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断ち切れぬ想い
嘘と真実【三人称/リナリア視点】
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【貴族令嬢の身勝手な愛憎劇!】
優秀な魔術師を排出する名家であり旧家でもあるクライネルト宅で白昼堂々の惨劇が起きた。
危険な黒呪術を使用して恋敵を殺害しようとしたフロイデンタール侯爵令嬢。
そして愛する女性と幼い息子を毒牙から守るために身を挺したクライネルト家の子息。
一時期、この2人の婚約話が上流階級向け雑誌に持ち上がっていたが、それは真っ赤なウソだったことが判明。フロイデンタール家が買収して事実無根の記事を発表させたのだという。
縁談を断られ、それでも諦めの悪い令嬢が自分の欲を叶えるために権力を行使したのだ。
愛憎が渦巻くこの事件についてきな臭いものを感じた筆者は更に掘り下げるために彼らの同級生だという人物たちに、在学当時の彼らについて尋ねて歩いた。
──被害者のルーカス・クライネルト氏と、一緒にいたリナリア・ブルーム嬢、そして凶行を起こしたドロテア・フロイデンタール侯爵令嬢についてお聞きしてもいいですか?
『俺は平民が集まる一般塔出身で、彼らと親しい間柄というわけじゃなく、クライネルト君とブルームさんのことを遠くから見ることが多かったです。……あのふたりはお似合いの美男美女で仲睦まじく、将来を誓い合っているようでした。それなのにあの侯爵令嬢はクライネルト君にしつこく言い寄り、権力を盾にしてブルームさんを排除しようとしていました』
──例えばどんなふうに?
『特別塔の生徒は侵入禁止の一般塔に入り込んでクライネルト君に付きまとったり、貴族令嬢数名を引き連れてブルームさんをいじめたり…あと有名なのが、魔法魔術戦闘大会という行事ごとで、フロイデンタール嬢が実際にブルームさんを殺害しようとした場面をたくさんの目撃者が見ています。……しかも、大会の規則を複数破って罰則を与えられたそうですけど、あの令嬢、それを家の金でもみ消したとか…』
──なるほど。ちなみに他の人から聞いた情報によると、卒業間近に2人は別れたようだったという話が出てきたのですが、そのことについては?
『ある日を境にふたりが仲違いしたように見えたのは、今思えば……ブルームさんがクライネルト君の子を身ごもったことが理由だと思います。妊娠がバレたら、嫉妬深く苛烈なフロイデンタール嬢に害されることは間違いないでしょうし、仲違いしていると周りに誤解させておいたほうが1番だと判断したのでしょう。命には代えられませんから』
妊娠したリナリア嬢は卒業後行方をくらませた期間があり、その間ずっと大神殿のある旧都の街に身を寄せていたそうだ。安全な場所で、安心して出産できるよう、女神フローラ様と大巫女猊下に見守られる形で、親切な女性の自宅に保護されていたとの確かな証言を複数名から頂いた。
無事出産を終え、子どももある程度育ったので、そろそろ一緒になろうとしたふたりの前に立ちはだかった侯爵令嬢は逆恨みして凶行を起こしたのだ。好きな男に振り向いてもらえないという身勝手な理由から、待ち伏せした上で母子を殺害しようとした。
それを庇ったルーカス氏が一時危篤に陥り、死に瀕したのだ。
通報を受けて駆けつけた役人によって捕らえられた侯爵令嬢は逮捕されるも、自分の罪を認めず、今も意味不明なことを喚いているのだという。
