番って10年目

アキアカネ

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「結婚したいよ……あらためて言うと照れちゃうね」

 ヒデは照れ臭そうに笑っていた。

 俺はヒデの次の言葉を待っていた。
 待っているのに、ヒデは笑うだけだった。

「え?」

「うん? ナギどうかした?」

「えっと?」

「ん?」

 終わり?

 俺は結婚したい。
 ヒデも結婚願望あり。
 ということが分かったこの流れで、なにもないのか?

「……周りも結婚してきたし? 俺もそろそろ結婚したいかなって!」

 ここまで言ったらどうだ。さすがに分かるよね。

 俺と結婚する気があるかくらい教えてよ。
 ヒデが待っててっていうなら、今じゃなくても俺ちゃんと待ってるから!
 あんまり待ちたくないから早くしてほしいけど頑張るから!

 でも、ヒデからの返事は期待に添えるものじゃなかった。

「そうなんだね!」

 それはどういう意味?
 遠回しに、俺とは結婚するつもりがないってこと?

 悪意0%で俺を見ているヒデに、もう降参だ。
 やっぱり俺はヒデと結婚できないみたい。

 俺のなにが悪かったんだろう。

「……やっぱり俺じゃダメなんだね」

「渚?」

「俺と番になっちゃったから、その……わ、別れられなかったんでしょ」

 もう俺の情緒はぐっちゃぐちゃ。
 泣きそうにもなってるし、こんなの面倒くさいに決まってる。
 だけど、最後かもしれないと思うと、口が止まらない。

「ちょっと、渚っ」

「だってそうじゃん! 一緒に暮らしたいって言っても誤魔化すし、今も結婚の話したら流そうとするし。最近なんてキスもだし、その、エッチも、手繋ぐのさえ全然してくれないじゃん……飽きたんなら、っ、そう言ってよ!」

 滲んだ視界がバレたくなくて、ヒデから顔を背けて言ってやった。
 見えないところでヒデが息を飲んだように感じる。

 さようなら俺の10年。
 仮にヒデが愛想を尽かしていなかったとしても、こんなことを言うΩなんて嫌だろう。

 一緒に暮らしたいのも寂しかっただけ。
 結婚したいのも不安になっただけ。
 キスもエッチも愛情表現が欲しかっただけ。

 たったその『だけ』が積み重なってしまっただけで、耐えられなくなってしまっていた。
 例えヒデに触れられなくても1番近くてヒデに好きでいて貰えたらそれだけでよかったのに。

「別れたいなら……おれのこと好きじゃないなら、言ってよ」

「渚」

 嗚呼、これからフラれちゃうんだ。
 いつもは名前を呼ばれると嬉しいのに、もう何も言わないでほしい。
 あんなに応えて欲しかったのに今は続きが聞きたくない矛盾。

 感情が読めない声の続きを静かに待った。

「なんでそんなことになってるのっ!?」
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