覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

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第一部 第三章 夢の灯火─レイナス団編─

ルイス 1

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 ──ユーデリーでの戦いから一ヶ月

 レイナス団は拠点であるトマンズへと帰還し、ラグナスはソールへと召還。色々と面倒な手続きをこなさなければならないらしく、出発前に珍しく憂鬱な顔をしていた。

 レイナス団の面々は久しぶりに羽を休められるということで、各々自由な時間を過ごしている。

 ノヒンはと云うと、レイナス団の鍛冶師であるルイスの元を訪れ、剣の調整を頼んでいる最中だ。

 
「……ふざけてるのか?」

 作業中の鍛冶師ルイスが振り返りもせず、ノヒンに鋭い声で問いかける。ルイスは細身で金髪碧眼。髪の長さも肩ぐらいで、見た目は完全に女性なのだが……

 驚いたことに男だ。

 前に怪しんだ団員がルイスの湯浴みを覗き、しっかりと確かめたらしいので本当なのだろう。

 ノヒンは団に入りたての頃、ルイスが男だとは思わずに大笑いされたことがある。団員に好みの女性を聞かれ、「ルイスみたいに静かな女が好きだ。顔も綺麗でいい女だしな。あの顔で鍛冶師なんて信じられるか?」と。

「ふざけてなんかねぇよ」
「……じゃあ馬鹿にしてるのか?」
「馬鹿にもしてねぇって。悪かったよルイス」
「……どこの世界にバリスタの矢を剣で撃ち落とす奴がいるんだ?」
「まあここの世界だろうな」
「……ふざけてるのか?」
「だからふざけてなんかねぇよ」
「……何本目だろうな? ……まあいい、すぐに終わる」
「待ってていいか?」
「……勝手にしろ」

 ルイスが一度も振り返らず、黙々と作業を続ける。

「……激しい戦いだったのは分かる。だがもう少し大事にしろ」
「悪かったって。次からはもう少し大事に扱うさ」
「剣もだが……お前の命のことを言っている」

 ルイスが鍛冶の手を止め、振り向いてノヒンに近付く。

「な、なんだぁ?」
「ほら……この首の傷。バリスタだろ? もう少しズレていたら首が飛んでいるぞ?」

 ルイスが作業用の手袋を脱ぎ、まるで女性のようにしなやかな手がノヒンの首筋に触れる。

「ちゃんと見切ってるから大丈夫だって」
「もしも……ということがある。首が飛んだらお前でも再生しない。そうなったら私は悲しいな」
「気を付けるって……」
「気を付けるんじゃない。自分を武器として見るのをやめるんだ。分かるか?」
「いや……正直武器だろう? この腐った世界じゃ人も武器も変わんねぇよ」
「違う。武器は壊れても直せるが、お前は壊れたらそれでおしまいだ。だから……」

 ルイスの距離がさらに近付く。耳元で静かに話すルイスの声が震え、本当に心配していることがノヒンにも伝わる。

「悪かったってルイス。ちゃんと自分を大事にするさ。じゃなきゃお前の打ったツヴァイヘンダーを使える奴がいなくなるって話だろ?」
「……それは少し違う。お前の注文に合わせていたら、お前以外扱えない剣……というか鉄板になったというのが正しい。つまり責任を持って剣を振り続けろということだ」
「結局無茶しろってことだろ?」
「分からない奴だな。命は大事にしろ、だが頑張れということだ。頑張るのと無茶は違う。頼むからお前の剣を打ち続けさせてくれ」
「お前以外に俺の剣は打てねぇからな」
「そうか。なら私はお前のパートナーだな。末永く頼む」
「こっちこそ頼むぜ? お前以外に俺のパートナーはいねぇよ」

 そうノヒンが言うと、無表情のルイスの顔が少しだけ笑顔になった。ノヒンはその笑顔を見て思わずかわいいなと思ってしまう。これで男だとは信じられないし、なんだか気恥ずかしくて目を逸らす。

「失礼する。少しいいかルイス?」

 そんな微妙な空気の中、鍛冶場にジェシカが訪れた。

「す、すまないルイス、じゃ、邪魔をしたな。また後で来る」

 ジェシカが二人の絶妙な距離感を見て少し狼狽える。ルイスが男だと知っている者からすれば、なんとも言い難い光景だろう。

 ルイスはノヒンに対してだけ距離感が近い。それ故にノヒンとルイスの関係を怪しむ者も多くいる。正直ノヒンがルイスの居心地の良さに惹かれているのは確かだ。

「……いや、大丈夫だ。何か用があるんだろ?」
「あ、あぁ。少し剣の切れ味が悪いようでな……っというかちょっとこっちに来いルイス」
「……なんだ?」

 ジェシカがルイスの腕を引き、鍛冶場の外へと連れ出す。

「もうノヒンには言ったのか?」
「何をだ?」
「ルイスが本当は女だってことに決まっているだろ」
「なんでだ?」

 そう、実はルイスは女だ。

 イデラバードでの一件により、ラグナスの導術の強さが明るみとなった。その上でジェシカはラグナスとノヒンが裏で何をしていたのかを聞き、容姿を変える導術があることを知った。初めは裏で二人がそんなことをしていたのかと、何も知らされていなかった事実にショックを受けたが、ジェシカの頭に一つの疑念が浮かんだ。

 それはラグナスがルイスを紹介した際、「男と女、どちらに見える?」と聞いた事だ。その時は何も疑問に思わなかったが、後々になってラグナスがそんな失礼なことを言うだろうかと疑問に思い、引っかかっていた。

 そこに『容姿を変える導術』の存在を加味して考えることで、一つの答えに辿り着く。ラグナスは使姿──と。

 そこでジェシカはルイスを呼び出し、単刀直入に「本当は女なのだろう?」と聞いたのだ。それに対してルイスは「ああそうだ。面倒なので黙っていてくれ。女と云うことが鍛冶の邪魔になる」とだけ答えて去って行った。その時に聞こうと思って聞けなかったことがある。

 それは……

「ノヒンに好意があるんじゃないのか?」
「あるぞ。好きだ」
「だったら尚更!」

 思わずジェシカの声が大きくなり、ノヒンに聞こえていないかと中を確認する。当のノヒンは静かに炉の炎を眺めていた。

「なぜ君がムキになる?」
「そ、それはルイスのことを思って……」
「本当にそうか?」
「どういう意味だ? 本当に決まっているだろう?」
「では相手がヒンスであればどうだ? ヤーゴでもいいぞ。君は首を突っ込むか?」
「それは……」
「本当に私のことを思ってか?」
「な、何が言いたい!」
「分からないならいい。剣は置いていけ」

 ルイスが珍しく感情を露わにしている気がする。表情が変わった様子はないのだが、言葉に力がこもって感じられる。

「あ、ああ。これなんだが……」

 ジェシカがルイスの雰囲気に気圧されながら、おずおずと剣を渡す。
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