてみろ!」
バランガにそう言われ、弓を右腕の鉄甲に擦り合わせる。すると黒錆の長剣を装着した時のようにガチンッと金属音が響き、弓が鉄甲に装着された。
「へぇ、こりゃすげぇや」
「そうじゃろそうじゃろ?」
「んで? 外し方はどうやんだ?」
「弓の後ろに金具があるじゃろ? それを引っ張れば魔素の結晶化が解けるんじゃ」
「おお! すげぇな!」
ノヒンが弓を何度か着脱する。
「これなら装着したままでも手の自由が効くな。んで? 矢はどこにあんだ?」
「矢はこれじゃよ」
そう言ってバランガが渡してきたものは……
「おいおいなんだよこりゃ。長ぇ弾じゃねぇか」
バランガは矢と言ったが、形状はもはや杭のような形。弾と言うには長い。材質もおそらく鉄かなにかの呪具なのだろうが、もはや矢ではない。
「しょうがないじゃろ? 砲身を通して回転力を与え、直進性を……っと……聞いておるのかノヒン?」
「ん? ああ聞いてるぜ? んで? どうやって装填すりゃいいんだ?」
「やれやれお主はまったく……。どれ、貸してみろ」
バランガが呆れた表情でノヒンから矢を受け取る。
「砲身の前から矢を込め、普通に弦を引いてもよいが、もう一つ撃ち方があるんじゃ。まずは弦を引いてくれんか?」
「ちっ……簡単に言うけどよぉ、めちゃくちゃ重いんだぜ? ……ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「そう! そうじゃ! 引ききった辺りに鉄の棒があるじゃろ? そこに弦を掛けるんじゃ」
「……ぬぅぅぅっ! ……っと……こうか?」
弓の後ろ側に少し飛び出した棒があるので、そこへ弦を引っ掛ける。
「おお! 引いた状態で止まりやがった! ……ってもこの棒もすげぇな! こんだけ強力な弦の力なら折れちまいそうなもんだが……」
「その棒の部分に関してはかなり鍛え上げた呪具なのでな。じゃがその弦の力であれば摩耗も早いじゃろう。定期的なメンテナン……っと……聞いておるのか?」
「ん? ああ、聞いてるぜ? とりあえず弾ぁ貸してくれ」
「た、弾じゃない! 矢じゃ! あくまでこれは弓なんじゃ!」
「ちっ、どっちでもいいだろ」
ノヒンが矢を受け取り、弦を引っ掛けた棒の前にカチャリと置く。矢の先端は尖っていて、ちょうど先端が砲身の中へと入る。
「んで? 打つ時はどうすんだ?」
「台座の横にレバーがあるじゃろ? トリガーと言うんじゃが、それを手前に引けば弦を引っ掛けた棒が引っ込む。棒を出したい時は、トリガーを前に押せば……待て待て待てぇい! な、何を撃とうとしておるんじゃ!」
「はぁ? 部屋ん中で撃つわけねぇだろ。ちょっといじってた……だぐぅっ!!」
ノヒンがトリガーと呼ばれる部分をいじっていると、寝ぼけて半魔化したマリルが突っ込んできて……
思い切りノヒンに抱きついた。その反動でノヒンがトリガーを引いてしまい……
キャドンッ!
とおよそ弓から聞こえてくる音ではない轟音がして、矢が放たれてしまった。幸いにもノヒンの右腕は天井へと向けられていたので、被害は天井だけで済んだのだが……
ガラガラと天井の残骸が降り注ぐ中で、ノヒン達が空を見る。空は厚い雲で覆われていたはずなのだが、バランガの鍛冶場の上空だけ雲が四散し、星が輝いていた。
「お、おいおいバランガ……ちょっとこれは威力が……」
「ま、まさかこれ程とは! 試し撃ちが出来んから実際の威力は分からんかったが……す、素晴らしいぞい!!」
「ぬははっ!」とバランガが笑う。鍛冶場の屋根を吹き飛ばされたはずなのだが、とても満足そうだ。
「夜中にこんな大きい音出して……とりあえず僕は近所に謝りに行ってきますね?」
そう言ってルカスが外へと出る。
「うぅ……なんの音ですかノヒンさん……? 確かノヒンさんがアクセプトって言って……ヴァンちゃん……が……すー……すー……」
マリルがノヒンに抱きついたまま寝言のようなことを言う。
「ちっ……寝言かよ。ってもアクセプトってこたぁラグナスとの戦闘の夢でも……」
ノヒンがアクセプトと言ったことで、眠るヴァンガルムの体がブンッと鈍く光り、黒い霧が爆発するように発生。
ヴァンガルムが巨大化し、鍛冶場が三分の一程壊れた。これにはさすがのバランガも「わしの鍛冶場がぁ……」と、力無く膝を付く。
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