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第一部 第三章 夢の灯火─レイナス団編─

殲滅の鬼 3

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「ぐぅ……やるではないか。まさか兵装なしでここまでとは……」
「ぜはっ……は……はぁ……て、てめぇは……なんなんだ……?」
「貴様らの言葉を借りるならば半魔だ。始まりの半魔、アースガルズの前身でありオーディンの友。強きを求めて彷徨う者」
「訳わかんねぇことばっか言ってんじゃねぇよ!」
「こちらにオーディンの兵装が来たのであれば、よき流れ。私の勘が正しければ……この世界は『強き者』で溢れる世界へと戻るぞっ!! 今日の所はここまでだ! 先程グルヴェイグが思いがけず暴走してしまったのでな!」

 ロプトが翼を使って飛び上がる。と同時、立っていられないほどの地震が起きた。

「ちっ! 逃げてんじゃねぇよ! グルなんちゃらの暴走ってのぁなんだっ! この揺れと関係あんのかっ!」
「グルヴェイグは使用者に不死の肉体を与えると共に他者に黄金の力を与える! 不適合者は黄金とは程遠い醜悪な化け物へと変わるがな! せいぜい死なんことだ!」
「あーだめだ! さっきからひとっつも分かんねぇ! とりあえずてめぇの名前を教えろ! ロプトじゃねぇんだろ!? 次は絶てぇぶっ殺す!!」
「ロプトの名もまた一つの名だ。だが私の真名はロキ! 『終える者ロキ』だ! 生き残ったのならば相まみえることもまたあるだろう! ではな! ヴァンの流れを汲む者よっ!!」
「俺はノヒンだ! てめぇをぶっ殺す相手のなっ!!」
「くくくっ……なかなかに面白き相手……覚えたぞノヒンっ!! 我に傷を付けし者よっ!!」

 ロキが天高く舞い上がり、彼方へと消え去った。正直このまま戦っても勝てる気などせず、安心している自分にノヒンは腹が立ってしまう。

「くそっ……こんなこたぁ初めてだ……俺の全力が通じなかったなんてよ……」

 ロキの口ぶりから察するに、あのミョルニルという武器はまだ完全な力を発揮出来ていなかった。にも関わらずあの圧倒的な強さ。

「ありゃ化けもんだな……。それよりこの揺れだ。なにが起きてんだぁ?」

 地震は一向に収まる気配がない。何かが地中深くで蠢いているかのような揺れ。

「ノヒン! これはどうなってるんだ!? この揺れはなんだ!?」

 奴隷窟からジェシカが飛び出してくる。中に装備品があったようで、いつも通りのレイナス団副団長ジェシカだ。

「いや、俺もよく分かんねぇけど……ロキによりゃあグルヴェイグ? が暴走したやらなんやら」
「グルヴェイグにロキだと!? お前ロキと会ったのか!?」
「ん? ああ、思いっきりぶん殴ったら逃げてったぜ? ……っても腹ぁ立つが……見逃してくれたって方が正しいか」
「お前が嘘をつくとは思えんが……。ロキとは神話の人物だぞ……? 今でも戦場に時折現れては強者を皆殺しにしているという噂を聞いていたが……まさか本当に実在したのか……?」
「そんなすげぇ奴なのか? まあ確かに俺の全力がほとんど通じてなかったが……」
「神話によれば、ミョルニル粉砕するものとグルヴェイ黄金の力グという神器を使う。ミョルニルは打ち据えた者を必ず粉砕し、投げても使用者の元に戻ってくると云われている。グルヴェイグは自身に不死の肉体を与え、他者に黄金の力……つまり魔石の力を与える。だが魔石の力を与えられた者が相応しくない場合は、恐ろしい化け物へと成り果てて破壊の限りを尽くすらしい。まぁ……神話の話なのでどこまで本当なのかは分からないが……。お前が会ったのが本物のロキとは限らんし……」
「そのグルヴェイグってのは……生きてる相手だけか? 死んだ奴にも効果はあんのか?」
「いや……どうだったか……。確か生死は問わず、心臓があれば発動すると記述されていたような……。ただ脳が死んでいる状態の心臓であれば、必ず化け物へと変わると……」
「……つぅことは……ありゃ確実に化けもんってことだよな?」
「何がだ?」
「ほら……あれだよあれ……俺が殴り殺したお前にひでぇことしてやがった……」

 ノヒンが指さす方をジェシカが見る。

「あれは……バルマンの死体か……?」

 バルマンの死体が紫色に変色して肥大化し、無数の触手が伸びている。その触手がうねうねと不気味に蠢いて、逃げ惑うイルネルベリ兵へと突き刺さる。触手で突き刺された兵達は皆一様に降魔へと変化した。

 バルマン自身の体もミチミチと音を立てて巨大化し、瞬く間に毒々しい紫色の触手の化け物へと変貌した。巨大な樹の幹のような体からは、おびただしい数の触手が生えている。

「ホ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ェ゛ッ゛!!」

 幹のような体の中心にはかろうじてバルマンらしき顔が見てとれた。その顔が叫びとも悲鳴とも判断がつかないおぞましい声を上げる。

「おいおいおい! でかすぎんだろっ! 見張塔よりでけぇぞっ!!」
「あ、危ないノヒンっ!!」

 ジェシカがノヒンに体当たりする。

 と同時、ノヒンが立っていた足元から紫色の太い触手が現れた。どうやらバルマンの下半身が触手へと変わり、地中に張り巡らされているようだ。

「もしかすっと……これが地震の正体か!? ……ちっ! どうするよジェシカ!?」
「神話通りならば心臓の位置に魔石があるはずだっ! それを砕けば!!」
「あ、危ねぇっジェシカっ!!」

 今度はジェシカの背後からイルネルベリ兵の降魔が襲いかかる。それをノヒンが鉄甲で粉砕。

「……ってことはあのでかぶつは俺の仕事だなっ! ジェシカ! 降魔は任せてもいいかっ!?」
「無論だ! 豹魔はしばらく使えんが……降魔ごときに遅れをとる私ではないっ!!」
「おーおー頼りになるねぇ! それでこそレイナス団副団長! 終わったら話してぇことがある! 死ぬんじゃねえぞ!」
「そっちこそな! 私だけ気持ちを伝えたのでは死んでも死にきれん!」

「んじゃぁ二人だけだが……」「私とお前だけだが……」

 二人が背中合わせに構える。

「「レイナス団……」」
「ぶっ殺すっ!!」「行くぞっ!!」
 

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