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この恋に気づいて
動物の心がわかる少女
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海に浮かんだ一つの大きな大陸には3つの国と、今では自治を失った亡国と成り下がった国がある。西のエスメラルダ、東のシュバルツ、南のグラナーダ。そして北の亡国ハルベリオン。
ハルベリオンとは私が生まれる前、そして小さかった頃に国同士で色々あったけど今では何事もなかったかのように人々は日々を送っている。
それもこれも命をかけて国を守った魔術師たちのお陰なのだそうだ。ハルベリオンを支配していた王は奇病でなくなり、国を動かしていた幹部たちは裁判の後、処刑。残った国民は保証人がいるものは他国に流れてきたり、国元に残ったりなんとか。
完全に相手の牙を折ったので以前のような脅威はもうないそうだ。
私はシュバルツ王国東部にある賑やかな港町で育った。モナートという町だ。
そこは外国との交易の場所となっており、海の向こうの国から沢山の人や物が流れてくるにぎやかな場所なのだ。
「嘘つきリナリアだ!」
「また変なこと言って人の気を引こうとしてるんでしょ」
「どっかにいけよー」
私は幼い頃から不思議な力を操っていた。
手のひらで病気や怪我を治す能力があったのだ。それに加えて近所の野良犬猫や野鳥との意思疎通もできた。
──そのせいか、同年代の子どもたちには嘘つき呼ばわりされて遠巻きにされていた。
「痛いの痛いの飛んでゆけー」
私がおまじないをかけながらぐったりした猫のお腹を撫でてあげると、徐々に猫は調子を取り戻してきたようでゆっくりした動作で起き上がった。
「ニャーン」
「…そうなの、3軒先の奥さんが真昼の情事…相手は八百屋の大将」
そして私にゴシップ話を教えてくれた。彼なりのお礼らしい。だけど私はそんなの知りたくなかった。とはいえ死んだネズミをお礼として持ってこられても困るんだけどさ。
「ワォン!」
「子犬たちを見せに来てくれたの? ありがと」
先日の嵐でさまよっているところを見かけて、うちの納屋を宿として貸してあげた妊娠中の犬が無事出産したようで私に子犬たちを見せに来てくれた。何もせずとも彼ら彼女らから声が伝わってくる。
『この子が長男、長女、そして末っ子の次男なのよ』
落ち着きのない子犬たちを並べて紹介してくれる母犬。
──声が聞こえるのに。こんなに彼らは訴えてくれるのに。周りの人間はわからないのだという。私の言うことを嘘だと言って私を避けるのだ。
どうしてだろう。なんで彼らは信じてくれないのだろう。
動物達はみんな、病気や怪我で辛くなったら私のもとにやってくるのに。私が祈りながら撫でると、末期の病気だった犬の腫瘍を治したり、飛べなくなった鳥の羽根を治せるのだ。それを前にしても、信じてくれないのだ。
一部の大人たちは私の力を信じてくれて、私の手を神の手と呼んでくれた。リナリアは贈り物持ちなんだと私を褒めてくれた。
私の両親はおおらかな人たちだったので、私に不思議な力が宿っていようといまいとどちらでもいいと言った感じだった。私の言動を否定せずに尊重してくれた。
──それでも、大体の人は自分と違うものを徹底的に排除しようとするのだ。近所の子どもには不気味といわれ、学校でもその噂が広がり、そのせいで私には友達がいなかった。
以前、同級生達が寄ってたかって港に居着いた猫を虐げる場面を目撃したことがあった。それを見過ごせなかった私は、その辺に落ちてたいい感じの木材を振り回して彼らを追い払った後、動物の怪我を治療してあげた。
その日の晩、同級生が親を連れて押しかけてきた。「お宅の娘がうちの子に暴力を振るった」と文句を言ってきたので、相手の親には毅然とした態度で反論してやった。
『お宅の子どもが猫をいじめていた。火で燃やしてなぶり殺しにしようとしていたから棒っ切れで殴って追い払ったの』
相手の親はそのことを聞いていなかったらしくて、自分の子どもをげんこつして叱りつけていた。
翌日から逆恨みで悪口が更に増えたけど、私は何も間違ったことはしていないから気にしないふりをした。
気味悪いと思われながら無理やり仲良くされるのもなんか嫌だった。
みんなに悪口を言われて嘘つき呼ばわりされるのも仲間はずれも悲しかったけど、昔からそうだったので仕方ないと諦めていた。
それに動物たちが側にいて話しかけてくれたから私は全然寂しくなかった。
飛び回る鳥たちは町の外の話をしてくれる。犬や猫は身近な幸せに気づかせてくれる。馬や牛などは独自の感覚を持っていて話すと新鮮な気持ちにさせてくれる。
周りからしてみたら私は独りぼっちに見えたかもしれないが、私はひとりではなかった。動物達が仲良くしてくれたから。
彼らが私を慕ってくれるように、私も動物達が大好きだった。だから両親が許してくれるなら、将来は動物に携わる仕事がしたいと考えていた。
ある日、毒を含んだものを食べてしまって体調が悪いという顔見知りのわんちゃんの体を撫でてあげていた。
ひとつふたつならいいけど、それ以上食べたら中毒症状を起こす植物を食べてしまったらしい。わんちゃんの背中に耳を付けて臓器の音を探ると、健康な犬のそれと比べて弱っているのがわかった。そのため長い時間「痛いの痛いの飛んでゆけ」を続けていた。
「君、ちょっといいかな」
わんちゃんを看病する私を見ていたという、ある貴族の紳士が私のことを養女にしたいと声をかけてきた。
高額な小切手と契約書を持って家までやってきたのは、物腰の柔らかそうな30代ほどの男性。中肉中背でまぁまぁ整った顔立ちをした人だった。暗めの茶髪で、瞳はヘーゼル色。
雰囲気は柔らかで笑顔なんだが、その瞳の奥は全く笑っていなかった。その瞳を直視した私は得体のしれぬ恐怖を感じてゾワッとした。
私はなんの変哲もない商家の娘だ。学校の成績は中程度で、金色の髪と翡翠石のような瞳を持った美女と評判の母似で容姿にはそこそこ恵まれているが、傾国の美人というわけでもない。
この国の貴色を持つわけでもない、やんごとない血を受け継ぐでもない、ただの平民。
そんな私を養女にしたい?
「折角ですが、うちは娘を売るつもりはありません」
「人聞きの悪い。娘さんを私の娘として迎えると言っているのですよ? それは貴族になれるということです」
「どんなにいい条件を持ちかけられてもお受けしません。どうぞお引取りを」
その条件の良さに怪しんだ両親はきっぱり断った。
突然見知らぬ貴族様からの養子縁組の話。人身売買とかそっちの疑いもあったし、私は一人娘だった。もしかしたらこのあと弟妹が生まれる可能性もあるけど、子沢山というわけでもない、貧しいわけじゃない我が家が娘を売る必要なんてないからだ。
「そう、それは残念だ」
目を細めた男の瞳は冷え冷えとしていた。彼が出ていってから我に返ったのか、両親は私を抱え込んで今更ながらに震えていた。
「あの貴族様の不興を買ったからって商売できないように圧力掛けられたらどうする?」
お母さんの問いかけにお父さんは渋い顔をしていた。
「…それならばお隣のエスメラルダに拠点を変えればいいだけだ。大丈夫、大丈夫だ」
隣国まで圧力をかけられる人間ならまたその時考えたらいい。大陸を離れたっていいんだとお父さんは言う。両親はなんとしても私を守る方向に考えてくれていた。
──それほど異様だったのだ。
金に目がくらんだ親なら何も考えずに売るだろうなって金額を提示して養女として迎える。条件として私との縁を切れ、何があっても干渉するなと契約書に書かれていたのだ。…怪しすぎるだろう。いくら私が子どもでもその異様さはわかる。
……なんかあの人あっさり引いた感じがして不気味なんだよなぁ。
「誘拐とかされたらどうしよう」
ボソッと私がつぶやくと、両親から音が消えた。
異変を感じた私がふたりの顔を見上げると両親ともに土気色の顔色をして固まっていたのである。
ハルベリオンとは私が生まれる前、そして小さかった頃に国同士で色々あったけど今では何事もなかったかのように人々は日々を送っている。
それもこれも命をかけて国を守った魔術師たちのお陰なのだそうだ。ハルベリオンを支配していた王は奇病でなくなり、国を動かしていた幹部たちは裁判の後、処刑。残った国民は保証人がいるものは他国に流れてきたり、国元に残ったりなんとか。
完全に相手の牙を折ったので以前のような脅威はもうないそうだ。
私はシュバルツ王国東部にある賑やかな港町で育った。モナートという町だ。
そこは外国との交易の場所となっており、海の向こうの国から沢山の人や物が流れてくるにぎやかな場所なのだ。
「嘘つきリナリアだ!」
「また変なこと言って人の気を引こうとしてるんでしょ」
「どっかにいけよー」
私は幼い頃から不思議な力を操っていた。
手のひらで病気や怪我を治す能力があったのだ。それに加えて近所の野良犬猫や野鳥との意思疎通もできた。
──そのせいか、同年代の子どもたちには嘘つき呼ばわりされて遠巻きにされていた。
「痛いの痛いの飛んでゆけー」
私がおまじないをかけながらぐったりした猫のお腹を撫でてあげると、徐々に猫は調子を取り戻してきたようでゆっくりした動作で起き上がった。
「ニャーン」
「…そうなの、3軒先の奥さんが真昼の情事…相手は八百屋の大将」
そして私にゴシップ話を教えてくれた。彼なりのお礼らしい。だけど私はそんなの知りたくなかった。とはいえ死んだネズミをお礼として持ってこられても困るんだけどさ。
「ワォン!」
「子犬たちを見せに来てくれたの? ありがと」
先日の嵐でさまよっているところを見かけて、うちの納屋を宿として貸してあげた妊娠中の犬が無事出産したようで私に子犬たちを見せに来てくれた。何もせずとも彼ら彼女らから声が伝わってくる。
『この子が長男、長女、そして末っ子の次男なのよ』
落ち着きのない子犬たちを並べて紹介してくれる母犬。
──声が聞こえるのに。こんなに彼らは訴えてくれるのに。周りの人間はわからないのだという。私の言うことを嘘だと言って私を避けるのだ。
どうしてだろう。なんで彼らは信じてくれないのだろう。
動物達はみんな、病気や怪我で辛くなったら私のもとにやってくるのに。私が祈りながら撫でると、末期の病気だった犬の腫瘍を治したり、飛べなくなった鳥の羽根を治せるのだ。それを前にしても、信じてくれないのだ。
