覚悟ガンギマリ系主人公がハーレムフラグをへし折りつつ、クールな褐色女戦士をデレさせて異世界を救うパワー系ダークファンタジー/ヴァンズブラッド

鋏池穏美

文字の大きさ
上 下
18 / 229
第一部 第二章 夢の灯火─少年、青年期篇─

戦鬼 1

しおりを挟む

 中央大陸ミズガルズ──

 ミズガルズ東の中ほどには、見渡す限りの荒野が広がる。

 荒れた大地に草木はなく、そこかしこに腐乱した死体が放置されている。荒野の北部にはヘンティー山脈が横たわり、冬になると極寒の地となる。

 この荒れ果てた大地はランバートルと呼ばれる東西に細長い土地。東と南にソール聖王国、北にシア・ツァーリ大帝国、西にオーシュ連邦と囲まれる。

 地中深くがミズガルズを囲む大海である大外洋だいがいようと繋がり、いずれ世界蛇ヨルムンガンドがランバートルの大地を喰い破り、世界を滅ぼすと言い伝えられている。それ故にどこの国にも属さない無法地帯だ。

 ランバートルから南西にはオーシュ連邦の貿易都市イルネルベリ。北西にはシア・ツァーリ大帝国の交易都市シビルスクがあり、ランバートル経由での密輸が盛んに行われていた。

 そういった背景もあり、ランバートルには密輸品や奴隷商を狙った山賊がひしめき合っている。また、その山賊から身を守る為の傭兵団も数多くいた。

 死と欲望の渦巻く荒野ランバートル。

 聖王国ではランバートルに男が近付けば骨も残らず、女が近付けば死ぬまで性奴にされると言われ恐れられていた。(実際過去にランバートルから聖王国へ逃げてきた女性は歯を全て抜かれ、廃人同然の様であった)


---

 ──ランバートル東部

「ほわぁぁぁぁぁぁっ! ほあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ちっ! うるっせぇんだよ! 酒が不味くなるだろうがっ! ぶっ殺すぞ!!」

 ランバートル東部のヘンティー山脈の麓の小屋で、酒に酔った大柄の男が叫ぶ。どうやら生後一年程の赤ん坊の泣き声に苛立っているようだ。

「くそっ! 毎日毎日泣きやがってよぉ……頭がおかしくなりそうだ! 黙れってんだよ! くそっ! くそぉっ! もう半年だぞ! どこ行きやがったんだレイラァァァァァァァァァァァァァ!!」

 レイラとはこの酒に酔って喚き散らしている男──ゴルゲンが荒野で拉致し、犯して妊娠させた女だ。

 レイラはゴルゲンがこれまで出会った女の中で、他と比べるのがおこがましい程に美しかった。レイラを拉致監禁し、一年後に子供が生まれる。それが先程から泣いている赤ん坊──

 ノヒンだ。

 ノヒンという名前はレイラが付けた名で、レイラの出身国に関係があるらしいのだが……

 ゴルゲンはノヒンという名前の響きに聞き覚えはなかった。

 レイラはノヒンが生まれて半年後、外出した際に失踪している。外に出たそうにしていたので、「日没までに戻らなければノヒンを殺す」と脅して外出を許したのだが……

「ちっ! あんないい女ぁ二度と味わえねぇってのによ! くそっ! それもこれもてめぇのせいだ! てめぇが呪われてっからだ! その呪われた目ん玉ぶっ潰してやるよ!!」

 ノヒンの左の白目には縦縞の痣があった。

 ──魔女の刻印。

 ──呪われし業の烙印。

 ──神話時代に行われた大戦の宿因。

 この世界には魔女が存在し、恐れられている。魔女は迫害され、捕縛され、拷問され……

 殺される。

 ただどういったわけか魔女には美しい者が多く、ひっそりと性奴とされている場合もあった。魔女の中でも特に恐れられていたのが、体のどこかに縦縞の痣がある魔女。縦縞の魔女は他の魔女よりも強い力があると信じられていた。

 実はレイラにも左肩甲骨に縦縞の痣があったが、前から犯すことしか脳のないゴルゲンは気付きもしない。

「ほあぁぁぁぁぁぁっ! ほわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「てめぇが! てめぇがてめぇがてめぇがてめぇが!! てめぇが呪われたからレイラがいなくなりやがったんだ! まだまだやり足りねぇのによぉ! その目だ! その目さえなけりゃあ……」

 魔女は基本的に血筋なのだが謎が多く、ある日突然魔女(男の場合は魔人)になるという噂もある。ゴルゲンはレイラが魔女なのではなく、ノヒンが呪われて魔人になったと思っていた。

 そうしてその思いがゴルゲンを凶行に走らせる。

 ゴルゲンはナイフを手に取ると、ノヒンの左目にゆっくりと差し込んだ──


---


 ──七年後

「おい親父! そろそろ俺も仕事に連れてけよ! ヒマでヒマでしょうがねぇ」
「ちっ、うるっせぇんだよノヒン。てめぇを連れてったところで足手まといだ。家の便所でも掃除してやがれ!」
「俺だってやれる! 見ろよ! ロングソードだって振れるんだぜ!」

