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「誰もいないからゆっくりしていって」
勢いで俺の部屋に連れてきちゃったけど、よく考えたらこれって結構大胆なことしちゃったかも。誰もいない空間で好きな人とふたりっきり。平常心でいようと思ってもうまくいかない。
けどそんなことヒデには気づかれたくない。俺はなんでもないようにローテーブルをすすめて、俺たちは二人で並んでノートを開いた。
「机、狭くてごめんね」
「そんなことないよ」
ヒデは優しいからそう言ってくれるけど、肩がぶつかるくらい近くて身動きもままならない。
いつもは触れるくらい近づくことなんてないから、全然目の前の課題に集中できない。
「分からないところあった?」
手が止まった俺に気がついたヒデが、手元のノートを覗き込むように問いかける。
変態って思われそうだけど、近づく体温も微かなシャンプーの香りも普段は聴こえない吐息も全部に神経が集中してしまう。
今までこんなことなかったのに、ヒデが近くにいるだけで胸が高鳴って仕方がない。
「えっ、と」
「……渚の瞳って茶色いんだね」
鼻先がくっつきそうなくらい顔が近づいて、ヒデがのんきにそんなことを言った。
ヒデの瞳が俺をずっと見ていて、俺もヒデから視線を離さない。
そしてそのまま。
吸い寄せられるように自分の唇を重ねていた。
「っ、ごめんっ」
我に返った瞬間にヒデから距離を取ろうと身を捩ったけど、まるで離れるのを許さないというようにヒデに抱き寄せられた。
「み、水瀬くん!」
「謝らないでよ」
それってどういうこと?
俺、自惚れちゃうよ?
こんな、こんなのハッピーエンドの物語みたいじゃないか。
「あっ」
「渚……?」
ドクンっと身体が熱くなって、息も浅くなっていく。
またヒデに心配をかけているようだけど、俺はこれが何かを知っている。
発情期だ。
「なぎさ?」
俺の様子にヒデも気づいたみたい。
どちらからでもなく、さっきよりも深くて長いキスを送り合う。
その時点で俺の理性はどこかにいってしまったようだった。
ただひたすら、好きと気持ちいいと嬉しいでいっぱいになっていた。
覚えているのは、俺の名前を呼ぶ切羽詰まったヒデの声と。
「噛んで」
と俺が言ったこと。
それからどれくらい時間が経ったのか俺には分からない。
目が覚めたら情事などなかったように身体は綺麗になっていた。ただうなじの噛み跡を除いて。
「水瀬くん?」
「おはよう、渚。身体痛くない?」
ヒデの声はとっても甘い音をしていた。
その声がさっきのことを思い出させて急に恥ずかしくなる。
「だいじょぶ」
「……噛みすぎちゃったよね」
それが何を示しているか分かると心がじんわりと満たされる。
俺は自分のうなじに手を当てて、噛み跡をそっと撫でた。
「ううん、嬉しい」
これが俺とヒデが番になった日。
好きな人と結ばれるとこんなに幸せなんだって分かった日。
どんな世界の運命の番よりも俺が1番幸せだって言って回りたいくらいだった。
勢いで俺の部屋に連れてきちゃったけど、よく考えたらこれって結構大胆なことしちゃったかも。誰もいない空間で好きな人とふたりっきり。平常心でいようと思ってもうまくいかない。
けどそんなことヒデには気づかれたくない。俺はなんでもないようにローテーブルをすすめて、俺たちは二人で並んでノートを開いた。
「机、狭くてごめんね」
「そんなことないよ」
ヒデは優しいからそう言ってくれるけど、肩がぶつかるくらい近くて身動きもままならない。
いつもは触れるくらい近づくことなんてないから、全然目の前の課題に集中できない。
「分からないところあった?」
手が止まった俺に気がついたヒデが、手元のノートを覗き込むように問いかける。
変態って思われそうだけど、近づく体温も微かなシャンプーの香りも普段は聴こえない吐息も全部に神経が集中してしまう。
今までこんなことなかったのに、ヒデが近くにいるだけで胸が高鳴って仕方がない。
「えっ、と」
「……渚の瞳って茶色いんだね」
鼻先がくっつきそうなくらい顔が近づいて、ヒデがのんきにそんなことを言った。
ヒデの瞳が俺をずっと見ていて、俺もヒデから視線を離さない。
そしてそのまま。
吸い寄せられるように自分の唇を重ねていた。
「っ、ごめんっ」
我に返った瞬間にヒデから距離を取ろうと身を捩ったけど、まるで離れるのを許さないというようにヒデに抱き寄せられた。
「み、水瀬くん!」
「謝らないでよ」
それってどういうこと?
俺、自惚れちゃうよ?
こんな、こんなのハッピーエンドの物語みたいじゃないか。
「あっ」
「渚……?」
ドクンっと身体が熱くなって、息も浅くなっていく。
またヒデに心配をかけているようだけど、俺はこれが何かを知っている。
発情期だ。
「なぎさ?」
俺の様子にヒデも気づいたみたい。
どちらからでもなく、さっきよりも深くて長いキスを送り合う。
その時点で俺の理性はどこかにいってしまったようだった。
ただひたすら、好きと気持ちいいと嬉しいでいっぱいになっていた。
覚えているのは、俺の名前を呼ぶ切羽詰まったヒデの声と。
「噛んで」
と俺が言ったこと。
それからどれくらい時間が経ったのか俺には分からない。
目が覚めたら情事などなかったように身体は綺麗になっていた。ただうなじの噛み跡を除いて。
「水瀬くん?」
「おはよう、渚。身体痛くない?」
ヒデの声はとっても甘い音をしていた。
その声がさっきのことを思い出させて急に恥ずかしくなる。
「だいじょぶ」
「……噛みすぎちゃったよね」
それが何を示しているか分かると心がじんわりと満たされる。
俺は自分のうなじに手を当てて、噛み跡をそっと撫でた。
「ううん、嬉しい」
これが俺とヒデが番になった日。
好きな人と結ばれるとこんなに幸せなんだって分かった日。
どんな世界の運命の番よりも俺が1番幸せだって言って回りたいくらいだった。
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