32 / 37
もしも彼と同じ年なら【10】
しおりを挟む
──ドタン!
【ピーッ】
「3-Aのプッシング行為! 5つ目のファウルにつき、3-Cにフリースローの権限が与えられます!」
……おい、スポーツマンシップはどうなったよ。
球技大会でバスケチームの私は決勝まで勝ち進んだ。
しかし対戦相手の3-A…つまり間のクラスにマークされ、序盤からファウルの連続。
私は先程思いっきり間に背中を押されて派手にずっこけた。そのついでにドリブルしていたボールに足を取られ、足を捻ってしまった。
ツイてない。
ズキリ、と鋭い痛みが左足に走ったが、ここで引くのは絶対に嫌だ。
あいつに負けたくはない!
「田端、大丈夫か?」
「……大丈夫。平気」
橘君が心配して声を掛けてくれたが、私は先程のヒロインちゃんと彼のことを思い出すともやもやしてしまって、彼の顔を見ずに返事をしてしまった。
自分感じ悪いな…普通にしないと。
よくわからないモヤモヤ気分を振り払い、審判に促されるままフリースローの位置に着いた。
…絶対に二回ともシュートしてくれる…!
間に睨みをくれてやり、私はバスケットゴールに向かってシュートを放った。
「只今のバスケットボール決勝戦、3-Cの勝利です。今年度バスケットボール優勝は3-C!」
試合自体は五分五分だった。
そこで向こうのファウルが積み重なり、こっちにフリースロー二回のチャンスがやって来た。そこで私が点数をとったことで優勝となったのだ。
キャー! ワァアー! と歓声が聞こえる中で私はホッとした。
これで負けたら私はきっと、後悔していただろう。
間に一矢報えてよかった。
「田端」
「え?」
背後から橘君に声を掛けられたかと思えば、ヒョイッと私の身体を持ち上げられた。
「……!?」
「さっきのファウルで足を痛めただろう。重心がずれてるし足を引きずっている」
「だだだ大丈夫! 私歩けるし、自分で保健室行くから!」
「暴れるな」
こんな目立つ場所で姫抱っこなんてやめて。
ていうか橘君さっきヒロインちゃん抱っこしたでしょ! …体重私のほうが重いってバレた!
ヒロインちゃんの体重知らないけど絶対私より軽いもん!
「ちょちょ、ホント勘弁してよ橘君…」
「怪我を隠すお前が悪い」
女子の嫉妬じみた視線をビシバシ感じながら私は運ばれていく。
橘君はその視線にもどこ吹く風である。
「恥ずかしいぃ…死ぬよぉ……」
顔がめっちゃ熱い。私はきっと首まで真っ赤になっているはずだ。
そんな顔を彼に見られたくなくて橘君の肩に顔を埋めたけど、よくよく考えるとそれってめっちゃ恥ずかしい行動だったな。
…しかし流石元剣道部。肩が逞しいなと思った。
表彰式には参加したけど橘君におんぶされた状態で、バスケのキャプテンが表彰されているのを見守った。
私は歩けると言ったんだけど、強制的にまた抱っこされそうになったので間を取っておんぶを提案したのだ。
姫抱っこよりはマシだけどおんぶも恥ずかしいよ。
「田端先輩!」
「あ…本橋さん」
「あの、怪我大丈夫ですか?」
おんぶされた状態でヒロインちゃんに声を掛けられ、私は橘君に降ろしてと声を掛けたが私の要望はシカトされた。
この位置から話すのは少々失礼かもしれないがヒロインちゃんに笑顔を向ける。
「大丈夫。一応明日病院には行くけど…本橋さんは…平気?」
「私は軽度なんで! 私ドジだから捻挫が癖になってて」
「そっか」
…そういえばヒロインちゃんは橘君を選んだんだよな…
そうだとすると益々この姿勢まずいじゃないか。
「あのっ」
「はいっ」
「田端先輩、すっごく格好よかったです!」
「………あ、ありがとう…」
「それじゃお大事に!」
ヒロインちゃんは頬を赤く染めて笑みを浮かべると軽く会釈して立ち去ってしまった。
あれ? あれれ?
ここにいる橘君もかなり活躍していたのに彼を差し置いて私に「格好いい」?
