リナリアの幻想〜動物の心はわかるけど、君の心はわからない〜

スズキアカネ

文字の大きさ
上 下
48 / 137
この恋に気づいて

格好の獲物らしい私

しおりを挟む
 ルーカスからネックレスを贈られた私はまだ戸惑いの最中にいた。
 デコルテで輝く青い宝石は明かりに照らされてキラキラと輝く。その宝石はまるで彼の瞳の色のようで、変に意識してしまう。

「ダンスは踊れる?」
「わ、私、貴族様にまぎれて踊る自信がないわ」

 何だかいつもの調子がでない。いつもならなにも考えずにぽんぽん言葉が出てくるのに、今は彼の瞳を見るだけで胸が苦しくなる。そのせいで声が上擦ったけど、ルーカスは気にしていないみたいだった。

「隅っこの方なら大丈夫さ。行こう」
「ちょっ…!」

 彼は私の手を取ると、ぐいぐいとダンスフロアにリードして行った。私はいろんな意味で焦って、貴族の人たちに文句を言われるんじゃないかと思っていたけど、実際に踊りはじめたらそんな不安はどこかへ飛んでいってしまった。

 身体を支えられ、音楽に合わせてステップを踏む。相手の足を踏むとかステップの手順を気にする必要もなかった。ルーカスは踊るのがとても上手で、もたつく事なく自然に踊れた。会話がなくても気まずくなんてない。
 先ほどまでの緊張は何処へ。私達は笑い合いながらダンスを踊った。

 まわりに大勢の人がいるのに、この場にはルーカスしかいないみたいだった。ルーカスは私のことをお姫様のように扱うもんだから、本当に自分がお姫様になった気分だった。
 気分が高揚して、見えるものすべてがキラキラ輝いて見えた。きっとそれはルーカスがいるからだ。

 曲が終わるとルーカスはダンスを止め、私の手を取ってどこかへ誘導しはじめた。ダンスはこれでおしまいだろうか。なんだか寂しい。もっと踊りたいと物足りない気持ちになるのは私だけだろうか。
 私たちはどのくらい踊ったのだろう。ダンスフロアから離れた途端どっと疲れが押し寄せてきた。

 気のせいだろうか──なんだか、視線を感じる。

 やっぱり平民がダンスフロアで踊っちゃいけなかったんじゃ……とちらりと周りをみると、私はぎょっとした。
 私達を見てくる人は貴族平民関係なかった。めちゃくちゃ注目を浴びている。

 その中に鋭い視線が含まれている。……知らない貴族のお姫様達に睨まれているような気がする。一部、知っているお姫様の視線も含まれていたけど。

 今夜のパーティーのために着飾ったであろう黒髪の彼女の視線が一際鋭かった。
 嫉妬に濡れた焦げ茶の瞳はまっすぐに私に注がれていた。彼女の視線に私がぎくりとしていると、ヌッと人影が視界を遮った。

「お次は私と踊ってくれないか?」

 私に向けて手を差し出してきたのは、さっきの特別塔所属のお貴族様だ。
 え、なんで私をダンスに誘ってるの…? 手を取るべきなんだろうかと私が困惑していると、彼の手をルーカスがパシリと叩き落としていた。

「お断りします」
「何故、クライネルト君が断るんだい? 私はそちらの美しいお嬢さんをお誘いしてるのだけど」

 ルーカスは私と貴族子息を引き離すように間に割って入ると、相手を牽制するように睨みつけていた。

「リナリア、僕は彼と話をするから、ヘルマンさんたちの元へ行くんだ。絶対に彼女たちから離れるな」
「う、うん」

 ぐるりと会場を見渡せば、隅の方にイルゼとニーナの姿があった。
 急かされる形で追い払われた私は、ドレスの裾を踏まない様に気をつけながら友人たちの元へ駆け寄ったのだが……私を出迎えたイルゼは妙にニヤニヤしていた。通常通りのニーナとの対比がすごい。

「お邪魔かと思って声をかけなかったけど、まさか踊り出すとは思わなかったわ」
「それはルーカスが」

 私から踊りに誘ったんじゃないと言うと、イルゼが「照れるな照れるな」と肘でつついてきた。
 別に照れてなんか……まぁ、ダンスは楽しかったけどさ。

「2人ともとても目立っていたわ。上手に踊れていたから自信持って」

 私が目立つんじゃなくて、ダンス相手がルーカスだから目立っていたんだと思う……
 会場の熱気にやられたのだろうか。妙に顔が熱い。頬の熱を冷まそうと手のひらでパタパタ仰いでいると、イルゼが私の胸元に顔を近づけてきた。
 
「それ、オーダーメイドじゃない?」

 彼女の関心はルーカスがくれたネックレスに移る。つられて私の意識もそちらに向かった。

「えぇ? 高くないってルーカスは言ってたよ」
「クライネルト君の家は庶民とは一線を画すから基準が違うと思うわ」

 オーダーメイドだと金額が膨らむでしょ、とニーナに淡々と返され、もしかしたらそうかもしれないという気持ちにさせられた。い、一体いくらなんだろうこれ。
 だけど本人に金額のことを聞くのは野暮ってものだし、一度受け取ったものを返却するのは失礼に当たるし……どうしたものか。