一部の大人たちは私の力を信じてくれて、私の手を神の手と呼んでくれた。リナリアは贈り物持ちなんだと私を褒めてくれた。
私の両親はおおらかな人たちだったので、私に不思議な力が宿っていようといまいとどちらでもいいと言った感じだった。私の言動を否定せずに尊重してくれた。
──それでも、大体の人は自分と違うものを徹底的に排除しようとするのだ。近所の子どもには不気味といわれ、学校でもその噂が広がり、そのせいで私には友達がいなかった。
以前、同級生達が寄ってたかって港に居着いた猫を虐げる場面を目撃したことがあった。それを見過ごせなかった私は、その辺に落ちてたいい感じの木材を振り回して彼らを追い払った後、動物の怪我を治療してあげた。
その日の晩、同級生が親を連れて押しかけてきた。「お宅の娘がうちの子に暴力を振るった」と文句を言ってきたので、相手の親には毅然とした態度で反論してやった。
『お宅の子どもが猫をいじめていた。火で燃やしてなぶり殺しにしようとしていたから棒っ切れで殴って追い払ったの』
相手の親はそのことを聞いていなかったらしくて、自分の子どもをげんこつして叱りつけていた。
翌日から逆恨みで悪口が更に増えたけど、私は何も間違ったことはしていないから気にしないふりをした。
気味悪いと思われながら無理やり仲良くされるのもなんか嫌だった。
みんなに悪口を言われて嘘つき呼ばわりされるのも仲間はずれも悲しかったけど、昔からそうだったので仕方ないと諦めていた。
それに動物たちが側にいて話しかけてくれたから私は全然寂しくなかった。
飛び回る鳥たちは町の外の話をしてくれる。犬や猫は身近な幸せに気づかせてくれる。馬や牛などは独自の感覚を持っていて話すと新鮮な気持ちにさせてくれる。
周りからしてみたら私は独りぼっちに見えたかもしれないが、私はひとりではなかった。動物達が仲良くしてくれたから。
彼らが私を慕ってくれるように、私も動物達が大好きだった。だから両親が許してくれるなら、将来は動物に携わる仕事がしたいと考えていた。
ある日、毒を含んだものを食べてしまって体調が悪いという顔見知りのわんちゃんの体を撫でてあげていた。
ひとつふたつならいいけど、それ以上食べたら中毒症状を起こす植物を食べてしまったらしい。わんちゃんの背中に耳を付けて臓器の音を探ると、健康な犬のそれと比べて弱っているのがわかった。そのため長い時間「痛いの痛いの飛んでゆけ」を続けていた。
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わんちゃんを看病する私を見ていたという、ある貴族の紳士が私のことを養女にしたいと声をかけてきた。
高額な小切手と契約書を持って家までやってきたのは、物腰の柔らかそうな30代ほどの男性。中肉中背でまぁまぁ整った顔立ちをした人だった。暗めの茶髪で、瞳はヘーゼル色。
雰囲気は柔らかで笑顔なんだが、その瞳の奥は全く笑っていなかった。その瞳を直視した私は得体のしれぬ恐怖を感じてゾワッとした。
私はなんの変哲もない商家の娘だ。学校の成績は中程度で、金色の髪と翡翠石のような瞳を持った美女と評判の母似で容姿にはそこそこ恵まれているが、傾国の美人というわけでもない。
この国の貴色を持つわけでもない、やんごとない血を受け継ぐでもない、ただの平民。
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「あの貴族様の不興を買ったからって商売できないように圧力掛けられたらどうする?」
お母さんの問いかけにお父さんは渋い顔をしていた。
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金に目がくらんだ親なら何も考えずに売るだろうなって金額を提示して養女として迎える。条件として私との縁を切れ、何があっても干渉するなと契約書に書かれていたのだ。…怪しすぎるだろう。いくら私が子どもでもその異様さはわかる。
……なんかあの人あっさり引いた感じがして不気味なんだよなぁ。
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