これ照れ隠しなん? 私を通して橘君にメッセージを伝えた高度なコミュニケーションなわけ?
いやでもそんなんじゃ伝わらないよ!?
「…橘君…」
「…なんだ」
「大丈夫だよ。試合で君が一番輝いてたと思うから」
「……は?」
「きっと本橋さんも君が格好いいと感じていたはずだ」
「………お前はたまによくわからないことを言うな。別に何も気にしてないぞ」
橘君はクールにそう返したけど、男として美少女に注目されたいってもんじゃないか?
実は結構悔しいと思っているのを隠しているのか? それが男の矜持だとでも言うのか?
「ホントホント。バスケ部でも十分通用する上手さだったよ! 私の幼馴染が対戦したがってたもん!」
「……帰るか」
「ねぇちょっと? 聞いてる? 私の声はあなたに届いていますか?」
スルーされた。
やっぱりいじけてるんじゃないか。
ヒロインちゃんが私に格好いいって言ってきたのに嫉妬してるんでしょ!
「ねぇ本当だってば! 橘君が一番格好良かったって!」
「わかったから」
「もー本当にわかってんのかなー」
私は橘君の背中に乗っているので今現在彼がどんな顔をしているかはわからない。
でもきっといつも通りのクールな落ち着いた表情をしているのであろう。
「…耳赤いけど暑いの?」
「うるさい」
「…なんか最近私の扱いが雑な気がするんだけど…気のせいかな?」
橘君の首に抱きついて彼の顔を覗き込もうとしたら顔を背けられてしまった。
風の噂によるとあの決勝戦の後、私が保健室に行っている時にヒロインちゃんは間先輩を皆の前で卑怯者と詰り、きっぱりフッていたそうな。
やっぱりゲームと流れが違うな。でも流されずに自分の意志できっぱりと言えるヒロインちゃん素敵だと思う。
私はその日橘君におんぶされて家まで送られることになったんだけど、男の子におんぶされて帰ってきた私を見て母さんが「あやめに彼氏が出来た!」と興奮してしまった。
父さんまで巻き込む事態になり、誤解を解くのが大変だった。
☆★☆
「…田端?」
「……あら橘君に…えぇと、サオリさん……」
図書館で期末テスト勉強をしていたら意外な人と遭遇した。
なんて奇遇なんだ。
受験前最後の期末テストで本腰を入れようとしていた私だったが、後輩の沢渡君が泣きついてきた。
私は受験生なんだよと、切り捨てることも出来たけど文化祭の時の恩があるため、一日だけ勉強を教えてあげることを約束したのだ。
…なんだけど……彼は器用にも私の自信を打ち砕いてしまう。中間テストの二の舞じゃないですかー。
どうしてわからないの? うちの高校入れたんだから、基礎は出来てるよね?
まるでお通夜の様な雰囲気で私達は図書館の自習室で項垂れていた。
「橘パイセーン…」
「……沢渡、何だどうした。そんな情けない顔をして」
「俺進級できないかも~」
「……沢渡、田端は受験生なんだぞ。勉強の邪魔をするんじゃない」
橘君は私達の様子を見て状況を軽く判断したようだ。
だけどこれは私がボランティアとして請け負ったことだから……いいんだよ…
「いいのいいの乗りかかった船だし……私が今までした努力ってなんだったのかな…」
「……田端、お前俺には『他人のことより自分のこと』って説教垂れたくせに自分は何をしてるんだ」
「だって文化祭の時の恩があるんだもん! 自分も復習に…復習になるかと思って…」
私の言葉に橘君は呆れた顔をしていたが、沢渡君の隣の椅子を引くとそこに座った。
「…で、どこがわからないというんだ」
「……わからないところがわからないっす…」
「……高校一年からやり直したらどうだ?」
「見捨てないでパイセン!!」
なんと私が乗りかかった船だというのに橘君は手助けをしてくれることになった。
いいのかな、彼だってテスト勉強しにきたんだろうし…それに元カノさんを連れてきてるんだから…
「……ここ、座ってもいいかしら?」
「あっ、ハイ」
元カノさんは私の隣の席について、静かに勉強を始めていたが、一瞬私に向けられた視線はとても鋭いものだった。
……私なんか嫌われてる?
邪魔はしてないよ。何もしてないからね。ていうか他の席は空いていなかったの?
目の前では橘君が沢渡君に一から勉強を教えているが、沢渡君が首を傾げてチョイチョイ説明途中で質問して全く先に進んでいない。
段々橘君が苛つき始めたのに危機感を覚えた私は「休憩しよう」と提案した。
沢渡君と自分の分のお弁当を作ってきたが、量多めに作ったので二人にもどうぞと勧めてみた。だけど元カノさんも橘君のためにお弁当を作ってきたらしい。なら私のは必要ないか。
私は自分の作ったお弁当を食べていたのだが元カノさんは甲斐甲斐しく橘君のお世話をしていた。
橘君たら『復縁をするつもりはない』と言っておきながら…やるなぁ。
…なんか面白くないけど。これは妬みかな。
受験前にすごい余裕ですねお二方。
そうしたら二人の邪魔するのはまずいかな?
私は元カノさんのお弁当を称賛する沢渡君に声を掛けてみた。
「沢渡君、午後は家にくる?」
「えっ! そ、そんなお付き合いもしてないのにアヤちゃん先輩のお家なんて…」
「君は何を誤解してるんだい? …うちの弟も家にいるから二人まとめてビシバシお勉強させてあげようと思ったの」
「何だぁ…」
沢渡君は目に見えてがっかりした。
何を妄想してんだか。
このままじゃ橘君に多大な迷惑をかけることになるからここは引くべきだと思うんだよね。
「……田端、もしかして俺に気を遣ってるのか?」
「そりゃあね。だって私が言い出しっぺだしこれ以上迷惑かけられないよ」
「迷惑って、アヤちゃん先輩!?」
沢渡君が目に見えてショックを受けていたが、本当のことなのでフォローはしないよ。
「…いや、沢渡に教えていると俺は復習になるから大丈夫」
「え……そう? 私はどんどん自信がなくなっていったけど…ていうか橘君イライラしてたじゃない」
「気のせいだ」
面倒見がいいにも程がある。
痩せ我慢しているように見えるんだけど、橘君の目はマジだった。それに圧倒された私は午後も引き続き図書館で勉強することにした。
その時また元カノさんに睨まれたんだけど…
頼むから修羅場に巻き込まないでおくれよ……
沢渡君のせいで全然自分の勉強ができなかったが、それは橘君も同様だ。
本当に申し訳ない。
「これ、家でテスト作ってきたから後は自分自身で頑張るんだよ…」
「ありがとうございました!」
「お前本当に勉強しろよ…」
私と橘君は満身創痍だった。
二人で交代交代に教えたつもりだけど…沢渡君に進歩があったのかどうか……
図書館を出て元気よく帰っていった彼を見送ると私は橘君に視線を向けた。…その後ろにいた元カノさんの顔を見てギクッとした。
(激おこじゃないですか…)
「じ、じゃ、色々と有難うね…? また学校で…」
私は美人の睨みにビビってしまい、橘君に今日のお礼とお詫びをすると彼の返事を待たずにその場から逃走していったのである。
「おい田端!?」
橘君の引き止める声なんて聞こえないんだから!
【ピーッ】
「3-Aのプッシング行為! 5つ目のファウルにつき、3-Cにフリースローの権限が与えられます!」
……おい、スポーツマンシップはどうなったよ。
球技大会でバスケチームの私は決勝まで勝ち進んだ。
しかし対戦相手の3-A…つまり間のクラスにマークされ、序盤からファウルの連続。
私は先程思いっきり間に背中を押されて派手にずっこけた。そのついでにドリブルしていたボールに足を取られ、足を捻ってしまった。
ツイてない。
ズキリ、と鋭い痛みが左足に走ったが、ここで引くのは絶対に嫌だ。
あいつに負けたくはない!
「田端、大丈夫か?」
「……大丈夫。平気」
橘君が心配して声を掛けてくれたが、私は先程のヒロインちゃんと彼のことを思い出すともやもやしてしまって、彼の顔を見ずに返事をしてしまった。
自分感じ悪いな…普通にしないと。
よくわからないモヤモヤ気分を振り払い、審判に促されるままフリースローの位置に着いた。
…絶対に二回ともシュートしてくれる…!
間に睨みをくれてやり、私はバスケットゴールに向かってシュートを放った。
「只今のバスケットボール決勝戦、3-Cの勝利です。今年度バスケットボール優勝は3-C!」
試合自体は五分五分だった。
そこで向こうのファウルが積み重なり、こっちにフリースロー二回のチャンスがやって来た。そこで私が点数をとったことで優勝となったのだ。
キャー! ワァアー! と歓声が聞こえる中で私はホッとした。
これで負けたら私はきっと、後悔していただろう。
間に一矢報えてよかった。
「田端」
「え?」
背後から橘君に声を掛けられたかと思えば、ヒョイッと私の身体を持ち上げられた。
「……!?」
「さっきのファウルで足を痛めただろう。重心がずれてるし足を引きずっている」
「だだだ大丈夫! 私歩けるし、自分で保健室行くから!」
「暴れるな」
こんな目立つ場所で姫抱っこなんてやめて。
ていうか橘君さっきヒロインちゃん抱っこしたでしょ! …体重私のほうが重いってバレた!
ヒロインちゃんの体重知らないけど絶対私より軽いもん!
「ちょちょ、ホント勘弁してよ橘君…」
「怪我を隠すお前が悪い」
女子の嫉妬じみた視線をビシバシ感じながら私は運ばれていく。
橘君はその視線にもどこ吹く風である。
「恥ずかしいぃ…死ぬよぉ……」
顔がめっちゃ熱い。私はきっと首まで真っ赤になっているはずだ。
そんな顔を彼に見られたくなくて橘君の肩に顔を埋めたけど、よくよく考えるとそれってめっちゃ恥ずかしい行動だったな。
…しかし流石元剣道部。肩が逞しいなと思った。
表彰式には参加したけど橘君におんぶされた状態で、バスケのキャプテンが表彰されているのを見守った。
私は歩けると言ったんだけど、強制的にまた抱っこされそうになったので間を取っておんぶを提案したのだ。
姫抱っこよりはマシだけどおんぶも恥ずかしいよ。
「田端先輩!」
「あ…本橋さん」
「あの、怪我大丈夫ですか?」
おんぶされた状態でヒロインちゃんに声を掛けられ、私は橘君に降ろしてと声を掛けたが私の要望はシカトされた。
この位置から話すのは少々失礼かもしれないがヒロインちゃんに笑顔を向ける。
「大丈夫。一応明日病院には行くけど…本橋さんは…平気?」
「私は軽度なんで! 私ドジだから捻挫が癖になってて」
「そっか」
…そういえばヒロインちゃんは橘君を選んだんだよな…
そうだとすると益々この姿勢まずいじゃないか。
「あのっ」
「はいっ」
「田端先輩、すっごく格好よかったです!」
「………あ、ありがとう…」
「それじゃお大事に!」
ヒロインちゃんは頬を赤く染めて笑みを浮かべると軽く会釈して立ち去ってしまった。
あれ? あれれ?
ここにいる橘君もかなり活躍していたのに彼を差し置いて私に「格好いい」?
これ照れ隠しなん? 私を通して橘君にメッセージを伝えた高度なコミュニケーションなわけ?
いやでもそんなんじゃ伝わらないよ!?
「…橘君…」
「…なんだ」
「大丈夫だよ。試合で君が一番輝いてたと思うから」
「……は?」
「きっと本橋さんも君が格好いいと感じていたはずだ」
「………お前はたまによくわからないことを言うな。別に何も気にしてないぞ」
橘君はクールにそう返したけど、男として美少女に注目されたいってもんじゃないか?
実は結構悔しいと思っているのを隠しているのか? それが男の矜持だとでも言うのか?
「ホントホント。バスケ部でも十分通用する上手さだったよ! 私の幼馴染が対戦したがってたもん!」
「……帰るか」
「ねぇちょっと? 聞いてる? 私の声はあなたに届いていますか?」
スルーされた。
やっぱりいじけてるんじゃないか。
ヒロインちゃんが私に格好いいって言ってきたのに嫉妬してるんでしょ!
「ねぇ本当だってば! 橘君が一番格好良かったって!」
「わかったから」
「もー本当にわかってんのかなー」
私は橘君の背中に乗っているので今現在彼がどんな顔をしているかはわからない。
でもきっといつも通りのクールな落ち着いた表情をしているのであろう。
「…耳赤いけど暑いの?」
「うるさい」
「…なんか最近私の扱いが雑な気がするんだけど…気のせいかな?」
橘君の首に抱きついて彼の顔を覗き込もうとしたら顔を背けられてしまった。
風の噂によるとあの決勝戦の後、私が保健室に行っている時にヒロインちゃんは間先輩を皆の前で卑怯者と詰り、きっぱりフッていたそうな。
やっぱりゲームと流れが違うな。でも流されずに自分の意志できっぱりと言えるヒロインちゃん素敵だと思う。
私はその日橘君におんぶされて家まで送られることになったんだけど、男の子におんぶされて帰ってきた私を見て母さんが「あやめに彼氏が出来た!」と興奮してしまった。
父さんまで巻き込む事態になり、誤解を解くのが大変だった。
☆★☆
「…田端?」
「……あら橘君に…えぇと、サオリさん……」
図書館で期末テスト勉強をしていたら意外な人と遭遇した。
なんて奇遇なんだ。
受験前最後の期末テストで本腰を入れようとしていた私だったが、後輩の沢渡君が泣きついてきた。
私は受験生なんだよと、切り捨てることも出来たけど文化祭の時の恩があるため、一日だけ勉強を教えてあげることを約束したのだ。
…なんだけど……彼は器用にも私の自信を打ち砕いてしまう。中間テストの二の舞じゃないですかー。
どうしてわからないの? うちの高校入れたんだから、基礎は出来てるよね?
まるでお通夜の様な雰囲気で私達は図書館の自習室で項垂れていた。
「橘パイセーン…」
「……沢渡、何だどうした。そんな情けない顔をして」
「俺進級できないかも~」
「……沢渡、田端は受験生なんだぞ。勉強の邪魔をするんじゃない」
橘君は私達の様子を見て状況を軽く判断したようだ。
だけどこれは私がボランティアとして請け負ったことだから……いいんだよ…
「いいのいいの乗りかかった船だし……私が今までした努力ってなんだったのかな…」
「……田端、お前俺には『他人のことより自分のこと』って説教垂れたくせに自分は何をしてるんだ」
「だって文化祭の時の恩があるんだもん! 自分も復習に…復習になるかと思って…」
私の言葉に橘君は呆れた顔をしていたが、沢渡君の隣の椅子を引くとそこに座った。
「…で、どこがわからないというんだ」
「……わからないところがわからないっす…」
「……高校一年からやり直したらどうだ?」
「見捨てないでパイセン!!」
なんと私が乗りかかった船だというのに橘君は手助けをしてくれることになった。
いいのかな、彼だってテスト勉強しにきたんだろうし…それに元カノさんを連れてきてるんだから…
「……ここ、座ってもいいかしら?」
「あっ、ハイ」
元カノさんは私の隣の席について、静かに勉強を始めていたが、一瞬私に向けられた視線はとても鋭いものだった。
……私なんか嫌われてる?
邪魔はしてないよ。何もしてないからね。ていうか他の席は空いていなかったの?
目の前では橘君が沢渡君に一から勉強を教えているが、沢渡君が首を傾げてチョイチョイ説明途中で質問して全く先に進んでいない。
段々橘君が苛つき始めたのに危機感を覚えた私は「休憩しよう」と提案した。
沢渡君と自分の分のお弁当を作ってきたが、量多めに作ったので二人にもどうぞと勧めてみた。だけど元カノさんも橘君のためにお弁当を作ってきたらしい。なら私のは必要ないか。
私は自分の作ったお弁当を食べていたのだが元カノさんは甲斐甲斐しく橘君のお世話をしていた。
橘君たら『復縁をするつもりはない』と言っておきながら…やるなぁ。
…なんか面白くないけど。これは妬みかな。
受験前にすごい余裕ですねお二方。
そうしたら二人の邪魔するのはまずいかな?
