上 下
88 / 229
第一部 第五章 夢の残火─喪失編─

ノヒンとルイス 2

しおりを挟む

「……ぷは……(や、やってしまった……)」
「何してんだよ……そんなことされたら止まれなくなるじゃねぇかよ……頼むから俺に……人肌とか思い出させねぇでくれよ……」
「ノヒン……」

 涙ぐむノヒンにルイスが唇を重ねる。

「……止まらなくていいぞ?」
「ルイス……。くそっ……こんなのよくねぇ……よくねぇって分かってるけどよ……」

 気付けばルイスがベッドへと押し倒され、ノヒンが覆いかぶさっていた。

「私が誘ったんだノヒン。お前が気にするな……」
「それは違ぇ。俺もルイスが欲しいって思っちまってる。はは……最低だな俺ぁ……なにやってんだよ……」
「それは違う。私が弱っているお前につけ込んだんだ……(だがどうする……このままでは女だとバレてしまう……。いや、もうバレてもいいのか……? ダメだ……頭が回らん……)」
「悪ぃルイス……もう止まれねぇ……」

 ノヒンがルイスに唇を重ね、強く抱き締める。

「……んん……(ダメだ、頭が回らない……。ここで私が女だと判明するのはノヒンにとって意味が分からないはずだ……。これ以上こいつを混乱させたくはないが……どうすれば……)」

 ここでルイスがヴァンガルムとのデータ共有を思い出す。

「(そ、そうだ……そうだ! 私は異性化魔術が使えるサキュバスの力も手に入れたはずだ! よし! よしよし! だ、男性としてならジェシカにも申し訳が……立たないよな……。はは……私もおかしくなっているな……)……一度目を閉じてくれノヒン」
「……ここまで来て恥ずかしいのか?」
「私はお前と違って初めてなんだ。察してくれないか?」

 そう言ってルイスがノヒンに唇を重ね、体から黒い霧を滲ませて異性化魔術を発動。

「……ぷは……なんだぁ? なんかルイスの体ぁ……急に硬くなったか?」
「……興奮して筋肉が締まったんじゃないか? 私の筋肉は質がいいらしいからな(怪しまれたか……?)」
「まあ確かに細っちぃのに力はあるもんな。マジで女みてぇな細さだよな……こことかもよ……」

 ノヒンがルイスの首筋に唇を当て──

「……んん……(大丈夫だった……ようだな……)」
「……さっきのお返しだ」
「……ダ、ダメだ……ノヒン……」

 そのままゆっくりとお互いを求め合う二人。

 考えなければならないことや、やらなければならないことは多くある。

 絶望的な状況が二人の精神を蝕んでいるせいなのかもしれないが、お互いに最低なことをしているという自覚もある。

 だが今は全てを忘れ、お互いの体温をしっかりと感じ合った──


---


「……大丈夫か?」
「……ちょっと痛くて立てないな。それよりノヒン。本当に男だというのは気にならなかったのか……?」
「それを言ったらおめぇもだろぉが。まあ……ルイスだからじゃねぇか? 『男を』じゃなくて『ルイスを』好きなんだ。なんかどう表現していいか分かんねぇけどよ、大事なもんは大事だし、好きなもんは好きだ。世の中そんなもんでいいんじゃねぇかと思うんだよな……って……んぐぅ……」

 ルイスが嬉しそうにノヒンに唇を重ねる。

「ぷは……なんだぁ? まだやりたりねぇのか?」
「……いや、今の言葉が嬉しくてな。例えばだが……もし仮に私がジェシカよりも先に『ノヒンを恋愛対象として好きだ』と伝えていたら……どうなった……?」
「あぁ? ……難しい問題だな。まあだけど……気持ちに応えてたんじゃねぇのか? 今ルイスを抱いてはっきり分かったけどよ、男とか女とかやっぱ関係ねぇや。割と最初からルイスのことは好きだったからよ」
「そうか……(……本当にこいつは裏表がないな……)」

 ノヒンを好きになってよかったと、ルイスが心の底から感じる。

「なんでぇ? あんまいい反応じゃねぇな」
「……いや、本音を言えばジェシカに申し訳ないと思ってな」
「やっちまったよな……。マジで最低だよ俺ぁ」
「……いや、私から誘ったからな。悪いのは私だ」
「それは違うぜ? 前からルイスのことは本気で可愛いって思ってたしよ。距離が近ぇ時はいつもドキドキしてたぜ? まあ……タイミングによっちゃあ俺から行ってたかもしんねぇな」
「好きだぞノヒン……」

 再びノヒンとルイスが唇を重ねる。

「……ぷは……俺もだぜ?」
「なあノヒン……(くそ……私が女性だと伝えたい……意思が弱すぎだろ私は……)」
「なんでぇ?」
「(いや、ちょっと待てよ……。私が女性だと言うタイミングを失っていないか……? ここで言ったらなぜ男性化して行為をしたのかということになってくる……。くそ……ダメだ……。こいつのことになると頭が回らない……)……いや……なんでもない」
「なんでもねぇこたぁねぇだろ? つーか言いてぇことは分かってるつもりだ。だけど悪ぃけど……俺はジェシカを愛してる。めちゃくちゃ好きだ。ってもルイスのことも好きだぜ? 愛してる……ってことになんだろぉな。あぁ……マジで糞野郎だな。ジェシカに会えたらちゃんと話してあいつに判断して貰うつもりだ。まあ……会えねぇ可能性の方が高ぇんだろうけどよ、諦めるつもりはねぇんだ。だから悪ぃルイス」
「……気にするな。ジェシカにも正々堂々と戦うと言ってあるからな」
「そういやぁ……ライバルとか言ってたな? もしかしてジェシカは知ってたのか? ルイスが俺を好きだってことをよ」
「ああ、私は負けてしまったようだが……まだ諦めたわけじゃないぞ? (最悪私は二番目でも……いや、一番にはなりたいが……。ジェシカは嫉妬深いからな……殴られるだろうな……)」

 ルイスの脳裏に怒り狂って泣き叫ぶジェシカの姿が浮かぶ。場合によっては豹魔の餌食となり、細切れにされるかもしれないなと思った。

「ああくそっ! 殴ってくれルイス! おめぇのことマジで傷付けてるよな? 本当にすまねぇ!」
「……私から誘ったと言っただろう? まあ悪いと思っているなら無事でいてくれ。無茶はするなよ?」
「こっから先は無茶するしかねぇだろ? 俺が無茶して傷つく奴が減るならそれに越したこたぁねぇからよ」
「だが無茶をしてお前がピンチだと分かれば……私は迷うことなく力を使うからな?」
「その時は……そうだな。つーかそろそろ服着ねぇか? 男二人でいつまでも裸なのは笑えねぇだろ?」
「……そうだな。では私からも一つお願いしてもいいか? お前のわがままばかり通っては不公平だからな」
「いいぜ」
「もう一度……もう一度抱いてくれ。それが終わったらいったん元の関係に戻ろう。色々と考えるのはジェシカを助け出してからだ。ダメ……か……?」
「……ダメなわけねぇだろ?」

 そうして再び二人はお互いを求め合い、疲れからか──

 しっかりと抱き合いながら、眠りについた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

 女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】

m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。 その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする

処理中です...