 ノヒンがロングソードを手に取って振る。八歳が振れるような重さではないのだが……

 ゴルゲンが驚いた顔をした後で、ノヒンを思い切り蹴りつけた。

「ぐうっ! な、何すんだよ!」
「俺に剣を向けてんじゃねぇ! ぶっ殺すぞ!!」
「わ、悪かったよ剣なんて向けて……。ただ親父には感謝してんだ。何か恩返ししたくてよ」
「気持ちわりぃこと言ってんじゃねぇぞ!!」

 ノヒンは生後一年でゴルゲンに左目を潰されたのだが、その後治療を受け、左目が見えない以外は問題なく育った。

 本来であれば魔女や魔人は傷が勝手に再生し、目も見えるようになるはずなのだが──

 あまりにも幼い時分に負った傷は再生しないことが多い。

 ノヒンはゴルゲンに似たのか同世代よりも筋肉質で、ただ似たのは筋肉質なところだけ。ゴルゲンは浅黒い肌にゴワゴワの白髪混じりで、分厚い唇に潰れた鼻。目はぎょろぎょろと血走っているのだが──

 ノヒンはとても整った容姿をしていた。

 肌は透けるように白く、さらさらの黒髪に高い鼻と薄い唇。目は切れ長で涼やか。このまま成長すれば、美しい顔の精悍な青年になるだろうことは誰が見ても間違いない。

 そんな似ても似つかないゴルゲンをノヒンは親父と呼んでいるが……

 ノヒンがゴルゲンから受けた説明では、荒野で母親の死体に抱かれたノヒンをゴルゲンが助けたことになっている。左目も元々潰されていて、ゴルゲンが治療して育てたと。
 
「ちっ、まあ今日は簡単なヤマだからな。連れてってやってもいいが……邪魔だけはするんじゃねぇぞ!!」
「えっ? 本当か!? いぃぃぃぃぃ……よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「相変わらずうるっせぇガキだ。簡単つっても人を殺すぞ? 覚悟はあんのか?」
「俺だってランバートルの鬼畜集団! ゴルゲン一家の端くれだぁっ! やってやるよ!! って言いたいところだけど……何をするんだ?」
「ちっ、ここから南西、イルネルベリとの間にトマンズって街があんのは分かるか? 聖王都ソールの貴族様の別荘がある町だ」
「あぁ知ってるよ。なんだっけ? グレイスとかいう女好きの下衆だろう? だけどあいつは王族じゃなかったか……? 確か第一王子……」
「貴族も王族もランバートルじゃあただの獲物だ。対した差はねぇよ。そんでその貴族様がシア・ツァーリから奴隷の女を買い付けたって情報が入った。今回はその奴隷商を狙う」
「全然簡単じゃねぇじゃねぇかよ……。王族が買い付けた奴隷だろ? 警護もすげぇんじゃねぇのか?」
「ちっ、てめぇは何年ここで暮らしてんだぁ? ランバートル経由での取引は表沙汰に出来ねぇヤマだ。毎度警護が少ねぇのは知ってんだろ?」
「……ってもその王族様がランバートルの他の一家に護衛を頼んでるかもしれねぇだろ?」
「……その辺はナシがついてんだ。だから死ぬんじゃねぇぞ?」
「……ん? 死ぬんじゃねぇぞってどういう意味だ?」

 違和感のある言い回しに思わずノヒンが聞き返す。

「ちっ、心配しちゃあ悪いのか?」
「う、嘘だろ……? 地獄の鬼もその所業に若干引いちまうって噂のゴルゲンが心配なんて……って痛てぇじゃねぇか! すぐ殴んじゃねぇよ!」
「……とりあえず準備しておけ。武器は……」
「俺はこのロングソードで行く! 本当は親父と同じ大戦斧がいいんだけど……そこに飾ってある大戦斧は使わねぇのか?」
「そいつぁやめとけ、昔奪った戦利品だがよぉ……呪われてやがんだ。使ってると気が狂う。っつーか大戦斧はてめぇにゃ無理だろうが! てめぇの身の丈よりでけぇんだ!」
「でけぇからかっこいいんじゃねぇか!」
「黙ってその剣にしとけや。ちっ、ロングソードだってまだ早ぇってのによぉ」
「はんっ! すぐに大戦斧持てるようになってやるよ! ……んで? 奴隷商が通る場所はどこなんだ?」
「こっから西のルタイ平野だ。馬で飛ばしゃあ一日ぐれぇだな」
「ルタイ平野ってことは……ザザン一家の縄張りじゃねぇかよ! 本当に大丈夫なんだろうな?」

 ザザン一家とは、ゴルゲン一家とは別の意味で危ない集団だ。中でも家長のザザンは反吐が出るほどの変態で有名。拷問が趣味で、特に親の目の前で子供を拷問しながら犯すのがたまらなく好きだと豪語している。犯す相手は男でも女でも……それこそ獣ですら相手にする。

「だからナシはついたって言ってんだろうが! ごちゃごちゃ言ってやがんなら置いてっちまうぞ!!」
「わ、分かったよ! まぁ俺に任せとけ! 全員俺がぶった斬ってやるぜ!」
「奴隷には手を出すんじゃねぇぞ! 今回は特別な女だって話だからなぁ……。ばははっ! 早く味わいてぇぜ」
「女には興味ねぇよ。とにかく早く戦ってみてぇ」
「ちっ、てめぇは気性が荒すぎんだ!」
「はぁ? 親父にだけは言われたくねぇよ」

 ノヒンがそう言ったところで──

 ゴルゲンに思い切り頭を殴られた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...