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後編
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━その後。
私は商会を自国からでも運営できる様にしようと思ったが、バルトロから売ってしまった方がいいと助言されて、経営権を信じられる人に売ることにした。
まあ、その手続きは侯爵邸に帰ってからしたのだけど。
そして、後々使用人一同から聞いた話が━
私が隣国に行っている間に戦争終結の慰労会やら、勲章の授与やらがあったらしく。(まあ、当然なのだが。)そのどれも私が参加しないことに聖女様やナルヴィク殿下もだが、陛下方まで焦ったらしく‥‥段々見ていられない程にアルトゥールが衰弱していく様子を見かねて『とっとと謝り倒してでも連れ戻してこい』と休暇を与えられたそうな。
でも、先程話していた様にバルトロを始めとした使用人一同が私の味方で、誰も私の行き先を教えてくれなかったからなかなか迎えに行けなかったと。
その間にまさかの陛下から私の出国と隣国に向かった形跡の報告を受けたらしいが、闇雲に隣国を探し回る訳にはいかず、やはりバルトロ達を説得する方が早いとひたすらアルはバルトロに頑張って聞き出したそうだ。
**
━来る時と同じ様にあっという間に終わった準備。
早々に転移魔法で侯爵邸に帰ってきた私達を使用人達が大歓迎で迎えてくれた。
その後、聖女様とナルヴィク殿下の婚約パーティーまでの間に先程の話を聞いた。
ちなみに、侯爵邸に帰ったあとは寝室を分けた以外は基本、元通りの生活に戻った。
アルの無実が私の中ではっきりするまでは、油断できないという意思表示である。
━アルがそれに絶望の表情を浮かべていた気がするが、知らんぷりである。
そして、ナルヴィク殿下と聖女様の婚約披露パーティー当日が来た。
アルが騎士の正装を纏うのは分かる。
だが。
「‥‥このドレスはいつの間に用意したのかしら‥‥?」
私のドレスは知らない内に用意されていた。
侯爵邸に帰ってきた時、パーティーまでさほど日にちがなかったため、新しく発注する訳にもいかなかった。
なので、以前、作ったはいいが一度も袖を通してないドレスがあったな。と、それで参加するしかないかな。と私は思っていた。
なのに、私が発注した覚えのないデザインの新しいドレスがしれっと用意されていたのだ。
どういうことだ。
私はじとんとした眼をアルに向けた。
すると、奴はしれっと答えた。
「陛下が融通してやるから、好きなデザインを頼めと仰ってくださったので、甘えさせてもらった。」
「は!?‥‥じゃあ、このドレス‥‥」
「ああ。王家御用達の店で、しかも最高級の素材で作ってくれた。─デザインは私が店の者と相談して作成させてもらった。」
「‥‥確かに、アルが好きそうな雰囲気のドレスよね‥‥これ‥‥」
「ああ。よく似合ってるぞ、エレーナ。─誰にも見せたくない程、綺麗だ‥‥」
「!!!‥‥殿下方のお話を伺うまで信じてあげないから。
‥‥アルを信じられるって思えたら‥‥」
「思えたら?」
「‥‥‥今言ってくれた感想の素直な反応版を返してあげるわ。」
「!!! 分かった!待ってるな。」
めちゃくちゃ嬉しそうな表情に変わった。
そうして、仕方なく馬車に乗りパーティー会場である王城に向かった。
もちろん、奴と2人きりではなくバルトロにも同乗してもらってだが。
招待状を見せて王城内に入ったはいいが、すぐに会場の大広間には通されず、一室に待機させられた。
そして、そこにまさかの王族一家と聖女様がいらっしゃった。
一応、過去に全員王家主催の夜会でご挨拶はさせて頂いたことはある。
なので、慌ててソファーから立ち上がり、臣下の礼をとった。視界の端でアルも礼をとっている。
公の場ではなくとも、陛下のお言葉があって初めて頭を上げ、口を開くことが許されるのである。
「ヴァシーリ侯爵、奥方も。頭を上げてよいぞ。」
「「はい。」」
そうして頭を上げれば、目の前の全員が苦笑いを浮かべていた。
特にナルヴィク殿下と聖女様。━まあ、そうだろうね。とは思うけど。
━そして、なんとも気まずい雰囲気。
かといって、私達から話し掛けてはならない。
王家の誰かが口火を切るしかないのである。
それもあってか、ナルヴィク殿下が陛下に向かって頭を下げた。
「父上。まずは私から2人に話す許可を頂ければと。」
「ああ。もちろんだ。」
「ありがとうございます。」
陛下の御前の為、勝手に話すこともできない。とナルヴィク殿下はきちんと礼を尽くした後、私達に向き直った。
「その‥ヴァシーリ侯爵夫人。まず、私は普段侯爵をアルトゥールと呼び捨てているのだが、この場は同様にしても構わないだろうか?─もちろん、公の場では侯爵と呼んでいるし、これからもそうするつもりだ。」
