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第一部 第三章 夢の灯火─レイナス団編─

殲滅の鬼 2

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「おいおい……ロプトだっけかぁ? てめぇはイルネルベリ兵なんじゃねぇのかよ! なんで味方殺してんだぁっ!?」

 ノヒンの問いかけに対し、魔の者へと変じたロプトが「くく……」っと笑う。

「『ずる賢い者』『変身者』『空を旅する者』『狡知の神』『人々の恐れ』『閉じる者』『終える者』『狼の父』『大きく成長したものロプト』……全て私を呼んだ名だ。私は強者を求め、数多の戦場を数多の姿で駆けてきた。このミョルニルとグルヴェイグはアースガルズの置き土産でな。まあ戦利品のようなものだ。ナクモが足りず、正常に作動しないとはいえ……このミョルニルを受けて立っている人間は貴様が初めてだ。たぎる! 滾るぞっ!! 血が滾るっ!!」
「だめだ、全然話聞いてねぇ……。俺より脳筋なんじゃねぇの……っがあっ!!」

 ロプトによる凄まじい突撃。ノヒンが何とかツヴァイヘンダーで受けるが、あまりの威力に吹き飛ぶ。

 吹き飛んだノヒンがなんとか空中で体勢を変えて着地するが、そこに目掛けてミョルニルによる激しい連撃。一撃一撃が恐ろしく重く、受ける度に骨にひびが入るほどの衝撃。

「ふはははははっ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ貴様っ! 必ず粉砕するミョルニルを受けてこうまで耐えるとはっ!!」
「がっ! ぐっ! ぎっ! ……っざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ごり押しは俺の専売特許だっ!! るあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ミョルニルの連撃をかいくぐり、ノヒン渾身の鉄甲による鳩尾みぞおちへの一撃。ズガンッ! と凄まじい音を立て、ロプトの体がふわりと浮く。その隙を逃すまいとツヴァイヘンダーによる嵐のような連撃。

「ぐぅっ! なんつぅ硬さしてやがんだっ! 俺の剣を生身で受けて耐えてやがるっ! ぐぅぅぅぅぅっ! ぶっ飛べやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ギチギチと全身に力を漲らせた全力の一撃で、ロプトを端の壁まで吹き飛ばす。ロプトが凄まじい速度で吹き飛び、激突した壁の一部が崩れ落ちた。

「……はぁはぁ……だめだ……殺れた感触がねぇ……。化けもんかよ……」

 崩れた瓦礫の中から、がらがらと音を立ててロプトが立ち上がる。ノヒン渾身の一撃で与えた傷が、黒い霧を滲ませながら治っていく。

「ふむ……この少ないナクモの中でもグルヴェイグはそれなりに作動するか。だがまだまだナクモが足りない。次元の亀裂は広がってはいるようだが……あれはオーディンの兵装がこちらに来た限定的な影響と考えれば……。であればオーディンを探すか」
「なにをっ! ごちゃごちゃっ! 言ってやがるっ!!」

 ロプトの隙をついてノヒンが連撃を見舞うが……

 全て片手でいなされた。見ればロプトはさらに姿が変わり、様々な魔獣を足したような姿に。鬼の顔に鱗で覆われた体。背中からは漆黒の翼が生えている。

「ちっ! いよいよもって化けもんじゃねぇかよっ!!」
「貴様と由来は大して変わらんっ! 楽しませて貰ったがここまでだ! ヴァンの流れを汲むものよっ!!」
「……っづあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ロプトによる渾身のミョルニルでの一撃。それをノヒンがツヴァイヘンダーで受けるが……

 ツヴァイヘンダーが粉々に粉砕され、反対側の壁までノヒンが吹き飛ばされた。凄まじい衝撃がノヒンを襲う。腕の骨は粉々に砕け、肋骨が折れて肺に刺さり、背骨も砕けた。

「がはっ……ひゅう……ひゅ……ぐぐ……ぐぞ……ふざ……げんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 バキバキと音を立て、ノヒンの折れて砕けた骨が補強される。気を失うのではないのかと思うほどの激痛。だがノヒンは痛みでも身体能力が上がる。ギチギチと全身に力が漲り、メシメシと補強された骨が痛覚を刺激する。

「ほう……それで立てるのか。やはりヴァンと同じ力。だがヴァンの兵装はこちらにはない! 貴様では私には勝てんのだっ!! 楽しませて貰ったぞ!!」
「俺のっ! 名前はっ!! ノヒンだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ヴァンとか訳わかんねぇことぉぉぉぉ……言ってんじゃぁぁぁぁぁぁねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 全ての力を込めたノヒン決死の突撃。

 振り下ろされるミョルニルを拳で受け──

 ズガンッ! と凄まじい音がして拳がバキバキと砕けるが、砕けた先から再生し、力がどんどん上がっていく。

「ぐぅ……どこにそれほどの力が……そうか! その首飾りかっ!!」

 ノヒンは自身の魔石から発生する魔素や周囲にある魔素を使って身体強化、身体再生を行うが、これまでよりも再生速度が上昇していた。通常であればすぐに魔素が枯渇するはずだが……

 ヨーコの首飾りからも魔素が発生し、ノヒンの手助けをしているように見える。

「そうかよヨーコ……守ってくれてたのかよ……」

 ノヒンが空いた片方の手で、ヨーコの魔石を力強く握る。

「……んじゃあよぉ! 負けるわけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……いかねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ガズンッ! とミョルニルを吹き飛ばし、黒錆の鉄甲による連撃をロプトに見舞う。骨が砕けて血が吹き出し、想像を絶する激痛が走るが、それも構わず殴り続ける。

「おぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ドズンッ! とロプトの鳩尾をノヒンの拳が打ち抜く。凄まじい衝撃がロプトを襲い──

 ロプトが鳩尾を抑えながら、その場に片膝をついた。

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