96 / 229
第一部 第五章 夢の残火─喪失編─
黒狼の血族 1
しおりを挟む「よぉ、久しぶりだなランド。元気してたか?」
暗がりからゆっくりと歩いてくるランドに、ノヒンが声をかける。
「久しぶりだねノヒン。僕はこの通り……とても元気だよ」
そう言いながら姿を現したランドの姿は、あまりにも異様だった。
青く綺麗だった髪はボサボサで腰まで伸び、目は血走って能面のように無表情。手足は獣化し、背中にはノヒンがヨーコの墓標とした大戦斧を担いでいる。右手には刀と呼ばれる見事な装飾の美しい剣、左腕には丸い盾のようなものを装備している。時折「くくっ……」と笑い、正気ではないのだろうことが伺える。
何よりランドの全身が血に塗れ、死臭を漂わせていた。
「ちっ……全然元気そうには見えねぇよ。性格の歪みが見た目にも出ちまったかぁ? ランドさんは性根が腐ってやがるからよ」
「くくっ……何を言ってるんだよノヒンは。僕は性格が良ければ見た目もいい。君こそ相変わらず口が悪いし乱暴そうだ。そのゴリラみたいな筋肉を削いでやろうかぁ? くくっ……」
「……聞いてもいいか? 何があったらそうなんだ?」
「そうなるとは?」
「正直……おめぇが狂っちまってんのは見りゃ分かる。やっぱヨーコが……」
「そうヨーコ! もうすぐヨーコに会えるんだよノヒン! くはっ! ははははははははははははははははははぁっ!」
ノヒンの言葉を遮るように、ランドが狂ったように笑う。
「ちっ……マジで狂っちまってんのかよ」
「狂ってない! 僕は狂ってないんだよノヒン! ヨーコが! ヨーコと!! 僕は! 僕は一つになるんだ!! 見ろ! この神器を!!」
ランドが胸元から、失われし東方の国に伝わる勾玉を出す。
「(ちっ……また神器かよ……)なんでぇそりゃ」
「八尺瓊勾玉だ。これはな? 魔女や半魔のデータを読み取って再現、生成するんだ! すごいだろ? 魔獣のデータも読み取って生成出来るんだ! 君もディテッラーネウスで僕が送った魔獣と遊んだだろ?」
「やっぱあの魔獣はおめぇがやったのかよ。んで? そのなんちゃらの勾玉ってのは魔獣を操れんのか?」
「違う違う違ぁぁぁぁぁぁう! 魔獣を操ったのはこの真経津鏡だ!」
ランドが左腕に装備した丸い盾のようなものを見せつける。
「これはな? ある程度魔獣の行動を制御することが出来るんだ! ああでもでも! 僕が倒したフリームスルスみたいに強いやつはダメだ! あくまでそれほど強くはない魔獣の行動を制御出来るんだよ!」
「フリームスルスを倒した……だと?」
「そうそう。その時に手に入れたのがこの神器……天之尾羽張だ! これは凄いぞノヒン! 狙った場所の空間が裂けるんだ!」
そう言ってランドがノヒンに向けて刀を振るうと、スヒィンと澄んだ音が響く。
「あぁん? 何して……つうぅっ!!」
ぼとり──と、唐突にノヒンの左腕、肘から先が地面に落ちる。
「な、何しやが……」
「すごいだろ? 君の腕だけを切断したんだ。怒ったかノヒィン? 怒りたいのはこっちのほうなんだけどなぁ?」
「ちっ……まともに話しても無駄か……(マジでどうしちまったんだよランド……くそっ……俺のせい……だよな。この流れぇ……やるしかねぇのか……?)」
とりあえずノヒンが地面へ落ちた腕を拾い、切断面を合わせる。切断面からは黒い霧が滲み、腕の傷が再生した。
「ははっ! 相変わらず化け物みたいだなぁノヒィン? お前が……お前みたいな化け物が僕たちに関わらなければぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! あぁっとすまないすまない。ちょっと興奮してしまったよ」
「俺のせい……なんだろうな。おめぇはどうしてぇんだランド?」
「ああそうだ! 一番大切な物を紹介していなかったなぁ? くくっ……」
ランドとの会話が噛み合わない。それほどにランドは狂気に取り憑かれてしまっていた。
「これだよこれ! 君が使っていた呪いの大戦斧だ!」
ランドが刀を鞘にしまい、背中に担いだ大戦斧を手に取る。
「くはっ! これは凄いぞノヒン! 手に持つと力が漲るんだ! 殺せ殺せって頭の中で声が響くんだ! ロプトが『神器ではないが、神器に近い呪具だ』と言っていた! 殺せば殺すほど強くなるって!」
「は!? ロプトだと!? おいランド! おめぇロプトに会ったのか!?」
「それでな? 僕が名前を付けたんだ!『墓標』ってなぁ! もちろんお前の墓標だぞノヒィン? どうだ? 嬉しいだろぉ?」
「だから聞けよランド! おめぇロプトに会ったのか!?」
ノヒンがランドの肩を掴んで問いただす。
「ん? ああどうしたんだノヒン? そんな怒った顔したらヨーコが悲しむだろ? ああそうだ! 砂糖菓子! 砂糖菓子買って帰るぞノヒン! ヨーコは砂糖菓子が大好きだからな。仕方がないから僕の干し肉は我慢して……うぅ……ヨーコ……? あれ? ヨーコ! ヨーコは!?」
「しっかりしろよランドォ……頼むから……頼むから元の憎たらしいランドに戻ってくれ! ロプトが……ロキがおめぇを変えちまったのか!?」
「ん? ああロキィ? ロプトのことかぁ? 色々と教えてくれたんだよ。なんだっけ? 確か『神器の気配がしたので来てみたが……これは呪具だ』ってこの墓標を見に来たんだ。『呪具だがこれは凄まじい呪いだな……元から呪われているのだろうが、何者かの凄まじい恨みがNACMOに転写されている』ってさぁ……あれ……? それで僕はどうしたんだっけ……? 確か『ヨーコの墓に触るな!』って墓標を握って……うぅ……あれ? 殺せ? 殺す? 誰……を? みんな……? 全員……? そうだ……そうだそうだそうだ! 世界中の悪意と敵意……全ての糞共を僕が殺すんだ! 僕が墓標に誓ったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ランドが絶叫する。
「嘘……だろ……? そういうこと……か? 俺の……俺の『世界中の悪意と敵意を全部ぶっ壊してくる』っつぅ恨みが……?」
「この八尺瓊勾玉もロキがくれたんだ! 神器を集めろって! 出ろ! フギン! ムニン!!」
勾玉から黒い霧が滲み、一対のワタリガラスが現れる。
「凄いだろぉノヒィィィィィィィィッン! こいつらが色々と教えてくれるんだぁ! そうニブルヘイム! ニブルヘイムを探さなきゃあぁぁなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 勾玉じゃあ所詮偽物だからさぁぁぁ! 僕は! 僕と! ヨーコォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!! くくっ! くはははははははははははははっ! ……こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい! レイラァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
「レイラ……だと……? おいランド! 今レイ──」
再度勾玉から黒い霧が滲み、霧の中から一人の美しい女性が現れる。艶やかな漆黒の長い髪に、人形のように美しい顔。服装は見た事のないデザインの露出度の高い服。
「ははぁっ! 凄いだろぉ? ヴァンの子孫のレイラだぁっ!! 勾玉にデータが残っていたんだよぉぉぉっ!! こいつは凄いぞぉ! 触れたもの全てを崩壊させるんだぁっ!! フリームスルスもレイラが仕留めてくれたんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「レイ……ラ……? おふくろ……なの……か?」
「あはぁ? おふくろだぁ? くくっ……くはっ! おいおいノヒィィィィィィィィンッ!! 頭がおかしくなったのかぁ? くくっ……まぁいいや……。やれレイラ!! ノヒンはどこかにヨーコの魔石を持っているはずだ! 殺して奪うんだ!!」
目の前の信じられない光景にノヒンが呆然とする。
記憶にはないが本能で母だと感じる。
レイラは想像以上に美しく、思わず見とれているノヒンの脇腹に──
駆け出したレイラの拳が打ち込まれた。
21
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~
尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。
ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。
亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。
ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!?
そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。
さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。
コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く!
はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/youth.png?id=ad9871afe441980cc37c)
隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)
チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。
主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。
ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。
しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。
その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。
「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」
これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる