覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

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第一部 第五章 夢の残火─喪失編─

黒狼の血族 1

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「よぉ、久しぶりだなランド。元気してたか?」

 暗がりからゆっくりと歩いてくるランドに、ノヒンが声をかける。

「久しぶりだねノヒン。僕はこの通り……とても元気だよ」

 そう言いながら姿を現したランドの姿は、あまりにも異様だった。

 青く綺麗だった髪はボサボサで腰まで伸び、目は血走って能面のように無表情。手足は獣化し、背中にはノヒンがヨーコの墓標とした大戦斧を担いでいる。右手には刀と呼ばれる見事な装飾の美しい剣、左腕には丸い盾のようなものを装備している。時折「くくっ……」と笑い、正気ではないのだろうことが伺える。

 何よりランドの全身が血に塗れ、死臭を漂わせていた。

「ちっ……全然元気そうには見えねぇよ。性格の歪みが見た目にも出ちまったかぁ? ランドさんは性根が腐ってやがるからよ」
「くくっ……何を言ってるんだよノヒンは。僕は性格が良ければ見た目もいい。君こそ相変わらず口が悪いし乱暴そうだ。そのゴリラみたいな筋肉を削いでやろうかぁ? くくっ……」
「……聞いてもいいか? 何があったらそうなんだ?」
「そうなるとは?」
「正直……おめぇが狂っちまってんのは見りゃ分かる。やっぱヨーコが……」
「そうヨーコ! もうすぐヨーコに会えるんだよノヒン! くはっ! ははははははははははははははははははぁっ!」

 ノヒンの言葉を遮るように、ランドが狂ったように笑う。

「ちっ……マジで狂っちまってんのかよ」
「狂ってない! 僕は狂ってないんだよノヒン! ヨーコが! ヨーコと!! 僕は! 僕は一つになるんだ!! 見ろ! この神器を!!」

 ランドが胸元から、失われし東方の国に伝わる勾玉を出す。

「(ちっ……また神器かよ……)なんでぇそりゃ」
八尺瓊勾玉やさかにのまがたまだ。これはな? 魔女や半魔のデータを読み取って再現、生成するんだ! すごいだろ? 魔獣のデータも読み取って生成出来るんだ! 君もディテッラーネウスで僕が送った魔獣と遊んだだろ?」
「やっぱあの魔獣はおめぇがやったのかよ。んで? そのなんちゃらの勾玉ってのは魔獣を操れんのか?」
「違う違う違ぁぁぁぁぁぁう! 魔獣を操ったのはこの真経津鏡まふつのかがみだ!」

 ランドが左腕に装備した丸い盾のようなものを見せつける。

「これはな? ある程度魔獣の行動を制御することが出来るんだ! ああでもでも! 僕が倒したフリームスルスみたいに強いやつはダメだ! あくまでそれほど強くはない魔獣の行動を制御出来るんだよ!」
「フリームスルスを倒した……だと?」
「そうそう。その時に手に入れたのがこの神器……天之尾羽張アメノオハバリだ! これは凄いぞノヒン! 狙った場所の空間が裂けるんだ!」

 そう言ってランドがノヒンに向けて刀を振るうと、スヒィンと澄んだ音が響く。

「あぁん? 何して……つうぅっ!!」

 ぼとり──と、唐突にノヒンの左腕、肘から先が地面に落ちる。

「な、何しやが……」
「すごいだろ? 君のを切断したんだ。怒ったかノヒィン? 怒りたいのはこっちのほうなんだけどなぁ?」
「ちっ……まともに話しても無駄か……(マジでどうしちまったんだよランド……くそっ……俺のせい……だよな。この流れぇ……やるしかねぇのか……?)」

 とりあえずノヒンが地面へ落ちた腕を拾い、切断面を合わせる。切断面からは黒い霧が滲み、腕の傷が再生した。

「ははっ! 相変わらず化け物みたいだなぁノヒィン? お前が……お前みたいな化け物が僕たちに関わらなければぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! あぁっとすまないすまない。ちょっと興奮してしまったよ」
「俺のせい……なんだろうな。おめぇはどうしてぇんだランド?」
「ああそうだ! 一番大切な物を紹介していなかったなぁ? くくっ……」

 ランドとの会話が噛み合わない。それほどにランドは狂気に取り憑かれてしまっていた。

「これだよこれ! 君が使っていた呪いの大戦斧だ!」

 ランドが刀を鞘にしまい、背中に担いだ大戦斧を手に取る。

「くはっ! これは凄いぞノヒン! 手に持つと力が漲るんだ! 殺せ殺せって頭の中で声が響くんだ! ロプトが『神器ではないが、神器に近い呪具だ』と言っていた! 殺せば殺すほど強くなるって!」
「は!? ロプトだと!? おいランド! おめぇロプトに会ったのか!?」
「それでな? 僕が名前を付けたんだ!『墓標』ってなぁ! もちろんお前の墓標だぞノヒィン? どうだ? 嬉しいだろぉ?」
「だから聞けよランド! おめぇロプトに会ったのか!?」

 ノヒンがランドの肩を掴んで問いただす。

「ん? ああどうしたんだノヒン? そんな怒った顔したらヨーコが悲しむだろ? ああそうだ! 砂糖菓子! 砂糖菓子買って帰るぞノヒン! ヨーコは砂糖菓子が大好きだからな。仕方がないから僕の干し肉は我慢して……うぅ……ヨーコ……? あれ? ヨーコ! ヨーコは!?」
「しっかりしろよランドォ……頼むから……頼むから元の憎たらしいランドに戻ってくれ! ロプトが……ロキがおめぇを変えちまったのか!?」
「ん? ああロキィ? ロプトのことかぁ? 色々と教えてくれたんだよ。なんだっけ? 確か『神器の気配がしたので来てみたが……これは呪具だ』ってこの墓標を見に来たんだ。『呪具だがこれは凄まじい呪いだな……元から呪われているのだろうが、何者かの凄まじい恨みがNACMOに転写されている』ってさぁ……あれ……? それで僕はどうしたんだっけ……? 確か『ヨーコの墓に触るな!』って墓標を握って……うぅ……あれ? 殺せ? 殺す? 誰……を? みんな……? 全員……? そうだ……そうだそうだそうだ! 世界中の悪意と敵意……全ての糞共を僕が殺すんだ! 僕が墓標に誓ったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ランドが絶叫する。

「嘘……だろ……? そういうこと……か? 俺の……俺の『世界中の悪意と敵意を全部ぶっ壊してくる』っつぅ恨みが……?」
「この八尺瓊勾玉やさかにのまがたまもロキがくれたんだ! 神器を集めろって! 出ろ! フギン! ムニン!!」

 勾玉から黒い霧が滲み、一対のワタリガラスが現れる。

「凄いだろぉノヒィィィィィィィィッン! こいつらが色々と教えてくれるんだぁ! そうニブルヘイム! ニブルヘイムを探さなきゃあぁぁなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 勾玉じゃあ所詮偽物だからさぁぁぁ! 僕は! 僕と! ヨーコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!! くくっ! くはははははははははははははっ! ……こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい! レイラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「レイラ……だと……? おいランド! 今レイ──」

 再度勾玉から黒い霧が滲み、霧の中から一人の美しい女性が現れる。艶やかな漆黒の長い髪に、人形のように美しい顔。服装は見た事のないデザインの露出度の高い服。

「ははぁっ! 凄いだろぉ? ヴァンの子孫のレイラだぁっ!! 勾玉にデータが残っていたんだよぉぉぉっ!! こいつは凄いぞぉ! 触れたもの全てを崩壊させるんだぁっ!! フリームスルスもレイラが仕留めてくれたんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「レイ……ラ……? おふくろ……なの……か?」
「あはぁ? おふくろだぁ? くくっ……くはっ! おいおいノヒィィィィィィィィンッ!! 頭がおかしくなったのかぁ? くくっ……まぁいいや……。やれレイラ!! ノヒンはどこかにヨーコの魔石を持っているはずだ! 殺して奪うんだ!!」

 目の前の信じられない光景にノヒンが呆然とする。

 記憶にはないが本能で母だと感じる。

 レイラは想像以上に美しく、思わず見とれているノヒンの脇腹に──

 駆け出したレイラの拳が打ち込まれた。

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