上 下
5 / 229
第一部 第一章 プロローグ─夢の残火編─

鍛冶師バランガ 2

しおりを挟む

「ルイスのやろぉ……」
「いやいや、ルイスを許してやってくれ。手紙ではお主に対する愛で溢れておったぞ? いい仲なんじゃないのかい?」
「ちっ、色恋の話はよしてくれや(……驚いたな。こいつぁ男同士とか気にしねぇのか?)」
「すまんすまん。それで? 騎士団の隊長様がここにいるってことは、パラン殿に会いに来たのか?」
「残念ながら俺はもう騎士団の隊長じゃねぇよ。……まあパランに用はあるがな」
「騎士らしからぬ呪具といい、凄まじい数のガルムの死体といい……。お主も複雑そうよのぉ。それで? ルイスは騎士団に残っておるのか?」
「何も知らねぇのか? 騎士団は壊滅した。ルイスなら今はエロラフの外れの山に鍛冶場を設けてる。今度会ったら師匠に会ったと伝えておくさ」
「エロラフじゃと!?」

 エロラフとはマルタから南東に位置する、危険な魔獣がひしめく山脈を越えた先にある街。良質な鉄が採掘出来ると云われてはいるが……

 常人が辿り着くなど、まず不可能な場所だ。

「何故わざわざそんな辺境の地に? それならばマルタへ戻ってくればいいものを……」
「まあ……そうもいかねぇ理由があんだ。色々と落ち着いたら会いに来るだろうさ」
「むぅ、ルイスが呪具を打ったとなると余程の事情なのだろうな」
「ところで呪具ってのはなんなんだ? ルイスが説明してたんだが、正直ちゃんと聞いてなくてな」
「呪具とは魔素によって強度が格段に上がった武具じゃ。特殊な性質を付与することも出来る。降魔は分かるじゃろう?」
「ああ。生物が魔に落ちて変異することだよな? 動物なら魔獣で、人なら降魔だ」
「そうじゃ。まあ簡単に言えば、降魔や魔獣の物質版と言えば分かるかの? 魔素溜りの木や岩などが変質するじゃろ? それを武具に応用したものじゃ。この世界には魔素が漏れ出す場所がある。何故かは知らんが、一年程前から魔素の量が増えたしの」
「おいおい次元崩壊も知らねぇのかよ……。なんか黒い球体が迫って来ただろ?」
「次元……? すまんが興味がないことは覚えられん質でな」

 今から一年程前──

 。世界的にも混乱は生じたのだが、マルタは数少ない被害のなかった場所。気にしない者がいても不思議ではない。

「……あんたとは気が合いそうだぜ。それで? 結局呪具ってのはどう鍛えんだ?」
「魔獣の血を使うんじゃよ。出来上がった武具を魔獣の血に浸すんじゃ。そうすれば魔素によって武具は呪具となる。呪具となった武具は呪具でしか鍛え直せん。まあ魔女や魔人であれば己の魔素を使って呪具を鍛えることも出来るだろうが……魔女や魔人の鍛冶師など聞いたこともないわ」
「まあ魔女だってんなら目立つ行動はしねぇだろうしな。んで? 呪具を持ってる鍛冶師なら誰でも鍛え直せんのかい?」

 「いやいやそんなわけなかろう」と、バランガが大きく手を振る。どうもバランガは動作が大きく、豪快な性格が現れている。

「呪具を使うものは呪具に使われる。使ってるうちに取り憑かれて狂っちまうのさ。下手したら命を喰われておっ死ぬか……降魔になっちまう」
「おいおい……じゃあなんでおめぇは無事なんだ? 弟子だってそうだろ? ルイスに関しちゃあ……ってこれは本人から聞いた方がいいか」
「ルイスがどうかしたのか?」
「いや、勝手に話すのもあれだからよ。本人から聞いてくれ」

 そう言ってノヒンがバツが悪そうに頭を搔く。

「んで? なんでバランガ達は無事なんだ?」
「本来の鍛冶師ならばなんとかなるもんなんじゃ。最近の鍛冶師はなっとらんくての」
「どういう意味だ?」
「鍛冶の神への信仰じゃよ。わしら鍛冶師は三年に一度、鍛冶の神の象徴である円錐形の帽子、武具、金床、金鎚、矢床を火山へと奉納する。それによって鍛冶の神の加護を得るんじゃ。マルタの近くにも火山はあるじゃろ? ルイスが鍛冶場を設けたエロラフにもアルドゥコバという火山があると聞いたことがある」
「そういや昔ルイスも大荷物持って火山に行ってたな」
「まあ加護を得たところで、呪具を鍛えるのに危険は付きものじゃがな。気を抜けば気が狂うか命を喰われることには変わりはない」
「危ねぇ代物なんだな」
「そうなんじゃが、わしら鍛冶師にとって最高の武具を作ることは、なによりも胸が熱くなることじゃからな。わしの弟子もお主の呪具を見て胸を高鳴らせておったぞ。特に鉄甲と刃を擦り合わせることで魔素が結晶化し、固定される造りは素晴らしい」

 バランガが身振り手振りで鉄甲と黒錆の長剣を表現しながら話し、ぬははと笑う。

「ルイスの作った剣はそんなすげぇのか?」
「おお凄いぞ! 魔獣の血に浸し、鍛えを何千回も行ったんじゃろう。正直な話、老いぼれのわしなら死んどる可能性があるじゃろうな。その上で……じゃ。お主が何度も魔獣を葬ったおかげで魔素を吸収し、凄まじい強さの呪具になっておる。お主が魔女の系譜とはいえ……呪具に喰われたりするんじゃないぞ?」
「まあ気を付けるさ。おめぇこそ呪具の打ち過ぎで死ぬんじゃねぇぞ?」
「そうそう呪具は打たんさ。なんせ使えるやつが──」

 ふと、バランガと目が合う。

「いや……そうじゃ! いるじゃないか! 目の前に!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

奴隷勇者の転生物語

KeyBow
ファンタジー
 主人公は異世界召喚直後に奴隷にされた後に命じられて魔王を討伐した。 その時に奴隷から逃れる為に転生術を発動するも、不完全で記憶を無くしての転生になった。  本来ありえない2つのギフトを得られており、同郷の者と冒険者をするも、リーダーがその可能性に気が付き、嫉妬により腐らせた挙げ句に暗殺に失敗する。  そして追放された。  絶望の最中一人の女性と出会い、その後多くの仲間を得る。しかし、初めて彼女ができるも、他の少女を救った事から慕われ、思い悩む事になる。  だが、転生前と違い、追放後はハッピーに生きようとするが、そうは問屋が・・・  次から次に襲ってくる女難?と悪意から乗り切れるか?

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

ゲームのモブに転生したと思ったら、チートスキルガン積みのバグキャラに!? 最強の勇者? 最凶の魔王? こっちは最驚の裸族だ、道を開けろ

阿弥陀乃トンマージ
ファンタジー
 どこにでもいる平凡なサラリーマン「俺」は、長年勤めていたブラック企業をある日突然辞めた。  心は晴れやかだ。なんといってもその日は、昔から遊んでいる本格的ファンタジーRPGシリーズの新作、『レジェンドオブインフィニティ』の発売日であるからだ。  「俺」はゲームをプレイしようとするが、急に頭がふらついてゲーミングチェアから転げ落ちてしまう。目覚めた「俺」は驚く。自室の床ではなく、ゲームの世界の砂浜に倒れ込んでいたからである、全裸で。  「俺」のゲームの世界での快進撃が始まる……のだろうか⁉

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

処理中です...