結婚したいと強く望んだ男に対して行った犯罪行為に反省する姿勢もなく、リナリア嬢と幼い赤子に対する殺意を隠さず、心証が悪くなる一方だという。
フロイデンタール侯爵令嬢が使用した魔術は治癒魔法でも、大巫女の聖水でも治せない強力な黒呪術。切り裂かれた場所から出血が止まらず、呪いが身体の奥深くまで進行して心臓の鼓動を止めるという、一度かかったら死を待つしかない恐ろしい術だ。
治すには入手が困難で超高価なドラゴンの妙薬を服用する必要性がある。
そのような恐ろしい術にかかったルーカス氏だったが、とある筋からドラゴンの妙薬を入手して一命をとりとめた。
寝ずに看病し続けたリナリア嬢は彼の生還に喜び、熱い口づけを繰り返し、愛を囁いたのだという……
今回の事件を機に、この黒呪術について危険性を見直す機会ではないかと王国議会で議題に上がった。これまで禁術指定しなかった理由について魔法庁長官は……
_________________
◆◇◆◇◆
民衆向けのゴシップ新聞に今回の事件のことが持ち上がった。
貴族に反発心を持っている記者が書いたのかどうかは不明だが、なかなか大胆な内容で、当時の私達の同級生だという人物の証言を交えた対談記事の載った新聞は即日完売し、重刷したという。
あっという間に世間に知れ渡ることになってしまったのだ。
世間一般に名前が広まって恥ずかしいとかそれ以前に、嘘と真実がぐっちゃぐっちゃになっている情報が知れ渡ってしまったのが衝撃で、私は新聞社に殴り込みに行こうかと思ったくらいだ。
「所々違う! 捏造されてるじゃないの!」
勢い余って新聞を引き裂いた私を誰が注意できるだろうか。
大体誰だ、この身元不詳な同級生って! 変な証言をするな!
そもそも私は愛なんか囁いてない! キスはしたけど、私からじゃないし!
びりびりに破いた新聞を苦笑いしたルーカスが集めている。
あらごめんなさい。ベッドの上を散らかしてしまったわ。
つい怒りが抑えられなくて。
ルーカスはまだ要安静だけど、経過は良好だ。
様子を見にルーカスのお見舞いに来た私は、ベッドサイドにあるテーブルに乗った新聞の見出しを目にして、見覚えのある単語が並んでいるなと思って読んでしまったのだ。
こんないかがわしいものをルーカスが読むなんて思わなかった。
ていうか、新聞社は真っ赤なウソで美化しないでほしい。真実も練り込まれているから余計に始末に負えない。
ルーカスはとある人からドラゴンの妙薬を融通してもらったお陰でここまで回復できた。
マリネッタさんは、ドラゴンの妙薬なんか持ってませんと誤魔化して渋る相手に頭を下げて下げて、息子が死んでしまうと玄関前で涙ながらに懇願して譲ってもらったのだという。
それがなければ間違いなく彼は命を落としていた。
「ドラゴンの妙薬を持つ人が今どきいるなんて驚きだわ」
絶滅危惧種なのに。
私が何気なく呟くと、ルーカスが首を傾げていた。知らないの? と言った反応をされたものだから私は怪訝な顔をしてしまった。
「あの女性だよ。大巫女様の元で会ったあの黒髪の高等魔術師」
「デイジーさん?」
確か彼女はドラゴンを使役しているけど…
だからって妙薬を持っているとかそんな情報流れるものなの?
「有名な人だからリナリアも授業で習っただろう。デイジーはミドルネームで、そっちに慣れ親しんでいるからと普段はそちらを使われているけど、彼女こそフォルクヴァルツの消えた姫君と呼ばれていた人だよ」
「デイジーさんてそんなにすごい人だったの!?」
ルーカスの説明に私は目をひん剥いた。つまり貴族出身ってことじゃない。本人はそんな事、何一つ言っていなかったよ!?
只者じゃないだろうなと思ったけど、結構な有名人だった。
なるほど、だから大巫女様は信頼できる人だと太鼓判を押したのか。
「そっか…今度会う機会があればお礼言わなきゃ。……あなたに傷痕が残らなくてよかった」
特殊な切り裂き呪文によって塞がらなかったルーカスの傷はきれいに治った。流石ドラゴンの妙薬と言ったところか。
あれだけの大きな傷だ。内臓に障害が出てもおかしくなかったけどそれら全てドラゴンの妙薬のお陰で元通りに良くなった。デイジーさんには足を向けて眠れない。
傷跡があったとは思えない綺麗な胸元をじっと観察していると、ルーカスが手を伸ばして私の頬を撫でてきた。なんだろうと思って顔をあげると、目の前が陰った。
それでキスされそうになっているのだと察知した私は顔を背けて拒絶した。
「僕のこと、まだ怖いかな?」
疑問系の言葉に私は答えなかった。
ルーカスは寂しそうに微笑むと、今一度宣言した。
「信じてもらえるよう、努力する」
ルーカスは私の頬から手を離すと、それを私の膝の上においた手に伸ばした。
「リナリア、愛しているよ」
手を持ち上げられたと思ったら指先にキスを落とされた。
それに私の胸が震えた。
じわじわと染み出してきそうな感情に目元が熱くなったけど、それをぐっと堪える。
怖い…?
そうね、たしかに怖い。
私はまたあなたに惹かれそうになっている。
そんな自分が怖い。
あなたは私の心を容易く乱してしまうから。
あれだけ憎いと思っていたくせに、私の心はガラリと方向転換してしまった。
今では彼の瞳を見ると泣きたくなる。
言葉にできない想いがこみ上げてきて、私はなんとも言えない感情に襲われるのだ。
「はぁーな!」
私が俯いていると、空気の入れ替えのために開けられた窓の外からフェリクスがなにかの単語を発している声が聞こえてきた。そちらへ視線を送ると、クライネルト家の立派な中庭でフェリクスを連れたクライネルト夫妻と、車輪付きの椅子に座っているアンゼルムさんがお花に囲まれて楽しそうに笑っていた。
その光景を見ていると、ますます泣きたくなる。
私はどうしたいのだろう。
これからどうしたらいいのだろうか。
彼に見つかってしまってから、私の進むべき方向がまたわからなくなってしまった。
優秀な魔術師を排出する名家であり旧家でもあるクライネルト宅で白昼堂々の惨劇が起きた。
危険な黒呪術を使用して恋敵を殺害しようとしたフロイデンタール侯爵令嬢。
そして愛する女性と幼い息子を毒牙から守るために身を挺したクライネルト家の子息。
一時期、この2人の婚約話が上流階級向け雑誌に持ち上がっていたが、それは真っ赤なウソだったことが判明。フロイデンタール家が買収して事実無根の記事を発表させたのだという。
縁談を断られ、それでも諦めの悪い令嬢が自分の欲を叶えるために権力を行使したのだ。
愛憎が渦巻くこの事件についてきな臭いものを感じた筆者は更に掘り下げるために彼らの同級生だという人物たちに、在学当時の彼らについて尋ねて歩いた。
──被害者のルーカス・クライネルト氏と、一緒にいたリナリア・ブルーム嬢、そして凶行を起こしたドロテア・フロイデンタール侯爵令嬢についてお聞きしてもいいですか?
『俺は平民が集まる一般塔出身で、彼らと親しい間柄というわけじゃなく、クライネルト君とブルームさんのことを遠くから見ることが多かったです。……あのふたりはお似合いの美男美女で仲睦まじく、将来を誓い合っているようでした。それなのにあの侯爵令嬢はクライネルト君にしつこく言い寄り、権力を盾にしてブルームさんを排除しようとしていました』
──例えばどんなふうに?
『特別塔の生徒は侵入禁止の一般塔に入り込んでクライネルト君に付きまとったり、貴族令嬢数名を引き連れてブルームさんをいじめたり…あと有名なのが、魔法魔術戦闘大会という行事ごとで、フロイデンタール嬢が実際にブルームさんを殺害しようとした場面をたくさんの目撃者が見ています。……しかも、大会の規則を複数破って罰則を与えられたそうですけど、あの令嬢、それを家の金でもみ消したとか…』
──なるほど。ちなみに他の人から聞いた情報によると、卒業間近に2人は別れたようだったという話が出てきたのですが、そのことについては?
『ある日を境にふたりが仲違いしたように見えたのは、今思えば……ブルームさんがクライネルト君の子を身ごもったことが理由だと思います。妊娠がバレたら、嫉妬深く苛烈なフロイデンタール嬢に害されることは間違いないでしょうし、仲違いしていると周りに誤解させておいたほうが1番だと判断したのでしょう。命には代えられませんから』
妊娠したリナリア嬢は卒業後行方をくらませた期間があり、その間ずっと大神殿のある旧都の街に身を寄せていたそうだ。安全な場所で、安心して出産できるよう、女神フローラ様と大巫女猊下に見守られる形で、親切な女性の自宅に保護されていたとの確かな証言を複数名から頂いた。
無事出産を終え、子どももある程度育ったので、そろそろ一緒になろうとしたふたりの前に立ちはだかった侯爵令嬢は逆恨みして凶行を起こしたのだ。好きな男に振り向いてもらえないという身勝手な理由から、待ち伏せした上で母子を殺害しようとした。
それを庇ったルーカス氏が一時危篤に陥り、死に瀕したのだ。
通報を受けて駆けつけた役人によって捕らえられた侯爵令嬢は逮捕されるも、自分の罪を認めず、今も意味不明なことを喚いているのだという。
結婚したいと強く望んだ男に対して行った犯罪行為に反省する姿勢もなく、リナリア嬢と幼い赤子に対する殺意を隠さず、心証が悪くなる一方だという。
フロイデンタール侯爵令嬢が使用した魔術は治癒魔法でも、大巫女の聖水でも治せない強力な黒呪術。切り裂かれた場所から出血が止まらず、呪いが身体の奥深くまで進行して心臓の鼓動を止めるという、一度かかったら死を待つしかない恐ろしい術だ。
治すには入手が困難で超高価なドラゴンの妙薬を服用する必要性がある。
そのような恐ろしい術にかかったルーカス氏だったが、とある筋からドラゴンの妙薬を入手して一命をとりとめた。
寝ずに看病し続けたリナリア嬢は彼の生還に喜び、熱い口づけを繰り返し、愛を囁いたのだという……
今回の事件を機に、この黒呪術について危険性を見直す機会ではないかと王国議会で議題に上がった。これまで禁術指定しなかった理由について魔法庁長官は……
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◆◇◆◇◆
民衆向けのゴシップ新聞に今回の事件のことが持ち上がった。
貴族に反発心を持っている記者が書いたのかどうかは不明だが、なかなか大胆な内容で、当時の私達の同級生だという人物の証言を交えた対談記事の載った新聞は即日完売し、重刷したという。
あっという間に世間に知れ渡ることになってしまったのだ。
世間一般に名前が広まって恥ずかしいとかそれ以前に、嘘と真実がぐっちゃぐっちゃになっている情報が知れ渡ってしまったのが衝撃で、私は新聞社に殴り込みに行こうかと思ったくらいだ。
「所々違う! 捏造されてるじゃないの!」
勢い余って新聞を引き裂いた私を誰が注意できるだろうか。
大体誰だ、この身元不詳な同級生って! 変な証言をするな!
そもそも私は愛なんか囁いてない! キスはしたけど、私からじゃないし!
びりびりに破いた新聞を苦笑いしたルーカスが集めている。
あらごめんなさい。ベッドの上を散らかしてしまったわ。
つい怒りが抑えられなくて。
ルーカスはまだ要安静だけど、経過は良好だ。
様子を見にルーカスのお見舞いに来た私は、ベッドサイドにあるテーブルに乗った新聞の見出しを目にして、見覚えのある単語が並んでいるなと思って読んでしまったのだ。
こんないかがわしいものをルーカスが読むなんて思わなかった。
ていうか、新聞社は真っ赤なウソで美化しないでほしい。真実も練り込まれているから余計に始末に負えない。
ルーカスはとある人からドラゴンの妙薬を融通してもらったお陰でここまで回復できた。
マリネッタさんは、ドラゴンの妙薬なんか持ってませんと誤魔化して渋る相手に頭を下げて下げて、息子が死んでしまうと玄関前で涙ながらに懇願して譲ってもらったのだという。
それがなければ間違いなく彼は命を落としていた。
「ドラゴンの妙薬を持つ人が今どきいるなんて驚きだわ」
絶滅危惧種なのに。
私が何気なく呟くと、ルーカスが首を傾げていた。知らないの? と言った反応をされたものだから私は怪訝な顔をしてしまった。
「あの女性だよ。大巫女様の元で会ったあの黒髪の高等魔術師」
「デイジーさん?」
確か彼女はドラゴンを使役しているけど…
だからって妙薬を持っているとかそんな情報流れるものなの?
「有名な人だからリナリアも授業で習っただろう。デイジーはミドルネームで、そっちに慣れ親しんでいるからと普段はそちらを使われているけど、彼女こそフォルクヴァルツの消えた姫君と呼ばれていた人だよ」
「デイジーさんてそんなにすごい人だったの!?」
ルーカスの説明に私は目をひん剥いた。つまり貴族出身ってことじゃない。本人はそんな事、何一つ言っていなかったよ!?
只者じゃないだろうなと思ったけど、結構な有名人だった。
なるほど、だから大巫女様は信頼できる人だと太鼓判を押したのか。
「そっか…今度会う機会があればお礼言わなきゃ。……あなたに傷痕が残らなくてよかった」
特殊な切り裂き呪文によって塞がらなかったルーカスの傷はきれいに治った。流石ドラゴンの妙薬と言ったところか。
あれだけの大きな傷だ。内臓に障害が出てもおかしくなかったけどそれら全てドラゴンの妙薬のお陰で元通りに良くなった。デイジーさんには足を向けて眠れない。
傷跡があったとは思えない綺麗な胸元をじっと観察していると、ルーカスが手を伸ばして私の頬を撫でてきた。なんだろうと思って顔をあげると、目の前が陰った。
それでキスされそうになっているのだと察知した私は顔を背けて拒絶した。
「僕のこと、まだ怖いかな?」
疑問系の言葉に私は答えなかった。
ルーカスは寂しそうに微笑むと、今一度宣言した。
「信じてもらえるよう、努力する」
ルーカスは私の頬から手を離すと、それを私の膝の上においた手に伸ばした。
「リナリア、愛しているよ」
手を持ち上げられたと思ったら指先にキスを落とされた。
それに私の胸が震えた。
じわじわと染み出してきそうな感情に目元が熱くなったけど、それをぐっと堪える。
怖い…?
そうね、たしかに怖い。
私はまたあなたに惹かれそうになっている。
そんな自分が怖い。
あなたは私の心を容易く乱してしまうから。
あれだけ憎いと思っていたくせに、私の心はガラリと方向転換してしまった。
今では彼の瞳を見ると泣きたくなる。
言葉にできない想いがこみ上げてきて、私はなんとも言えない感情に襲われるのだ。
「はぁーな!」
私が俯いていると、空気の入れ替えのために開けられた窓の外からフェリクスがなにかの単語を発している声が聞こえてきた。そちらへ視線を送ると、クライネルト家の立派な中庭でフェリクスを連れたクライネルト夫妻と、車輪付きの椅子に座っているアンゼルムさんがお花に囲まれて楽しそうに笑っていた。
その光景を見ていると、ますます泣きたくなる。
私はどうしたいのだろう。
これからどうしたらいいのだろうか。
彼に見つかってしまってから、私の進むべき方向がまたわからなくなってしまった。
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