覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

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第一部 第四章 夢の灯火─揺らぐ灯火、残るは残火編─

特別行政区 3

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「……やれる……やれるんだ私は……。今日こそ……今日こそ……。よし……よしよし!」

 メイリーの様子がおかしい。何かに取り憑かれたようにぶつぶつと独り言を呟き……

「おお? やる気だなメイリー! 今日こそ俺を倒してみせろ!」
「……やる……やれる……今日こそ……今日こそノヒン兄を……る!!」
「……お、おおぅ……なんか殺気を感じるが……」

 メイリーの目がバキバキに決まっている。殺るつもりだ。

「待たせたなノヒン兄!! 全員に声かけてきたぜぇ!!」
「ノヒン兄だぁー! 勝ったらちゃんとおもちゃ買ってよー!」
「殲滅鬼殿! 我々イルネルベリ兵も参加致します! 私達が勝ったならば、イルネルベリ軍の教官も兼任して貰います! 約束は守って貰いますよ!!」
「ノヒンさん! 私も参加します!! 今度こそ私との間に赤ちゃんを作って貰いますからね!」
「だめだよお母様!! ノヒンさんは私とエッチするんだから! 今日の下着はかわいいんだからね!!」

 コブスが孤児院の子供達、イルネルベリ兵、はてはセティーナやファムを連れてきた。

「ちっ、めんどくせぇ奴らまで連れてきやがったな……」

 この鬼ごっこはノヒンに勝つことが出来れば、ノヒンがなんでも一つ言うことを聞いてくれるというものだ。鬼役のノヒンにタッチされず、手首にある腕輪を奪取、もしくは破壊した者が勝者。その際にアシストした者も勝者となる。

 これはいかに全員で協力し、ノヒンという鬼を攻略するかという遊びである。

「行きます!! 『大気に満ちし火の精霊よ──その熱く燃え盛る炎を我が眼前に──顕現せし火の奔流!』……これなら!『燃え盛る炎のいかづち! 炎雷ファイアボルト!!』」

 見張り塔の上、セティーナが開幕で魔術を発動。大規模魔術を使えるほど魔素は溜まっていないが、小規模魔術であれば問題なく発動できるようだ。凄まじい速度の炎雷の矢が、ノヒン目掛けて放たれた。

「はんっ! そんなしょっぺぇ火で俺を止められると思ったかぁ? ……ってこの霧は……そこだっ!!」

 ノヒンの周囲に霧が発生し、視界を奪うが……

 襲い来る炎雷の矢を鉄甲で弾き、そのまま背後に腕を突き出して何かを掴む。

「霧になれるったって本体さえ掴みゃあ元に戻んだろ?」

 ノヒンが手に掴んだのはファムの本体。霧に変化出来るファムだが、実は霧の中に羽虫程の大きさとなった本体がいる。それさえ掴めば霧状態は解除されてしまう。

「うぅ……捕まっちゃった……。でも……でもでも……ノヒンさんの大きい手に掴まれてファムはもう……」
「ちっ、相変わらず頭ぁ湧いてやがんな……。おめぇはそこで筋トレだ!」
「あぁん……へとへとで汗だくになったファムをどうするつもりぃ……?」

 ファムがその場で腹筋を開始。その顔はどこか嬉しそうで、ノヒンは頭が痛くなる。

「何をぼさっとしてやがんだ! そんなんじゃぁおもちゃは買ってやれねぇぜ!!」

 ノヒンがギチギチと全身に力を漲らせて駆け出し、片っ端から子供達にタッチしていく。

「ははっ! 全員その場で筋トレだぁっ!! そんなひょろっちぃんじゃ全っ然だめだ!!」
「みなさん下がってください!! 我々イルネルベリ兵連弩れんど隊が仕留めてみせます!!」

 孤児院を取り囲む円状の城壁の上に、わらわらと連弩隊が集まる。みな仕事はそっちのけで集まったようだ。目の前の仕事よりも、ノヒンを教官として迎えるということの方が重要なのだろう。

「おおっ? 少しは練習したかぁ? 前みてぇなぬるい矢じゃあ俺を仕留めらんねぇぜ? 筋トレ組は下がりやがれ!!」

 ノヒンが広場で筋トレする者たちを下がらせる。

「では私も援護します!!『大気に満ちし火の精霊よ──その熱く燃え盛る炎を我が眼前に──顕現せし火の奔流!』……行きます! 『纏い燃やす火の化粧! 炎纏フレイムエンクロウズ!!』」

 セティーナが魔術を発動。連弩隊の連弩が炎を纏う。この状態で放たれた矢は、着弾と共に軽い爆発を起こす。

「……まだです! この炎場を使って!! 『縛り燃やす焔の鎖! 炎鎖フレイムチェイン!!』」

 ノヒンの周囲に燃え盛る鎖が現れ、体をギチギチと縛り上げて燃え上がる。そこへ連弩隊の爆裂矢が次々と打ち込まれ──

 だがノヒンは炎の鎖を素手で引き千切り、爆裂矢の雨を鉄甲で全て叩き落とす。そのまま鬼のような形相で城壁の上へと飛び上がり──

「う、うわぁ! きたぞ! 殲滅……きぐぅっ!!」
「や、やばいぞ! 白兵戦に切り替……えぅふっ!!」
「に、逃げろ逃げろ! 逃げて体勢を……っづぅっ!!」

 ノヒンが凄まじい勢いでイルネルベリ兵を殴り倒していく。相手が子供ではないので、タッチではなく殴り倒す。もちろん手加減はしているが。

 気付けば城壁上の全てのイルネルベリ兵が、筋トレをしていた。

「あーとーはぁぁぁぁ……」
「ひ、ひぃっ!!」

 城壁上からセティーナのいる見張塔を見上げる。セティーナはノヒンのあまりの気迫に腰を抜かし、その場にへたりこんだ。

「セティーナァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 ノヒンが見張塔の壁にがすがすと指を突き刺しながら登ってくる。その姿はまるで人外の黒き獣だ。黒き獣はセティーナの前まで到達すると、指をばきばきと鳴らす。心なしか、口からは黒い霧が漏れ出しているように見える。

「あぁ……あぁ……」
「……よっと……これで終いだな」

 腰を抜かすセティーナの頭に、ノヒンが軽く触れる。

「うぅ……やっぱりかっこいいですノヒンさん……。まだ抱いてはくれませんか……? そんなに私……魅力がないです……?」
「あぁん? 腹筋しながら魅力とか言われてもなぁ。それに悪ぃが……」

 ノヒンが見張塔の縁まで歩き、「俺が抱くのはあいつだけだ」と、親指を使って孤児院の方を指す。そこには大きく手を振るジェシカの姿。

「やっぱジェシカは最高だな。あんな一生懸命ぇ手ぇ振ってやが……」
「ノヒーン!! 貴様! 降りてこい!! せっかく整備した広場をぼこぼこにしやがって!!」
「うへぇ……おっかねぇ顔してやがるぜ……」

 その後、鬼のような形相のジェシカに見守られ、ノヒンと筋トレを終えた全員で──

 広場を整地することとなった。
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