80 / 229
断章
第二次NACMO大戦
しおりを挟む──ミズガルズ制定より数千年の昔
「ようやく……ようやくだなオーディン……」
「感傷に浸るには早いぞヴァン。まだアウルゲルミルが残っている。封じた後でヨルムンガンドも見つけなければならない」
「分かっているさ。だがこれで苦しむ人が減ることを考えると……涙が止まらないんだ」
「相変わらず優しいのだな……君は。ヘルも君のそういうところに惚れたのだろう」
オーディンと呼ばれた白髪碧眼の美しい男性が、遠くを見つめながら呟く。その表情はどこか曇っているようにも見え……
「悪いオーディン……お前がヘルに特別な感情を持っていることを知りながら俺は……」
「いいんだよヴァン。人の感情は抑えられるものではないからね」
「つらくないのか……? 一緒に戦っていて……」
「もうすぐそれも終わる」
「全部終わったら……俺たちから離れるつもりか……?」
「君達が愛し合っているのを側で見ていろと? 私はそれほど心が強くない」
「悪い……」
しばらくの沈黙が流れる。
オーディン、ヴァン、ヘルは、人類のために力を合わせてここまで戦ってきた。
だがそれも今日で終わる。
アースガルズが総力を挙げて作り出したNACMOtype.Deviceユグドラシルにより、アウルゲルミルを別次元へと隔離する。
「おーい! ヴァーーーン! オーディーーーン!!」
気まずい沈黙を破るようにヘルが霧状の黒い翼を羽ばたかせ、ヴァンとオーディンの元へと駆けつける。
「ただいまヴァン!」
「おかえりヘル。損傷したニヴルヘイムでの飛行は大丈夫だったか?」
NACMOtype.armamentニヴルヘイム。ヘルが使用する専用兵装である。
オーディン、ヴァン、ヘルそれぞれに、アースガルズが魔石を使って作成した専用の兵装が与えられている。兵装自身が自我を持ち、会話をすることも可能である。現在はアウルゲルミルとの長い戦いによって魔石が損傷し、専用兵装の機能が制限され、会話することは出来ない。
---
・スレイプニル
大型の騎乗用軍馬、小型犬サイズの馬、専用アーマーへと変化する。導術の使用も可能。専用武装はグングニルで、魔石から発するエネルギーを収束し、『貫いた』という結果のみを事象として生み出すことが可能。
・フェンリル(ヴァンガルム)
霧状、巨大な狼、子犬(作成者の趣味)、専用アーマーへと変化する。導術の使用も可能。専用武装は鎖状のグレイプニルで、魔石から発するエネルギーを収束し、万物を拘束することが可能。グングニルの『貫いた』という事象ですら拘束する。愛玩モードという謎モードがある。
・ニヴルヘイム
霧状と専用アーマーに変化。導術の使用も可能。専用武装は霧状のヘルヘイム。対象の魔石情報を解析し、分解、または再構築。再構築により、死者の蘇生すら可能に(再構築には凄まじい量のNACMOを使用)。無機物であれば魔石の有無に関わらず、分解、再構築も可能。
---
「全然大丈夫だったぞ! 心配してくれてたのか?」
「そりゃそうだろ。ヘルに何かあったら……」
「ははっ! ヴァンはかわいいなぁ? ほらほら? 愛しのヘルが帰ってきたぞ? おかえりのキスはどうした?」
「や、やめろって!」
ヘルがヴァンに絡みつき、首筋にキスをする。
「あっ! 報告だな報告! ロキが天之尾羽張を使用し、フリームスルスの封印に成功! ムスペルもカグツチ家が無力化し、天岩戸によって封印することに成功した! ヨルムンガンドはまだ見つからないが……あれだけ魔石を損傷させたんだ! アウルゲルミルさえ封じてしまえば、復活までかなり時間がかかるだろうとアキが言っていた!」
「アラハバ家の言葉であれば間違いないだろうな。アウルゲルミルを封じた後で対処すれば問題ないだろう。今日で……」
「全てを終わらせる」と、オーディンが金色に輝く魔石──ユグドラシルを握る。
「全て? さっき自分でヨルムンガンドがまだいるって言ってただろ?」
「まあ気にするな。ではソウル東の海上ヘ向かう! アウルゲルミルはアースガルズを目指して侵攻中だ! 何としても上陸前に終わらせる! ヴァン!」
「分かってるさ! 俺が先行してグレイプニルでアウルゲルミルの動きを止める! なんとか耐えてくれよ! ヴァンガルム!」
「ヘル!」
「任せて! アウルゲルミルから発生する魔獣は私が全部分解する! ハッピーエンド目指すんだから!」
「よし! 行くぞ!!」
---
数刻後、ソウル東の海上──
「な、何してるのオーディン!? まだヴァンが! ヴァンがいるのに!!」
オーディンの目の前に金色の魔石が浮いている。ユグドラシルは眩い光を放ち、光り輝く黄金の樹が現れた。黄金の樹は天高く枝葉を伸ばし、瞬く間に枝葉が東の空へと進み……
やがて全ての空を覆い尽くした。
「ヴァンが……ヴァンさえいなければ君は私を……ヴァンさえいなければ! 君は私と愛し合っていたはずだ!」
「何を言ってるの……? ヴァンがいなければ私がオーディンと……? 馬鹿に……馬鹿にしないでよオーディン! 私はヴァンとしか愛し合わない!! 止めて! 止めてよオーディン!!」
「もう遅い! 発動したユグドラシルは止められない!!」
「ヴァン!」
「待てヘル!」
ヘルがヴァンの元へと向かおうとして、オーディンに腕を掴まれる。
「離して! 離してよオーディン!! ヴァンが! アレンがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「大丈夫だヘル。ヴァンのことなんてすぐに忘れさせてやる」
「ふざっ! ふざけないでよオーディン!! くぅぅぅぅぅぅぅっ! 離してっ!!」
「ダメだ。この手は離さない。まずは私との子を成そう。そうすれば君の気持ちも……」
「離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! アレーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
ヘルがヘルヘイムを発動。自身の腕を分解し、ヴァンの元へと飛び立つ。
「くそ! 『アクセプト!』 ヘルを連れ戻せスレイプニル! 任意転送の座標は既に設定してしまった!」
オーディンが専用兵装スレイプニルをヘルの元へと向かわせるが……
黄金の樹が光を増し、空間が歪む。
「何故だ……何故だヘル……何故私では………………ヘルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
オーディンの叫びと共に世界は形を変え──
ここから数千年にも及ぶ、宿業の物語が始まる。
30
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる