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第一部 第五章 夢の残火─喪失編─

ノヒンとヴァンガルム 1

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「こんの糞犬がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐぅっ!! ちっ! なんて面倒くさい奴だ!! ルイスが貴様を思っての行動だと何故分からん!!」

 エロラフ西のアルドゥコバ火山にて──

 ノヒンと巨大な狼と成ったヴァンガルムが激しい戦闘を行っていた。ノヒンがヴァンガルムを力の限り殴りつけるが、事象崩壊魔術は発動していない。

 事象崩壊魔術は目の前の対象を絶対に「殺す」もしくは絶対に「壊す」という意志のもと、痣に魔素を通すことで発動する。ヴァンガルムと争ってはいるが──

 絶対に「殺す」という想いの拳ではない。その上ノヒンの左目の痣は損傷しているので、簡単には発動しないようになっていた。

「うるっせぇ! 巻き込んでんじゃねぇよ!! ルイスが戦いてぇわけねぇだろぉが!! 俺はあいつの鍛冶する背中をずっと見てきたんだ! 余計なことしてんじゃねぇよ!!」
「はははっ! 貴様はルイスのことが何も分かっていないようだな! ずっと背中を見てきた? どの背中だ? 笑わせるなっ!!『アクセプト!』」

 ヴァンガルムの目の前に、『/convertコンバート iceアイス javelinジャベリン Nohinノヒン』と白く輝く文字が現れ、無数の氷の槍がノヒンを貫く。

「がはっ! ぐぅ……犬っころの分際でふざけやがって!!」

 痛みにより、ギチギチとノヒンの体に力が漲る。

「遅いわっ!!『アクセプト!』」

 再度ヴァンガルムの目の前に、『/convertコンバート burstバースト iceアイス javelinジャベリン』と白く輝く文字が現れ、ノヒンの体に深々と刺さった氷の槍が爆裂四散。体内をズタズタに切り裂く。

「ぐぅぅぅぅぅっ!! ……ちまちまちまちまとよぉ……うぜぇったらねぇぜっ!! 飛んどけやわん公がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ノヒンが全身にギチギチと力を漲らせ、ヴァンガルムを下から思い切り殴り上げる。体長五メートルはあるかと思われるヴァンガルムの体がふわりと浮き上がり、そこへ渾身の拳を叩き込んで吹き飛ばす。

 凄まじい勢いで吹き飛ばされたヴァンガルムが、後方にある巨大な岩石へと激突。

「がっはっ! なんという馬鹿力だ……。単純な力だけならば、ヴァンを越えているか?(だが無詠唱特殊魔術の発動が限定的……フリームスルスと戦うのであれば狂戦士の発動が欲しいところだが……)……おい! 筋肉ダルマ! 貴様は攻めるだけしか脳のない単細胞だ! そんなことではラグナスとやらが生きていたとて勝てはせんぞ!!」
「うるっせぇよわん公がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 語りかけるヴァンガルムへ向け、まるで砲弾のように駆けてきたノヒンが両足での飛び蹴りを放つ。それをギリギリでヴァンガルムが避けるが……

 後方にあった巨大な岩石が、ノヒンの飛び蹴りによって跡形もなく粉砕される。

「ば、化け物か……? (万全では無い我では分が悪いな……。ならば……)『アクセプト!』」

 ヴァンガルムの目の前に、『/convertコンバート floatフロート Fenrirフェンリル』と白く輝く文字が現れ、空中へと飛び上がる。

「てめぇ! 逃げてんじゃねぇよっ!!」
「馬鹿め! ラグナスとて導術を使う! 我のように空を飛ぶこともあろう! 我と貴様の力の差を見せ付けてやるわ! だが我は優しいのでな! 今から貴様に何をするか説明してやろう!」
「ちっ! うぜぇこと言ってねぇで降りてこいや!!」
「はははっ! 叫ぶことしか出来んとは無力なものだなぁ? そんな貴様を我は今から一方的に凍らせる! 防いでみろノヒン! 我ではなく! 我の攻撃を防ぐイメージをしろ! 貴様のことだ! 攻撃を受けている間も敵を殴ることしか考えていないのだろう! それが出来ねばラグナスには永遠に勝てんぞ!!『アクセプト!』『アクセプト!!』」

 ヴァンガルムの目の前に、『/convertコンバート blizzardブリザード Nohinノヒン』『/convertコンバート iceアイス javelinジャベリン Nohinノヒン』と白く輝く文字が現れると、ノヒンの周囲を猛吹雪が襲い、無数の氷の槍も四方から向かい来る。

「ぐぅぅぅ! がぁっ! ちっ……うぜぇっ! がはっ!」

 凄まじい吹雪と氷の槍での猛攻に、ノヒンが為す術なく襲われる。

「どうしたどうしたぁ? このままでは死んでしまうぞノヒィン?」
「う……うるっせぇ……わん公が……ぶん殴ってやるからよぉ……降りてこいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ノヒンの体が端から徐々に凍り始める。凍った指先に氷の槍が当たり、粉々に砕けた。

「(まずいな……このままでは本当に殺してしまう……)……おい筋肉ダルマ! 我を殴りたいのであれば、その吹雪を防がなければならんぞ!?」
「うるっせぇ……ぶっ殺……す……」
「(ここまでか……)……おいノヒン! 我の勝ちだ! 負けを認めろ!」
「……うぜぇ……一発ぶん殴るから待ってやがれ……。吹雪だぁ? 槍だぁ? ぶっ壊してやるよ……。邪魔するってんならぶっ壊してやるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 ノヒンの体から黒い霧がざわざわと滲み出し、薄い膜となって体を覆う。それによって吹雪による体温低下が半減。襲い来る氷の槍も半数ほどを黒い塊──結晶化した魔素が叩き落とす。

 ここにきてノヒンが無詠唱特殊魔術「狂戦士」を発動。ノヒンは叫びを上げながら、空から見下ろすヴァンガルムを見据える。
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