覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

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第一部 第二章 夢の灯火─少年、青年期篇─

ニャール村 2

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 五年の月日と共に、ヨーコは幻術で見せた大人のヨーコの姿に着実に近付いていた。今ではニャールのアイドルである。

「あれじゃねぇか? 『傷は男の勲章』ってぇだろ? 無意識で残そうとしてんだよ」
「まあ……傷だらけのノヒンもかっこいいけどねぇ」

 そう言いながらヨーコが傷跡に噛み付く。隙あらば『自分が付けた傷を残したい』と、ノヒンに噛み付いていた。

 消えない傷跡については実際ノヒンが言った通りである。魔人は脳の記憶領域から損壊前の情報を引き出し、心臓にある魔石が魔素を消費して再生する。その過程でノヒンの傷に対する想いが作用し、傷跡を残していた。

 赤ん坊の時に潰された目は、赤ん坊故に魔石が上手く作動せずに潰れたままとなったようだ。その上ノヒンの記憶領域には『目が潰れている』という情報しかないので、治ることはもうない。

「だからすぐ噛むなって言ってんだろ? 割と痛ぇんだぞ?」
「えぇー? いいじゃんいいじゃん! 私にも傷跡残させてよ! それに昨日の夜は気持ちよさそうにしてたじゃん! 『ヨーコに付けられた傷ならいくらあってもいいな』って言ってたじゃん!」
「だからって普通あそこを噛むかぁ?」
「気持ちよかったくせにぃー?」

 ノヒンとヨーコが昨夜の情事について、これでもかというほどにイチャついて話す。

「ちっ! ちっちっ! 見せつけてくれますねぇ? 僕は空気ですか? 空気なんですかぁ? ああそうか! そういうプレイなんですね!? 爛れた性生活を見せつけて興奮する変態なんですね?」

 ランドがあからさまに悪態をつく。

「なんだぁランドォ? もしかしてまだヨーコのこと諦めてねぇのか?」

 実はランドは昔からヨーコに思いを寄せていた。素直ではない性格が災いし、想いを伝えたのは最近だ。しかも慣れない酒を飲み、泥酔し、泣きながら「なんでノヒンなんだぁ? 僕の方が長い付き合いじゃないかぁ! 口かぁ? ヨーコは口が悪い方が好きなのかぁ?」と、訳の分からない絡み方をしていた。その後ランドはテーブルに突っ伏したまま眠り、ノヒンは改めてヨーコに聞いた。「なんで俺なんだ?」と。

 その問いに対してヨーコはゆっくりとした口調で過去を語ってくれた。


---


「ダガーを渡してくれた時あるじゃない? その時……生まれて初めて『従うか逃げるか』以外の道を選ばせてくれたから……かな。まぁ……『死ぬか殺すか』選べって乱暴な言葉だったけどね。私達……ランドやアルはね、シア・ツァーリのチャジラルって村で育ったの。川沿いの小さな村で、人口は百人くらいかな? そこで普通にね、普通に暮らしてたんだ。ランドとアルは隣の家の仲良し兄妹で……よく遊んだな。その頃からランドは生意気で……アルは大人しかった。それでね、ある日突然……魔素災害が起きたの。聞いた事あるでしょ? 原因不明で突然魔素が爆発するように発生する災害。それでね、気付いたら村人全員が降魔になってて……ランドとアルは運良く半魔になってた。まぁ……その後大変だったから運悪く……かな? ……え? 私? 私は元から半魔だったんだ。チャジラルに逃げて来た魔女の子供。魔女からは半魔か魔女が生まれるからね。チャジラルの人達は優しくて、お母さんと私の事を外に漏らさないで保護してくれてたんだ。お母さん? お母さんなら確か……イルネルベリの密入国者に拉致されたって言ってたかなぁ? 名前は……サマンサ? ごめんね、小さかったからよく覚えてないんだ。ああ! それでね、その後で降魔になった村人が襲ってきてね……。すごく怖かったなぁ。あぁ私死ぬんだぁって思った時に、アルの悲鳴が聞こえてね。気付いたらアルとランドを抱えて走ってた。そこから宛もなく三人で彷徨って……結局シア・ツァーリの兵隊さんに見付かって……そこからは檻の中で動物扱いの日々だったね。あ! でも大丈夫だよ? 三人とも性的な暴力は振るわれてないから! シア・ツァーリだと半魔は動物扱いみたいで……半魔と性交渉すると病気が伝染るんだって言われてる。それでランドがね、何回か兵隊さんを殺してやるって呟いてて……私、止めたんだ。だって殺したりしたら殺されるでしょ? 相手は軍隊だよ? いくら半魔がなかなか死なないって言っても……軍隊相手は無理だよ。だから殺すんじゃなくて逃げようって。チャンスはあるって。それで従順なふりして……裸で芸なんかもしちゃってさ? 笑えるでしょ? それからしばらくして逃げ出すことには成功したんだ。でも別の町の近くでね、魔獣の姿で狩りしてるところを見られてすぐ捕まっちゃって……そこからはまた動物扱いの日々。シア・ツァーリってね、どこもたくさんの兵隊さんがいて、やっぱり三人じゃ勝てないよねって。私の裸踊りね……すごくみんな喜ぶんだ。必死だったよ? また従順なふりしてれば必ず逃げられるって。それでその町に吹雪から避難してきた聖王都ソールの王族様が数日滞在したのね。グレイスって言ってたかな? そこで私達は王族様の目に止まったの。それで王族様がたくさんお金を積んでね、ランバートル経由で私達を密輸するって話になって……あとは分かるでしょ? だからね、そんな『従うか逃げるか』しかなかった私に、ノヒンの言葉が響いたんだ。おっきい斧持って、自分より倍近くもある大人達を殺して……正直すごく怖かったよ? でもね、ちょっとかっこいいなぁって思ってる自分がいたの。そうしたらノヒンがね……『死ぬか殺すか』選べってダガーを渡してくれて……あぁ、この人は私を動物としてじゃなくて、一人の人間として見てくれてるんだぁって。私も選んでいいんだなぁって……」と答えた。

