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第二部 第一章 誘うは闇の咎
プロローグ─奈落の檻─
しおりを挟む──パランとの死闘から遡ることおよそ一年、次元崩壊発生直後の聖王都ソール
「……つぅ……頭が……割れ……」
暗い部屋で一人、ジェシカが目を覚ます。周りを見渡せば、目を見張るような豪華な装飾品に彩られた部屋であることが分かる。自身が横になっていたベッドも信じられないほどにふかふかであり、思わず手で感触を確かめてしまう。
「……ここはどこ……なんだ? 確か私はオーディン教会でノヒンと……ラグナスとロキが現れて……いや、前日に会って……? そう……そうだ! ノヒン! どこにいるんだノヒン!?」
ジェシカがオーディン教会での出来事を朧気に思い出し、ベッドから飛び起きる。すると視界の前方に黒い霧が集まり、人の形となる。
「くく……やっとお目覚めのようだな。ヘルの流れを汲む者……いや、ジェシカよ」
黒い霧は少年兵姿のロキとなり、にやにやと笑いながらジェシカを見る。
「ふざけるなよ貴様! 私とノヒンが絶対に貴様とラグナスを止めてみせる!!」
「くく……くぁははははははははははははははははっ! 止めてみせるだと? どうやってだ!? もう全て終わっている!」
「終わっているだと……? おいロキ! 終わっているとはどういうことだ!!」
ジェシカがロキに掴みかかる。
「くく……言葉通りだジェシカよ。すでに貴様の仲間は全てユグドラシルの供物となった」
「なん……だと……? 嘘……だよな……?」
「邪魔が入ったせいで少々面倒なことにはなっているが、ラグナスであれば問題ないだろう。……と、どうしたのだ? 何を呆けている?」
「嘘……だ……嘘だ……嘘だ嘘だ嘘……だ……」
「なんだ? 信じていないのか? ならば……」
「ぐぅっ……」
ロキがジェシカの髪を鷲掴みにする。そのまま窓から無理やり顔を押し出し、外を見せる。
「なん……だ……? 空が……」
ジェシカの眼前に異様な光景が広がる。空は墨で塗りつぶしたように真っ黒で、何かがバチバチと稲光のように光を放つ。その光は絶えずあちらこちらで明滅し、それもあって視界は利く。
「あれは次元干渉の歪み、いわゆる次元崩壊だ。今はラグナスがどうにか安定させている」
「ラグナス……は……?」
「ラグナスならばあそこだ」
ロキが指し示した方向、遙か上空に黒い球体が見える。その球体へ向け、地上から黒い霧が集まっていた。
「あの球体に地上から魔素が集まっているのが見えるだろう? あれはこの国の者共をエインヘリャルとし、そのNACMOをユグドラシルへと捧げ、ユグドラシルの修復と次元干渉の安定を行っている」
「エインヘリャル……? 確かそれはラグナスの魔素で満たさなければ……ダメだ……状況の整理が……」
「そもそもエインヘリャルは少量のNACMOでも発動は可能だ。だがその場合の魔石ではNACMOの発生量が下がる。現状では貴様の仲間達のように時間をかけている場合ではないのでな。少ないNACMO量の魔石なので数は必要になるが……おそらくこの国、全ての人間を使って足りるくらいだろうな。ああそれよりあそこだ」
「あそこ……?」
ロキがおもむろに指で指し示す。あの場所は……
「あれはオーディン教会……か……?」
ジェシカの視線の先、そこはオーディン教会の式典広場。
広がる光景は……
赤──
赤──
赤、赤、赤──
「……うぅああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘……ぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ヒンスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ! クラ……クラィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ! うぅ……うっぷ……うえぇ……げほっげほ……み、みんな……そんな……そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……うぅっぷ……」
ジェシカの眼前に広がるは毒々しい血の赤で染まった式典広場。鮮烈な赤は血の池のようであり、池に浮かぶは数多の……
死体。
あまりにも凄惨な光景に、思わずジェシカが吐く。
吐いて吐いて……
吐くものが何もなくなったジェシカの口から漏れたのは……
「ノヒン……そう……だノヒン……は……?」
「くく……ノヒンであればここにはいない。次元崩壊の外だ。この次元崩壊が落ち着いたとて、会えるかは分からないぞ?」
「なんだ……って……? ノヒンに会え……ない……?」
「それに関してはラグナス次第であろうな。次元崩壊を安定させ、元の次元へと戻すのならば会えるだろう。だが別次元へと移動させて安定させたとしたら……」
「そん……な……」
「もとよりラグナスはノヒンを排除しようとしていた。貴様と交合うためにな。……となると別次元へと移動させ、ノヒンの介入を防ぐということも考えられる。まあだが……」
「ラグナスは不安定なのでな。ノヒンに止められようとしていた節もある」とロキが口にするが、ジェシカの耳には届かない。
共に戦った仲間は全て死んだ。
愛するノヒンもいない。
自分は抱かれたくもない相手に抱かれ……
孕まされる。
絶望しか……
ない。
「はは……なんなんだ……なんなんだよ……私は……私はもう……」
「くくく……自死でも選ぶか?」
にやにやとしたロキの底意地の悪い笑み。
「そう……だな……もう……もう疲れたよ……。聞いてもいいかロキ……? どうやれば簡単に……死ねる……?」
「頭を潰すか魔石を砕くしか方法がないのは知っているだろう? まあ……自分で確実にやるのは難しいだろうな。導術を使いこなせればもう少し簡単に出来るだろうが……」
「あれ……? そういえば貴様は……ラグナスの味方じゃないのか……? いいのか……? 私が死んで……?」
「ラグナスに協力していたのは自分のためだ。今後どうするかは……まあ私が面白いと思えることをさせてもらう。本体と同期出来たことで色々と思い出したのでな。と言ってもよく分からんだろう?」
「いや……もう理解しようとする気もおきない……。私が死んでもいいと言うなら……殺してくれないか……?」
「了解した。何か言い残すことはないか?」
「言い残すことなど……あぁ……頭が回らない……早く楽になりた……い……」
「くくく……いい絶望だな。では……」
そう言ってロキがどこからともなくミョルニルを取り出す。対象を必ず粉砕する神器、ミョルニル。ノヒンは超速再生や事象崩壊魔術で対処していたが、通常であれば殴られれば必ず粉砕する。
「一思いに頼む……」
「くく……情けないものだな?」
「もう……なんでもい……」
ジェシカが言い切る前に、ミョルニルがジェシカの側頭部へと直撃。
パキャンという音とともに──
ジェシカの頭部は消し飛んだ。
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