「ナルヴィク殿下。私の許可などなくともご自由になさってくださいませ。公私混同しないのであれば私が否やを申し上げる訳には参りませんし。」
「そうか。─感謝する。」
そして、そこでようやく一同はソファーにそれぞれ座った。
━ということで、改めて。
私達夫婦とナルヴィク殿下や聖女様の話し合いに陛下夫妻と王太子殿下が同席するという形のため、私達は夫婦で一緒に、ナルヴィク殿下と聖女様が対面に同じく並んで座っている状況だ。
私が殿下と聖女様の様子を窺い始めた時、殿下と聖女様は互いに頷き合い、私達夫婦に揃って頭を下げてきた。
「「迷惑を掛けてしまって申し訳ありません!」」
との謝罪と共に。
もちろん、私達が慌てて頭を上げる様に言うと、おずおずと上げてくださった。━それには安堵した。
が。
「その、夫人には私が不甲斐ないばかりに‥‥」
殿下がまだ申し訳なさを感じていらっしゃるようなので、本心を申し上げた上で改めてお話を伺うことにした。
「ナルヴィク殿下。殿下や聖女様が申し訳なく感じて頂く必要はございませんわ。」
「「え?」」
「ふふっ。─軽く愚痴を聞いて頂けますか?」
「え?─あ、ああ。」
「ありがとうございます。─まず、愚痴るのは我が夫のことですので、身構えずとも大丈夫ですわ。」
その言葉に明らかに安堵した様子の殿下と聖女様。
━隣で『え!?私!?』みたいな表情のアルは気にすることなく、続けた。
「私と夫はお見合いから結婚し、結婚生活も一年程で夫が戦争に向かいましたので、出会ってから2年程しか経っておりませんの。しかも、私達には子がおりません。─その辺りの話をお2人はご存知でしたでしょうか?」
「私は戦争に向かう前にアルトゥールから直接聞いている。」
「私も戦争に向かった時、道中で教えて頂きましたわ。」
「では、聖女様に伺いたいのですが、開戦から終戦のその時まで、夫が私や侯爵家宛に手紙を書くところを見かけましたでしょうか?」
「え?‥‥いえ。私が知る限りでは城等への経過報告書などを書くところしか‥‥」
「ふふっ。─では私の愚痴、お分かりくださいますか?」
「「え?」」
「ちょっと口が悪いですが、ご容赦頂けますと幸いです。」
「あ、ああ。─どうぞ。」
「ふふっ。─『浮気じゃないとか含めて報告の手紙ぐらい送ってきなさいよ!!』─ですわ。」
もちろん文句はアルに向かって言った。
『‥‥‥』
「この最低野郎はこの5年、一度たりとも手紙を寄越さなかったばかりか、何の説明もなしに私といた時間より長い5年の時を待っててもらえてると傲慢で自分勝手な判断をしていたのですわ。むしろ信じられる要素はどこなんだと聞きたいぐらいでしたわ。」
すると、聖女様がぼそっと呟いた。
「私が言えることではないですけど‥‥侯爵様、最低‥‥」
それに殿下も続いた。
「そうだな‥‥─結婚して一年経っても子が生まれないとなると、世の夫人方は焦るものだ。そんな時に戦争に向かった上、聖女との噂。‥‥アルトゥール。どう考えてもお前が悪い。─いや、私の不甲斐なさもあるが、これはな‥‥」
それにまさかの陛下も続いた。
「侯爵。夫人が逃げるのも道理だ。─むしろ潔さすら感じるぞ。自立した素晴らしい女性ではないか。」
続けて妃殿下も━
「そうね。─夫人。侯爵を許したの?」
「いえ。侯爵邸に戻りましたが、許してはいませんわ。
ナルヴィク殿下と聖女様に直接お話をお伺いしたく。─うちの執事がこの夫を疑って殿下や聖女様に夫の話が真実か伺っているというのは本人や夫に聞かされておりますが、私個人として執事はともかく、この夫は信用ならないので、ご迷惑でなければ改めてお2人からお話を伺えればと。」
『‥‥‥』
私以外の全員が苦笑いを━━いや、アルは悲壮感漂わせてる━━浮かべていたが、殿下と聖女様は『迷惑じゃない』と改めてお話くださった。
お2人曰く。
まず、聖女様。お名前はユアナ・リュドミール様。
子爵家の生まれということで、本来はナルヴィク殿下と夜会等でなければ話すことすら叶わないはずなのだが、ナルヴィク殿下が子爵領に視察に訪れた際に意気投合したそうだ。
だが、子爵令嬢ということで、当初はナルヴィク殿下の妃候補にすら上がることがなかったらしい。
そんな時に珍しい治癒・回復魔法を覚醒させた。
その時に一気に妃候補に名を連ね、尚且つ最有力候補にまで躍り出たそうだ。
このままいけばナルヴィク殿下の婚約者はユアナ様に決定となるだろうと。
そんな矢先に西の隣国レヴィタン王国から戦争を仕掛けられたため、その時既に聖女の地位を得ていたユアナ様も戦地に向かうことになってしまった。
そして、戦争が原因でユアナ様はナルヴィク殿下の婚約者候補から外れることになってしまった。
━無事帰ってこれるか分からないからと。
ユアナ様はナルヴィク殿下に『絶対帰ってくるから待っててほしい』とは言えなかったそうだ。
婚約は確定ではなかった上に、ナルヴィク殿下がユアナ様をどう思っているのか分からなかったからと。
だからユアナ様はナルヴィク殿下に何も言えず戦争に向かうことになった。
戦争に勝利したあと、ユアナ様が考えたのはやはりナルヴィク殿下の婚約者問題だった。
『自分が戦争に行ってる間に他の人に決まってしまったかもしれない。』
『そもそも殿下に私への気持ちはあったのだろうか‥‥?』
そんな不安を抱えても、元々子爵令嬢のユアナ様から第二王子であるナルヴィク殿下に婚約の申し込みなどできない。
完全にナルヴィク殿下次第だった。
だから、まずはナルヴィク殿下の気持ちを確認したい。
そう思って協力者を探し始めたところ、身近に英雄となったアルトゥールがいた為、協力を願い出た。
アルトゥールは当初、かなり渋った。
嘘でも浮気となる様なことは‥‥ と。
それを、ユアナ様は『奥様に何か言われたら、私から話しますから!絶対に誤解させたままにはしませんから!』と説得し、渋々ながらもアルトゥールを頷かせたそうだ。
━王都に凱旋した後。
ナルヴィク殿下はまんまと嵌められた様で、ユアナ様に『妻帯者など止めろ!私がいるだろ!?』と言って迫ったらしい。
しかも、ナルヴィク殿下はユアナ様を信じて帰りを待っていて、陛下にも『婚約者はユアナ以外あり得ません!例えユアナが戦死したとしても、他の者と結婚など絶対にしませんから!』と宣言していたらしい。
これを聞いた私は正直、ユアナ様が羨ましかった。
アルはここまでは言ってくれなかったから。
━帰ってきてから今更感しか感じない言葉を羅列されただけだし。
━と、まあナルヴィク殿下とユアナ様が話してくれた。
後半、2人共恥ずかしそうだったけど。
━━さて‥‥どうしようかな‥‥
殿下とユアナ様からお話を伺って、アルが話したことは真実だと分かった。
でも、そもそもの原因はこの最低野郎(アル)な訳で‥‥
そんなことを考えていると、扉をノックする音が鳴った。
陛下が返事を返すと、騎士が『そろそろお時間です。』と。
仕方なく全員が立ち上がる中、アルが私に手を差し出した。
「その‥エレーナが嫌じゃなければ‥‥エスコートさせてくれないか?」
「あら。嫌って言ったら諦めるの?私、帰るわよ?」
『え!?』
王族も含めた私以外、全員の声が被った。
「‥‥いや。諦めない。─頼むから私に挽回の機会をくれ、エレーナ。」
我が国の英雄とは思えないぐらいその表情は弱々しかった。
私は『仕方ないか』とその手に自分の手を重ねた。
すると、アルの表情がみるみる綻んでいった。
分かりやすいその変化に思わずくすりと笑ってしまう。
「!‥やっと笑ってくれた。」
「え?」
「エレーナ。私がエレーナのどこを好きになったか、言ったろ?」
「!!‥‥聞いたわね。」
「やっぱり、エレーナの笑顔は可愛いな。」
「な!?‥‥‥‥とりあえず、ありがとう‥‥」
「!!─ああ。行こう、エレーナ。」
それはもう嬉しそうなアルに私はもう何も言えなかった。
結局、私は今でもアルが好きなのだ。
浮気が嘘で良かったと思ってしまっている。
**
そして、さすがに王族とは別々に会場である大広間に入った私達は‥‥囲まれました。貴族達に。
片や国の英雄。
片や戦後、式典等に出てこなかった英雄の妻。
それは囲まれるだろう。
だが、それも主役の2人が登場するまで。
そう思ってなんとか当たり障りのない様に受け答えしていたのだが、主役の2人が登場して一曲踊り終わった頃にまた囲まれそうになった。
回避できたのは私達も踊りに参加したから。
「‥‥久しぶりのはずよね?」
「ん?もちろん。」
「それにしてはしっかり踊れてるわね?」
「ほんとか!?─良かったぁ~。屋敷に帰ってからエレーナがいない寂しさを紛らわせる意味でも、バルトロに付き合ってもらって練習してたんだよ。」
「は?─なんでバルトロ?」
「ん?他に上級者並みの逸材がいなかったからだが?」
「‥‥なるほど。」
無自覚に徹底しているらしい。
相手役のメイドや講師が女性ならまた浮気を疑い兼ねない。と。
「エレーナ。」
身長差でアルの肩口を見ながら呟く様に返したところで優しい声に名前を呼ばれ、見上げるとまるで愛おしいものを見る様な瞳と穏やかな表情。
「私は例え踊るだけでもエレーナ以外は嫌なんだよ。練習は仕方なくバルトロに頼ったが、本当なら練習もエレーナがよかった。」
「!!‥‥そんなに私がいいの?」
「ああ。全部エレーナじゃないと嫌だ。」
「全部?」
「私の妻、ダンスの相手等々。相手が女性になること全てエレーナがいい。エレーナじゃないと嫌なんだ。」
「!!‥‥‥そ、そう。」
「ああ。」
「‥‥アル。」
「なんだ?」
「今日は‥えらく、その‥‥口説いてくるわね‥‥?」
「それはそうだろ。またエレーナが私から離れないかと不安なんだよ。‥‥エレーナのいない屋敷は寂しかったからな‥‥」
そう言ったアルの表情は本当に寂しそうで。
だから、私は━
そうして答えようとしたところで、一曲終わってしまった。
私達は一礼して輪の中から抜けた。
そこにまた人が集まるが━
「申し訳ないが、妻と少し話ながら休憩したく。しばらく私達のことはそっとしておいてもらえませんか?」
アルの一言に私は彼を見上げた。
アルは私の視線に気付いて笑顔を浮かべた。
なので、私も━
「申し訳ございません。私も久しぶりに社交界に顔を出しましたので、休憩させて頂ければと‥‥」
それでようやく人の波が去り、私達は一緒に庭園に出ることにした。
しばらくアルについていくと、着いた場所は東屋だった。
結構奥まった方に来たので、王家専用の場所ではと焦る。
「勝手にお借りしていいの?」
「ああ。むしろ王家から『話すならここを使え』と許可してくださった。」
「そ、そう‥」
ならいいのかな。 とアルと2人で設置してあったソファーに並んで座る。
すると、早速アルからおずおずと聞かれた。
「さて。‥‥その‥エレーナ?まだ、怒ってる‥‥?」
私は一つため息を吐いたあと、呆れ顔で返した。
「そう見えるのかしら?」
すると、私の表情を観察する様に見たあと呟いた。
「いや、怒ってはいない‥な。」
「ええ。もう怒ってないわ。」
「それならその‥」
アルの様子はというと、私の意思をどう確認したものかと思案している様な感じ。
その様子を見た私は『仕方ないか。』と自ら答えてあげることにした。
「アル。」
「ん?」
「私のこと、まだ好き?」
「!! もちろん!むしろ好きなんて言葉では足りないぐらい愛してる!」
「!!!‥‥ふふっ。ありがとう、アル。」
必死に言葉を返してくれたアルにくすりと笑ってしまったけど、私はそんなアルの頬を両手で包んだ。
「エレーナ‥‥?」
「意地悪してごめんなさい、アル。‥いえ、アルトゥール様。私も変わらずあなたをお慕いしておりますわ。」
そう言って軽くアルに口付けると、数秒後にそれに気付いた様でぼんっと音がしそうなぐらい一気にその顔が赤く染まった。
「え、えええええエレーナ!?」
その反応が可愛く感じてまた軽く笑ってしまう。
「エレーナ‥本当に‥‥?私をまだ好いてくれてる‥‥?」
「ええ。」
にっこりと笑顔で答えると、アルに私の両手をゆっくりとられつつ、恐る恐るという風に軽く口付けられた。
それでも私に嫌がる素振りがないからか、ゆっくり腰を抱かれ、頬にも片手を添えられて再び唇が重なった。
「んっ‥‥」
最初は優しく啄む程度だった口付けが、やがて容赦がなくなっていき、最終的には口内に舌が入ってきて蹂躙され、貪られた。
私も途中からアルの首に腕を回してすがり付いていた。
どれぐらいそうしていたのか‥‥
ゆっくり唇を離した私達は息が上がっていた。
それでもちょっと動けば口付けを再開できるぐらい至近距離のままで‥‥
「‥‥アル。」
「ん‥‥?」
「このドレスこと。─素直な反応の方を答えるわね。」
「!!─ああ。聞かせてくれ。」
「このドレスのデザインを考えてくれたのも、用意してくれたのも含めてね。─ありがとう、アル。綺麗って言ってもらえたのもすごく嬉しかったわ。」
「ああ。私がしたくてしたことだし、エレーナは私にとって誰よりも大切で愛する人だからな。正直、似合い過ぎて私の好みそのままのエレーナは綺麗だし、誰にも見せたくないと思った。でも、そんなエレーナを『綺麗だろ~?』ってみんなに自慢したいとも思っていたんだ。」
信じられるだろうか?この言葉を満面の笑顔で言ってるのよ、いまだに至近距離を保ったままの我が夫は。
そして、至近距離をいいことにまた軽くだが口付けられた。
でも、続ける言葉は不安に染まっていた。
「エレーナ。確認なんだが‥‥その、もう出て行ったりしないよな‥‥?」
その様子に私は再び『仕方ないな』と思いつつ答えた。
「アルが誠実で、尚且つ浮気とかしないならね。」
「!!─浮気は絶対にあり得ない!」
「ふふっ。ならずっと側にいるわ。」
「それは夫婦の関係に戻ってくれると、私との子供を産んでくれるつもりだと思ってもいいってことだよな?─今回の浮気疑惑を許してくれたってことだよな?」
━━必死だわ‥‥
そう思いつつちゃんと言葉で返した。
「ええ。浮気疑惑は殿下方がしっかり説明してくださったしね。子供も後継ぎが必要でしょう?」
「!!!‥‥良かったぁ‥‥!!」
やっと安心できた様で、今度は抱きしめられた。
「絶対離してやらないからな。エレーナは生涯私だけのものだ。絶対誰にもあげないし、手放したりしない。─エレーナ。ずっと私の側にいてもらうからな?もう気付いてるだろうが、私の愛は重いから逃げたくなるかもしれないが、絶対に逃がさないから。」
「ふふっ。英雄から逃げるのは無理かしらね~。」
「!!‥ああ。諦めてずっと私の側にいてくれ。」
「そうね。─アルの腕の中、安心するからずっといるわ。」
「そうか。─ならエレーナからも好きな時に抱きついてきてくれ。私にとっては嬉しさしかないからな。」
「ふふっ。分かったわ。」
そうしてようやく私達は仲直りした。
私は商会を自国からでも運営できる様にしようと思ったが、バルトロから売ってしまった方がいいと助言されて、経営権を信じられる人に売ることにした。
まあ、その手続きは侯爵邸に帰ってからしたのだけど。
そして、後々使用人一同から聞いた話が━
私が隣国に行っている間に戦争終結の慰労会やら、勲章の授与やらがあったらしく。(まあ、当然なのだが。)そのどれも私が参加しないことに聖女様やナルヴィク殿下もだが、陛下方まで焦ったらしく‥‥段々見ていられない程にアルトゥールが衰弱していく様子を見かねて『とっとと謝り倒してでも連れ戻してこい』と休暇を与えられたそうな。
でも、先程話していた様にバルトロを始めとした使用人一同が私の味方で、誰も私の行き先を教えてくれなかったからなかなか迎えに行けなかったと。
その間にまさかの陛下から私の出国と隣国に向かった形跡の報告を受けたらしいが、闇雲に隣国を探し回る訳にはいかず、やはりバルトロ達を説得する方が早いとひたすらアルはバルトロに頑張って聞き出したそうだ。
**
━来る時と同じ様にあっという間に終わった準備。
早々に転移魔法で侯爵邸に帰ってきた私達を使用人達が大歓迎で迎えてくれた。
その後、聖女様とナルヴィク殿下の婚約パーティーまでの間に先程の話を聞いた。
ちなみに、侯爵邸に帰ったあとは寝室を分けた以外は基本、元通りの生活に戻った。
アルの無実が私の中ではっきりするまでは、油断できないという意思表示である。
━アルがそれに絶望の表情を浮かべていた気がするが、知らんぷりである。
そして、ナルヴィク殿下と聖女様の婚約披露パーティー当日が来た。
アルが騎士の正装を纏うのは分かる。
だが。
「‥‥このドレスはいつの間に用意したのかしら‥‥?」
私のドレスは知らない内に用意されていた。
侯爵邸に帰ってきた時、パーティーまでさほど日にちがなかったため、新しく発注する訳にもいかなかった。
なので、以前、作ったはいいが一度も袖を通してないドレスがあったな。と、それで参加するしかないかな。と私は思っていた。
なのに、私が発注した覚えのないデザインの新しいドレスがしれっと用意されていたのだ。
どういうことだ。
私はじとんとした眼をアルに向けた。
すると、奴はしれっと答えた。
「陛下が融通してやるから、好きなデザインを頼めと仰ってくださったので、甘えさせてもらった。」
「は!?‥‥じゃあ、このドレス‥‥」
「ああ。王家御用達の店で、しかも最高級の素材で作ってくれた。─デザインは私が店の者と相談して作成させてもらった。」
「‥‥確かに、アルが好きそうな雰囲気のドレスよね‥‥これ‥‥」
「ああ。よく似合ってるぞ、エレーナ。─誰にも見せたくない程、綺麗だ‥‥」
「!!!‥‥殿下方のお話を伺うまで信じてあげないから。
‥‥アルを信じられるって思えたら‥‥」
「思えたら?」
「‥‥‥今言ってくれた感想の素直な反応版を返してあげるわ。」
「!!! 分かった!待ってるな。」
めちゃくちゃ嬉しそうな表情に変わった。
そうして、仕方なく馬車に乗りパーティー会場である王城に向かった。
もちろん、奴と2人きりではなくバルトロにも同乗してもらってだが。
招待状を見せて王城内に入ったはいいが、すぐに会場の大広間には通されず、一室に待機させられた。
そして、そこにまさかの王族一家と聖女様がいらっしゃった。
一応、過去に全員王家主催の夜会でご挨拶はさせて頂いたことはある。
なので、慌ててソファーから立ち上がり、臣下の礼をとった。視界の端でアルも礼をとっている。
公の場ではなくとも、陛下のお言葉があって初めて頭を上げ、口を開くことが許されるのである。
「ヴァシーリ侯爵、奥方も。頭を上げてよいぞ。」
「「はい。」」
そうして頭を上げれば、目の前の全員が苦笑いを浮かべていた。
特にナルヴィク殿下と聖女様。━まあ、そうだろうね。とは思うけど。
━そして、なんとも気まずい雰囲気。
かといって、私達から話し掛けてはならない。
王家の誰かが口火を切るしかないのである。
それもあってか、ナルヴィク殿下が陛下に向かって頭を下げた。
「父上。まずは私から2人に話す許可を頂ければと。」
「ああ。もちろんだ。」
「ありがとうございます。」
陛下の御前の為、勝手に話すこともできない。とナルヴィク殿下はきちんと礼を尽くした後、私達に向き直った。
「その‥ヴァシーリ侯爵夫人。まず、私は普段侯爵をアルトゥールと呼び捨てているのだが、この場は同様にしても構わないだろうか?─もちろん、公の場では侯爵と呼んでいるし、これからもそうするつもりだ。」
「ナルヴィク殿下。私の許可などなくともご自由になさってくださいませ。公私混同しないのであれば私が否やを申し上げる訳には参りませんし。」
「そうか。─感謝する。」
そして、そこでようやく一同はソファーにそれぞれ座った。