 それを聞いたノヒンがヨーコを優しく抱きしめ、どちらからともなく唇を重ね……

 タイミング悪く目を覚ましたランドと揉み合いになり……

 といういつもの展開になったのが数日前──


---


「ごめんねランド……? ランドの気持ちに気付いてあげられなくて。でもランドも大切な家族だよ。弟? みたいな?」
「分かってる。分かってるよ……。でも僕を選ばなかったことを後悔しないでくださいね!」
「……なんだかだせぇぞランド?」
「う、うるさいうるさい! アルー! 二人が僕をいじめるんだー!」

 ランドがアルを探して外に飛び出す。あの泥酔してヨーコに告白した日から、時折ランドはおかしくなる。こう見えてもランドはニャール村の女性陣に、絶大な人気があるのだが……

 『ランド様』『孤高の狼』『クールウルフ』『ニャールの宝』と呼び名は様々で、ランドが村を歩くと女性の列が出来るほどだ。

 アルはというと、ドライアドの力を使って作物を育てている。アルが作る野菜は美味しく、栄養価が高い。ニャール村の健康面でかなり貢献してくれている、縁の下の力持ちだ。そのうえ……

 ヨーコを超えるのではないかと思えるほどに発育がいい。アルに近付く男をランドがよく威嚇している。

「そういやぁグルタグとの話は進んでんのか?」
「うん、かなり好感触だよ。明日グルタグまで野菜を持ってくんだー」

 グルタグとは北の大帝国シア・ツァーリの国境都市。位置的にはニャールとザザン一家の縄張りであるルタイ平野の、ちょうど中間にあるツェンゲル盆地から北にある村だ。

「明日ぁ? 明日は俺がザザン一家との停戦交渉だし……ランドはソールに行って薬や貴重品の仕入れだ。別の日に出来ねぇのか?」
「あれぇー? もしかして心配してくれてる? ノヒンはかわいいなぁーもう」
「茶化すなよ。ヨーコも半魔とはいえ、戦いにゃぁ向いちゃいねぇ。幻術でなんとか出来んのも四~五人だろ?」
「大丈夫だよ! ノヒンもグルタグまで一緒に行ったことあるでしょ? 治安はいいし、心配し過ぎだって。グルタグとの取引をまとめたらニャールはもっと良くなるしね。それにアルの念話出来るお花も持たせて貰うし! ノヒンも明日はお花持つでしょ? 何かあったらすぐ連絡するから……ね?」
「ちっ、絶てぇだぞ! ちょっとでも違和感があったら連絡しろ! そんときゃあ俺がグルタグぶっ潰してやるからよ!」
「うわぁ……ノヒンなら都市一つくらい壊滅させそう……。でもありがとうねノヒン。大好きだよ?」

 ヨーコがノヒンに唇を重ね、ノヒンは手を引かれるまま寝室へと向かう。

「ノヒン……ニャールで幸せな家庭作ろうね……?」
「あぁそうだな……。だがまだ俺らにはやることがある。避妊はするぞ?」
「うん……でも……絶対だよ……? 私に……ノヒンの家族を作らせてね? 私達の人生……ハッピーエンドにしようね?」
「あぁ……絶対だ。約束する……」

 そう言ってノヒンがヨーコに唇を重ね、優しくベッドに倒した。
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