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「実はさ、結婚することになってさ」
甘ったるいキャラメルラテをぐるぐるかき混ぜながら、友人のルイはそう言った。
同じΩでなにかと長い付き合いになってしまった友人の突然の結婚報告に、顔が引きつるのを感じていた。
「ナギ、聞いてる?」
「……っ、いいなあー!」
「うるさいな」
祝いの言葉より真っ先に羨望の声を上げたのは、この俺、上村渚である。
昼時のお洒落なカフェに相応しくない大声を上げた張本人だ。
俺だって慎ましやかにカフェオレを飲んで、微笑みながら「おめでとう」と言ってやりたかった。
だけど、そう上手くいかないのも仕方がない。俺にも事情ってものがあるのだ。
「俺も結婚したいんだけど!」
そう結婚したいのだ。
「はあ、ナギのとこ番にはなってんだしさ。別に良くない?」
「よくない!」
俺には水瀬正秀という番がいる。
この世界には男女性の他にバース性がある。
そして、異性同性関わらず自由に行われる婚姻関係と、αとΩ間でしか成立しない番関係がある。もちろん配偶者と番が同じ相手の人も多いが、中には別々の相手を作る人もいる。
本能的に番を作るが、好いた相手はβだったり。
結婚相手は優性なαがいいが、性欲処理はΩが良かったり。
理由は様々だ。
それに、結婚は書類での手続きや年齢の問題もあり、若い子たちの意思ですぐに叶うかというと難しいだろう。だけど、番は発情期が来てしまえば双方の同意のみで成立する。双方のというのが本来の形だけど、実際はαの意志で番関係になれる。
俺の場合は、お互いが望んで番になったからいまいちピンとこないけど。
まあそんな感じで、好きな相手だったら番と配偶者どっちにもなりたいっていうのが俺の願い。
「なんで俺は結婚できないんだよ」
やけ酒のようにカフェオレを勢いよく飲むと、ルイの冷ややかな目が刺さる。自分が幸せだからってなんだよ!
「そういう女々しいところがダメなんじゃない?」
「ヒデの前ではこんなじゃないもん!」
「ナギたち番になって長いよね? 何年だっけ?」
「……10年。高校のときからだから」
「そんだけ一緒にいたら、そういう話になったりしなかったの?」
「しなかったの……」
俺とヒデは高校の同級生で、友達から親友そして番へ関係を深めていった。
大きな喧嘩をしたわけでもない。
今だって、仲良くやってると思ってる。
なのに、それ以上の関係にはなれていないのだ。
「やっぱりヒデは俺と番になったのを後悔してるのかな」
「いやいや。あの彼氏くんもナギのこと溺愛してんじゃん」
「ヒデはすっごく優しいから」
「もう本人に聞いちゃいなよ」
「聞いて本当は別れたかったとか言われたらどうするの!」
ヒデは優しくてお人好しだから、情だけで番を続けてくれてるかもと不安になってしまう。
俺たちの始まりは恋人より番が先だったから。
「そのときはウチの旦那に誰か紹介させるよ」
「俺もヒデのこと旦那さんって言いたい~!」
これは俺がヒデと結婚するまでの物語。になってくれないと困るのだ。
甘ったるいキャラメルラテをぐるぐるかき混ぜながら、友人のルイはそう言った。
同じΩでなにかと長い付き合いになってしまった友人の突然の結婚報告に、顔が引きつるのを感じていた。
「ナギ、聞いてる?」
「……っ、いいなあー!」
「うるさいな」
祝いの言葉より真っ先に羨望の声を上げたのは、この俺、上村渚である。
昼時のお洒落なカフェに相応しくない大声を上げた張本人だ。
俺だって慎ましやかにカフェオレを飲んで、微笑みながら「おめでとう」と言ってやりたかった。
だけど、そう上手くいかないのも仕方がない。俺にも事情ってものがあるのだ。
「俺も結婚したいんだけど!」
そう結婚したいのだ。
「はあ、ナギのとこ番にはなってんだしさ。別に良くない?」
「よくない!」
俺には水瀬正秀という番がいる。
この世界には男女性の他にバース性がある。
そして、異性同性関わらず自由に行われる婚姻関係と、αとΩ間でしか成立しない番関係がある。もちろん配偶者と番が同じ相手の人も多いが、中には別々の相手を作る人もいる。
本能的に番を作るが、好いた相手はβだったり。
結婚相手は優性なαがいいが、性欲処理はΩが良かったり。
理由は様々だ。
それに、結婚は書類での手続きや年齢の問題もあり、若い子たちの意思ですぐに叶うかというと難しいだろう。だけど、番は発情期が来てしまえば双方の同意のみで成立する。双方のというのが本来の形だけど、実際はαの意志で番関係になれる。
俺の場合は、お互いが望んで番になったからいまいちピンとこないけど。
まあそんな感じで、好きな相手だったら番と配偶者どっちにもなりたいっていうのが俺の願い。
「なんで俺は結婚できないんだよ」
やけ酒のようにカフェオレを勢いよく飲むと、ルイの冷ややかな目が刺さる。自分が幸せだからってなんだよ!
「そういう女々しいところがダメなんじゃない?」
「ヒデの前ではこんなじゃないもん!」
「ナギたち番になって長いよね? 何年だっけ?」
「……10年。高校のときからだから」
「そんだけ一緒にいたら、そういう話になったりしなかったの?」
「しなかったの……」
俺とヒデは高校の同級生で、友達から親友そして番へ関係を深めていった。
大きな喧嘩をしたわけでもない。
今だって、仲良くやってると思ってる。
なのに、それ以上の関係にはなれていないのだ。
「やっぱりヒデは俺と番になったのを後悔してるのかな」
「いやいや。あの彼氏くんもナギのこと溺愛してんじゃん」
「ヒデはすっごく優しいから」
「もう本人に聞いちゃいなよ」
「聞いて本当は別れたかったとか言われたらどうするの!」
ヒデは優しくてお人好しだから、情だけで番を続けてくれてるかもと不安になってしまう。
俺たちの始まりは恋人より番が先だったから。
「そのときはウチの旦那に誰か紹介させるよ」
「俺もヒデのこと旦那さんって言いたい~!」
これは俺がヒデと結婚するまでの物語。になってくれないと困るのだ。
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