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もしも彼と同じ年なら【6】
しおりを挟むクラスメイトの女子の牽制を受けて、橘君との関わり合いをクラスメイト間の接触で収める努力をした。
人間関係を良好に保つためにも相手を無視するというのは厳しいので、会話はするけども親しげなやり取りをしないように心がけた。
そう心がけたのだ。しかしあの女子二人は今も私を陰から睨みつけてくる。
こっちは頑張ってるんですけどお気に召しませんかそうですか。
「田端、もう遅いから送っていく」
「!? 大丈夫! 私一人で帰れるから! また明日、寝坊しないようにね!」
やめてくれよ橘君。
彼女たちの殺気が増したじゃないの。なんでクラスメイトがいる教室のど真ん中でそんなこと言っちゃうわけ?
いよいよ文化祭が明日に迫ったその日は最終確認ということで皆遅くまで準備に奔走していた。
橘君の言う通り、外はもうとっぷり真っ暗になっていたが、私以外にも学校に残っている女子はたくさんいるのよ。なぜ私を名指しするんだあんたは!
私は素早く後退りすると教室を飛び出し、走ってはいけない廊下を駆けていった。
「おい田端!」
「ちょっと追いかけて来ないでよ!」
なるべく距離を離したというのに橘君は追いつきやがった。しかも私は息切れを起こしているというのに彼は涼しい顔をしていらっしゃる。
「何故逃げるんだ」
「逃げてないし! 一人で帰れるから断っただけだし!」
「だが、お前あんなことがあったんだから…夜道を一人で帰るなんて危険すぎる」
「だぁいじょうぶだよ」
私は彼を撒くために早歩きで歩いたが、悲しいかなコンパスの差で追いつかれてしまう。
私だけ一人競歩みたいな感じで駅につくと同じ電車に乗ることになった。降りる駅が一緒だから仕方がないんだけどさ。
私は隣に立っている橘君を見上げて念押ししておいた。
「家には一人で帰れるから……ていうか明日早いんだから、まっすぐ家に帰ってください」
「だが」
「橘君、過剰な親切は誤解の元だから止めたほうがいいよ。そういうのは好きな女の子だけにしなさい」
「………過剰か?」
「うん、過剰だよ」
自覚していなかったらしい。橘君は心外であると言いたげな顔をしている。
この調子じゃ今まで無意識に女性に優しくして、誤解させてきたんじゃなかろうか。
「…それに……」
橘君と私が親しげに見えるのが気に入らないからあんなことをしたのだろう。
そういうことなら橘君が私に親切にしなければこれ以上の攻撃はないはず……
「それに……何だ?」
「………取り敢えず、橘君は彼女がいるんでしょ? なら他の女に優しくするのは良くないよ」
彼からの問いには答えずに、私がそう忠告すると橘君はなぜか訝しげな顔をした。
「…彼女? …もしかして沙織のことを言っているのか?」
「そのサオリさんとやらを私は知らないけど、夏休みに会った美人さんと復縁でもしたんでしょ?」
「…していないが。去年の夏に別れたっきりだし、復縁する気もない」
「…………どういうことよ」
橘君はフリーなのに牽制してきたのかあの人達。
それともあの彼女さんが牽制かけろと頼んで……いや流石にそれはないでしょー。
あの時私ははっきりクラスメイトだと言ったわけだし。
「…橘君、木場さんや巻野さんって…そのサオリさんとやらのお友達かな?」
「……皆、中学の時のクラスメイトだ」
「…………」
うーん、ゲームの中では語られなかった話がありそうだぞ? まぁ、橘君ほどのイケメンなら女が放っておかないよね…
つまり…あの二人は……友達のために牽制したってわけか。
うぅむ、と考え込み始めた私だったが、橘君が何かを探る目で私を見ていたのに気づかなかった。
★☆★
翌日、文化祭初日の朝。
今日は遅番なんだけど、開始前の準備は皆で行うことになっているのでジャージ姿でメイド喫茶の準備をしていた。
早番の人はもう既にドレスアップしており………
女子はともかく男子の仕上がりはすごかった。
身体の線が細いならまだいいが、高3にもなると男女の差は激しくなる。つまり女装に限界が見られるのだ。
クラスで一番小柄な男子だったらまだ、ギリギリ女子に見えないこともない……ちょっと肩幅が広い女子だと思えば。
「ちょっとあんた達! お客の前でそんなしけた顔しないでよ?」
この男女逆転執事メイド喫茶の発案者が執事服姿でそう念押しをすると、女装メイド達は死んだ目で頷いていた。
一部女装に目覚めた系男子がいるけど、大体の男子はテンションだだ下がりである。
私は彼らを憐れみの目で見つめていたのだが、教室の外から「アヤちゃんせんぱーい!」と元気な声がかかった。
そっちに目を向けると、どこかで見た映画のキャラクターのような格好をした沢渡君がニコニコ笑顔で何かが入った紙袋を掲げていた。
「沢渡君、どうしたの?」
「これ! 準備出来たんで使ってください! ウチの父さんの伝手で借りてきました!」
「え…?」
伝手?
なんだろうかと彼から紙袋を受け取って中身を見るとそこにはギャルソン服が入っていた。白いYシャツと黒いベスト、腰巻きエプロンにスラックス。
「執事服は流石になかったんですけど…ギャルソン服のデザインは男女兼用だし、アヤちゃん先輩、主に調理担当って言ってたからこの方が動きやすいでしょ?」
「…沢渡君…」
「イケメンなアヤちゃん先輩見るの楽しみにしてますんで!」
「…ありがとう」
彼は「早番だから!」と言って元気よく立ち去っていった。
私は後輩の親切にほっこりしながらギャルソン服を取り出したのだが袋のそこにまだなにか入っている。
「……?」
それを掴むとゆっくり持ち上げた。
紺色の生地の膝丈ワンピースドレスに白いフリフリのエプロン、白いタイツにヘアドレス……
「……沢渡君?」
道理で袋が重いと思った。
誰がメイド服を必要としましたか。私は男装しないといけないのだよ。
「それ可愛いじゃん。せっかくだから着てみなよ。あやめ」
「でも」
「あんた今日遅番だし、宣伝ついでにそれで文化祭見て回ったら?」
初日の今日は友人の智香ちゃんとシフトが合わない私は、一人で文化祭を見て回る予定だった。他のクラスの友達とも都合が合わなくてね…
一人で回るのにこれを着るのはハードルが高いけども……でも一度メイド服って着てみたかったんだ。
これメイドっていうか色違いの不思議の国のア○スみたいな服だけど。
交代時間前にギャルソン服に着替えたらいいだけだし、これ着てお礼がてら沢渡君に見せに行こうかな。
大切なギャルソン服は鍵付きロッカーに入れて厳重に保管しておいた。
いよいよ高校最後の文化祭が始まる。
私はメイド服に着替えるとノリノリで出かけていった。ちゃんとウチの宣伝用チラシを持って。
当然のことだがメイド姿の私は目立った。その姿ですれ違う人にチラシを配って回っていると、衣装効果でチラシを受け取ってくれるから良かった。
しかし私がメイド服着てることで勘違いして、うちのクラスに入った瞬間別世界だったら……苦情とか来ないよね?
女子は宝塚みたいでかっこいいのよ! 男子は目を細めたら可愛く見えるはず!
チラシを粗方配り終えた私は沢渡君のクラスのお化け屋敷に顔を出して、○ャッキー扮する沢渡君と写真を撮影した。
幼馴染とヒロインちゃんは遅番らしく姿が見えなかったのが残念だが致し方ない。
その後、部活の出し物を見たり、室戸さんのクラスに顔を出して一緒に写真撮ったりして文化祭をエンジョイしていたのだけど、私はお花を摘みたくなってきた。
文化祭が開催されている側の女子トイレは満員御礼。
私は慌てて別校舎の人気のないトイレへと駆け込んでいった。
化粧直しとか諸々を済ませて戻ろうとしたその時、私は弟が良からぬ男たちに囲まれているのを見かけてしまった。
もしかしてあれが弟を非行に誘った不良たちだろうか。
様子を窺っているうちに雲行きは怪しくなり、弟は袋叩きにされ始めた。
大勢で袋叩きとはなんてことを!
慌てた私はすぐに飛び込もうとしたが、一旦冷静になってスマホを取り出した。
彼も今日は遅番だからすぐに駆けつけてくれるはず。
電話を掛けるコール音が妙に長く感じた。
『もしも…』
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『は? おま』
彼の返事を待たずに電話を切ると私は弟リンチ現場にメイド服姿で飛び込んでいった。
「私の弟に何してくれとんねん!」
私は後先を考えずに、近くにいた男に向かって勢いよく飛び蹴りをかましてやった。
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