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乱れる乙女心
新しい街
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私が学校にいる間に新居や新しい商店の環境は整えられた。
今までは終点まで学校の馬車に乗っていたけど、今回からは途中で降りることになる。
これから帰る場所となる土地はモナートと同じ領地内に位置するけど、こちらは更に内陸部になる。魔法魔術省が同じ街にあるためか、モナートよりも人の出入りが多い印象だ。
新しい町は私を出迎えてくれるだろうかとどきどきしながら馬車から降りると、『リナリア!』『おかえりー!』と聞き慣れた出迎えの挨拶が聞こえてきた。
「え……なんで皆ここにいるの!?」
『おかえり! 待ってたんだよ!』
『おかえりー』
モナートで仲良くしていた動物達がなぜか新しい町にいた。
しっぽブンブン振った犬達がじゃれついて来たので相手をしながら困惑する。お別れの挨拶をしたのであれっきりだと思ったのに何故……。
「引っ越しの時に、自分も行くと言わんばかりに荷馬車に乗り込んでたのよ。下ろしても諦めずに乗り込もうとするから、仕方ないから連れてきてあげたわ」
「お母さん」
「休みの間だけだとしてもリナリアの側にいたかったんでしょうね。お母さんはこの子達の言葉はわからないけど、リナリアを慕う気持ちは伝わってきたわ」
私と仲良しの犬猫たちは引っ越しの日にさりげなく馬車に乗り込み、鳥達は馬車を追って飛行してついて来たのだという。
「お父さんもね、リナリアの大切な友達だからって新しいお家の隣に動物用の出入り自由な小屋を設けてくれたのよ」
つまり彼らは雨風凌げる宿を手に入れたというわけらしい。
最初は両親が手分けして動物達のお世話をしてくれていたそうだけど、今では動物好きな従業員さん達が自主的に面倒見てくれているらしい。
その小屋は一部の従業員のための癒やし空間になってるとかなんとか。
「今ではみんな周辺の警備をしてくれていて心強いわ」
「みんな……」
新しい町に行くのは正直不安だったけど、彼らがいてくれるなら心強い。
近くにいた子を抱きしめると、頬をぺろぺろ舐められた。
「お父さんは取引相手とのお話が長引いてお迎えに来れなかったけど、リナリアの帰りを今か今かと待ちわびているわ。帰りましょう、新しいお家へ」
「うん」
動物達を引き連れながらお母さんと並んで歩いて帰る初めての道。お母さんは私がいなかった間の話をしてくれた。
私が学校に戻った後すぐに移転先候補を調べはじめ、最初はこの領地を離れることも考えたそうだ。
しかし魔法魔術省の顔見知りがいる範囲内がいいだろうと思い直したお父さんは、この近辺に空物件はないかと探しはじめた。
運がいいのか、たまたまなのか。廃業して使われていないちょうどいい広さの跡地が見つかったのだという。持ち主も土地を持て余したようで、すぐに取引成立した。大工さんを手配して古い建物を綺麗に建て替えしてもらい、その近くに新しいお家を設けたそうだ。
移転先でも取引を続けてくれるお客さんたちは沢山いるし、ここまで着いてきてくれた従業員達もいる。新しい土地へ引っ越して来たことで新たな取引先との出会いもあり、徐々に以前の活気を取り戻したのだという。
「魔法魔術省も近くなったし、こっちのほうが魔術師に理解があるはずだ。リナリアも過ごしやすいだろうってお父さんはこの場所に決めたのですって」
魔法魔術省のお膝元であるこの街には魔術師も多く住んでいるそうだ。だから私だけが目立つこともないし、魔術師に対する偏見もそう厳しくないだろうという。
私のために住みやすい環境を整えてくれたというわけだ。
息を吸い込むと、私は目を閉じた。
潮風の匂いはしない。あの香りを感じながら育った港町ではない。毎日見ていた海はもう遠い。
私達のことを知らない人の多い新しい街。
ここが私の帰る場所になるんだ。
◇◆◇
「そこのお嬢さん、ブルームさんのところのお嬢さん」
ただ、私の身に危険なことがあったこともあり、両親はまだまだ過敏に警戒していた。心配する彼らが着けた護衛さんを後ろに引き連れて街中を探索していると、見知らぬ婦人に声をかけられた。
私は不思議に思いながら、首を傾げる。
「あなた、魔法魔術学校の学生さんなんですってね。それも動物達の怪我を治して回っているって聞くわ」
「あ、えっと……」
今までの癖が抜けなくて、この土地に住んでいる動物達の不調を見つけては治癒魔法をかけていたのだが、それを見られたらしい。
まずい、自分にも治癒魔法を使用してくれと言われるんじゃと身構えていると、婦人は困った顔をしていた。
「代金は払うから、家の犬のこと診てやってくれないかしら? 少し前からあまり動かなくなったんだけど、最近は食欲もないみたいで……まだまだ年ってわけでもないのに」
この辺には獣医さんがいないそうで、困っていたのだという。
そもそも獣医さんの数自体少ないもんね。お金にならないから目指す人も少ないんだ。
愛犬の元気がないのを放っておけないのだという婦人。飼い犬との意思疎通ができないのでどこが辛いのかもわからずほとほと困り果てているそうだ。
私は返事を保留にして、この事を両親に相談した。
両親からは動物に関する治癒魔法ならと許可を貰っていたけど、お金が発生するとなるなら話は別だからだ。
話し合いの結果、治癒魔法の相場で診てあげることになった。飼い主が正当な報酬を支払う気があるので、こちらもしっかり治療をさせてもらう事にしたのだ。
早速婦人のお宅へ伺い、動かなくなったという番犬に会わせてもらった。立派な犬小屋の中には短毛のスラリとした中型犬がうつ伏せになっていた。飼い主が知らない人を連れて来たとは気づいているようだけど、動くのが億劫なのだろう。ちらりとこちらに目配せするだけだった。
「こんにちは、私はリナリア。あなたの体の調子が悪いと聞いて、診に来たの」
私がそっと話しかけると、彼はしっぽをたしんたしんと地面に打ち付けた。
「全く動かないし、ご飯も食べないんでしょう? どこが痛いか話せる?」
『……痛いんだ』
元気のない彼は覇気のない声で答えてくれた。
「お腹かな? それとも胸?」
『ちがう……足が、足が痛くて歩けないんだ』
彼からの回答に私は少しホッとする。
難しい病気じゃなくて、私にも解決できそうだったからだ。
「ちょっと足触るね。痛い部分はどのへんかな?」
そっと触れると彼はキャン! と吠えた。
「ごめんね、我慢してね」
サワサワと足の先から付け根まで触診する。彼は痛い痛いと訴えるが、原因特定のためなんだ。我慢してくれ。
私は獣医ではないけど、昔から動物たちの怪我や病気を治してきたので、そこそこ知見があるのだ。
「……脱臼してますね」
触診を終えた私はくるりと飼い主の婦人を見上げた。
「ここでは進行の度合いまでは分からないけど、立ち上がるのもつらい位なので、そこそこ悪化してると思います」
「そうだったの……気づかなくてごめんなさいね」
婦人は労るように愛犬の頭をなでていた。
犬にはしばしば見られる関節疾患だ。どんな犬にも起こる可能性がある。痛みで歩くのが億劫になるんだ。放置しておけばどんどん悪化して、歩けなくなる。だからこの子も動かなかった。動かないからお腹もすかない。ごはんを食べなくなる。そして元気を失うのだ。
でもこの病ならいつものおまじないで治せる。
「じゃあ早速治癒魔法かけますね……痛いの痛いの飛んでゆけ」
脱臼している足に手を乗せて、祈りを込める。
私の声に反応して、フワフワと大気中の光の元素たちが集まってくる気配がした。
私からさんざん触診されてぐったりしていた犬だったが、突然ピクッとして飛び上がった。
『あれっ、痛くない!』
さっきまでの鬱々した表情はどこに行ったのだろう。
彼は痛みもなく歩けることに歓喜して、庭中を駆け巡っていた。
「ありがとう、こんなに回復できるとは思わなかったわ」
「どういたしまして」
『なぁリナリア、ご主人にたまには餌を奮発してくれって言ってくれよな!』
婦人とやり取りしていると、ぴょんぴょん跳ねていた犬が訴えてきた。私は苦笑いして彼からの伝言を伝える。
「あと、たまにはご飯を奮発してくれと言ってますね」
犬の本音を又聞きした婦人は目を丸くして、フフッと笑っていた。
「それだけ言えたらもう安心だわ」
喜ぶ犬と、飼い主が安心した姿を見た私は、久々に自分の能力を誇らしく思えた。以前にあんなことがあったから、色々と怖かったけど、この街は私を温かく迎えてくれそうな気がする。
その日の晩、こんな事があったのだと報告したくて、新しい自分の部屋に籠もった私は伝書鳩の術を構築した。
「正当な労働をした対価でお金を頂いたのよ。こんなの初めて! それにね、魔法魔術省が近いからか、居心地がいいのよ。……それでね、ルーカスにお礼がしたいの。怪我もさせちゃったし、慰謝料としてなにかさせて欲しいの。欲しい物があったら言ってね」
宛先はルーカスである。
どうしても彼にこの事を伝えたくて、そして怪我させたことを詫びたくて伝書鳩を飛ばしたのだ。
ワクワクドキドキしながら待っていると、しばし時間を置いて返事がきた。
『お礼をもらうために助けたんじゃないからなにも要らないよ。そのお金はリナリアが欲しい物に使うといい』
うん、ルーカスならそう言うと思った。
ならこっちで勝手に見繕ってお返ししよう。そうでもないとルーカスは何も受け取ってくれないのだもの。
伝え終えて消えてしまった伝書鳩。
何度も聞き返せたらいいのにな。
そしたらルーカスに会えなくても、彼の声が聞ける。近くにいる気分になれたのに。
今までは終点まで学校の馬車に乗っていたけど、今回からは途中で降りることになる。
これから帰る場所となる土地はモナートと同じ領地内に位置するけど、こちらは更に内陸部になる。魔法魔術省が同じ街にあるためか、モナートよりも人の出入りが多い印象だ。
新しい町は私を出迎えてくれるだろうかとどきどきしながら馬車から降りると、『リナリア!』『おかえりー!』と聞き慣れた出迎えの挨拶が聞こえてきた。
「え……なんで皆ここにいるの!?」
『おかえり! 待ってたんだよ!』
『おかえりー』
モナートで仲良くしていた動物達がなぜか新しい町にいた。
しっぽブンブン振った犬達がじゃれついて来たので相手をしながら困惑する。お別れの挨拶をしたのであれっきりだと思ったのに何故……。
「引っ越しの時に、自分も行くと言わんばかりに荷馬車に乗り込んでたのよ。下ろしても諦めずに乗り込もうとするから、仕方ないから連れてきてあげたわ」
「お母さん」
「休みの間だけだとしてもリナリアの側にいたかったんでしょうね。お母さんはこの子達の言葉はわからないけど、リナリアを慕う気持ちは伝わってきたわ」
私と仲良しの犬猫たちは引っ越しの日にさりげなく馬車に乗り込み、鳥達は馬車を追って飛行してついて来たのだという。
「お父さんもね、リナリアの大切な友達だからって新しいお家の隣に動物用の出入り自由な小屋を設けてくれたのよ」
つまり彼らは雨風凌げる宿を手に入れたというわけらしい。
最初は両親が手分けして動物達のお世話をしてくれていたそうだけど、今では動物好きな従業員さん達が自主的に面倒見てくれているらしい。
その小屋は一部の従業員のための癒やし空間になってるとかなんとか。
「今ではみんな周辺の警備をしてくれていて心強いわ」
「みんな……」
