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この恋に気づいて
快眠な私と寝不足な彼
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彼の探るような瞳に私は居心地が悪くなって目を逸らす。私の反応を見たルーカスは眉をひそめて深刻な顔をしていた。
そんな顔をさせてしまうとは思っていなかったので気まずい。別に内緒にしたいとかそういうわけじゃなくて……聞いても楽しい話じゃないから言いにくいだけだ。
三角座りしていた私は膝小僧に載せた両手の指を落ち着かなく動かした。何と言えばいいのか。言ったらきっとルーカスの気分も悪くなりそうなんだよなぁ。
「……僕には言えないことなの?」
「言えないというか、多分不快になると思う」
私と同じ魔力持ちのルーカスはおそらく私側の立場で考えると思うし、私のために怒ることになると思うんだ。
「いいよ、君が嫌じゃないなら話して」
そこまで言われたら、勿体振るのもなんだ。私は長期休み期間中に起きたことをポツポツ話した。
地元に戻ると、家畜を診てくれと町の人に言われて、治癒魔法をかけるようになった。それが人間にむけての治癒魔法にかわり、私は流されるまま見返りもなく無償で使用したこと。
結果、魔力枯渇を起こしてしまい、当初からいい顔していなかった親に人間相手への治癒魔法の使用禁止されたこと。
それでも町の人達は押し掛けてきて、事情を話して断っても圧を掛けてきたこと。
諦めが悪いから対価を求めると守銭奴扱いを受けたこと。
もともと仲良くなかった幼馴染たちに言われたことが心に引っかかっていること。
そして、イルゼのお家の事情を垣間見て、魔力持ちという存在について色々と考えさせられたこと……
「……町の人達はずっと信じてくれなかったのに、今になって頼られると複雑だわ」
不思議な力のことで同級生からは嘘つき呼ばわりされて、私の友達は動物たちだけだった。
一部信じてくれる大人たちはいたけど、その他大勢の人たちには人の気を引きたいから嘘をついているのだと思われていたのを知ってる。
孤独だった幼少期の自分を思い出すと虚しくなるのだ。私を利用する真似して彼らは恥ずかしくないのだろうか。
「前までは家に帰りたいと思っていたのに──早く学校に戻りたいと思えたのは初めてだったの」
私の帰りを待ち望んでくれていた両親に申し訳ないけど、休み明けはとても嬉しかった。
学校に戻れるし、私の能力を利用しようとする人がいない場所に戻れるから。
ルーカスは静かに私の話を聞いていた。たき火の炎を見つめて一言も発することなく、静かに。
胸の内を話したら少しすっきりした。
たき火の炎を見つめていると心が凪いでいく。
瞼が重いなぁ。
炎を眺めていた私はいつの間にかぐっすり眠っていた。あたたかい存在に寄り掛かって、心穏やかに。──夢も見なかった。
『リナリア、朝だよ』
『起きて起きて』
チュンチュンと囀る小鳥達の声に私は目を開いた。木々から漏れる光が眩しくて目を眇めた。ここはどこだろうと寝起きの頭でしばし考え、思い出した私は飛び起きる。
何故なら私はルーカスの肩に寄り掛かって熟睡していたからだ。
ルーカスはやけに疲れた表情でこちらを見ていた。
私ってば、一人だけ爆睡してルーカスに寝ずの番をさせていたんだ!
「……おはよう」
彼から言われた挨拶が心に来る。きっと私のことを怒っているはずだ。自分だけすっきり目覚めていいご身分だなと思っているに違いない!
「ご、ごめん! 重かったよね」
私は地面に頭が付くくらいに頭を下げて謝罪した。
「体調は? 痛い所とか苦しい部分は?」
しかし彼から投げ掛けられた次の言葉は私の体調を心配する言葉だった。
「あ、おかげさまですっかり」
「ならよかった」
私の顔をまじまじ見つめていたルーカスは静かに立ち上がると、天に向かって腕を伸ばして背伸びしていた。きっと私を支えるために身動きが取れなくて身体が固まっているのだろう。重ね重ね申し訳ない。
「私が寝ずの番代わればよかったね。起こしてくれたら良かったのに」
見張りが必要だと言うなら交代したのにどうして起こしてくれなかったんだろう。もしかして私が怪我人だから気遣かってくれたのかな。ありうる。
「いや、そういう問題じゃないから。どっちにしても眠れなかったと思う」
「? あぁ、ルーカスは育ちがいいものね」
きっと純粋培養お坊ちゃまだから、野宿はできないタイプなんだ。それに比べて庶民な私は遭難先でもぐっすり……神経図太くて自分が嫌になるよ。
「そうじゃない……」
ルーカスがため息混じりになにか言っていたけど、どうしたんだろう。睡眠不足で調子が悪いんだろうか。
いつ助けがやって来るかわからないから、とりあえず食料調達に行こうとルーカスが言ったので、「私が探して来る!」と立候補した。
昨日からの無様な自分の名誉を回復するために私がとって来ると名乗りあげると、彼からは「ダメだ。別のところで遭難しかねない」と切り捨てられた。
そんなことないと言い返したいけどできない。辛い。
ここにいろ、絶対に動くなと言われた私は三角座りをしてうなだれながら、ルーカスの戻りを待った。気分はまるで親鳥の給餌を待つひな鳥である。
それからどのくらい経過しただろうか。彼は両手で抱えられるくらいの果物や木の実を持って戻ってきた。そんなのどこで見つけたんだろう。
一般的に流通しないものばかりだったけど、そのどれもおいしかった。木の上で私たちを見ていた小鳥達も好んでよく食べるものらしい。
彼が得意の水の元素の魔法で生成してくれたので水には困らなかった。……本当にルーカスはなんでもできるんだな。遭難したのが私が一人だったら白骨化不可避な気がする。
「ルーカスがいるなら、このまま森で暮らせそうね」
褒め言葉として投げ掛けたのだが、ルーカスは難しい顔で黙り込んでしまった。あ、もしかして私が余りにも脳天気で役立たずだから怒っているのだろうか。それとも眠すぎてイライラしてるとか。
軽く腹ごしらえをした後は特にすることもなく、ぼんやりと過ごした。採集用にナイフとか細々した道具は持っているけど、暇つぶしするものなんかないし、動き回って無駄に体力消耗するのはよくないと私も理解していたのでおとなしく待機していた。
どのくらい遭難することになるのだろう。イルゼもニーナも心配しているだろうなぁとため息を吐き出す。
その時だった。
「……おーい!」
「誰かいないかー!」
「ここにいまぁーす!」
どこからか人の声が聞こえたのは。
素早く反応した私は立ち上がって大声で叫んだ。
『私が呼んで来てあげたのよ、感謝してね』
いつの間にかトリシャが側に寄っていた。彼女の迅速な行動のおかげで思ったよりも早く助けが来たんだ。私は膝を曲げて彼女の前に屈み込むと、感謝の気持ちを込めて彼女の顎を撫でてあげた。
「ありがとうトリシャ」
『ち、ちょっと、私を普通の猫扱いしないで……』
猫扱いするなと言われたけど、トリシャはごろごろ喉を鳴らして気持ち良さそうに目を細めていた。トリシャはどこからどう見ても猫だよ……他の何でもない猫。
「ありがとう助かったよ、トリシャ……思ったよりも探し出すのが早かったな」
『あぁ、それはリナリアのそれのお陰よ』
肉球をピッと私の左胸に向けたトリシャが指したのは、黒曜石のブローチだ。これが捜索の役に立ったというの?
「あぁいたいた。無事でよかった」
「キューネルさん!」
私たちの位置が把握できた捜索隊の人たちが転送術で一斉に飛んできたと思えば、その中に知り合いがいたもんで私は驚きの声をあげた。
「捜索届が出たから何事かと思ったら、遭難者名にリナリア・ブルームが含まれていたから驚いたぜ。それが役に立ってよかったよ」
偶然にも捜索命令を受けたのが、キューネルさん達魔法魔術省の職員達だったのも幸いだった。私にくれたこのブローチで私の大体の位置を探ることができたからすぐに見つかったのだという。
私とルーカスはそのまま保護されて、怪我人の私は浮遊魔法で輸送された。
「彼氏と一緒ならよかったな、寂しくなかったろ?」
「違います! 友達ですよ!」
私を浮かせて運んでいるキューネルさんがそんなことを言うので私は慌てて否定しておいた。
先を行くルーカスは怪我はなく歩けるからと自分の足で山道を進んでいる。今の会話が彼の耳に届いていないことにホッとする。
か、彼氏とか、そんなんじゃないし。
自分で自分に言い聞かせるも、何故か私の頬は熱を持って、なかなか熱が冷めなかった。
そんな顔をさせてしまうとは思っていなかったので気まずい。別に内緒にしたいとかそういうわけじゃなくて……聞いても楽しい話じゃないから言いにくいだけだ。
三角座りしていた私は膝小僧に載せた両手の指を落ち着かなく動かした。何と言えばいいのか。言ったらきっとルーカスの気分も悪くなりそうなんだよなぁ。
「……僕には言えないことなの?」
「言えないというか、多分不快になると思う」
私と同じ魔力持ちのルーカスはおそらく私側の立場で考えると思うし、私のために怒ることになると思うんだ。
「いいよ、君が嫌じゃないなら話して」
そこまで言われたら、勿体振るのもなんだ。私は長期休み期間中に起きたことをポツポツ話した。
地元に戻ると、家畜を診てくれと町の人に言われて、治癒魔法をかけるようになった。それが人間にむけての治癒魔法にかわり、私は流されるまま見返りもなく無償で使用したこと。
結果、魔力枯渇を起こしてしまい、当初からいい顔していなかった親に人間相手への治癒魔法の使用禁止されたこと。
それでも町の人達は押し掛けてきて、事情を話して断っても圧を掛けてきたこと。
諦めが悪いから対価を求めると守銭奴扱いを受けたこと。
もともと仲良くなかった幼馴染たちに言われたことが心に引っかかっていること。
そして、イルゼのお家の事情を垣間見て、魔力持ちという存在について色々と考えさせられたこと……
「……町の人達はずっと信じてくれなかったのに、今になって頼られると複雑だわ」
不思議な力のことで同級生からは嘘つき呼ばわりされて、私の友達は動物たちだけだった。
一部信じてくれる大人たちはいたけど、その他大勢の人たちには人の気を引きたいから嘘をついているのだと思われていたのを知ってる。
孤独だった幼少期の自分を思い出すと虚しくなるのだ。私を利用する真似して彼らは恥ずかしくないのだろうか。
「前までは家に帰りたいと思っていたのに──早く学校に戻りたいと思えたのは初めてだったの」
私の帰りを待ち望んでくれていた両親に申し訳ないけど、休み明けはとても嬉しかった。
学校に戻れるし、私の能力を利用しようとする人がいない場所に戻れるから。
ルーカスは静かに私の話を聞いていた。たき火の炎を見つめて一言も発することなく、静かに。
胸の内を話したら少しすっきりした。
たき火の炎を見つめていると心が凪いでいく。
瞼が重いなぁ。
炎を眺めていた私はいつの間にかぐっすり眠っていた。あたたかい存在に寄り掛かって、心穏やかに。──夢も見なかった。
『リナリア、朝だよ』
『起きて起きて』
チュンチュンと囀る小鳥達の声に私は目を開いた。木々から漏れる光が眩しくて目を眇めた。ここはどこだろうと寝起きの頭でしばし考え、思い出した私は飛び起きる。
何故なら私はルーカスの肩に寄り掛かって熟睡していたからだ。
ルーカスはやけに疲れた表情でこちらを見ていた。
私ってば、一人だけ爆睡してルーカスに寝ずの番をさせていたんだ!
「……おはよう」
彼から言われた挨拶が心に来る。きっと私のことを怒っているはずだ。自分だけすっきり目覚めていいご身分だなと思っているに違いない!
「ご、ごめん! 重かったよね」
私は地面に頭が付くくらいに頭を下げて謝罪した。
「体調は? 痛い所とか苦しい部分は?」
しかし彼から投げ掛けられた次の言葉は私の体調を心配する言葉だった。
「あ、おかげさまですっかり」
「ならよかった」
私の顔をまじまじ見つめていたルーカスは静かに立ち上がると、天に向かって腕を伸ばして背伸びしていた。きっと私を支えるために身動きが取れなくて身体が固まっているのだろう。重ね重ね申し訳ない。
「私が寝ずの番代わればよかったね。起こしてくれたら良かったのに」
見張りが必要だと言うなら交代したのにどうして起こしてくれなかったんだろう。もしかして私が怪我人だから気遣かってくれたのかな。ありうる。
「いや、そういう問題じゃないから。どっちにしても眠れなかったと思う」
「? あぁ、ルーカスは育ちがいいものね」
きっと純粋培養お坊ちゃまだから、野宿はできないタイプなんだ。それに比べて庶民な私は遭難先でもぐっすり……神経図太くて自分が嫌になるよ。
「そうじゃない……」
ルーカスがため息混じりになにか言っていたけど、どうしたんだろう。睡眠不足で調子が悪いんだろうか。
いつ助けがやって来るかわからないから、とりあえず食料調達に行こうとルーカスが言ったので、「私が探して来る!」と立候補した。
昨日からの無様な自分の名誉を回復するために私がとって来ると名乗りあげると、彼からは「ダメだ。別のところで遭難しかねない」と切り捨てられた。
そんなことないと言い返したいけどできない。辛い。
ここにいろ、絶対に動くなと言われた私は三角座りをしてうなだれながら、ルーカスの戻りを待った。気分はまるで親鳥の給餌を待つひな鳥である。
それからどのくらい経過しただろうか。彼は両手で抱えられるくらいの果物や木の実を持って戻ってきた。そんなのどこで見つけたんだろう。
一般的に流通しないものばかりだったけど、そのどれもおいしかった。木の上で私たちを見ていた小鳥達も好んでよく食べるものらしい。
彼が得意の水の元素の魔法で生成してくれたので水には困らなかった。……本当にルーカスはなんでもできるんだな。遭難したのが私が一人だったら白骨化不可避な気がする。
「ルーカスがいるなら、このまま森で暮らせそうね」
褒め言葉として投げ掛けたのだが、ルーカスは難しい顔で黙り込んでしまった。あ、もしかして私が余りにも脳天気で役立たずだから怒っているのだろうか。それとも眠すぎてイライラしてるとか。
軽く腹ごしらえをした後は特にすることもなく、ぼんやりと過ごした。採集用にナイフとか細々した道具は持っているけど、暇つぶしするものなんかないし、動き回って無駄に体力消耗するのはよくないと私も理解していたのでおとなしく待機していた。
どのくらい遭難することになるのだろう。イルゼもニーナも心配しているだろうなぁとため息を吐き出す。
その時だった。
「……おーい!」
「誰かいないかー!」
「ここにいまぁーす!」
どこからか人の声が聞こえたのは。
素早く反応した私は立ち上がって大声で叫んだ。
『私が呼んで来てあげたのよ、感謝してね』
いつの間にかトリシャが側に寄っていた。彼女の迅速な行動のおかげで思ったよりも早く助けが来たんだ。私は膝を曲げて彼女の前に屈み込むと、感謝の気持ちを込めて彼女の顎を撫でてあげた。
「ありがとうトリシャ」
『ち、ちょっと、私を普通の猫扱いしないで……』
猫扱いするなと言われたけど、トリシャはごろごろ喉を鳴らして気持ち良さそうに目を細めていた。トリシャはどこからどう見ても猫だよ……他の何でもない猫。
「ありがとう助かったよ、トリシャ……思ったよりも探し出すのが早かったな」
『あぁ、それはリナリアのそれのお陰よ』
肉球をピッと私の左胸に向けたトリシャが指したのは、黒曜石のブローチだ。これが捜索の役に立ったというの?
「あぁいたいた。無事でよかった」
「キューネルさん!」
私たちの位置が把握できた捜索隊の人たちが転送術で一斉に飛んできたと思えば、その中に知り合いがいたもんで私は驚きの声をあげた。
「捜索届が出たから何事かと思ったら、遭難者名にリナリア・ブルームが含まれていたから驚いたぜ。それが役に立ってよかったよ」
偶然にも捜索命令を受けたのが、キューネルさん達魔法魔術省の職員達だったのも幸いだった。私にくれたこのブローチで私の大体の位置を探ることができたからすぐに見つかったのだという。
私とルーカスはそのまま保護されて、怪我人の私は浮遊魔法で輸送された。
「彼氏と一緒ならよかったな、寂しくなかったろ?」
「違います! 友達ですよ!」
私を浮かせて運んでいるキューネルさんがそんなことを言うので私は慌てて否定しておいた。
先を行くルーカスは怪我はなく歩けるからと自分の足で山道を進んでいる。今の会話が彼の耳に届いていないことにホッとする。
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