「君、一般塔の子だよね、名前はなんていうの?」
「……え? えぇと、リナリア・ブルームです」

 考え事をしていたら、また貴族っぽい男性に話し掛けられた。一瞬誰に声をかけているのかわからなくて、両隣にいたイルゼとニーナを見比べたが、ふたりの視線は私に集中している。男性も私を見て尋ねている風だったので恐る恐る名前を名乗ると、相手は微笑んだ。
 な、なんだろう、交流パーティらしく交流しようと歩み寄って来てくれたのだろうか……

「よかったら向こうで」
「彼女になにか御用ですか?」

 しかし彼が次の言葉を紡ぐ前にまたルーカスが間に割って入ってきて妨害してきた。
 私を無視して、貴族様と言葉を交わして追い払うルーカスは……一体何をしているのだろうか。

「余裕ないのね、クライネルト君」

 それをみていたニーナが意味深にフフと笑う。イルゼもそれに同意みたいでしたり顔で頷いている。ルーカスはそれに対して苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

「保護者じゃないんだから、そこまでしなくてもいいのよ」

 心配なのかも知れないけど、ちょっと過敏過ぎると思う。そう思って言うと、ルーカスはますます渋い顔をする。

「君はボーッとしてついていきそうだから、このくらいでちょうどいい」
「そんなことないわ!」

 子どもじゃないんだから、なにも考えずについていくわけがないじゃない。私とあなた、同じ年齢なのに子ども扱いが過ぎない?

「前にも言ったけど、平民の魔術師が養子縁組して貴族に嫁ぐこともあるんだ。見目麗しい君は格好の獲物なんだよ」

 見目麗しいルーカスに見目麗しいと言われて私は固まる。そしてじわじわとむずがゆい気持ちに襲われて恥ずかしくなってきた。

「み、見目麗しいってそんな大袈裟な……」

 う、うれしいけど、そんな急に褒められると恥ずかしい。

「大袈裟じゃないよ。それほど貴族間の血の濃さは問題とされている。新しい魔術師の血が必要なんだ。天賦の才能持ちの君の血を取り込みたいという貴族は、探せばいくらでも現れるよ」
「えぇ…」

 単純に私の容姿を褒めてくれただけじゃなかった。今も根深い貴族の魔力至上主義に私が取り込まれてしまうかもしれないことを心配しての発言だったらしい。

「クライネルト君の言ってることは正しいわ。後ろ盾のない平民は利用されやすいのよ。大人しく忠告を聞き入れたほうがいいわ」

 ニーナもルーカスと同意見みたいだ。
 怖いこと言わないで。楽しかった気持ちがしぼんでしまうじゃないの。一緒に話を聞いていたイルゼまでも表情が強張って、私の側を離れないように私の腕にギュッと抱き着いてきた。

 警戒したイルゼとニーナが私の周りを固め、退場の際はルーカスがエスコートしてくれた。ご丁寧に女子寮まで送ってくれて、厳戒体制のまま見送られた。
 さっきまでお姫様気分だったのに、今じゃ要人警護を受けているような心境になってしまった。

 今日は特別塔の生徒たちとの交流パーティーのはずなのに、結局いつも話す親しい友人達と過ごすこととなり、新しい人との交流はあまりできなかった。
 こうして交流パーティは幕を閉じたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

【完結】双子の伯爵令嬢とその許婚たちの物語

ひかり芽衣
恋愛
伯爵令嬢のリリカとキャサリンは二卵性双生児。生まれつき病弱でどんどん母似の美女へ成長するキャサリンを母は溺愛し、そんな母に父は何も言えない……。そんな家庭で育った父似のリリカは、とにかく自分に自信がない。幼い頃からの許婚である伯爵家長男ウィリアムが心の支えだ。しかしある日、ウィリアムに許婚の話をなかったことにして欲しいと言われ…… リリカとキャサリン、ウィリアム、キャサリンの許婚である公爵家次男のスターリン……彼らの物語を一緒に見守って下さると嬉しいです。 ⭐︎2023.4.24完結⭐︎ ※2024.2.8~追加・修正作業のため、2話以降を一旦非公開にしていました。  →2024.3.4再投稿。大幅に追加&修正をしたので、もしよければ読んでみて下さい(^^)

獣人辺境伯と精霊に祝福された王女

緋田鞠
恋愛
第十二王女として生まれたシャーロットは、精霊の祝福を受けていた。 だが、彼女が三歳のある日、精霊の力が暴走した事で、害を与えられないよう、また、与えないように、塔に保護されて暮らす事になる。 それから、十五年。成人を迎えたシャーロットは、成人を祝う夜会で、王国唯一の獣人貴族ヴィンセントに出会い、翌日には、王命で彼の元に嫁ぐ事が決まっていた。 ヴィンセントは何故、「呪われた王女」と呼ばれるシャーロットとの結婚を受け入れたのか。 過去と思惑が入り乱れ、互いの想いを知りえないまま、すれ違っていく…。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

処理中です...