━ということで、改めて。
私達夫婦とナルヴィク殿下や聖女様の話し合いに陛下夫妻と王太子殿下が同席するという形のため、私達は夫婦で一緒に、ナルヴィク殿下と聖女様が対面に同じく並んで座っている状況だ。
私が殿下と聖女様の様子を窺い始めた時、殿下と聖女様は互いに頷き合い、私達夫婦に揃って頭を下げてきた。
「「迷惑を掛けてしまって申し訳ありません!」」
との謝罪と共に。
もちろん、私達が慌てて頭を上げる様に言うと、おずおずと上げてくださった。━それには安堵した。
が。
「その、夫人には私が不甲斐ないばかりに‥‥」
殿下がまだ申し訳なさを感じていらっしゃるようなので、本心を申し上げた上で改めてお話を伺うことにした。
「ナルヴィク殿下。殿下や聖女様が申し訳なく感じて頂く必要はございませんわ。」
「「え?」」
「ふふっ。─軽く愚痴を聞いて頂けますか?」
「え?─あ、ああ。」
「ありがとうございます。─まず、愚痴るのは我が夫のことですので、身構えずとも大丈夫ですわ。」
その言葉に明らかに安堵した様子の殿下と聖女様。
━隣で『え!?私!?』みたいな表情のアルは気にすることなく、続けた。
「私と夫はお見合いから結婚し、結婚生活も一年程で夫が戦争に向かいましたので、出会ってから2年程しか経っておりませんの。しかも、私達には子がおりません。─その辺りの話をお2人はご存知でしたでしょうか?」
「私は戦争に向かう前にアルトゥールから直接聞いている。」
「私も戦争に向かった時、道中で教えて頂きましたわ。」
「では、聖女様に伺いたいのですが、開戦から終戦のその時まで、夫が私や侯爵家宛に手紙を書くところを見かけましたでしょうか?」
「え?‥‥いえ。私が知る限りでは城等への経過報告書などを書くところしか‥‥」
「ふふっ。─では私の愚痴、お分かりくださいますか?」
「「え?」」
「ちょっと口が悪いですが、ご容赦頂けますと幸いです。」
「あ、ああ。─どうぞ。」
「ふふっ。─『浮気じゃないとか含めて報告の手紙ぐらい送ってきなさいよ!!』─ですわ。」
もちろん文句はアルに向かって言った。
『‥‥‥』
「この最低野郎はこの5年、一度たりとも手紙を寄越さなかったばかりか、何の説明もなしに私といた時間より長い5年の時を待っててもらえてると傲慢で自分勝手な判断をしていたのですわ。むしろ信じられる要素はどこなんだと聞きたいぐらいでしたわ。」
すると、聖女様がぼそっと呟いた。
「私が言えることではないですけど‥‥侯爵様、最低‥‥」
それに殿下も続いた。
「そうだな‥‥─結婚して一年経っても子が生まれないとなると、世の夫人方は焦るものだ。そんな時に戦争に向かった上、聖女との噂。‥‥アルトゥール。どう考えてもお前が悪い。─いや、私の不甲斐なさもあるが、これはな‥‥」
それにまさかの陛下も続いた。
「侯爵。夫人が逃げるのも道理だ。─むしろ潔さすら感じるぞ。自立した素晴らしい女性ではないか。」
続けて妃殿下も━
「そうね。─夫人。侯爵を許したの?」
「いえ。侯爵邸に戻りましたが、許してはいませんわ。
ナルヴィク殿下と聖女様に直接お話をお伺いしたく。─うちの執事がこの夫を疑って殿下や聖女様に夫の話が真実か伺っているというのは本人や夫に聞かされておりますが、私個人として執事はともかく、この夫は信用ならないので、ご迷惑でなければ改めてお2人からお話を伺えればと。」
『‥‥‥』
私以外の全員が苦笑いを━━いや、アルは悲壮感漂わせてる━━浮かべていたが、殿下と聖女様は『迷惑じゃない』と改めてお話くださった。
お2人曰く。
まず、聖女様。お名前はユアナ・リュドミール様。
子爵家の生まれということで、本来はナルヴィク殿下と夜会等でなければ話すことすら叶わないはずなのだが、ナルヴィク殿下が子爵領に視察に訪れた際に意気投合したそうだ。
だが、子爵令嬢ということで、当初はナルヴィク殿下の妃候補にすら上がることがなかったらしい。
そんな時に珍しい治癒・回復魔法を覚醒させた。
その時に一気に妃候補に名を連ね、尚且つ最有力候補にまで躍り出たそうだ。
このままいけばナルヴィク殿下の婚約者はユアナ様に決定となるだろうと。
そんな矢先に西の隣国レヴィタン王国から戦争を仕掛けられたため、その時既に聖女の地位を得ていたユアナ様も戦地に向かうことになってしまった。
そして、戦争が原因でユアナ様はナルヴィク殿下の婚約者候補から外れることになってしまった。
━無事帰ってこれるか分からないからと。
ユアナ様はナルヴィク殿下に『絶対帰ってくるから待っててほしい』とは言えなかったそうだ。
婚約は確定ではなかった上に、ナルヴィク殿下がユアナ様をどう思っているのか分からなかったからと。
だからユアナ様はナルヴィク殿下に何も言えず戦争に向かうことになった。
戦争に勝利したあと、ユアナ様が考えたのはやはりナルヴィク殿下の婚約者問題だった。