新しい町に行くのは正直不安だったけど、彼らがいてくれるなら心強い。
近くにいた子を抱きしめると、頬をぺろぺろ舐められた。
「お父さんは取引相手とのお話が長引いてお迎えに来れなかったけど、リナリアの帰りを今か今かと待ちわびているわ。帰りましょう、新しいお家へ」
「うん」
動物達を引き連れながらお母さんと並んで歩いて帰る初めての道。お母さんは私がいなかった間の話をしてくれた。
私が学校に戻った後すぐに移転先候補を調べはじめ、最初はこの領地を離れることも考えたそうだ。
しかし魔法魔術省の顔見知りがいる範囲内がいいだろうと思い直したお父さんは、この近辺に空物件はないかと探しはじめた。
運がいいのか、たまたまなのか。廃業して使われていないちょうどいい広さの跡地が見つかったのだという。持ち主も土地を持て余したようで、すぐに取引成立した。大工さんを手配して古い建物を綺麗に建て替えしてもらい、その近くに新しいお家を設けたそうだ。
移転先でも取引を続けてくれるお客さんたちは沢山いるし、ここまで着いてきてくれた従業員達もいる。新しい土地へ引っ越して来たことで新たな取引先との出会いもあり、徐々に以前の活気を取り戻したのだという。
「魔法魔術省も近くなったし、こっちのほうが魔術師に理解があるはずだ。リナリアも過ごしやすいだろうってお父さんはこの場所に決めたのですって」
魔法魔術省のお膝元であるこの街には魔術師も多く住んでいるそうだ。だから私だけが目立つこともないし、魔術師に対する偏見もそう厳しくないだろうという。
私のために住みやすい環境を整えてくれたというわけだ。
息を吸い込むと、私は目を閉じた。
潮風の匂いはしない。あの香りを感じながら育った港町ではない。毎日見ていた海はもう遠い。
私達のことを知らない人の多い新しい街。
ここが私の帰る場所になるんだ。
◇◆◇
「そこのお嬢さん、ブルームさんのところのお嬢さん」
ただ、私の身に危険なことがあったこともあり、両親はまだまだ過敏に警戒していた。心配する彼らが着けた護衛さんを後ろに引き連れて街中を探索していると、見知らぬ婦人に声をかけられた。
私は不思議に思いながら、首を傾げる。
「あなた、魔法魔術学校の学生さんなんですってね。それも動物達の怪我を治して回っているって聞くわ」
「あ、えっと……」
今までの癖が抜けなくて、この土地に住んでいる動物達の不調を見つけては治癒魔法をかけていたのだが、それを見られたらしい。
まずい、自分にも治癒魔法を使用してくれと言われるんじゃと身構えていると、婦人は困った顔をしていた。
「代金は払うから、家の犬のこと診てやってくれないかしら? 少し前からあまり動かなくなったんだけど、最近は食欲もないみたいで……まだまだ年ってわけでもないのに」
この辺には獣医さんがいないそうで、困っていたのだという。
そもそも獣医さんの数自体少ないもんね。お金にならないから目指す人も少ないんだ。
愛犬の元気がないのを放っておけないのだという婦人。飼い犬との意思疎通ができないのでどこが辛いのかもわからずほとほと困り果てているそうだ。
私は返事を保留にして、この事を両親に相談した。
両親からは動物に関する治癒魔法ならと許可を貰っていたけど、お金が発生するとなるなら話は別だからだ。
話し合いの結果、治癒魔法の相場で診てあげることになった。飼い主が正当な報酬を支払う気があるので、こちらもしっかり治療をさせてもらう事にしたのだ。
早速婦人のお宅へ伺い、動かなくなったという番犬に会わせてもらった。立派な犬小屋の中には短毛のスラリとした中型犬がうつ伏せになっていた。飼い主が知らない人を連れて来たとは気づいているようだけど、動くのが億劫なのだろう。ちらりとこちらに目配せするだけだった。
「こんにちは、私はリナリア。あなたの体の調子が悪いと聞いて、診に来たの」
私がそっと話しかけると、彼はしっぽをたしんたしんと地面に打ち付けた。
「全く動かないし、ご飯も食べないんでしょう? どこが痛いか話せる?」
『……痛いんだ』
元気のない彼は覇気のない声で答えてくれた。
「お腹かな? それとも胸?」
『ちがう……足が、足が痛くて歩けないんだ』
彼からの回答に私は少しホッとする。
難しい病気じゃなくて、私にも解決できそうだったからだ。
「ちょっと足触るね。痛い部分はどのへんかな?」
そっと触れると彼はキャン! と吠えた。
「ごめんね、我慢してね」
サワサワと足の先から付け根まで触診する。彼は痛い痛いと訴えるが、原因特定のためなんだ。我慢してくれ。
私は獣医ではないけど、昔から動物たちの怪我や病気を治してきたので、そこそこ知見があるのだ。
「……脱臼してますね」
触診を終えた私はくるりと飼い主の婦人を見上げた。
「ここでは進行の度合いまでは分からないけど、立ち上がるのもつらい位なので、そこそこ悪化してると思います」
「そうだったの……気づかなくてごめんなさいね」
婦人は労るように愛犬の頭をなでていた。
犬にはしばしば見られる関節疾患だ。どんな犬にも起こる可能性がある。痛みで歩くのが億劫になるんだ。放置しておけばどんどん悪化して、歩けなくなる。だからこの子も動かなかった。動かないからお腹もすかない。ごはんを食べなくなる。そして元気を失うのだ。
でもこの病ならいつものおまじないで治せる。
「じゃあ早速治癒魔法かけますね……痛いの痛いの飛んでゆけ」
脱臼している足に手を乗せて、祈りを込める。
私の声に反応して、フワフワと大気中の光の元素たちが集まってくる気配がした。
私からさんざん触診されてぐったりしていた犬だったが、突然ピクッとして飛び上がった。
『あれっ、痛くない!』
さっきまでの鬱々した表情はどこに行ったのだろう。
彼は痛みもなく歩けることに歓喜して、庭中を駆け巡っていた。
「ありがとう、こんなに回復できるとは思わなかったわ」
「どういたしまして」
『なぁリナリア、ご主人にたまには餌を奮発してくれって言ってくれよな!』
婦人とやり取りしていると、ぴょんぴょん跳ねていた犬が訴えてきた。私は苦笑いして彼からの伝言を伝える。
「あと、たまにはご飯を奮発してくれと言ってますね」
犬の本音を又聞きした婦人は目を丸くして、フフッと笑っていた。
「それだけ言えたらもう安心だわ」
喜ぶ犬と、飼い主が安心した姿を見た私は、久々に自分の能力を誇らしく思えた。以前にあんなことがあったから、色々と怖かったけど、この街は私を温かく迎えてくれそうな気がする。
その日の晩、こんな事があったのだと報告したくて、新しい自分の部屋に籠もった私は伝書鳩の術を構築した。
「正当な労働をした対価でお金を頂いたのよ。こんなの初めて! それにね、魔法魔術省が近いからか、居心地がいいのよ。……それでね、ルーカスにお礼がしたいの。怪我もさせちゃったし、慰謝料としてなにかさせて欲しいの。欲しい物があったら言ってね」
宛先はルーカスである。
どうしても彼にこの事を伝えたくて、そして怪我させたことを詫びたくて伝書鳩を飛ばしたのだ。
ワクワクドキドキしながら待っていると、しばし時間を置いて返事がきた。
『お礼をもらうために助けたんじゃないからなにも要らないよ。そのお金はリナリアが欲しい物に使うといい』
うん、ルーカスならそう言うと思った。
ならこっちで勝手に見繕ってお返ししよう。そうでもないとルーカスは何も受け取ってくれないのだもの。
伝え終えて消えてしまった伝書鳩。
何度も聞き返せたらいいのにな。
そしたらルーカスに会えなくても、彼の声が聞ける。近くにいる気分になれたのに。
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