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第一部 第三章 夢の灯火─レイナス団編─
割れたクッキー 3
しおりを挟む「おいルイス! いるか!? ルイス!!」
ルイスの鍛冶場にノヒンが転がるように飛び込む。
「そんなに焦ってどうした?」
「ジェシカは!? ジェシカは来てねぇか!?」
「今日の朝方、剣を受け取りに来たが……それ以降は見ていない。それよりどうだった?」
「なにがだ!?」
「砂糖菓子とクッキーだ。朝方来た時に、『ノヒンに砂糖菓子とクッキーを作って驚かせる!』と嬉しそうに話していた」
「くそっ! やっぱりかよ!!」
「やっぱり? ……どうしたんだ?」
ノヒンが今までの経緯をルイスに話す。頭の中がぐちゃぐちゃで、何度もルイスに「落ち着け」と言われた。
「それはまずいな……」
「イルネルベリに行ったと思うか?」
「そうだな。前にセティーナに対する思いは聞いていた。確実に助けに向かっただろうな」
「そうだよな……そうだよなっ!! こうしちゃいられねぇ! すぐに……」
「落ち着け。怪我をしたお前の馬では無理だ。夕刻まで新しい雷馬が来るのを待て」
「これが落ち着いてられるかよ! なんでルイスは落ち着いてんだ!? 心配じゃねぇのかよっ!!」
「心配に決まっているだろ」
「全然そうは見えねぇっ!!」
「本当にそう思うか……?」
ルイスの雰囲気が変わる。表情は変わらないが、怒っているのが伝わってくる。
「す、すまねぇ……だけどよ……」
「私だって心配だ。ジェシカはライバルだが友でもある」
「ライバルってなぁなんのことだよ」
「今日の朝、一方的に宣言された。分からないならいい」
「ちっ……本当お前は落ち着いてるな……。だけど心配してるのは伝わった。悪かったな」
「とりあえずやれることを考えようか」
「雷馬が来るまで出来るこたぁねぇよ……くそっ……」
「いやある」
「……なんだよ?」
「お前の装備を整える。ジェシカだって馬鹿じゃない。正面切って突っ込んだりはしないはずだ。確かイルネルベリから脱走する時に地下水路を使ったと言っていた」
「……それで?」
「イルネルベリの地理は分かるか?」
「いや全く……」
「イルネルベリは東西に長い。イルネルベリ城があるのは一番西、そこから東に城下町ラバラナドゥ、更に東に港町ウティコリンがある。それら全部を含めてイルネルベリだ。魔女が囚われているのはイルネルベリ城だな。そしてイルネルベリ城に繋がる地下水路がラバラナドゥにある。まあ私もジェシカから聞いただけなので詳細は分からないが……地図で見た限りの距離であれば、歩いて三~四時間。道を覚えていたならもう少し早くなるかもしれないが……いや、地下水路ならば普通に向かうより時間がかかるか……つまり時間は十分にあると思う」
「そうか……そうかっ!! 今から雷馬が届く夕方まで四時間ぐれぇだっ! ってことは雷馬が届き次第イルネルベリ城に突っ込みゃあ間に合うってことかっ!!」
「そういうことになるな」
「くそっ! 最高だぜルイスはっ!!」
ノヒンがルイスを抱きしめ、抱きしめられたルイスが頬を赤くして喜んでいるように見える。
「……んで? 俺の装備を整えるってのは?」
ノヒンがルイスから離れ、真剣な顔で問う。若干だが残念そうなルイスにノヒンは全く気付いていないようで……
ルイスが軽くため息をつく。
「前々から考えていた武具があるんだ。ほぼ完成しているので、あとは調整だな」
「今のツヴァイヘンダーで十分だと思うけどよぉ、どんなやつだ?」
「ちょっと待ってろ」
そう言ってルイスが鍛冶場の奥から黒錆色の鉄の塊を持ってくる。
「それはなんだ? 剣じゃねぇのは分かるが……」
「鉄甲だ」
「鉄甲? 俺ぁ武闘家じゃねぇぜ?」
「お前の戦い方を見て考えていたんだ。お前はよく一人で大軍と戦うだろう?」
「そういやだいたいそうだな」
「弓や投石がうざくはないか?」
「だいぶうぜぇな。まあ剣で叩き落とせるが……小回りが効かねぇから全部は無理だ」
「そこでこの鉄甲だ。盾ではお前の戦闘スタイルの邪魔になる。だが鉄甲であれば、邪魔にはならないと思ってな。これは普通の鉄甲よりもかなり分厚い。前腕ごと覆うので盾としても使える。そのまま殴ってもお前の腕力であれば、致死の一撃になるだろうな。弓や投石での攻撃が激しい時は、剣を納めてこの鉄甲で戦えば、かなり楽になると思うぞ」
「確かに……これなら矢を叩き落としながら目の前の敵を殴り殺せるな」
ノヒンが鉄甲を装備する。初めて装備したとは思えないほど手に馴染む。
「すげぇな……全然違和感がねぇ」
「お前の体のことなら誰よりも知っているさ。どうだ? 手首を曲げたり伸ばしたりしてみろ」
ルイスに言われ、ノヒンが手首の曲げ伸ばしをする。
「……ちょっと曲がり切らねぇな」
「常人ならば曲げるのも一苦労の調整なんだがな……。お前ならば呪具でも問題なく扱えそうだな……」
「呪具? なんでぇそりゃ」
「魔素を使って鍛えた武具だ。魔素で呪われてしまうので常人には扱えない代物だが、唯一無二の強度を誇る。だが魔人であるお前ならば扱えるはずだ。そのうち呪具を鍛えてやるから待っていろ」
「へぇー、そんな強力な武器があるんだな」
「呪具は鍛える方も命懸けで、扱える者も極端に少ない。呪具を鍛える鍛冶師はただの鍛冶狂いだな。ではこっちに鉄甲をよこせ。雷馬が届くまでには最高の状態に仕上げておく」
「悪ぃなルイス。いつも助かってるぜ?」
「お前のパートナーは私しかいないだろう?」
「そうだな。俺はお前がいなきゃだめだ」
「……鍛冶以外でも言わせたいものだな」
「鍛冶以外? どういう意味だ?」
「分からないならいい。どうする? 後で取りに来るか?」
「いや、見ててもいいか? お前が作業してる後ろ姿が好きなんだ。ずっと見ててぇくれぇだな」
「了解した」
ルイスがノヒンに背中を向け、作業に取りかかる。
ここからは時間との勝負。だがノヒンには待つことしかできない。それが歯痒くて、握り込んだノヒンの手からは血が滴っていた。
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