覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

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第一部 第四章 夢の灯火─揺らぐ灯火、残るは残火編─

ノヒンとジェシカ 2

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「ヨルムンガンドなんて本当にいたのかねぇ? ……まぁロキがいるんなら、いてもおかしかねぇのか」
「そうだろうな。ラグナスだってオーディンの生まれ変わりだと言われているしな」
「俺とジェシカもなんだろ? あの孤児院の銅像どうにかなんねぇのか?」
「あれは……イルネルベリ兵が勝手に作ったものだからな。私達がヴァンやヘルの生まれ変わりだと言うのは単なるこじつけだろう」

 ヴァンやヘルというのは神話大戦でオーディンと共に戦った戦士だ。イルネルベリでのバルマンとの死闘を見た兵達が勝手に盛り上がり、孤児院の入り口にノヒンとジェシカの銅像を立て、『ヴァンヘルの再誕』という名を刻んだ。

「死の乙女だっけか? 物騒な名前付けられたもんだな?」
「そ、そういうお前こそ英雄好色の殲滅鬼と呼ばれているぞ! ほ、本当にセティーナやファムに手を出していないんだろうな?」
「俺が抱くのはジェシカだけだ。信じらんねぇのか?」
「し、信じているさ! だ、だけど……心配くらいしてもいいだろ……?」
「ははっ! 死の乙女とか黒豹って呼ばれてんのが信じらんねぇな! こんなかわいいのによ!」
「ば、馬鹿……」

 ジェシカが恥ずかしさから、目の前のスーリャを一気に飲み干す。

「おいおい……また酔っ払っても知らねぇぞ?」
「これくらいの果実酒であれば酔わん!!」

 そう言いながらもジェシカの頬が紅潮し、声が大きくなっている。

「ちょっと酔ってるじゃねぇかよ……。それより魔術の方は順調なのか?」
「魔術じゃなく導術だと何回言えば分かるんだお前は……」
「俺からすりゃ一緒だってんだ。だけどお前が導術使えるたぁ驚いたな」
「私もだ。導術は王家だけのものだと思っていたからな」
「魔女にも系統があんだっけか?」
「セティーナによればそうだな。魔素を使って力場を生み出す魔女と、魔素自体を変化させる魔女。前者が魔術で後者が導術ということになる。導術を使える魔女も極小数だがいるにはいるということだ」

 セティーナによれば、魔女には二つの系統があるらしい。フリッカーに残るいくつかの神話時代の文献によれば、まず初めに生まれたのが『半魔』であり、そこから『魔女や魔人』が誕生した。

 そしてもう一つが『半魔』から『魔女や魔人』を──

 ということである。

 なにぶん詳しいことは神話時代のことなので分からないが、『誕生した』と『誕生させた』という表記の違いから、偶然『誕生した魔女』と作為的に『誕生させた魔女』がいて、それにより魔術と導術の違いがあると考えられている。

 文献によればオーディンとヘルは『誕生させた』存在であり、ヴァンは『誕生した』存在であると表記されている。

「ジェシカが王家の血筋ってわけじゃねぇんだろ?」
「だろうな。王家の者は基本的に白髪碧眼だ。血を濃くするために血縁同士で婚姻を続け、魔石のおかげで近親者同士でも子に障害は出ないらしい。ラグナスの髪が薄い灰色なのは……母親が王家の者ではないからだろうな」
「だけどよ、グレイスみてぇに王家以外に女ぁ囲ってるやつもいるだろ? そうなるとラグナスみてぇなやつが増えるんじゃねぇのか?」
「王家と普通の人間が子を成しても白髪碧眼が生まれる。それだけ王家の魔石の力が強いということだ。まあつまり……噂にもなっているので聞いたことはあると思うが、ラグナスの母親は魔女……なのだろう」
「やっぱそうなんだろうな……。あいつぁ自分のことなにも話さねぇからよ」
「ラグナスは……何を考えているのだろうな。もちろん『弱き者が蹂躙されない世界』を目指しているのだろうが……」
「おめぇもやっぱり違和感あんのか?」
「ああ、ラグナスを信じている気持ちは変わらん。私にとってラグナスは世界を変えてくれた恩人……だからな」
「ちっ、相変わらずおめぇはラグナス信者だなぁ?」
「おお? なんだノヒン? 嫉妬か?」
「そりゃ嫉妬くれぇするさ。俺ん中でおめぇがどんだけでけぇ存在だと思ってやがんだ」
「嬉しいことを言ってくれるなぁノヒン? だが安心しろ。ラグナスは私の世界を変えてくれた恩人だが……ノヒンは私を変えてくれた愛する人だ。愛しているぞ? ノヒン……」
「ちっ、照れるじゃねぇかよ……」
「そういうノヒンこそいまだに私の姉に語りかけているじゃないか。気付いていないとでも思ったのか?」
「そ、それは……」
「まだ私に……姉さんが重なるか? ノヒンが姉さんに語りかけているのを見る度……胸が苦しくなる。なんて……話してるんだ……?」

 ジェシカが泣きそうな顔でノヒンを見つめる。唇も少し震え──

 そんなジェシカがたまらなく愛しいと、ノヒンは思う。

「……ジェシカが……………………って……」
「聞こえないぞノヒン……? まぁ……言いたくないならいいんだ……」
「……ジェシカがかわいいって! 好きで好きでたまんねぇって! 悪ぃヨーコって話してんだよ!」
「そ、そうなのか? そんなことを話していたのか?」
「……前に見張塔から落ちた時あんだろ? あん時からよぉ……夢ん中でヨーコが笑ってんだ。ジェシカと結ばれて嬉しそうにしてんだ。大丈夫だ……。ヨーコも俺らんことぉ祝福してるぜ?」
「そう……か……そう……なんだな……。ノヒン……」

 ジェシカがノヒンに唇を重ね、舌先でお互いの体温を感じ合う。

 ラグナスのやろうとしていることや、イルネルベリで相見あいまみえたロキなど、考えることは多々ある。ロキが存在したということは、神話大戦で猛威を振るったヨルムンガンドやフリームスルスなどが存在している可能性すらある。

 お互いにこのゆっくりとした時間が長くは続かないのだろうと感じながら……

 目の前の愛する相手をしっかりと抱きしめた。

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