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第一部 第六章 夢の残火─継承編─

燃ゆる血潮 2

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「……やっぱまだ全快じゃねぇから負担がでけぇな……『バーンブラッド』だっけかぁ? ちっ……ルイスもだせぇ名前付けやがるぜ。だが使いこなしてやるさっ! っくぞおらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 バーンブラッド──

 それは損傷したノヒンの魔石を、レイラの魔石を使用して修復することによって得た力。

 常時展開、任意展開の両側面を持つ無詠唱特殊魔術。常時展開のおかげでノヒンの速度は以前よりも上昇しており、体術性能も向上。

 さらにそこから魔石に刻み込まれたレイラの因子を解放する任意展開。尋常ならざる速度と体術を極めたレイラのデータが魔石に読み込まれ、ノヒンの戦闘力は爆発的に向上。

「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 凄まじい死の旋風。

 わらわらと群がるムスペルの軍勢に向けて、ズシンッと足を踏み込んでの黒錆の長剣による横薙ぎの一閃。ノヒンの前方の軍勢がまとめて爆ぜるように吹き飛ぶ。

 だが敵は五万はいる軍勢。がら空きになったノヒンの背後へと無数に群がるが……

 ノヒンは剣閃の遠心力を利用してぐるりと回り、逆の腕で黒錆の長剣による打ち上げの一閃を放つ。さらにそのままの勢いで飛び後ろ回し蹴りを放ち、空中で器用に体勢を変えて斬り下しの一閃。と同時、攻撃をかいくぐって突撃してきた一人を回し蹴りで粉砕し、さらに遠心力を利用した黒錆の長剣の一閃……と、止まることのない猛攻。ノヒンの力任せの剣術と、レイラの熟達した体術による殺激の乱舞。

「はあっ! そこだっ! ちっ! 邪魔っだぁっ! るあぁっ! これなら事象崩壊なんちゃらってのは使う必要がねぇなっ!! バーンブラッドってぇ名前はだっせぇけどよぉっ!! とりあえずぅ……飛んどけやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 黒錆の長剣による暴風のような剣閃により、群がるムスペルの軍勢はことごとく物言わぬ肉塊へとなる。

 だがやはり圧倒的な数の暴力。気付けば周りを完全に囲まれ、終わりが見えてこない。肉塊へとなった軍勢から発生する魔素によって、魔素が枯渇することはなさそうだが……

「ちっ! 埒が明かねぇっ! どんだけいやがんだよっ!!」

 そう叫ぶと同時、ノヒンが身を低くして目を閉じ、ギチギチと全身に力を漲らせる。今までのノヒンにはない行動であり、溜めの動作。

 新しく得た力であるバーンブラッドには、無詠唱特殊魔術以外の側面がある。それは──

 詠唱を必要とする通常の魔術。

 魔術には段階がある。まず自身の魔石に語りかけ、力を徐々に外、もしくは内へと向ける。ある程度力が作用し始めたところで詠唱だ。

 通常の魔術ではイメージを具現化するための文言は決まっている。だがノヒンが得た力、バーンブラッドはイレギュラーであり、決まった文言などはない。ただただ己の魔石へと熱い想いをぶつけるのみ。

「マジでこの世界は腐ってやがんなぁっ! 神話だぁ? ムスペルだぁ? 結局弱ぇ奴らをいたぶってるだけじゃねぇか! 腐った糞どもは俺が全部ぶち殺してぇ……ぐぅ……う……魔石が熱ぃ……熱ぃけどよぉ……もっとだ! もっと燃えやがれっ!! 例え俺が死のうが燃え尽きようがぁ……全員道連れだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! っくぞぉっ! 血燃バーンブラッドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

 叫ぶと同時、ノヒンから魔素が爆発するように溢れ出す。溢れ出した魔素は燃えるようにゆらゆらと揺らめき、熱くはないはずなのだが周囲の景色を歪める。

「ぐ……ぎぃ……とんで……もねぇ負荷だが……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ドパンッと凄まじい轟音がして、ムスペルの軍勢の二割ほどが一瞬で消し飛ぶ。いや──

 
 
 ノヒンはただ黒錆の長剣を振るいながら突撃しただけなのだが、あまりの威力に空は震え、大地が揺れる。

「……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 圧倒的な膂力と速度による暴力。

 認識することすらままならない絶対の死。

 気付けばあれほどいたムスペルの軍勢は壊滅し、肉塊から立ち上る魔素の中に一人、ノヒンだけが立っていた。

「……ぜは……ひゅう……ひゅ……」

 息も絶え絶えにノヒンが黒錆の長剣を鞘に納める。

「ご、ごふっ……」

 一方的に敵を蹂躙したノヒンだが、口からは血を吐き出し、苦しそうに胸を抑えて膝をついた。

「ちっ……やっぱもたねぇよな……ぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 パキパキとノヒンの心臓──魔石の位置から嫌な音がする。この音は修復したノヒンの魔石がひび割れる音。

「お、おい! 大丈夫かノヒン!?」

 膝をついて苦しむノヒンの元に、ランドとカタリナが駆け寄る。

「……大丈夫だ……死にゃしねぇよ……ぐうぅ……」

 大丈夫だとは言いながらも、かなり苦しいのだろう。ノヒンが苦悶の表情でその場に倒れ込む。

「お、おいおい! 全然大丈夫じゃないじゃないかよ! カ、カタリナ! ノヒンを治せないか!? 頼む!!」
「う、うん! やってみるね!」

 倒れ込んだノヒンの胸にカタリナが手を置く。すると触れた場所が淡く光り……

「ダ、ダメ! 治癒できない! な、なんで!?」
「ぐう……ぅ……だ、大丈夫だ……。ちょっと無茶したせいで魔石がひび割れただけだからよ。……これに関しちゃあ簡単には治せねぇらしいから気にすんな。無茶しなけりゃ魔石の自己修復力だかなんだかで治る……。それよりも……」

 ノヒンがふらふらと立ち上がり、いまだ地面に倒れ伏したままのムスペルに視線をやる。ここまでそれなりに時間は経過したのだが、ムスペルが回復する気配はない。

「……っし……あれを倒しゃあ終わりだよな? しばらく全力はだせねぇけどよ、さっさと終わらせ……」

 ぞくり──

 と、ノヒンが直感で不穏な気配を感じ取る。

「なんだか分からねぇが嫌な気配がしやがる! とりあえず話は後だっ!!」

 そう言ってノヒンがムスペルの元へと駆け出すが……

『く……くく……ありがとうございます。たっぷりと時間を頂いて……。とりあえず不便なので腹部の傷だけでも治しましょうか』

 むくりとムスペルが起き上がり、はじけ飛んだ腹部がミチミチと再生する。

「ちっ……寝たふりこいてやがったのかぁ?」
『いえいえ、あなたを倒すための準備をしていたんですよ』
「へぇそうかい。それで? どうすりゃ俺に勝てんだ?」
『それは……こうすればですよ?』

 ムスペルが自身の胸を抉り、肉の隙間から真っ赤に燃える魔石が覗く。

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