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第一部 第六章 夢の残火─継承編─
消えぬ残火が燃ゆる時 1
しおりを挟む「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!! お母さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!! お父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
半魔となったマリルが両親の元へと飛んで来て抱きしめ、絶叫する。それを見たムスペルは満足そうに笑い、まるでゴミでも放るようにランドを投げ捨ててマリルの肩を掴んだ。
『さあさあさあっ! やりましょう! 私と! 楽しませて下さい! 私を!! ……っと……聞いていますかお嬢さ……んぐぁっ!!』
マリルが泣きながら「やめてっ!」と腕でムスペルを払い、吹き飛ばす。マリルは代を重ねた半魔ではなく、ムスペルの魔素によって成った半魔。さらにまだ詳細は分からないが、多重半魔へと成ったことで凄まじい力を獲得していた。これであればムスペルとも戦えるかもしれないが……
『す、素晴らしい! これ程の力! くふっ! くふふっ! ほら! やりましょう! あなたの両親を殺したのは私ですよ!? さあ! さあさあさあっ!!』
「うぅ……お母さぁぁぁぁぁぁぁん……お、お父さぁぁぁん……うぐ……ひっく……うあ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」
『聞いてますかお嬢さん? あなたの両親を殺したのは私ですよ? 憎いですよね? 殺したいですよね?』
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」
『なにを無視しているんですか?』
「ひ、ひぐぅ……」
一向に戦おうとしないことにイラついたムスペルが、マリルの髪を鷲掴みにして持ち上げる。
「は、離して! うぅ……お母さぁぁぁぁぁぁん!! お父さぁぁぁぁぁぁん!!」
『ちっ……これはダメですね。せっかく楽しめると思ったのですが、残念です』
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! やだやだぁぁぁぁぁぁぁっ! 離して! 離し……ぃぐぅっ!! う……うえぇ……ごほっ……ごほ……」
ムスペルが髪を鷲掴みにしたまま、マリルの脇腹を殴りつける。メシメシと嫌な音がして肋骨が折れ、苦しそうにマリルが吐いた。
『おおっ! 貫けると思ったのですが頑丈ですね! これは楽しいサンドバッグになりそう……だっ!!』
「んぐぅっ!!」
ムスペルが鷲掴みにした手を離すと、マリルを思い切り蹴りつけた。腕の骨がへし折れて飛び出し、激しく地面を転げる。
「い、痛いぃぃぃぃぃぃぃぃっ! いや! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! あぁぁっ!! くうぅっ! や、やめ……! んぐぅっ!! あ……ああ……ん゛ん゛っ゛!」
もはや虫の息のランドの目の前で、両親を殺され、絶望している少女が一方的に嬲られていた。
「……や……やめろ……やめ……」
自分の無力さにランドが涙する。
何も守れなかった。
離れた場所で戦っているカタリナやセリシア、ファム、カグツチ隊も皆殺しにされるのだろう。
「……はは……これで終わり……か……? なんだ……よ……なんだよそれぇぇぇ……うぅ……くそ……だけど……だけどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! 見てるだけなんて出来るわけないだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ランドが最後の力を振り絞り、立ち上がる。視界が霞んで足に力が入らずふらつくが……
「僕……が……僕が相手……だ! ムスペルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」
『ええ? あなたはもういいですって。全然楽しくないので。それにこのお嬢さん、傷の治りがとても早くて楽しいですよ? あ! そうです!! あなたもこっちに来て、このお嬢さんで遊びませんか!?』
あまりにも邪悪なムスペルの笑顔。いや、笑顔と言うよりも、興奮した表情はどこか歪んでいる。
「ふざ……ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 来い! 来いよムスペル!! 僕が相手だ!! お前は僕が殺す!!」
『はあ……五月蝿いですねぇ。放っておいてこれ以上騒がれても面倒ですし……いいでしょう。先にあなたから殺して差し上げますよ』
そう言ったかと思うと、次の瞬間にはランドの目の前にムスペルがいた。もはやランドにムスペルの動きを捉えることは出来ない。
『一気にがいいです? ちょっとずつがいいです? 痛いのは……好きです?』
「があっ……あ……」
無数に刻まれたランドの傷口に、ムスペルが指をねじ込む。
「んぐぅっ……た、頼……む……ムスペル……僕はどうなっても……いい……目的は……達成したん……だろ……? だから……殺すのは僕だけ……に……」
『いいですよ?』
「ほ、本当……か……?」
『なんて言うわけないでしょう? こんなに楽しいことをやめるわけないじゃないですかぁ? 馬鹿なんですぅ?』
「ぐうぅ……」
ランドに出来ることなど、もう何も残されていない。
いや、もはや残った人類でムスペルに対抗出来る存在などいはしない。
あとは足掻いて足掻いて……
殺されるだけだ。
「ぐぅ……くそ……こんな時……こんな時に……なんでいないんだよノヒン! ちっくっしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
ランドが最後の……
本当に最後の力を振り絞り、ムスペルに掴みかかる。
そんなランドをムスペルは淡々と壊していく。顔からは笑みがこぼれ、心の底から楽しんでいるように見える。
『やはりあなたでは楽しくありませんねぇ? 早く終わらせてあのお嬢さんで遊ぶとしましょう』
『ではでは……』と、ムスペルがランドの髪を鷲掴みにして持ち上げる。いよいよこれで死ぬんだなとランドは悟り、ゆっくりと目を閉じた。誰も救うことは出来なかったが、最後まで戦った。
これなら地獄でノヒンに顔向け出来るだろうかと思いながら、涙を流す。
「くそ……くそっ!!」
傷付き、心が折れ、もう諦めたはずだが……
「嫌だ!! 嫌だ嫌だ!! こんな何もなせずに死にたくない!! 僕は! 僕は!! みんなを救いたかったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『残念ですがさよならです』
魔石ごと貫くつもりなのだろうか、ムスペルが手を手刀のように構える。
そのまま構えた手を後ろに引き、ランドの体を貫こうと力を込めたところで……
スヒィン──
ランドの耳元で澄んだ音がした。
聞き覚えのある音。
天之尾羽張が次元を切り裂く斬撃の音。
見ればムスペルがランドの背後に視線をやり、驚きの表情をみせて『ヴァン……ですか……?』と呟いた。ランドも振り返りたいが、ムスペルに髪を鷲掴みにされて振り返ることが出来ない。
だが──
後ろから感じるこの気配は……
「よぉランド。元気してたかぁ?」
もう二度と聞くことはないと思っていた声。
憎くて……
憎くて憎くて……
それでも尚、たまらなく信頼していた男の声──
「うぅ……うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ノヒン! ノヒィィィィィィィィィィィィィィンッ!!」
「ちっ……相変わらずキャンキャンうるっせぇなぁ? だけどよ、頑張ったんだなランド……。見りゃ分かるぜ? 正直状況は分からねぇし、この女が誰なのかも知らねぇ。だけどよ、俺の大切な仲間ぁっ! 傷付けやがったのは許せねぇっ!!」
『な、何故……? 何故ヴァンがここに!?』
「うるっせぇ!! とりあえずその汚ねぇ手をランドから離せやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
『ぐぶぁっ!!』
ノヒン渾身の拳がムスペルの顔面へと叩き込まれた。
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