覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

文字の大きさ
上 下
132 / 229
第二部 第一章 誘うは闇の咎

プロローグ─奈落の檻─

しおりを挟む

 ──パランとの死闘から遡ることおよそ一年、次元崩壊発生直後の聖王都ソール

「……つぅ……頭が……割れ……」

 暗い部屋で一人、ジェシカが目を覚ます。周りを見渡せば、目を見張るような豪華な装飾品に彩られた部屋であることが分かる。自身が横になっていたベッドも信じられないほどにふかふかであり、思わず手で感触を確かめてしまう。

「……ここはどこ……なんだ? 確か私はオーディン教会でノヒンと……ラグナスとロキが現れて……いや、前日に会って……? そう……そうだ! ノヒン! どこにいるんだノヒン!?」

 ジェシカがオーディン教会での出来事を朧気に思い出し、ベッドから飛び起きる。すると視界の前方に黒い霧が集まり、人の形となる。

「くく……やっとお目覚めのようだな。ヘルの流れを汲む者……いや、ジェシカよ」

 黒い霧は少年兵姿のロキとなり、にやにやと笑いながらジェシカを見る。

「ふざけるなよ貴様! 私とノヒンが絶対に貴様とラグナスを止めてみせる!!」
「くく……くぁははははははははははははははははっ! 止めてみせるだと? どうやってだ!? もう全て終わっている!」
「終わっているだと……? おいロキ! 終わっているとはどういうことだ!!」

 ジェシカがロキに掴みかかる。

「くく……言葉通りだジェシカよ。すでに貴様の仲間は全てユグドラシルの供物となった」
「なん……だと……? 嘘……だよな……?」
「邪魔が入ったせいで少々面倒なことにはなっているが、ラグナスであれば問題ないだろう。……と、どうしたのだ? 何をほうけている?」
「嘘……だ……嘘だ……嘘だ嘘だ嘘……だ……」
「なんだ? 信じていないのか? ならば……」
「ぐぅっ……」

 ロキがジェシカの髪を鷲掴みにする。そのまま窓から無理やり顔を押し出し、外を見せる。

「なん……だ……? 空が……」

 ジェシカの眼前に異様な光景が広がる。空は墨で塗りつぶしたように真っ黒で、何かがバチバチと稲光のように光を放つ。その光は絶えずあちらこちらで明滅し、それもあって視界は利く。

「あれは次元干渉の歪み、いわゆる次元崩壊だ。今はラグナスがどうにか安定させている」
「ラグナス……は……?」
「ラグナスならばあそこだ」

 ロキが指し示した方向、遙か上空に黒い球体が見える。その球体へ向け、地上から黒い霧が集まっていた。

「あの球体に地上から魔素が集まっているのが見えるだろう? あれはこの国の者共をエインヘリャルとし、そのNACMO魔素をユグドラシルへと捧げ、ユグドラシルの修復と次元干渉の安定を行っている」
「エインヘリャル……? 確かそれはラグナスの魔素で満たさなければ……ダメだ……状況の整理が……」
「そもそもエインヘリャルは少量のNACMOでも発動は可能だ。だがその場合の魔石ではNACMOの発生量が下がる。現状では貴様の仲間達のように時間をかけている場合ではないのでな。少ないNACMO量の魔石なので数は必要になるが……おそらくこの国、全ての人間を使って足りるくらいだろうな。ああそれよりあそこだ」
「あそこ……?」

 ロキがおもむろに指で指し示す。あの場所は……

「あれはオーディン教会……か……?」

 ジェシカの視線の先、そこはオーディン教会の式典広場。

 広がる光景は……

 赤──

 赤──

 赤、赤、赤──

「……うぅああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! 嘘だ! 嘘だ嘘だ嘘……ぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ヒンスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ! クラ……クラィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ! うぅ……うっぷ……うえぇ……げほっげほ……み、みんな……そんな……そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……うぅっぷ……」

 ジェシカの眼前に広がるは毒々しい血の赤で染まった式典広場。鮮烈な赤は血の池のようであり、池に浮かぶは数多の……

 死体。

 あまりにも凄惨な光景に、思わずジェシカが吐く。

 吐いて吐いて……

 吐くものが何もなくなったジェシカの口から漏れたのは……

「ノヒン……そう……だノヒン……は……?」
「くく……ノヒンであればここにはいない。次元崩壊の外だ。この次元崩壊が落ち着いたとて、会えるかは分からないぞ?」
「なんだ……って……? ノヒンに会え……ない……?」
「それに関してはラグナス次第であろうな。次元崩壊を安定させ、元の次元へと戻すのならば会えるだろう。だが別次元へと移動させて安定させたとしたら……」
「そん……な……」
「もとよりラグナスはノヒンを排除しようとしていた。貴様と交合まぐわうためにな。……となると別次元へと移動させ、ノヒンの介入を防ぐということも考えられる。まあだが……」

 「ラグナスは不安定なのでな。ノヒンに止められようとしていた節もある」とロキが口にするが、ジェシカの耳には届かない。

 共に戦った仲間は全て死んだ。

 愛するノヒンもいない。

 自分は抱かれたくもない相手に抱かれ……

 孕まされる。

 絶望しか……

 ない。

「はは……なんなんだ……なんなんだよ……私は……私はもう……」
「くくく……自死でも選ぶか?」

 にやにやとしたロキの底意地の悪い笑み。

「そう……だな……もう……もう疲れたよ……。聞いてもいいかロキ……? どうやれば簡単に……死ねる……?」
「頭を潰すか魔石を砕くしか方法がないのは知っているだろう? まあ……自分で確実にやるのは難しいだろうな。導術を使いこなせればもう少し簡単に出来るだろうが……」
「あれ……? そういえば貴様は……ラグナスの味方じゃないのか……? いいのか……? 私が死んで……?」
「ラグナスに協力していたのは自分のためだ。今後どうするかは……まあ私が面白いと思えることをさせてもらう。本体と同期出来たことで色々と思い出したのでな。と言ってもよく分からんだろう?」
「いや……もう理解しようとする気もおきない……。私が死んでもいいと言うなら……殺してくれないか……?」
「了解した。何か言い残すことはないか?」
「言い残すことなど……あぁ……頭が回らない……早く楽になりた……い……」
「くくく……いい絶望だな。では……」

 そう言ってロキがどこからともなくミョルニルを取り出す。対象を必ず粉砕する神器、ミョルニル。ノヒンは超速再生や事象崩壊魔術で対処していたが、通常であれば殴られれば必ず粉砕する。

一思ひとおもいに頼む……」
「くく……情けないものだな?」
「もう……なんでもい……」

 ジェシカが言い切る前に、ミョルニルがジェシカの側頭部へと直撃。

 パキャンという音とともに──

 ジェシカの頭部は消し飛んだ。

 
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~

ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。 玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。 「きゅう、痩せたか?それに元気もない」 ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。 だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。 「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」 この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

僕と精霊〜The last magic〜

一般人
ファンタジー
 ジャン・バーン(17)と相棒の精霊カーバンクルのパンプ。2人の最後の戦いが今始まろうとしている。

処理中です...