『自分が戦争に行ってる間に他の人に決まってしまったかもしれない。』
『そもそも殿下に私への気持ちはあったのだろうか‥‥?』
そんな不安を抱えても、元々子爵令嬢のユアナ様から第二王子であるナルヴィク殿下に婚約の申し込みなどできない。
完全にナルヴィク殿下次第だった。
だから、まずはナルヴィク殿下の気持ちを確認したい。
そう思って協力者を探し始めたところ、身近に英雄となったアルトゥールがいた為、協力を願い出た。
アルトゥールは当初、かなり渋った。
嘘でも浮気となる様なことは‥‥ と。
それを、ユアナ様は『奥様に何か言われたら、私から話しますから!絶対に誤解させたままにはしませんから!』と説得し、渋々ながらもアルトゥールを頷かせたそうだ。
━王都に凱旋した後。
ナルヴィク殿下はまんまと嵌められた様で、ユアナ様に『妻帯者など止めろ!私がいるだろ!?』と言って迫ったらしい。
しかも、ナルヴィク殿下はユアナ様を信じて帰りを待っていて、陛下にも『婚約者はユアナ以外あり得ません!例えユアナが戦死したとしても、他の者と結婚など絶対にしませんから!』と宣言していたらしい。
これを聞いた私は正直、ユアナ様が羨ましかった。
アルはここまでは言ってくれなかったから。
━帰ってきてから今更感しか感じない言葉を羅列されただけだし。
━と、まあナルヴィク殿下とユアナ様が話してくれた。
後半、2人共恥ずかしそうだったけど。
━━さて‥‥どうしようかな‥‥
殿下とユアナ様からお話を伺って、アルが話したことは真実だと分かった。
でも、そもそもの原因はこの最低野郎(アル)な訳で‥‥
そんなことを考えていると、扉をノックする音が鳴った。
陛下が返事を返すと、騎士が『そろそろお時間です。』と。
仕方なく全員が立ち上がる中、アルが私に手を差し出した。
「その‥エレーナが嫌じゃなければ‥‥エスコートさせてくれないか?」
「あら。嫌って言ったら諦めるの?私、帰るわよ?」
『え!?』
王族も含めた私以外、全員の声が被った。
「‥‥いや。諦めない。─頼むから私に挽回の機会をくれ、エレーナ。」
我が国の英雄とは思えないぐらいその表情は弱々しかった。
私は『仕方ないか』とその手に自分の手を重ねた。
すると、アルの表情がみるみる綻んでいった。
分かりやすいその変化に思わずくすりと笑ってしまう。
「!‥やっと笑ってくれた。」
「え?」
「エレーナ。私がエレーナのどこを好きになったか、言ったろ?」
「!!‥‥聞いたわね。」
「やっぱり、エレーナの笑顔は可愛いな。」
「な!?‥‥‥‥とりあえず、ありがとう‥‥」
「!!─ああ。行こう、エレーナ。」
それはもう嬉しそうなアルに私はもう何も言えなかった。
結局、私は今でもアルが好きなのだ。
浮気が嘘で良かったと思ってしまっている。
**
そして、さすがに王族とは別々に会場である大広間に入った私達は‥‥囲まれました。貴族達に。
片や国の英雄。
片や戦後、式典等に出てこなかった英雄の妻。
それは囲まれるだろう。
だが、それも主役の2人が登場するまで。
そう思ってなんとか当たり障りのない様に受け答えしていたのだが、主役の2人が登場して一曲踊り終わった頃にまた囲まれそうになった。
回避できたのは私達も踊りに参加したから。
「‥‥久しぶりのはずよね?」
「ん?もちろん。」
「それにしてはしっかり踊れてるわね?」
「ほんとか!?─良かったぁ~。屋敷に帰ってからエレーナがいない寂しさを紛らわせる意味でも、バルトロに付き合ってもらって練習してたんだよ。」
「は?─なんでバルトロ?」
「ん?他に上級者並みの逸材がいなかったからだが?」
「‥‥なるほど。」
無自覚に徹底しているらしい。
相手役のメイドや講師が女性ならまた浮気を疑い兼ねない。と。
「エレーナ。」
身長差でアルの肩口を見ながら呟く様に返したところで優しい声に名前を呼ばれ、見上げるとまるで愛おしいものを見る様な瞳と穏やかな表情。
「私は例え踊るだけでもエレーナ以外は嫌なんだよ。練習は仕方なくバルトロに頼ったが、本当なら練習もエレーナがよかった。」
「!!‥‥そんなに私がいいの?」
「ああ。全部エレーナじゃないと嫌だ。」
「全部?」
「私の妻、ダンスの相手等々。相手が女性になること全てエレーナがいい。エレーナじゃないと嫌なんだ。」
「!!‥‥‥そ、そう。」
「ああ。」
「‥‥アル。」
「なんだ?」
「今日は‥えらく、その‥‥口説いてくるわね‥‥?」
「それはそうだろ。またエレーナが私から離れないかと不安なんだよ。‥‥エレーナのいない屋敷は寂しかったからな‥‥」
そう言ったアルの表情は本当に寂しそうで。
だから、私は━
そうして答えようとしたところで、一曲終わってしまった。
私達は一礼して輪の中から抜けた。
そこにまた人が集まるが━
「申し訳ないが、妻と少し話ながら休憩したく。しばらく私達のことはそっとしておいてもらえませんか?」
アルの一言に私は彼を見上げた。
アルは私の視線に気付いて笑顔を浮かべた。
なので、私も━
「申し訳ございません。私も久しぶりに社交界に顔を出しましたので、休憩させて頂ければと‥‥」
それでようやく人の波が去り、私達は一緒に庭園に出ることにした。
しばらくアルについていくと、着いた場所は東屋だった。
結構奥まった方に来たので、王家専用の場所ではと焦る。
「勝手にお借りしていいの?」
「ああ。むしろ王家から『話すならここを使え』と許可してくださった。」
「そ、そう‥」
ならいいのかな。 とアルと2人で設置してあったソファーに並んで座る。
すると、早速アルからおずおずと聞かれた。
「さて。‥‥その‥エレーナ?まだ、怒ってる‥‥?」
私は一つため息を吐いたあと、呆れ顔で返した。
「そう見えるのかしら?」
すると、私の表情を観察する様に見たあと呟いた。
「いや、怒ってはいない‥な。」
「ええ。もう怒ってないわ。」
「それならその‥」
アルの様子はというと、私の意思をどう確認したものかと思案している様な感じ。
その様子を見た私は『仕方ないか。』と自ら答えてあげることにした。
「アル。」
「ん?」
「私のこと、まだ好き?」
「!! もちろん!むしろ好きなんて言葉では足りないぐらい愛してる!」
「!!!‥‥ふふっ。ありがとう、アル。」
必死に言葉を返してくれたアルにくすりと笑ってしまったけど、私はそんなアルの頬を両手で包んだ。
「エレーナ‥‥?」
「意地悪してごめんなさい、アル。‥いえ、アルトゥール様。私も変わらずあなたをお慕いしておりますわ。」
そう言って軽くアルに口付けると、数秒後にそれに気付いた様でぼんっと音がしそうなぐらい一気にその顔が赤く染まった。
「え、えええええエレーナ!?」
その反応が可愛く感じてまた軽く笑ってしまう。
「エレーナ‥本当に‥‥?私をまだ好いてくれてる‥‥?」
「ええ。」
にっこりと笑顔で答えると、アルに私の両手をゆっくりとられつつ、恐る恐るという風に軽く口付けられた。
それでも私に嫌がる素振りがないからか、ゆっくり腰を抱かれ、頬にも片手を添えられて再び唇が重なった。
「んっ‥‥」
最初は優しく啄む程度だった口付けが、やがて容赦がなくなっていき、最終的には口内に舌が入ってきて蹂躙され、貪られた。
私も途中からアルの首に腕を回してすがり付いていた。
どれぐらいそうしていたのか‥‥
ゆっくり唇を離した私達は息が上がっていた。
それでもちょっと動けば口付けを再開できるぐらい至近距離のままで‥‥
「‥‥アル。」
「ん‥‥?」
「このドレスこと。─素直な反応の方を答えるわね。」
「!!─ああ。聞かせてくれ。」
「このドレスのデザインを考えてくれたのも、用意してくれたのも含めてね。─ありがとう、アル。綺麗って言ってもらえたのもすごく嬉しかったわ。」
「ああ。私がしたくてしたことだし、エレーナは私にとって誰よりも大切で愛する人だからな。正直、似合い過ぎて私の好みそのままのエレーナは綺麗だし、誰にも見せたくないと思った。でも、そんなエレーナを『綺麗だろ~?』ってみんなに自慢したいとも思っていたんだ。」
信じられるだろうか?この言葉を満面の笑顔で言ってるのよ、いまだに至近距離を保ったままの我が夫は。
そして、至近距離をいいことにまた軽くだが口付けられた。
でも、続ける言葉は不安に染まっていた。
「エレーナ。確認なんだが‥‥その、もう出て行ったりしないよな‥‥?」
その様子に私は再び『仕方ないな』と思いつつ答えた。
「アルが誠実で、尚且つ浮気とかしないならね。」
「!!─浮気は絶対にあり得ない!」
「ふふっ。ならずっと側にいるわ。」
「それは夫婦の関係に戻ってくれると、私との子供を産んでくれるつもりだと思ってもいいってことだよな?─今回の浮気疑惑を許してくれたってことだよな?」
━━必死だわ‥‥
そう思いつつちゃんと言葉で返した。
「ええ。浮気疑惑は殿下方がしっかり説明してくださったしね。子供も後継ぎが必要でしょう?」
「!!!‥‥良かったぁ‥‥!!」
やっと安心できた様で、今度は抱きしめられた。
「絶対離してやらないからな。エレーナは生涯私だけのものだ。絶対誰にもあげないし、手放したりしない。─エレーナ。ずっと私の側にいてもらうからな?もう気付いてるだろうが、私の愛は重いから逃げたくなるかもしれないが、絶対に逃がさないから。」
「ふふっ。英雄から逃げるのは無理かしらね~。」
「!!‥ああ。諦めてずっと私の側にいてくれ。」
「そうね。─アルの腕の中、安心するからずっといるわ。」
「そうか。─ならエレーナからも好きな時に抱きついてきてくれ。私にとっては嬉しさしかないからな。」
「ふふっ。分かったわ。」
そうしてようやく私達は仲直りした。
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