55 / 229
第一部 第三章 夢の灯火─レイナス団編─
殲滅の鬼 3
しおりを挟む「ぐぅ……やるではないか。まさか兵装なしでここまでとは……」
「ぜはっ……は……はぁ……て、てめぇは……なんなんだ……?」
「貴様らの言葉を借りるならば半魔だ。始まりの半魔、アースガルズの前身でありオーディンの友。強きを求めて彷徨う者」
「訳わかんねぇことばっか言ってんじゃねぇよ!」
「こちらにオーディンの兵装が来たのであれば、よき流れ。私の勘が正しければ……この世界は『強き者』で溢れる世界へと戻るぞっ!! 今日の所はここまでだ! 先程グルヴェイグが思いがけず暴走してしまったのでな!」
ロプトが翼を使って飛び上がる。と同時、立っていられないほどの地震が起きた。
「ちっ! 逃げてんじゃねぇよ! グルなんちゃらの暴走ってのぁなんだっ! この揺れと関係あんのかっ!」
「グルヴェイグは使用者に不死の肉体を与えると共に他者に黄金の力を与える! 不適合者は黄金とは程遠い醜悪な化け物へと変わるがな! せいぜい死なんことだ!」
「あーだめだ! さっきから一っつも分かんねぇ! とりあえずてめぇの名前を教えろ! ロプトじゃねぇんだろ!? 次は絶てぇぶっ殺す!!」
「ロプトの名もまた一つの名だ。だが私の真名はロキ! 『終える者ロキ』だ! 生き残ったのならば相まみえることもまたあるだろう! ではな! ヴァンの流れを汲む者よっ!!」
「俺はノヒンだ! てめぇをぶっ殺す相手のなっ!!」
「くくくっ……なかなかに面白き相手……覚えたぞノヒンっ!! 我に傷を付けし者よっ!!」
ロキが天高く舞い上がり、彼方へと消え去った。正直このまま戦っても勝てる気などせず、安心している自分にノヒンは腹が立ってしまう。
「くそっ……こんなこたぁ初めてだ……俺の全力が通じなかったなんてよ……」
ロキの口ぶりから察するに、あのミョルニルという武器はまだ完全な力を発揮出来ていなかった。にも関わらずあの圧倒的な強さ。
「ありゃ化けもんだな……。それよりこの揺れだ。なにが起きてんだぁ?」
地震は一向に収まる気配がない。何かが地中深くで蠢いているかのような揺れ。
「ノヒン! これはどうなってるんだ!? この揺れはなんだ!?」
奴隷窟からジェシカが飛び出してくる。中に装備品があったようで、いつも通りのレイナス団副団長ジェシカだ。
「いや、俺もよく分かんねぇけど……ロキによりゃあグルヴェイグ? が暴走したやらなんやら」
「グルヴェイグにロキだと!? お前ロキと会ったのか!?」
「ん? ああ、思いっきりぶん殴ったら逃げてったぜ? ……っても腹ぁ立つが……見逃してくれたって方が正しいか」
「お前が嘘をつくとは思えんが……。ロキとは神話の人物だぞ……? 今でも戦場に時折現れては強者を皆殺しにしているという噂を聞いていたが……まさか本当に実在したのか……?」
「そんなすげぇ奴なのか? まあ確かに俺の全力がほとんど通じてなかったが……」
「神話によれば、ミョルニルとグルヴェイグという神器を使う。ミョルニルは打ち据えた者を必ず粉砕し、投げても使用者の元に戻ってくると云われている。グルヴェイグは自身に不死の肉体を与え、他者に黄金の力……つまり魔石の力を与える。だが魔石の力を与えられた者が相応しくない場合は、恐ろしい化け物へと成り果てて破壊の限りを尽くすらしい。まぁ……神話の話なのでどこまで本当なのかは分からないが……。お前が会ったのが本物のロキとは限らんし……」
「そのグルヴェイグってのは……生きてる相手だけか? 死んだ奴にも効果はあんのか?」
「いや……どうだったか……。確か生死は問わず、心臓があれば発動すると記述されていたような……。ただ脳が死んでいる状態の心臓であれば、必ず化け物へと変わると……」
「……つぅことは……ありゃ確実に化けもんってことだよな?」
「何がだ?」
「ほら……あれだよあれ……俺が殴り殺したお前にひでぇことしてやがった……」
ノヒンが指さす方をジェシカが見る。
「あれは……バルマンの死体か……?」
バルマンの死体が紫色に変色して肥大化し、無数の触手が伸びている。その触手がうねうねと不気味に蠢いて、逃げ惑うイルネルベリ兵へと突き刺さる。触手で突き刺された兵達は皆一様に降魔へと変化した。
バルマン自身の体もミチミチと音を立てて巨大化し、瞬く間に毒々しい紫色の触手の化け物へと変貌した。巨大な樹の幹のような体からは、おびただしい数の触手が生えている。
「ホ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ッ゛!!」
幹のような体の中心にはかろうじてバルマンらしき顔が見てとれた。その顔が叫びとも悲鳴とも判断がつかない悍ましい声を上げる。
「おいおいおい! でかすぎんだろっ! 見張塔よりでけぇぞっ!!」
「あ、危ないノヒンっ!!」
ジェシカがノヒンに体当たりする。
と同時、ノヒンが立っていた足元から紫色の太い触手が現れた。どうやらバルマンの下半身が触手へと変わり、地中に張り巡らされているようだ。
「もしかすっと……これが地震の正体か!? ……ちっ! どうするよジェシカ!?」
「神話通りならば心臓の位置に魔石があるはずだっ! それを砕けば!!」
「あ、危ねぇっジェシカっ!!」
今度はジェシカの背後からイルネルベリ兵の降魔が襲いかかる。それをノヒンが鉄甲で粉砕。
「……ってことはあのでかぶつは俺の仕事だなっ! ジェシカ! 降魔は任せてもいいかっ!?」
「無論だ! 豹魔はしばらく使えんが……降魔ごときに遅れをとる私ではないっ!!」
「おーおー頼りになるねぇ! それでこそレイナス団副団長! 終わったら話してぇことがある! 死ぬんじゃねえぞ!」
「そっちこそな! 私だけ気持ちを伝えたのでは死んでも死にきれん!」
「んじゃぁ二人だけだが……」「私とお前だけだが……」
二人が背中合わせに構える。
「「レイナス団……」」
「ぶっ殺すっ!!」「行くぞっ!!」
30
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる