覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

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第一部 第六章 夢の残火─継承編─

十二の咎 1

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 ──トズールでの死闘から四ヶ月後

「もう動いても大丈夫なのですか? ランド様」
「ああ。ありがとうセリシア……」
「お体は大丈夫そうですが……まだ心が疲れていらっしゃいますね。やはりノヒンさん……ですか?」
「そう……だね。僕のせいで……」

 ここはフリッカー大陸南部の町プレトリア。ランドに優しげに語りかけている女性はセリシア・カグツチ。そう──

 セティーナの妹だ。

 セリシアもセティーナと同じように、燃えるような赤い髪。長さこそショートだが、揺らめく炎のような赤が、女神のように美しい顔を引き立てている。服装はセティーナと違い、動きやすさ重視なのか軽装である。

「ですからランド様のせいではないと何度も申し上げましたよ? あの大戦斧は呪いの力が恐ろしく強い。いえ、ノヒンさんの想い……ですね」

 言いながらセリシアが、部屋の片隅に立てかけた大戦斧に視線を移す。

「やっぱりノヒンは死んだんだよ……な?」

 絞り出すようなランドの言葉。

「私はその現場にいなかったのでなんとも言えませんが、魔石が破壊されたのであればおそらく……」
「確認しようにも次元崩壊に巻き込まれてしまったからな……。くそっ……ふざけるなよノヒン……『後は任せた』って……僕に……僕に何が出来るって……」

 レイラの事象崩壊魔術によってノヒンの魔石が破壊されてから、四ヶ月の時間が過ぎている。あれからランドは怪我と精神的消耗からほとんど話せない状況が続き、ようやくまともに話せるような状態へと回復していた──


---


 ──四ヶ月前

 四ヶ月前のあの時、ランドの腕の中でノヒンは徐々に冷たくなっていき……

 どうしようもない現実にランドは絶叫した。

 そのランドの絶叫に呼応するかのように大地が揺れ、次元崩壊がトズールまで急拡大。

 切り立った断崖が次元崩壊の黒い球体に飲み込まれ、ランドとノヒンの前までじりじりと迫る。

 もうあと少しで二人が次元崩壊に巻き込まれるという瞬間──

 ノヒンがゴボゴボと血を吐きながらランドを掴み、「後は任せたぜ」と──

 大戦斧と共にランドを次元崩壊から逃がすように放り投げた。

 ランドの目の前でゆっくりと次元崩壊へ呑み込まれるノヒン。ノヒンは力を振り絞って拳を上げ、「行けっ! ランドォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」と叫び──

 叫びを聞いたランドは大戦斧を拾って走った。

 大戦斧を持った瞬間、頭の中では「殺せ殺せ」という声が響く。だがランドはもう狂わない。ノヒンに「後は任せた」と言われたのだ。状況も分からず、気持ちに折り合いなどついてはいない。だが──

 大戦斧の呪いを想いに変え、ランドはひたすらに走った。そのままサハラウ側へと通じるワジ洞窟を抜け──

 なんとかサハラウへ辿り着いたランドに、巨大な魔獣達が群がる。サンドワームにワイバーンにゴーレムなど、群れをなして凄まじい叫びを上げる。

 真経津鏡まふつのかがみにはヒビが入り、魔獣達を退ける力はなくなっていた。やるしかない。絶対に絶命の状況だが──

 ランドが大戦斧を構え、ガチンッと歯を食いしばる。

 ギチギチと全身に力を漲らせ、ザワザワと青く美しい毛が全身を覆う。

 そうしてランドはまるでノヒンのように魂の叫びを上げ──

 涙を流して戦った。

 数刻後、次元崩壊の様子を確認しに来たセリシアが加勢することになるのだが、セリシアはその時の様子を「とても美しく、儚いものに見えた」と語っていた──


---


 ──現在

「ははっ……僕は全部失くしてしまったな……。もう何も残っていない……」
「しっかりして下さいランド様! あのサハラウでの勇姿はなんだったのですか!? あの時のランド様は必死に前に進もうとしていたじゃありませんか!」
「あの時は必死だったさ! だけど……だけど! 全て次元崩壊に呑み込まれて何も残っていないじゃないか! 僕が狂っている間に妹のアルも次元崩壊に呑み込まれていた! さよならも言えていない! 愛した人も! 愛した村も! 憎くて憎くて……それでもたまらなく信頼していたノヒンだってもういない! 僕一人で何が出来るって言うんだよ! 次元崩壊だって徐々に広がってるんだろ!? ここだってすぐに次元崩壊に呑み込まれるさ! もう無理だ! 終わってるんだよ! 取り返しなんてつかないんだ! 全部全部……滅びるんだよ!!」
「ランド様!!」

 バシンッと、ランドの頬がセリシアにたれる。

「そんなことでどうするんですか! きっとノヒンさんは……ランド様のそんな姿を望んでなんていません!『後は任せた』と託されたんですよね!? でしたらやることは一つです! ノヒンさんのように足掻いて足掻いて……足掻ききって下さい!!」
「セリシア……」

 ランドが「そうだよな……」と呟き、立ち上がる。立ち上がったランドが大戦斧の前までいき、手を伸ばした。プレトリアに来てから大戦斧は一度も握っていない。サハラウでは必死だったからこそ、狂わずにいられたとランドは思っていた。今の弱気な自分が大戦斧を握ってしまえばまた……

「ランド様。サハラウで戦った時のように強い気持ちがあれば、その大戦斧の呪いにも打ち勝てるはずです。私はランド様を信じています。もちろんノヒンさんも……」

 ランドが大戦斧の柄を握る。瞬間──

 頭の中には相変わらず「殺せ殺せ」という声が響き、全てを壊してしまいたくなるような破壊衝動。だがその奥、微かに聞こえる声。

 それは優しく、力強い男の声。

「ああそうだね……分かってるよノヒン。君は口こそ悪かったが、優しいやつだったよな……全部一人で背負って……」

 ランドの頭に響く声。それは「これ以上大切なものは奪わせねぇ」というノヒンの声。

 ガチンッとランドが歯を食いしばり、大戦斧を構える。

「ははっ……重い……な」

 質量的なことではない。確かに大戦斧は常人が扱うには重すぎる程に重い。

「ノヒン……お前の想い……重いって……」

 「だけど……」とランドが呟き、人狼ワーウルフ化。

アォォォォォォォォォ最後まで足掻いてやるォォォォォォォォォォさぁぁぁぁぁぁぁぁぁォォォォォォンッ!!ぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 プレトリアにランドの決意の咆哮が響く。

「ランド様……私も全力でランド様を支えますね」
「ありがとうセリシア」

 「いえいえですよ」と言って、セリシアがランドを見る。その顔がこの世のものとは思えない程に美しく……

 ランドは目が離せなくなった。

「でもなんでセリシアは、そんなに僕の力になってくれるんだ?」
「それは……」

 セリシアの潤んだ目がランドを捉える。肌は上気し、恥ずかしそうに小刻みに震えている。

「セリシア……」
「ランド様……私の想い……伝えてもいいですか……?」
「聞かせて欲しいな……セリシアの想い……」

 ランドがセリシアの手を握り、真剣な眼差しで問いかける。

「私は……」
「ちょぉぉぉぉぉぉっと待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 セリシアが言葉を発すると同時、バンッと扉が勢いよく開かれ──

 燃えるように真っ赤な長い髪の少女が、勢いよく室内へと転がり込んできた。

「ファム! 戻ってきたんですね!」
「『戻ってきたんですね!』じゃないよセリシア! 早く離れて離れて!」

 状況が理解出来ないランドを差し置いて、ファムと呼ばれた少女が二人を引き離す。

「だ、誰だよ君は。邪魔しないでくれるかな?」
「ランドもランドだよ!『聞かせて欲しいな……セリシアの想い……(キリッ)』とか言っちゃってー、本当に気障きざ野郎だね!」
「き、気障きざ野郎って……。それに呼び捨て? 申し訳ないけど僕は君のことを知らないんだけど……」
「ふふん! 私はノヒンさんのお嫁さん(仮)のファム!」
「なんだよそれ。訳分かんないって。それにノヒンはも……うがはっ!」

 ファムがランドの顔面を思い切り殴りつけた。

「ちっ、何するんだよ! ちょっと頭がおかしいんじゃないのか?」
「頭がおかしいのはランドだよ! 私は諦めない! 確かにノヒンさんの魔石は砕けたのかもしれない! 次元崩壊に呑み込まれたのかもしれない! ここだって次元崩壊に呑み込まれるのかもしれない! でも! でもでも! ノヒンさんの熱い想いは私の中に刻み込んだ! 絶対に……絶対に諦めない!」
「ちっ、うるっさいなぁ! 僕だって諦めたわけじゃないさ! ちょっと弱気になってただけだ!」
「はぁ? ちょっと弱気ぃ?『僕に……僕に何が出来るって……(メソメソ)』ってしてたじゃん! ださっ! ださすぎる!」
「おいおいどこから見てたんだぁ? あれか? 頭がおかしい上に覗きの趣味まであるのか? これだからお子ちゃまは嫌なんですよねぇ? 託児所にでも連れて行こうかい?」
「ぷっ……あはは!」

 唐突にファムが笑いだし、ランドが面食らってしまう。

「本当にランドだ! 前にノヒンさんの夢に侵入した時に見たまんま! 口が悪い性悪のくせに格好つけのランド!」
「い、言わせておけば!」
「いやん怖ぁい。とりあえず落ち着いて話しましょ?」
「いやいや、乱入して暴れ回ったのは君じゃないかよ」

 とりあえずファムに促され、ランドがダイニングテーブルの席に着く。

「ああそれと! セリシアはノヒンさんラブですよ? セリシアもお母様と一緒で魔性の女ですから期待しないことです! ちょっと諸事情で人を虜にする危険な女なんです!」
「え……?」

 そう言われてランドがセリシアを見る。するとセリシアはまるで女神のような顔で──

 「ふふっ」と微笑んだ。

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