番って10年目

アキアカネ

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「びっくり、した……」

 俺は思わず呟いた。
 思っていた返事と全く違う言葉に理解が追いつかない。
 あんまり大きな声を出さないヒデの珍しい声に、涙も何もかも引っ込んでしまった。

「びっくりしたのはこっちだよ! 渚、とりあえず一回落ち着いて、ね?」

「っ、俺は落ち着いてるもん! 今だって思いつきじゃないっ」

 つい上ずった声で反論してしまう。
 またなだめられて、有耶無耶にされたら困るのだ。
 そう思うとここで止まっちゃいけないと気持ちが焦る。

「ずっと考えてたもん……」

「渚、その……ごめんね」

 お互い少しの沈黙の後、ヒデから小さい声で謝られた。

 分かってた。分かってたけど、ヒデの口から聞くともうどうしようもなくて。
 本格的に涙が舞い戻ってくる。
 耳を塞ぐ代わりに、目をぎゅっとつぶった。

「あっ、ナギっ、ちがっ!」

 いつになく慌てた声に、恐る恐る目を開けるとヒデが意味もなく手を上下に動かしていた。

「違うってどういうこと」

「それは……」

「やっぱりっ!」

「だからっ……本当はもっと格好つけたかったんだけど」

 よくみるとヒデも不安な顔をしている。
 なんでだろう。

「最後まで聞いてほしいんだけど」

「聞けるか分かんない……」

「そこは、聞いてほしいな」

 ヒデは苦笑してるけど、ズタボロに言われたら最後までなんて聞けないよ。
 がんばるけど。

「渚、好きだよ」

 俺の大好きな顔で大好きな声でそんなこと言われたら。

「誤魔化されないからね!」

「ご、誤魔化すとかじゃなくて! 好きだってことは信じてよ」

「うん……」

「よかった。それで、ナギのこと好きだから、別れたくないので……その、別れるの考え直してほしいです」

 突然敬語になるヒデから緊張感が伝わってくる。

「けどっ、別れたいのはそっちでしょ!」

「別れたいなんて言ったことないよ!」

 今日は珍しいことばっかり。
 ヒデが俺に怒鳴るように大声を出すなんて、なかったから。

「別れたくないし、ナギと結婚したいって思ってるよ」

 え?
 今なんて言った?

「待って! いま、今なんてっ」

「ナギと結婚したい」

「ほんと……?」

 ヒデからずっと聞きたかった言葉。
 信じられない。幻聴じゃないよね?
 嬉しさと不安が入り混じりながら、俺はもう一度聞き返していた。
 だって、信じられないもん。

「本当だよ」

「じゃあ、なんで、今まで」

「えっと、恥ずかしいんだけど、プロポーズのタイミングが掴めなくて……」

 さっきの勢いはどこへ行ったのか、ヒデはボソボソと恥ずかしそうに続ける。
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