私は元カノさんのお弁当を称賛する沢渡君に声を掛けてみた。
「沢渡君、午後は家にくる?」
「えっ! そ、そんなお付き合いもしてないのにアヤちゃん先輩のお家なんて…」
「君は何を誤解してるんだい? …うちの弟も家にいるから二人まとめてビシバシお勉強させてあげようと思ったの」
「何だぁ…」
沢渡君は目に見えてがっかりした。
何を妄想してんだか。
このままじゃ橘君に多大な迷惑をかけることになるからここは引くべきだと思うんだよね。
「……田端、もしかして俺に気を遣ってるのか?」
「そりゃあね。だって私が言い出しっぺだしこれ以上迷惑かけられないよ」
「迷惑って、アヤちゃん先輩!?」
沢渡君が目に見えてショックを受けていたが、本当のことなのでフォローはしないよ。
「…いや、沢渡に教えていると俺は復習になるから大丈夫」
「え……そう? 私はどんどん自信がなくなっていったけど…ていうか橘君イライラしてたじゃない」
「気のせいだ」
面倒見がいいにも程がある。
痩せ我慢しているように見えるんだけど、橘君の目はマジだった。それに圧倒された私は午後も引き続き図書館で勉強することにした。
その時また元カノさんに睨まれたんだけど…
頼むから修羅場に巻き込まないでおくれよ……
沢渡君のせいで全然自分の勉強ができなかったが、それは橘君も同様だ。
本当に申し訳ない。
「これ、家でテスト作ってきたから後は自分自身で頑張るんだよ…」
「ありがとうございました!」
「お前本当に勉強しろよ…」
私と橘君は満身創痍だった。
二人で交代交代に教えたつもりだけど…沢渡君に進歩があったのかどうか……
図書館を出て元気よく帰っていった彼を見送ると私は橘君に視線を向けた。…その後ろにいた元カノさんの顔を見てギクッとした。
(激おこじゃないですか…)
「じ、じゃ、色々と有難うね…? また学校で…」
私は美人の睨みにビビってしまい、橘君に今日のお礼とお詫びをすると彼の返事を待たずにその場から逃走していったのである。
「おい田端!?」
橘君の引き止める声なんて聞こえないんだから!
10
お気に入りに追加
86
あなたにおすすめの小説
バイトの時間なのでお先に失礼します!~普通科と特進科の相互理解~
スズキアカネ
恋愛
バイト三昧の変わり者な普通科の彼女と、美形・高身長・秀才の三拍子揃った特進科の彼。
何もかもが違う、相容れないはずの彼らの学園生活をハチャメチャに描いた和風青春現代ラブコメ。
◇◆◇
作品の転載転用は禁止です。著作権は放棄しておりません。
DO NOT REPOST.
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件
桜 偉村
恋愛
別にいいんじゃないんですか? 上手くならなくても——。
後輩マネージャーのその一言が、彼の人生を変えた。
全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。
練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。
武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。
だから、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。
そうすれば、香奈は自分のモノになると思っていたから。
武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。
しかし、そこに香奈が現れる。
成り行きで香奈を家に上げた巧だが、なぜか彼女はその後も彼の家を訪れるようになって——。
「これは警告だよ」
「勘違いしないんでしょ?」
「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」
「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」
甘酸っぱくて、爽やかで、焦れったくて、クスッと笑えて……
オレンジジュース(のような青春)が好きな人必見の現代ラブコメ、ここに開幕!
※これより下では今後のストーリーの大まかな流れについて記載しています。
「話のなんとなくの流れや雰囲気を抑えておきたい」「ざまぁ展開がいつになるのか知りたい!」という方のみご一読ください。
【今後の大まかな流れ】
第1話、第2話でざまぁの伏線が作られます。
第1話はざまぁへの伏線というよりはラブコメ要素が強いので、「早くざまぁ展開見たい!」という方はサラッと読んでいただいて構いません!
本格的なざまぁが行われるのは第15話前後を予定しています。どうかお楽しみに!
また、特に第4話からは基本的にラブコメ展開が続きます。シリアス展開はないので、ほっこりしつつ甘さも補充できます!
※最初のざまぁが行われた後も基本はラブコメしつつ、ちょくちょくざまぁ要素も入れていこうかなと思っています。
少しでも「面白いな」「続きが気になる」と思った方は、ざっと内容を把握しつつ第20話、いえ第2話くらいまでお読みいただけると嬉しいです!
※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。
※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる