73 / 229
第一部 第四章 夢の灯火─揺らぐ灯火、残るは残火編─
エインヘリャルの儀 2
しおりを挟む「なんだぁ? あんまり乗り気じゃねぇのか?」
「いや……以前までの私では考えられないことだと思ってな。うん……欲しい……な。お前との子供が欲しい」
そう言った後で「なんだか幸せ過ぎるな」と、満面の笑顔を見せるジェシカ。
「ジェシカに似たらめちゃくちゃかわいいだろうな」
「お前に似たら暴れん坊になりそうだな」
「いやいや、ジェシカも大概だぜ?」
「どういう意味だ?」
「まんまの意味だ」
「後で覚えておけよ?」
「物覚えは悪い方なんでな」
「……先の話をするのは楽しいな。まぁ……それもノヒンとだからだろうが」
「俺もジェシカとの先を考えるのは楽しいぜ?」
「ハッピーエンドに……向かっていると信じたいな」
「まあそれもこれも今日のエインヘリャルの儀? で色々と変わるな。正直あのラグナスが『今日で変わる』って言ったんだ。なんもねぇわけがねぇからな。ただよ……」
ノヒンの表情が曇る。
「なんか胸騒ぎがすんだよな……。こう……胸の奥がざわざわするっていうかよ」
「それは私も感じている。ラグナスを信じてはいるが……何かよくないことが起きる気がして……っと、おいノヒン! 騎士団のみんなに見えるだろうが……」
ノヒンがジェシカの手を握る。
「別に見えたっていいだろ? 嫌なのか?」
「いや……少し不安だったが落ち着いた。お前の手は大きいな……。とても安心する手だ……」
「不安な時はいつでも頼っていいぜ? ……っと、主役のご登場だな」
式典広場の入口から、銀灰色の馬──スレイプニルに跨ったラグナスが現れた。
広場に集まった騎士団から拍手で迎えられ、ゆっくりとスレイプニルの歩を進める。その光景はとても幻想的かつ絵画的で、ノヒンとジェシカも思わず見入ってしまう。
これは本当に今日、世界が大きく変わるのではないかとさえ思えてしまう。
「ちっ、相変わらず浮世離れしてやがんな。だけどラグナス一人だぜ? グレイスとカサンドラはどうした?」
「遅れて来るのではないか?」
「つーかそもそも他の王族もいねぇしよ、よくよく考えたらこの礼拝堂の中に俺らだけってのも変じゃねぇか? 広場にいるのだって団のやつらだけだ」
「そう言われれば……確かに。いや、入口の方から誰か来たぞ」
「あれは……ロキ! ロキじゃねぇか!」
式典広場の入口から、少年兵の姿をしたロキが入ってくる。化け物の姿をしてはいないが、イルネルベリで初めて会った時の姿だ。
見たことがない少年兵が入って来たことで、騎士団がざわつく。だがそんなことには構わず、ロキが堂々と騎士団の間の道を進む。
ラグナスもゆっくりと歩を進め、騎士団の列を抜けて先頭へと出た。ついでロキも騎士団の列を抜け、ラグナスの隣に立つ。
「あれがロキ……? ただの少年兵じゃないか……」
「ジェシカ……さっきから申し訳ねぇんだけどよ、おかしかねぇーか? なんでラグナスとロキはなんもねぇとこに立ってんだ? 来るならここだろ? いや……だめだ……。マジで今更なんだけどよ、礼拝堂の位置……おかしかねぇか? なんで入口の正面じゃねぇんだ? つーか誰か俺らのこと見たか? なんだこれ……気持ち悪ぃ……」
「確かに……なんだ……? 強烈な違和感が……。ノヒン……私達はここまでどうやって来た? 騎士団は先にいたか……? いや……私達の方が先……か……?」
「ここに来る前……? 確か昨日のうちにソールに着いて……二人でラグナス探して……。あれ? 俺らはどこ泊まった?」
「そんなもの宿に決まっ……いや……どこの宿だ?」
「ちっ、なんだかよく分かんねぇが……よくねぇ感じだぜ!」
ノヒンが礼拝堂の入口まで歩き、外に出ようとして……
ゴンッと、何か見えない壁のような物にぶつかる。
「……ってぇな! なんだこれ!? 出れねぇぞ!」
「な、何を言っているんだノヒン! そんなわけ……なんだ? これは壁……か?」
ジェシカもノヒンの隣まで来ると、入口の見えない壁に触れる。
「っざけんなっ!! なんだぁこりゃ!! 出せ! 出しやがれ!!」
ノヒンが見えない壁をガンガン殴る。
「おいノヒン……これだけお前が暴れているのに誰もこっちを見ていないぞ……?」
「どうなってやがんだよ! ラグナスか!? ラグナスが導術で何かやりやがったのか!? っざけやがって……ラグナァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァス!!」
ノヒンが叫ぶが誰一人反応しない。まるでノヒンとジェシカだけ、別次元にでもいるかのようだ。
そんな中でロキと目が合い、ゆっくりとノヒンの方へと近付いてくる。
「あいつは見えてやがる。もしかすっとラグナスじゃなくてロキがやってやがんのか?」
「くく……随分と元気がいいではないか。ヴァンの流れを汲む者よ……いや、ノヒンか。昨日の夜以来だな」
見えない壁を隔て、ロキが語りかける。
「俺は会いたくなかったぜ? つーか昨日の夜だと? 昨日おめぇに会った覚えは……」
……ある。
昨日、ジェシカと共にラグナスを探し、王宮の中庭でラグナスと共にいるロキと会った記憶が蘇る。
「ようやく思い出してきたか?」
「てめぇ……何をしやがった!!」
「記憶の改竄と幻覚を見せただけだ。貴様は警戒心が足りない」
「記憶の改竄だぁ?」
「私は多重半魔だ。様々な力を有しているのでな」
「セティーナが関わんなって言ってやがった半魔か。なんのために記憶を改竄した? なんで俺とジェシカをここに閉じ込めてやがる?」
「それはお前達がラグナスのやることに反対したからだろう? 思い出さないか? エインヘリャルの儀とは何かを」
「何を……言ってやがんだ? 俺とジェシカがラグナスのやることに反対……? 昨日……何をやるのかを俺達は聞いたのか……?」
「ああ、しっかりと聞いていたぞ?」
「エインヘリャルの儀ってのは……なんだ……?」
「二度手間だな。どーせ貴様はそこから出られない。記憶の改竄は必要なかったか……」
「エインヘリャルの儀ってのはなんだ! ロキ!!」
ズガンッと、ノヒンが目の前の見えない壁を殴りつける。
「ラグナスのエインヘリャル……聖レイナス騎士団の団員を供物に、次元干渉型NACMO、ユグドラシルを完全起動する儀式だ」
「供物……? 次元……干渉……?」
「昨日の時点でユグドラシルが正常に起動することは確認済みだ。貴様らがいるのは位相を少しずらした別次元。後は完全起動のためにエインヘリャルのNACMOを捧げれば終わりだ。ああそれと……そこのヘルの流れを汲む者はこちらに貰うぞ? これから作る世界でラグナスとヘルの流れを汲む者の子が必要なのでな」
「何を言って……やがんだ……?」
「世界が統合されればヘルの兵装ニヴルヘイムも手に入るだろう。世界を統べる者として、オーディンの兵装とヘルの兵装が使えることはかなり大きいのでな。ニヴルヘイムを使えばレイラを復活させることも可能だろう」
「レイラ……? それは俺の……」
そう、レイラとはノヒンの失踪した母の名だ。ノヒンの頭が混乱する。先程からロキが言っていることがまったく分からず、隣にいるはずのジェシカを見る。
「……あれ……? ジェシカ……は?」
「ヘルの流れを汲む者ならばラグナスのところだ。見えるだろう? 小規模次元干渉であれば、現在のNACMO量で事足りる。個体の位相をずらすなど造作もない」
ロキに促され、ノヒンがラグナスの方を見る。
そこにはラグナスに抱き抱えられ、スレイプニルに乗ったジェシカの姿があった。
31
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
性奴隷を飼ったのに
お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。
異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。
異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。
自分の領地では奴隷は禁止していた。
奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。
そして1人の奴隷少女と出会った。
彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。
彼女は幼いエルフだった。
それに魔力が使えないように処理されていた。
そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。
でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。
俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。
孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。
エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。
※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。
※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる