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この恋に気づいて
最大限の防御
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魔法で拘束されて身動き取れない私を見下ろす男子生徒のひとりが言った。
「なぁ。痛いのは嫌だろう? 俺らも女子にひどいことはしたくないんだよ」
猫なで声で言われてもいまさらそんなの信用する訳がないだろう。まさか私にも黒呪術を使う気なの?
「私はこの事を先生に言います! それにお役人さんにだって証言しますから!」
私は丸め込まれないし、先生に訴えて彼らの悪事を表沙汰にするつもりだ。
いくら今のところ動物への使用が禁止されていないとは言え、禁忌は禁忌。使ってはいけないと言われているのに使用する彼らはまた、別の場所でも使用するに違いない。
──この人たちは危険だ。
反抗的な態度を取る私に彼らは渋い表情を浮かべていた。中のひとりがすっと手をかざしてきた。なんらかの呪文をかけようとしているらしい。
もしや私の記憶でも消すつもりか。忘却術も黒呪術一歩手前の魔法なんだけどどこまで手を汚すつもりなんだ。
魔法は誰かを傷つけるために有るんじゃない。守るために存在するのに。彼らは罰当たりだ。
「我に従う風の元素達よ! 切り裂け!」
びしゅびしゅと鋭く風を斬る音が耳に刺さった。それと同時にピッと刃物で切り裂かれた痛みが全身に走る。私の腕の中にいる狐が怯えて震えているのが伝わってくる。
先程狐にかけていた切り裂き術をかけられたんだ。私を拷問して口封じするつもりなのか。
だけど私は退かない!
「我に従う土の元素達よ! 最大限の防御せよ!!」
体が動かないなら、魔法でなんとかするのみ。
幸いここは森林。土の元素属性の私にとって都合のいい場所だ!
ぞぞぞと体の下から微かな振動が伝わってくる。そして一気に成長した草木が私と腕の中の狐を保護するようにドームを作って守ってくれた。
「チッ、我に従う火の元素達よ、焼き尽くせ!」
燃やしてしまえばこっちのもんだと言わんばかりに次は火を使った魔術を放とうと呪文を唱えていた。
だけど私に従う元素達も学んだのだろう。草木だけじゃ私を守れないと。
がくんと体が地面に沈み込んだ。私たちの身に炎が到達する前に、大きな土の壁が出現する。土の壁は幾重にも重なり、私たちを守ってくれた。
外から燃やしたり叩いたりして来る音が聞こえてきたけど、どうやら今回は煉瓦のような強度の防壁を作って私を守ってくれているようだ。 前に私が火だるまになったことがあるから、元素達も考えてくれたのだろう。元素達って賢いんだな。
「何だよこれ! 全然壊れねぇ!」
「くそっ小賢しい!」
ドームの外では男子生徒達が悪態をついているが、私は怖くなかった。土の元素達が私たちを最大限守ってくれていると信じられたから。
真っ暗な視界の中、狐が恐怖に震えているのが腕に伝わってきた。
「痛いの痛いの、飛んでゆけ」
腕の中の存在に向かって治癒魔法をかけてあげると、狐だけでなく私にも治癒魔法が降りかかってきた。先程まであちこちが切り裂かれてぴりぴりしていたけど、今じゃすっかり痛くない。
あ、でも血を流しすぎて体調は良くないかも。
狐もこれまで受けた拷問で体力消耗しているみたいでぐったりしていた。治癒魔法で傷は治せるけど、血を作り直すまではできないからな。栄養のあるものを食べて養生してもらうしか方法はない。
身動きは取れないけど、魔法は使える。大丈夫だ、きっと何とかなる。
「──リナリア!」
さてこれからどうしようかと考えていると、ドームの外から彼の声が聞こえてきた。先ほど私が彼の手を振りほどいて置いてけぼりにしたはずなのに。
「お前達そこで何をしている!」
「この惨状は一体……!」
それに続いて大人の声。
あ、もしかして私が急に消えたから先生を連れて捜索しに来てくれたんだろうか。
──ひとりでできると思ったんだけどなぁ。結局今回もルーカスに助けられちゃった。
土の魔法を解除されてドームから救出された私を見たルーカスは、まるで自分が傷つけられたかのように苦しそうな顔をしていた。
あ、見た目は全身血だらけで瀕死に見えるかもしれないけど、治癒魔法で治したので傷自体はないと思います。
私は自分が誇らしくて胸を張っていた。
拘束されても対抗できたし、狐の命を救えた。禁忌を犯した人たちをしょっぴけた。結局はルーカスの助けが入ったけど、それまでひとりでやれたことが私の自信に変わったのだ。
『リナリアありがとう』
「うぅん、どういたしまして。痛いところはない?」
『もうすっかり。リナリアは大丈夫? 痛くない?』
「平気だよ」
救出した狐と会話をしている間に例の男子生徒達は先生達によって捕縛されて連行されていた。他の動物達が口々に私に心配の声をかけて来る。皆心配してくれていたみたいで、小言もいただいてしまった。
「ブルームさん」
彼らに囲まれて笑顔で会話をしていると、そこに先生が声をかけてきた。そこにいたのは実技担当のエーゲル先生だ。彼は眉間にシワを寄せて難しい顔をしていた。
「クライネルト君から伝書鳩が届いたから何事かと思いましたよ」
「お騒がせしました」
私がへらりと笑うと、先生はますます複雑な表情になってしまった。
「先生に相談しなかったのは何故ですか? 私に黒呪術のことを尋ねてきた時には既に疑いがあったんですよね?」
先生は私が変な質問をした時点で相談して欲しかったみたいだ。
だけど確証がなかったし、先生は忙しいし、信じてもらえないかもと思っていたから敢えて言わなかった。
自分でなんとかしたいと考えていたのが大体の理由だけどね。
「……やっぱり前の実技の先生の件で、教師に不信感を抱いているのかな?」
「あ、いえ、そういう訳じゃ」
前の先生とエーゲル先生は比べるのもおこがましい位に違う。エーゲル先生は何も悪くないんだ。
別に不信感という訳じゃ……うん。
生徒に信じてもらえてないと落ち込む先生を前になんと言えばいいのか迷った。今度から気をつけますと言っておけば良いだろうか。
「リナリア、どうしてひとりで立ち向かったんだ」
ルーカスから重苦しい声で問われた。まだ彼の低い声が聞き慣れなくて違和感があるなぁ。
座り込んでいる私と目線を合わせるために彼は地面に膝をついた。私の顔を覗き込んだルーカスの顔は完全に怒っていた。どうやらお説教らしい。
「私は間違ったことはしてないわ」
「だけど無謀だ。まだ2年生なのに自分でなんとかできると思うのは自惚れが過ぎる」
そこまで言わないで良くないか。私は今回の件で自信がついたのに、それをペシャンコにするようなこと言わないでよ。
もしも仮にこの事を大人達に相談してたとして、すぐに解決してくれた? もしかしたら後回しにされていた可能性だってある。
それに動物たちは私に助けを求めたのだ。私にだって譲れないことがある。
「私は大切なお友達を見捨てるほど非情にはなれないの。あなたには守りたい存在はいない?」
そんな存在がいないなら、できた時に気持ちがわかるはずだ。頭ごなしに説教しないでほしい。
私の反論に目を見開くルーカス。
ぐっと拳を握っていたので、更に怒られるかなと思ったけど、彼は眉間にシワを寄せてスッと視線を逸らした。
「……僕に相談くらいしてくれてもいいじゃないか」
ルーカスが不貞腐れたような顔で言うもんだから、私は笑ってしまいそうになった。普段大人っぽいからその落差がすごい。
「そしたらあなたが解決してしまうでしょ? 助けてくれるのは嬉しいけど、あなたに頼りっぱなしは良くないわ」
私がそう言うと、ルーカスが何かを言おうとしたので、それを阻止した。
「私が何もできないみたいで嫌なのよ。あなたに依存してたらいつまで経っても私は成長できないでしょう?」
「……そうかもしれないけど、僕は君を放っておけない」
彼は真剣な眼差しでじっと見つめてきた。その瞳の真摯さに私は目を奪われる。
「僕に内緒で危険なことに首を突っ込まないでくれ」
握ってきた彼の手は、更にもうひとまわり大きくなっているような気がした。
「なぁ。痛いのは嫌だろう? 俺らも女子にひどいことはしたくないんだよ」
猫なで声で言われてもいまさらそんなの信用する訳がないだろう。まさか私にも黒呪術を使う気なの?
「私はこの事を先生に言います! それにお役人さんにだって証言しますから!」
私は丸め込まれないし、先生に訴えて彼らの悪事を表沙汰にするつもりだ。
いくら今のところ動物への使用が禁止されていないとは言え、禁忌は禁忌。使ってはいけないと言われているのに使用する彼らはまた、別の場所でも使用するに違いない。
──この人たちは危険だ。
反抗的な態度を取る私に彼らは渋い表情を浮かべていた。中のひとりがすっと手をかざしてきた。なんらかの呪文をかけようとしているらしい。
もしや私の記憶でも消すつもりか。忘却術も黒呪術一歩手前の魔法なんだけどどこまで手を汚すつもりなんだ。
魔法は誰かを傷つけるために有るんじゃない。守るために存在するのに。彼らは罰当たりだ。
「我に従う風の元素達よ! 切り裂け!」
びしゅびしゅと鋭く風を斬る音が耳に刺さった。それと同時にピッと刃物で切り裂かれた痛みが全身に走る。私の腕の中にいる狐が怯えて震えているのが伝わってくる。
先程狐にかけていた切り裂き術をかけられたんだ。私を拷問して口封じするつもりなのか。
だけど私は退かない!
「我に従う土の元素達よ! 最大限の防御せよ!!」
体が動かないなら、魔法でなんとかするのみ。
幸いここは森林。土の元素属性の私にとって都合のいい場所だ!
ぞぞぞと体の下から微かな振動が伝わってくる。そして一気に成長した草木が私と腕の中の狐を保護するようにドームを作って守ってくれた。
「チッ、我に従う火の元素達よ、焼き尽くせ!」
燃やしてしまえばこっちのもんだと言わんばかりに次は火を使った魔術を放とうと呪文を唱えていた。
だけど私に従う元素達も学んだのだろう。草木だけじゃ私を守れないと。
がくんと体が地面に沈み込んだ。私たちの身に炎が到達する前に、大きな土の壁が出現する。土の壁は幾重にも重なり、私たちを守ってくれた。
外から燃やしたり叩いたりして来る音が聞こえてきたけど、どうやら今回は煉瓦のような強度の防壁を作って私を守ってくれているようだ。 前に私が火だるまになったことがあるから、元素達も考えてくれたのだろう。元素達って賢いんだな。
「何だよこれ! 全然壊れねぇ!」
「くそっ小賢しい!」
ドームの外では男子生徒達が悪態をついているが、私は怖くなかった。土の元素達が私たちを最大限守ってくれていると信じられたから。
真っ暗な視界の中、狐が恐怖に震えているのが腕に伝わってきた。
「痛いの痛いの、飛んでゆけ」
腕の中の存在に向かって治癒魔法をかけてあげると、狐だけでなく私にも治癒魔法が降りかかってきた。先程まであちこちが切り裂かれてぴりぴりしていたけど、今じゃすっかり痛くない。
あ、でも血を流しすぎて体調は良くないかも。
狐もこれまで受けた拷問で体力消耗しているみたいでぐったりしていた。治癒魔法で傷は治せるけど、血を作り直すまではできないからな。栄養のあるものを食べて養生してもらうしか方法はない。
身動きは取れないけど、魔法は使える。大丈夫だ、きっと何とかなる。
「──リナリア!」
さてこれからどうしようかと考えていると、ドームの外から彼の声が聞こえてきた。先ほど私が彼の手を振りほどいて置いてけぼりにしたはずなのに。
「お前達そこで何をしている!」
「この惨状は一体……!」
それに続いて大人の声。
あ、もしかして私が急に消えたから先生を連れて捜索しに来てくれたんだろうか。
──ひとりでできると思ったんだけどなぁ。結局今回もルーカスに助けられちゃった。
土の魔法を解除されてドームから救出された私を見たルーカスは、まるで自分が傷つけられたかのように苦しそうな顔をしていた。
あ、見た目は全身血だらけで瀕死に見えるかもしれないけど、治癒魔法で治したので傷自体はないと思います。
私は自分が誇らしくて胸を張っていた。
拘束されても対抗できたし、狐の命を救えた。禁忌を犯した人たちをしょっぴけた。結局はルーカスの助けが入ったけど、それまでひとりでやれたことが私の自信に変わったのだ。
『リナリアありがとう』
「うぅん、どういたしまして。痛いところはない?」
『もうすっかり。リナリアは大丈夫? 痛くない?』
「平気だよ」
救出した狐と会話をしている間に例の男子生徒達は先生達によって捕縛されて連行されていた。他の動物達が口々に私に心配の声をかけて来る。皆心配してくれていたみたいで、小言もいただいてしまった。
「ブルームさん」
彼らに囲まれて笑顔で会話をしていると、そこに先生が声をかけてきた。そこにいたのは実技担当のエーゲル先生だ。彼は眉間にシワを寄せて難しい顔をしていた。
「クライネルト君から伝書鳩が届いたから何事かと思いましたよ」
「お騒がせしました」
私がへらりと笑うと、先生はますます複雑な表情になってしまった。
「先生に相談しなかったのは何故ですか? 私に黒呪術のことを尋ねてきた時には既に疑いがあったんですよね?」
先生は私が変な質問をした時点で相談して欲しかったみたいだ。
だけど確証がなかったし、先生は忙しいし、信じてもらえないかもと思っていたから敢えて言わなかった。
自分でなんとかしたいと考えていたのが大体の理由だけどね。
「……やっぱり前の実技の先生の件で、教師に不信感を抱いているのかな?」
「あ、いえ、そういう訳じゃ」
前の先生とエーゲル先生は比べるのもおこがましい位に違う。エーゲル先生は何も悪くないんだ。
別に不信感という訳じゃ……うん。
生徒に信じてもらえてないと落ち込む先生を前になんと言えばいいのか迷った。今度から気をつけますと言っておけば良いだろうか。
「リナリア、どうしてひとりで立ち向かったんだ」
ルーカスから重苦しい声で問われた。まだ彼の低い声が聞き慣れなくて違和感があるなぁ。
座り込んでいる私と目線を合わせるために彼は地面に膝をついた。私の顔を覗き込んだルーカスの顔は完全に怒っていた。どうやらお説教らしい。
「私は間違ったことはしてないわ」
「だけど無謀だ。まだ2年生なのに自分でなんとかできると思うのは自惚れが過ぎる」
そこまで言わないで良くないか。私は今回の件で自信がついたのに、それをペシャンコにするようなこと言わないでよ。
もしも仮にこの事を大人達に相談してたとして、すぐに解決してくれた? もしかしたら後回しにされていた可能性だってある。
それに動物たちは私に助けを求めたのだ。私にだって譲れないことがある。
「私は大切なお友達を見捨てるほど非情にはなれないの。あなたには守りたい存在はいない?」
そんな存在がいないなら、できた時に気持ちがわかるはずだ。頭ごなしに説教しないでほしい。
私の反論に目を見開くルーカス。
ぐっと拳を握っていたので、更に怒られるかなと思ったけど、彼は眉間にシワを寄せてスッと視線を逸らした。
「……僕に相談くらいしてくれてもいいじゃないか」
ルーカスが不貞腐れたような顔で言うもんだから、私は笑ってしまいそうになった。普段大人っぽいからその落差がすごい。
「そしたらあなたが解決してしまうでしょ? 助けてくれるのは嬉しいけど、あなたに頼りっぱなしは良くないわ」
私がそう言うと、ルーカスが何かを言おうとしたので、それを阻止した。
「私が何もできないみたいで嫌なのよ。あなたに依存してたらいつまで経っても私は成長できないでしょう?」
「……そうかもしれないけど、僕は君を放っておけない」
彼は真剣な眼差しでじっと見つめてきた。その瞳の真摯さに私は目を奪われる。
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