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もしも彼と同じ年なら【4】
しおりを挟む「きゃあ!」
「!?」
親方ー! 空から女の子がー!
……ちょっとまってぇ!? ここに攻略対象はいませんよ!?
文化祭の準備に奔走していると階段からヒロインちゃんが転落してきた。
説明が適当すぎて意味がわからないと思うが、私も意味がわからない。
しかも、今私は見てしまった。
ヒロインちゃんが階段を落ちた理由…
一個年下である幼馴染の彼女だったと思う。背の高いモデル体型の生徒なんて数えるくらいしかいないから、多分見間違いではない…はず。
私はその場で仁王立ちをして両手を広げて待ち構えた。
そしてヒロインちゃんを受け止め…きれずにそのまま転倒した。
意識を取り戻したときには私は家のベッドにいた。
何だ夢か…と思ったんだけどめっちゃ後頭部が痛い。ついでに背中も痛い。
私が起きたことにホッとした母さんによって病院に連れて行かれたり安静にさせられたりしたのだけど、私が意識を失って目覚めるまでの間に事態は動いていたらしい。
「…大志の彼女が?」
「そうなの。あやめが助けた女の子に嫉妬してわざとぶつかったんですって…さっき謝罪に来たけど……もしものことがあったらどうしてくれようかしら」
両親は大変お怒りであった。
ヒロインちゃんは無傷だったらしい。…良かった。
私がしたことは確かに賢い方法ではないけど、ヒロインちゃんだって打ちどころが悪かったら大変なことになっていたはずだ。
まだ安静に…と母さんに引き止められたが、授業が遅れるし文化祭準備があるからと断って私は事件勃発三日後から登校した。
「田端さん! 大丈夫?! 二年の痴話喧嘩に巻き込まれたんだってね!」
「……それ広まってるの?」
教室に入るなりクラスメイトが心配して駆け寄ってきた。
三年のクラスまでその話題が広まっていたらしい。
「一昨日山浦君とその元カノが正門前で口論してたから学校中に広まってんじゃない?」
「怪我はもういいの? あまり無理しないで?」
「……ありがとう」
マジか。ていうか別れちゃったのか。
…あいつ正門前で一体何を話したんだろうか。
登校してきた友人に休みの間のノートの写メのお礼を言ったり、ここ数日の文化祭の準備の進捗について聞いていると、そこへ登校してきた橘君が声を掛けてきた。
「田端、もう平気なのか?」
「あ、うん。おはよ橘君」
「おはよう。二年の本橋が毎日お前を訪ねて来てたぞ」
「ヒロ…本橋さんが?」
あらら、心配掛けさせちゃったかな。
ヒロインちゃんのお母さんからも連絡があったみたいだから一応こっちの状態は母さんの口から聞かされているとは思うんだけど…あとで二年のクラスに行くか…
「田端! 可愛子ちゃんが来てるぜ!」
「…あ」
クラスの男子がはしゃいだ様子で私を呼んだので振り返ると、出入り口付近で申し訳無さそうな表情をしているヒロインちゃんの姿があった。噂をすれば影か。
私が彼女に近づくとヒロインちゃんはすぐに頭を下げて謝罪してきた。
「私のせいで本当にすみませんでした!」
「あ、いやいやあなたも被害者なんだし」
「だけど田端先輩、受験生なのに…」
うるうると涙目で謝罪された。
そんなヒロインちゃんも可愛いけども泣かないで~…まるで私が泣かせてるみたいだから……
「花恋!? どうしたんです!」
「おいてめぇ! 何泣かせてんだ!」
「……あ゛?」
オロオロと彼女が泣かないようにフォローしていた私の前に突如二人の男が現れた。
一人はヒロインちゃんの肩を抱いて慰め、もう一人は私を怒鳴り、睥睨してきた。
事情も知らないくせに濡れ衣を着せられた私はイラッとしたので相手を睨み返した。
「……事情も知らないうちから相手を疑ってかかるってどういう了見なの?」
「花恋が泣いてるんだ。お前がなにか言って泣かせたんだろ。大方花恋の事を妬んだんだろうけどよ」
「はぁ?」
何言ってんだこいつ。
私は思わず半眼になった
「……ちが、田端先輩は何も悪くないんです」
「花恋、こんな人間を庇わなくても大丈夫。俺が守ってあげます」
「だから」
「おいお前、今後花恋に近づくんじゃねーぞ」
「………」
話が通じねー。ヤダーもう完全に私が悪者じゃないですか~。
「おい。お前達、彼女に失礼だと思わないのか」
「あーいい、いい。相手するだけ時間の無駄だから。とにかくもう大丈夫だからクラスにお帰り?」
一部始終を見ていた橘君が私を庇おうとしてくれたが、私はそれを抑えてヒロインちゃんにそう告げると教室に戻っていった。
「田端、あのままで良いのか?」
「ていうかあの坊っちゃん方と関わりたくない」
あの二人も乙女ゲームの攻略対象なんだが、その時から好きじゃない。特に生徒副会長の伊達志信が。
私が彼の許嫁である小石川雅のファンであることもあるんだけど、それを抜きにしてもなんかいけ好かないんだよね。
生徒会長の間克也も少々傲慢なのでそこまで好きじゃない。
二人共攻略対象としてイケメンだし、家柄も素晴らしい人なんですけどねええ。
あんなに盲目な人間とは思ってはいなかったからちょっぴり、一ミクロンくらいショックだわ。
……朝からなんだか疲れた。
★☆★
私が休んでいた間にも文化祭の準備は進んでいたようだ。頼んでいた衣装も全員分届いたので、私も試着して軽く直したり。
皆が準備している間に私は調理室を借りて試作品メニューをいくつか作成すると、教室で試食をさせて意見を募った。
もう少しお菓子を増やしたほうが良いだろうか。
甘いのがダメな人もいるからそんな人が食べられる軽食…
作り置きが出来るものを用意する必要があるな。
「あやめー!」
「……大志?」
「もう終わる? 荷物持ってやるから帰ろうぜ」
ひょっこり覗き込んできた巨人に皆がぎょっとしていた。
背だけはにょきにょき伸びた幼馴染は188cmの長身。無駄にでかい。
私はつかつかと大志に近づくと仁王立ちして相手を睨みつけた。
「呼び捨てじゃなくてお姉さまとお呼び」
「はぁ? あやめは姉ちゃんじゃねぇじゃん」
「姉弟みたいなもんでしょう。私はまだ終わらないから先に帰りなさい。私はもう大丈夫だから」
「でも」
「いいから帰りなさい」
「んだよ姉貴風吹かせて…可愛くねーな」
「あんたに可愛いと思われなくて結構」
シッシッと幼馴染を追い払うと、私は片付けしようと試作品の載った皿を回収していく。
調理室で使った器具も洗わないと。
「田端、俺が片付けておくからお前はもう帰ったらどうだ?」
「大丈夫だよ。頭の痛みは大分マシになったし。他にも片付けるものがあるから自分でやるよ。でもありがとう」
橘君の気遣いは嬉しいが、休んでいた分自分も沢山働きたいのだ。
なんたって高校最後の文化祭だからね。青春を満喫したいのだよ。
「なら手伝う」
「あ、ちょっと」
橘君は私の手から皿を取り上げ、スタスタと歩き出してしまった。
意外と強引なところがあるなこの人。
「ちょっと!」
「こんな時くらい人に甘えておけ」
「別に無理してないんだけど」
「わかったわかった」
橘君は片付けの手伝いをしてくれたが、その手際は悪く、それを指導しながらだったのでかなり時間がかかった。
ぶっちゃけ自分がやったほうが早いと思ったが、彼の気遣いを無駄にするのは失礼かなと思って。
すべて片付け終えて帰る頃には外が暗くなっていた。
「楽しみだね文化祭」
「……………そうだな」
「ほらほらずっとメイド服ってわけじゃないじゃん! 自由時間は制服に戻って好きな所見て回れるし!」
「………最後の文化祭がこんななんて…」
「心頭滅却すれば火もまた涼しっていうでしょ!」
橘君が鬱っぽくなっていたので慰めながら帰った。
橘君を好きな女子は彼の女装を見てどんな反応するのかな。萌えるのか、冷めるのか。
気になる所である。
文化祭まであと僅か。
まさか、文化祭であんなことが起きるなんて私達は全く想像していなかった。
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