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断章
第二次NACMO大戦
しおりを挟む──ミズガルズ制定より数千年の昔
「ようやく……ようやくだなオーディン……」
「感傷に浸るには早いぞヴァン。まだアウルゲルミルが残っている。封じた後でヨルムンガンドも見つけなければならない」
「分かっているさ。だがこれで苦しむ人が減ることを考えると……涙が止まらないんだ」
「相変わらず優しいのだな……君は。ヘルも君のそういうところに惚れたのだろう」
オーディンと呼ばれた白髪碧眼の美しい男性が、遠くを見つめながら呟く。その表情はどこか曇っているようにも見え……
「悪いオーディン……お前がヘルに特別な感情を持っていることを知りながら俺は……」
「いいんだよヴァン。人の感情は抑えられるものではないからね」
「つらくないのか……? 一緒に戦っていて……」
「もうすぐそれも終わる」
「全部終わったら……俺たちから離れるつもりか……?」
「君達が愛し合っているのを側で見ていろと? 私はそれほど心が強くない」
「悪い……」
しばらくの沈黙が流れる。
オーディン、ヴァン、ヘルは、人類のために力を合わせてここまで戦ってきた。
だがそれも今日で終わる。
アースガルズが総力を挙げて作り出したNACMOtype.Deviceユグドラシルにより、アウルゲルミルを別次元へと隔離する。
「おーい! ヴァーーーン! オーディーーーン!!」
気まずい沈黙を破るようにヘルが霧状の黒い翼を羽ばたかせ、ヴァンとオーディンの元へと駆けつける。
「ただいまヴァン!」
「おかえりヘル。損傷したニヴルヘイムでの飛行は大丈夫だったか?」
NACMOtype.armamentニヴルヘイム。ヘルが使用する専用兵装である。
オーディン、ヴァン、ヘルそれぞれに、アースガルズが魔石を使って作成した専用の兵装が与えられている。兵装自身が自我を持ち、会話をすることも可能である。現在はアウルゲルミルとの長い戦いによって魔石が損傷し、専用兵装の機能が制限され、会話することは出来ない。
---
・スレイプニル
大型の騎乗用軍馬、小型犬サイズの馬、専用アーマーへと変化する。導術の使用も可能。専用武装はグングニルで、魔石から発するエネルギーを収束し、『貫いた』という結果のみを事象として生み出すことが可能。
・フェンリル(ヴァンガルム)
霧状、巨大な狼、子犬(作成者の趣味)、専用アーマーへと変化する。導術の使用も可能。専用武装は鎖状のグレイプニルで、魔石から発するエネルギーを収束し、万物を拘束することが可能。グングニルの『貫いた』という事象ですら拘束する。愛玩モードという謎モードがある。
・ニヴルヘイム
霧状と専用アーマーに変化。導術の使用も可能。専用武装は霧状のヘルヘイム。対象の魔石情報を解析し、分解、または再構築。再構築により、死者の蘇生すら可能に(再構築には凄まじい量のNACMOを使用)。無機物であれば魔石の有無に関わらず、分解、再構築も可能。
---
「全然大丈夫だったぞ! 心配してくれてたのか?」
「そりゃそうだろ。ヘルに何かあったら……」
「ははっ! ヴァンはかわいいなぁ? ほらほら? 愛しのヘルが帰ってきたぞ? おかえりのキスはどうした?」
「や、やめろって!」
ヘルがヴァンに絡みつき、首筋にキスをする。
「あっ! 報告だな報告! ロキが天之尾羽張を使用し、フリームスルスの封印に成功! ムスペルもカグツチ家が無力化し、天岩戸によって封印することに成功した! ヨルムンガンドはまだ見つからないが……あれだけ魔石を損傷させたんだ! アウルゲルミルさえ封じてしまえば、復活までかなり時間がかかるだろうとアキが言っていた!」
「アラハバ家の言葉であれば間違いないだろうな。アウルゲルミルを封じた後で対処すれば問題ないだろう。今日で……」
「全てを終わらせる」と、オーディンが金色に輝く魔石──ユグドラシルを握る。
「全て? さっき自分でヨルムンガンドがまだいるって言ってただろ?」
「まあ気にするな。ではソウル東の海上ヘ向かう! アウルゲルミルはアースガルズを目指して侵攻中だ! 何としても上陸前に終わらせる! ヴァン!」
「分かってるさ! 俺が先行してグレイプニルでアウルゲルミルの動きを止める! なんとか耐えてくれよ! ヴァンガルム!」
「ヘル!」
「任せて! アウルゲルミルから発生する魔獣は私が全部分解する! ハッピーエンド目指すんだから!」
「よし! 行くぞ!!」
---
数刻後、ソウル東の海上──
「な、何してるのオーディン!? まだヴァンが! ヴァンがいるのに!!」
オーディンの目の前に金色の魔石が浮いている。ユグドラシルは眩い光を放ち、光り輝く黄金の樹が現れた。黄金の樹は天高く枝葉を伸ばし、瞬く間に枝葉が東の空へと進み……
やがて全ての空を覆い尽くした。
「ヴァンが……ヴァンさえいなければ君は私を……ヴァンさえいなければ! 君は私と愛し合っていたはずだ!」
「何を言ってるの……? ヴァンがいなければ私がオーディンと……? 馬鹿に……馬鹿にしないでよオーディン! 私はヴァンとしか愛し合わない!! 止めて! 止めてよオーディン!!」
「もう遅い! 発動したユグドラシルは止められない!!」
「ヴァン!」
「待てヘル!」
ヘルがヴァンの元へと向かおうとして、オーディンに腕を掴まれる。
「離して! 離してよオーディン!! ヴァンが! アレンがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「大丈夫だヘル。ヴァンのことなんてすぐに忘れさせてやる」
「ふざっ! ふざけないでよオーディン!! くぅぅぅぅぅぅぅっ! 離してっ!!」
「ダメだ。この手は離さない。まずは私との子を成そう。そうすれば君の気持ちも……」
「離せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ! アレーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
ヘルがヘルヘイムを発動。自身の腕を分解し、ヴァンの元へと飛び立つ。
「くそ! 『アクセプト!』 ヘルを連れ戻せスレイプニル! 任意転送の座標は既に設定してしまった!」
オーディンが専用兵装スレイプニルをヘルの元へと向かわせるが……
黄金の樹が光を増し、空間が歪む。
「何故だ……何故だヘル……何故私では………………ヘルーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
オーディンの叫びと共に世界は形を変え──
ここから数千年にも及ぶ、宿業の物語が始まる。
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