77 / 229
第一部 第四章 夢の灯火─揺らぐ灯火、残るは残火編─
崩壊 1
しおりを挟む──再び場面は戻り、エインヘリャルの儀当日
「ぐぐ……がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 死んどけやロキィィィィィィィィィィィッ!!」
バギンッと凄まじい音を響かせ、次元の壁が砕け散る。そのままノヒンが血を撒き散らしながらロキへと飛びかかる。
怒りが限界突破したノヒンは今まさに、神話大戦の英雄ヴァンに並び立つ。ヴァンのみが行使することが出来たと云われる特異な力、無詠唱特殊魔術のほぼ全てを無意識で使いこなし──
---
※無詠唱特殊魔術(現段階)
【常時展開(今までも万全ではないが発動していた)】
・超速再生/身体の損傷部を魔素を使用し、凄まじい速度で再生する。造血や解毒なども可能で、脳の記憶領域にある損傷前データを使用して再生する。
・損傷強化/身体が損傷することで、身体能力超強化。
・敵対強化/敵意、悪意、憎悪、嫌悪、敵対行動(敵意の有無に関わらず)を向けられることで、身体能力超強化。
・超強化/魔素がある限り、身体能力超強化。
・絶対領域/敵対強化の対象者の位置情報を補足。
・先導者/戦闘中、ノヒンの声を聞いた味方の戦意高揚、身体能力強化。
【任意展開(怒りによって偶発的に発動)】
・事象崩壊魔術/発動者が攻撃行動時、触れたと認識したもの全てを崩壊させることが出来る。
---
「がはっ!!」
ノヒンの拳がロキを捉え、殴りつけた腕や脇腹が消し飛ぶ。事象崩壊魔術の威力は甚大で、今や一対一の近接戦闘でノヒンに勝てる者などいはしない。だがやはり傷付いた痣では事象崩壊魔術の発動が万全ではなく、殴ったノヒンの体も皮膚が破れ、肉が裂けて血が吹き出す。このまま戦えば魔素による再生が間に合わなくなり、ノヒンが先に動けなくなる可能性の方が高い。
「ぐぅ……これで兵装なしとは恐ろしい男だ。だが! 私には黄金の力グルヴェイグがある! これがある限り私は何度でも再生する! その上この場ではラグナスが魔素を供給してくれている! 万全の神器であれば貴様に勝てる道理はない!!」
ロキの消し飛んだ腕や脇腹が再生する。グルヴェイグは使用者に不死の肉体を与える神器。これはヴァンの超速再生という力を元に作られている。グルヴェイグ自体を砕かない限り、ロキは何度でも再生する。
「さらに私にはミョルニルがある! 貴様の事象崩壊魔術とどちらが上だろうな! 距離を取らせて貰うぞ!!」
ロキが翼の生えた龍人のような姿に変わり、天高く飛び上がった。そのままミョルニルを投げつけてノヒンを牽制する。
ミョルニルはヴァンの事象崩壊魔術を元に作られた神器。襲い来るミョルニルをノヒンが殴りつける。が──
事象崩壊の力場同士がぶつかって打ち消し合い、パァンという炸裂音を響かせた。むしろ万全な発動ではないノヒンの方にダメージが蓄積されていく。
「くくっ! こちらの方が有利なようだが……全力で行かせて貰う!『……猛る雷鳴の化身にして彼の地を平定せし天武の者よ──天之尾羽張に代わりて天の意向を示せし雷剛の者よ──我が望むは眼前の愚者共に降り注ぐ幾万の裁き──神たる天雷の慟哭を空に轟かせ祈り捧げる愚かなる者共への答えとせん──その慟哭を聞きし者は己の生を省みる暇もなし──剣神たる雷鳴の覇王にして彼の地を統べる絶対の武神たる者よ──我が望みし永遠たる静寂の世界が見えるだろうか──慟哭により蹂躙されし不毛の大地が見えるだろうか──我が巡るは雷獄の回廊──天に代わりて裁きを下さんとする者──腐れた者共を蹂躙せんとする者──終焉の雷を以って天雷の覇者の威厳を示さん』……消え去れ! 『轟く平定の雷閃! 建御雷神!!』」
ロキの詠唱と共に上空には無数の魔法陣が展開。ノヒンの周囲は雷の檻で閉ざされ、終わることのない雷撃の嵐が吹き荒れる。
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
絶命の雷がノヒンを襲い、ブスブスと体が焼け爛れていく。再生が追いつかずに意識が遠のき、確実な死へとノヒンは向かっていた。
このままでは誰も救えず、愛する者もまた失う。
だが絶命の寸前──
(ノヒンは殺させない……ハッピーエンドを迎えて貰うんだから!!)
ヨーコの声がノヒンの脳内に響いた。それと同時、ヨーコの魔石が熱くなり、大量の魔素が発生。ノヒンの体がビキビキと再生していく。
「……くそっ……いっつも助けてくれるよなぁヨーコは……。こんなんで諦めんなってことだよな……。ハッピーエンド目指すん……だもんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! こんなんで俺を止められると思うんじゃぁぁぁぁぁぁぁぁねぇぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ロキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!」
ズガンッと地面を全力で蹴りつけ、ロキに向かってノヒンが飛び上がる。ノヒンの周囲にはヨーコの魔石から発生した黒い霧がまとわりつき、まるで黒い翼が生えたような状態に。
(私に出来るのはこれくらい……この力はノヒンに合わないみたいだから……早く決めてね……。愛してるよノヒン……)
「ヨーコの力が俺に合わねぇだぁ? ざっけんな!! 俺とヨーコの絆ぁぁぁぁぁっ!! 見せてやるよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
凄まじい速度に達したノヒンが、グルヴェイグごとロキを殴りつけて体を粉砕する。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
殴りつけられたロキが地面へと激突し、グルヴェイグが砕けて黒い霧となる。グルヴェイグが砕けたことにより、粉砕されたロキの体の再生が通常の半魔程度まで落ちた。これによって現状での再起は不可能となる。
「……かはっ……。貴様……まさかその霧は……」
「俺が知るわけねぇだろ。ってもまぁ……この霧はヨーコと俺の絆だ」
「くくっ……こんなところにあったとはな……。ラグナスに伝えねば……」
「何を訳わかんねぇこと言ってやがんだ? 取り敢えず死んど……」
ノヒンがロキにとどめを刺そうとしたところで、ロキの体が黒い霧となって霧散する。黒い霧はラグナスの元まで行くとしばらく騒めき、そのまま上空へと消え去った。
その後、驚いた顔のラグナスがノヒンを見ている。
「ちっ! 何を見てやがんだラグナス!! ジェシカを返して貰うぞっ!!」
ノヒンが黒い霧の翼を広げ、ラグナスへ向けて飛ぶ。
(ノヒン……急いで……)
「任せろヨーコ! なんで会話出来てるかは知らねぇが……めちゃくちゃ嬉しいぜっ!!」
(私も……でも本当に急いで……たぶん長くはもたないから……)
「了解だヨーコ! ……っくぞラグナァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァスッ!!」
凄まじい速度に到達したノヒンがラグナスを殴りつける。が、ラグナスの手前で見えない壁に遮られ、殴りつけたノヒンの拳が千切れ飛ぶ。
「無駄だよノヒン。ユグドラシルが起動してしまえば君の拳はもう届かない。魔素がある限り、何度でも次元の壁が君を阻む」
「っるせぇ!! すました! 顔ぉっ! してんじゃぁ! ねぇっ!!」
千切れ飛んだ腕を再生し、何度も次元の壁を叩き割る。だが叩き割った先から壁が発生し、ラグナスまで拳が届かない。
「まさかこんな近くにニヴルヘイムがあったとは。だがすまないなノヒン。もう私にも止められないんだ。私は……どちらなのだろうな。君といた時はラグナスである自覚はあった」
「何をっ! 言って! やがんだっ! 止めらん! ねぇならっ!! 俺がっ! 止めて! やらぁっ!!」
崩壊と再生を繰り返しながらのノヒンの猛攻。だがあと少しのところでラグナスに拳が届かない。そんなノヒンを見て、ラグナスが苦しそうに語りかける。
31
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる