番って10年目

アキアカネ

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 ヒデとの出会いは、高1の春。

 高校に入学してまもなく、俺は抑制剤の副作用で登校途中に体調を崩していた。

「きもちわるいー吐くー」

 よりにもよって駅に戻るにも学校まで行くにも中途半端な場所でうずくまることになり、あらためて自分のバース性に嫌気が刺した。
 俺の初めての発情期は中3で、その頃から色んな抑制剤を試しているけど高校生になったばかりの俺はまだ自分の身体に合った薬を見つけられていない。今回の薬は良さそうだと思った矢先にこのザマだ。

 せめてもと人目につかない路地に入ってはみたが、誰かに見つかるんじゃないかと怖くなる。

 この時の俺は、まだΩの自分と上手に付き合えていない。
 昔に比べるとΩへの差別的な視線は和らいだらしいけど、初めての発情期に遭遇する中学生たちには難しいものがあった。Ωは発情期が始まるし、αも初めてフェロモンを感じとるし、より互いのバース性に敏感になる時期だ。
 あからさまなものじゃなくても、それぞれのバース性で距離をとって過ごした中学時代。Ωのことは腫れ物を扱うようだった。
 それからαが苦手というか、どう接していいか分からないのである。

 こんな状態でもしαに出会ってしまったら、嫌悪の目で見られたら、変な噂でも流されたら。
 考えるだけで吐き気に頭痛が加わってしまう。
 
 しゃがみ込んでどれくらいが経っただろう。
 5分も経っていないかもしれない。それでも俺にとっては途方もない時間だった。
 もういっそ救急車でも呼んでやろうかと思ったそのときだった。

「あのっ」

 頭の上から声が聞こえた。

「大丈夫ですか?」

 恐る恐る顔を上げると、同じ制服を着た男の子が心配そうに俺を見ていた。サラサラの髪のイケメン。なんとなくαっぽいなって。今思えば本能で分かったのかもしれないけど。

 俺は上手く声が出せなくて、だけど、強がることも出来なくて。無言で首を横に振った。

「えっと、あ、とりあえず水飲む?」

 その男の子は慌てた様子で、自分のリュックからペットボトルの水を出してくれた。

「ごめん。昨日買ったやつ入れっぱなしだから冷えてなくて。あ、でも、開けてないやつだから!」

 俺は彼からペットボトルを受け取って水をひと口飲む。その間も彼はリュックの中身を漁っていた。

「んーなんかあったかな。具合悪いときってなにがいる? パンは絶対今じゃないよね」

 さっきまで俺が焦っていたのに、今じゃ全然関係ないこの男のほうが大慌てだ。
 正直、俺の具合は良くなっていないけど、俺よりも必死になっているこの男を見ていたら気持ちが楽になっていた。
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