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もしも彼と同じ年なら【1】
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あやめと彼が同じ学年だったら?
ーーーーーーーーーーーーーー
「あの…職員室はどこになりますか」
「え…」
「私、転入生なんですけど、まだ学校のことよくわからなくて…」
彼女を目にした瞬間、私の中である記憶が流れ込んできた。
それはいわゆる“乙女ゲーム”というもの。
彼女をヒロインとして様々な男性との恋を描いた恋愛シミュレーションゲームだ。
前世の自分がプレイしていたそれのヒロインが目の前に立っていた。
今の私は田端あやめ。
そして私のポジションはモブ。但し攻略対象の不良系美形の地味で卑屈なモブ姉という…
そうモブなんだけどさ……
「……ここの、建物入って右に真っすぐ行ったらすぐ着くよ」
「ありがとうございます!」
花のように笑む美少女を見送り、私は遠い目をしていた。
乙女ゲームの田端和真の姉は一学年上。明後日に弟は新一年生としてこの高校に入学してくるのだ。
なーのーにー……私は今年度から三年になる。
弟の二学年上なのだ。
どういうことなのー? しかも本来なら女子校に入っているはずなのに。
バグか? 私はこの世界の異物なんか?
ていうか私、今年攻略対象と同じクラスじゃないの。……乙女ゲームのイベント傍観できたりして。
「……とりあえず、対策としてイメチェンするかな!」
美形な弟に比べて地味系な私は防衛策として高三にしてイメチェンに走ることにした。
「……田端、染髪も化粧も校則違反だ。戻してこい」
「橘君、黒板見えないから前に立たないで」
「…すまん」
一時間目の授業が終わったあと、黒板の内容を急いで書き写している私の目の前に一人の男子生徒が立ちはだかったが私は華麗にスルーしてやった。
ゲームでは深くまでその性格はわからなかったけども、イメチェンから初めて登校した日に即注意なんて真面目だなぁ風紀副委員長。
ノートを書き終えると私は机の横で待機していた彼を見上げた。
まだいたのか君。
「…そういや橘君、二年の転入生見た?」
「は? …転入生?」
「めっちゃ美少女だったから今から見に行かない?」
「…話をすり替えようとしても無駄だぞ」
「風紀違反に関しては本当に申し訳ないと思っている。だけど戻せない事情があるのだよ」
「…事情?」
「一年の田端和真を見たらわかるよ。すんごい美形なんだ。…美形な兄弟がいる地味な人間ってどんな扱いされるか知ってる?」
私の問いに橘君…乙女ゲーム攻略対象の風紀副委員長は訝しげに眉をしかめた。
「とにかく私は戻さない。何度言ってきても無駄だよ。早く諦めてね?」
私は反抗的な態度でそう言ってやった。
そして君はヒロインちゃんとのイベントを起こしなさい。体育祭でイベントを私に見せなさい。
それが君の役目だ! 風紀取締なんてしなくてよろしい!
「……取り敢えず田端、お前昼休み風紀指導室に来い」
「…なんだと?」
呼び出しされてしまった。
☆★☆
「ほわっつ!?」
「田端と橘が1000メートルリレーな」
「待って待って! じゃんけん、石野が遅出ししたよ!」
「はぁ!?」
「だからやり直し…」
「次はパン食い競走の走者決めるよ」
「無視しないで! 石野が不正を行ったんだよ!!」
待って、これじゃ私がヒロインちゃんと同じレースに参加する可能性があるじゃないの!
私はヒロインちゃんの妨害なんてしたくないの!
ただ観察がしたいだけなのよ!
…しかも最後の競技とか…超プレッシャーじゃないの!
泣いても喚いても私は1000メートルリレーの走者として選抜されてしまった。
乙女ゲームのストーリーが狂う! と冷や汗をかいていた私だが、強制力の働きなのか同じ黄色ブロックのヒロインちゃんと同じクラスの男子と同じレースに組分けされた。
良かったー本当に良かった。
「よろしくおなしゃーす!」
「…よろしく…沢渡君?」
「先輩先輩、下のお名前なんて言うんすかー?」
「……あやめだけど」
「じゃーアヤちゃん先輩だ!」
「…あ、あやちゃん…」
同じレースに参加する二年の走者がチャラ男だったので「うわ、苦手かも」と思っていたんだけど、リレーの練習しているうちに馴染んだ。悪い子ではない気がする。
ただ女好きな所が玉に瑕だけど。
一方橘君はヒロインちゃんと同じ組み合わせのレースだそうな。練習が同じ時間なので私は盗み見をしている。
橘君に「ヒロインちゃんにフォーリンラブ? フォーリンラブした? ねぇねぇ」と聞いてみたいが、怒られそうなのでやめておく。
体育祭はかったるいけど、イベントが超楽しみだ。
晴天に恵まれた体育祭当日、私はアクシデントに見舞われた。
体育祭は我が黄色ブロックは最下位。
最後の1000メートルリレーで2レースとも1位になれば逆転優勝が望めるが……
だがしかし、第1走者がスタートダッシュで出遅れてしまい、その間に他のブロックの走者と距離を離されてしまったのだ。
黄色ブロックから投げかけられる容赦ないブーイングに私はぎくりとした。これで最下位とかなったら袋叩きに遭うかも…
なんとか巻き返しを図るために死に物狂いで走って第4走者の沢渡君へとバトンを渡すと、トラック内に入るなりドシャアと地面に倒れ込んだ。
「お、おい田端大丈夫かお前」
「……パト○ッシュ…僕もう疲れたよ…」
「……冗談言えるなら大丈夫だな」
橘君が心配して声を掛けてくれたが、私は足とか肺とか喉とか心臓が痛くて動けなかった。
あーイベント見ないといけないから早く回復しないと…
「アヤちゃんせんぱーい! 見てみて俺1位とったよ~」
「…おーすごいすごい。えらいえらい」
いつの間にかゴールしていたらしい沢渡君が褒めてと言わんばかりに駆け寄ってきたので私は頭を撫でてやった。
彼の活躍を見てないけど1位ってことはこの子運動神経良いんだな。
引き続き2レース目が始まったのだが、出だしから不安なスタートだった。
小柄な一年女子がプルプル震えているのは視界に入っていたが、彼女は足が遅かった。
そんでもってここでもアクシデント発生。バトンパスを失敗してしまい、さっきと同じ状況になってしまったのだ。
黄色ブロックからのブーイングに半泣き状態で震えて戻ってきた彼女。今にも泣き出してしまいそうだ。
私は近くにいた橘君の背中を思いっきり叩いた。
バッシーン!
「いっ…」
「後はよろしくね」
彼に後を託し、小動物みたいな一年女子にそっと声をかける。
「大丈夫だよ。最終走者の橘君が巻き返すから。もしも巻き返さなかったら私が責任持ってシバくよ」
「……おい…」
「わ、わたし…」
「なんか言ってくる奴らは黙らすから泣かないの」
小動物を抱きしめてあげて背中を撫でる。よしよしと頭を撫でてあげたら少し泣いていた。
全く。普段は運動に熱が入らないくせに最後の最後で殺伐する奴らはなんなんだ。今までの競技で自分は優秀な成績を収めたのか? って問い詰めたくなるわ。
レースは第3走者のヒロインちゃんに代わったが……足おっそいなぁ…
彼女が一生懸命に走っているのはわかる。だけど遅い。
これは益々男気を見せないといけないね。攻略対象様?
「あ、」
どしゃあ! とヒロインちゃんがずっこけた。
私はハッとしたけども、彼女は諦めること無くガバッと起き上がると走るのを再開した。
………あれっ!? イベントは!? 足捻って動けなくなるはずだよね!?
最後の走者となってしまった橘君になんとかバトンを渡したヒロインちゃん。
橘君がスタートダッシュを見せたのだが、私は彼の勇走には目が行かず、慌ててヒロインちゃんに声を掛けた。
「だ、大丈夫!?」
「……すいません…私頑張ったんですけど…どうして私ドジなんだろ…」
ドヨーンと凹み始めたヒロインちゃん。
こりゃいかん。
あなたは自分のできる範囲で頑張ったよ。そんな気落ちしないで。
「だけど最後まで諦めずに走ったじゃん。大丈夫、橘君がきっと1位になるよ」
「だけど、あんなに離されて……あれ」
「…ぐんぐん抜いてるね」
ヒロインちゃんと一緒に現在のレース状況を確認すると、橘君が暫定2位になっていた。1位を追い抜く勢いである。
足速いなぁ。剣道部ってそんなに走ることあるっけ?
ゴール付近でとうとう先頭になり、橘君はトップでゴールした。
それには黄色ブロックから大歓声が上がる。
「ちょっとちょっとやるじゃん橘君! すごいすごい!」
「…1位にならないとお前にシバかれる所だったからな」
「まったまたー女の子たちのために頑張ったんでしょ? やっさしーじゃん!」
トラック内に戻ってきた橘君にそう声を掛けていると、彼は微笑んだ。
彼の笑みを目の当たりにした私はぴしりと固まる。
……そう言えば笑う顔正面から見るの初めてかも。
「お前だってそうだろ?」
「え?」
なにが?
彼の笑みに衝撃を受けてポカーンとしていると彼と同じレース走者だった女子二人が半泣き顔で頭を下げて謝罪をはじめた。
「橘先輩すいません!」
「ありがとうございます!」
「気にするな。お前たちは十分頑張った」
そう言って二人に気負わないように優しい声を掛けていた。
ワァオ…イッケメェン……
流石攻略対象様である。
「勝てねぇなぁ…」
「…俺とお前は味方同士だろうが」
私のつぶやきが聞こえていたのか、橘君に冷静に突っ込まれた。
そういう意味じゃないよ。えーこれ橘君ルート間違いないでしょ!
近いうちにイベントで事故チューがあるんだよね! オラわくわくすっぞ!
その後優勝した黄色ブロックはお祭り騒ぎだ。
MVPとして表彰された橘君は沢山の生徒に囲まれてワチャワチャ楽しそうだった。
私はヒロインちゃんの姿が見えないのが気になって、彼女を探していたのだけど…ヒロインちゃんが生徒会会計の男に声を掛けられている姿が見えた。
げ。あいつ下半身節操なし攻略対象じゃないの。
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「あの…職員室はどこになりますか」
「え…」
「私、転入生なんですけど、まだ学校のことよくわからなくて…」
彼女を目にした瞬間、私の中である記憶が流れ込んできた。
それはいわゆる“乙女ゲーム”というもの。
彼女をヒロインとして様々な男性との恋を描いた恋愛シミュレーションゲームだ。
前世の自分がプレイしていたそれのヒロインが目の前に立っていた。
今の私は田端あやめ。
そして私のポジションはモブ。但し攻略対象の不良系美形の地味で卑屈なモブ姉という…
そうモブなんだけどさ……
「……ここの、建物入って右に真っすぐ行ったらすぐ着くよ」
「ありがとうございます!」
花のように笑む美少女を見送り、私は遠い目をしていた。
乙女ゲームの田端和真の姉は一学年上。明後日に弟は新一年生としてこの高校に入学してくるのだ。
なーのーにー……私は今年度から三年になる。
弟の二学年上なのだ。
どういうことなのー? しかも本来なら女子校に入っているはずなのに。
バグか? 私はこの世界の異物なんか?
ていうか私、今年攻略対象と同じクラスじゃないの。……乙女ゲームのイベント傍観できたりして。
「……とりあえず、対策としてイメチェンするかな!」
美形な弟に比べて地味系な私は防衛策として高三にしてイメチェンに走ることにした。
「……田端、染髪も化粧も校則違反だ。戻してこい」
「橘君、黒板見えないから前に立たないで」
「…すまん」
一時間目の授業が終わったあと、黒板の内容を急いで書き写している私の目の前に一人の男子生徒が立ちはだかったが私は華麗にスルーしてやった。
ゲームでは深くまでその性格はわからなかったけども、イメチェンから初めて登校した日に即注意なんて真面目だなぁ風紀副委員長。
ノートを書き終えると私は机の横で待機していた彼を見上げた。
まだいたのか君。
「…そういや橘君、二年の転入生見た?」
「は? …転入生?」
「めっちゃ美少女だったから今から見に行かない?」
「…話をすり替えようとしても無駄だぞ」
「風紀違反に関しては本当に申し訳ないと思っている。だけど戻せない事情があるのだよ」
「…事情?」
「一年の田端和真を見たらわかるよ。すんごい美形なんだ。…美形な兄弟がいる地味な人間ってどんな扱いされるか知ってる?」
私の問いに橘君…乙女ゲーム攻略対象の風紀副委員長は訝しげに眉をしかめた。
「とにかく私は戻さない。何度言ってきても無駄だよ。早く諦めてね?」
私は反抗的な態度でそう言ってやった。
そして君はヒロインちゃんとのイベントを起こしなさい。体育祭でイベントを私に見せなさい。
それが君の役目だ! 風紀取締なんてしなくてよろしい!
「……取り敢えず田端、お前昼休み風紀指導室に来い」
「…なんだと?」
呼び出しされてしまった。
☆★☆
「ほわっつ!?」
「田端と橘が1000メートルリレーな」
「待って待って! じゃんけん、石野が遅出ししたよ!」
「はぁ!?」
「だからやり直し…」
「次はパン食い競走の走者決めるよ」
「無視しないで! 石野が不正を行ったんだよ!!」
待って、これじゃ私がヒロインちゃんと同じレースに参加する可能性があるじゃないの!
私はヒロインちゃんの妨害なんてしたくないの!
ただ観察がしたいだけなのよ!
…しかも最後の競技とか…超プレッシャーじゃないの!
泣いても喚いても私は1000メートルリレーの走者として選抜されてしまった。
乙女ゲームのストーリーが狂う! と冷や汗をかいていた私だが、強制力の働きなのか同じ黄色ブロックのヒロインちゃんと同じクラスの男子と同じレースに組分けされた。
良かったー本当に良かった。
「よろしくおなしゃーす!」
「…よろしく…沢渡君?」
「先輩先輩、下のお名前なんて言うんすかー?」
「……あやめだけど」
「じゃーアヤちゃん先輩だ!」
「…あ、あやちゃん…」
同じレースに参加する二年の走者がチャラ男だったので「うわ、苦手かも」と思っていたんだけど、リレーの練習しているうちに馴染んだ。悪い子ではない気がする。
ただ女好きな所が玉に瑕だけど。
一方橘君はヒロインちゃんと同じ組み合わせのレースだそうな。練習が同じ時間なので私は盗み見をしている。
橘君に「ヒロインちゃんにフォーリンラブ? フォーリンラブした? ねぇねぇ」と聞いてみたいが、怒られそうなのでやめておく。
体育祭はかったるいけど、イベントが超楽しみだ。
晴天に恵まれた体育祭当日、私はアクシデントに見舞われた。
体育祭は我が黄色ブロックは最下位。
最後の1000メートルリレーで2レースとも1位になれば逆転優勝が望めるが……
だがしかし、第1走者がスタートダッシュで出遅れてしまい、その間に他のブロックの走者と距離を離されてしまったのだ。
黄色ブロックから投げかけられる容赦ないブーイングに私はぎくりとした。これで最下位とかなったら袋叩きに遭うかも…
なんとか巻き返しを図るために死に物狂いで走って第4走者の沢渡君へとバトンを渡すと、トラック内に入るなりドシャアと地面に倒れ込んだ。
「お、おい田端大丈夫かお前」
「……パト○ッシュ…僕もう疲れたよ…」
「……冗談言えるなら大丈夫だな」
橘君が心配して声を掛けてくれたが、私は足とか肺とか喉とか心臓が痛くて動けなかった。
あーイベント見ないといけないから早く回復しないと…
「アヤちゃんせんぱーい! 見てみて俺1位とったよ~」
「…おーすごいすごい。えらいえらい」
いつの間にかゴールしていたらしい沢渡君が褒めてと言わんばかりに駆け寄ってきたので私は頭を撫でてやった。
彼の活躍を見てないけど1位ってことはこの子運動神経良いんだな。
引き続き2レース目が始まったのだが、出だしから不安なスタートだった。
小柄な一年女子がプルプル震えているのは視界に入っていたが、彼女は足が遅かった。
そんでもってここでもアクシデント発生。バトンパスを失敗してしまい、さっきと同じ状況になってしまったのだ。
黄色ブロックからのブーイングに半泣き状態で震えて戻ってきた彼女。今にも泣き出してしまいそうだ。
私は近くにいた橘君の背中を思いっきり叩いた。
バッシーン!
「いっ…」
「後はよろしくね」
彼に後を託し、小動物みたいな一年女子にそっと声をかける。
「大丈夫だよ。最終走者の橘君が巻き返すから。もしも巻き返さなかったら私が責任持ってシバくよ」
「……おい…」
「わ、わたし…」
「なんか言ってくる奴らは黙らすから泣かないの」
小動物を抱きしめてあげて背中を撫でる。よしよしと頭を撫でてあげたら少し泣いていた。
全く。普段は運動に熱が入らないくせに最後の最後で殺伐する奴らはなんなんだ。今までの競技で自分は優秀な成績を収めたのか? って問い詰めたくなるわ。
レースは第3走者のヒロインちゃんに代わったが……足おっそいなぁ…
彼女が一生懸命に走っているのはわかる。だけど遅い。
これは益々男気を見せないといけないね。攻略対象様?
「あ、」
どしゃあ! とヒロインちゃんがずっこけた。
私はハッとしたけども、彼女は諦めること無くガバッと起き上がると走るのを再開した。
………あれっ!? イベントは!? 足捻って動けなくなるはずだよね!?
最後の走者となってしまった橘君になんとかバトンを渡したヒロインちゃん。
橘君がスタートダッシュを見せたのだが、私は彼の勇走には目が行かず、慌ててヒロインちゃんに声を掛けた。
「だ、大丈夫!?」
「……すいません…私頑張ったんですけど…どうして私ドジなんだろ…」
ドヨーンと凹み始めたヒロインちゃん。
こりゃいかん。
あなたは自分のできる範囲で頑張ったよ。そんな気落ちしないで。
「だけど最後まで諦めずに走ったじゃん。大丈夫、橘君がきっと1位になるよ」
「だけど、あんなに離されて……あれ」
「…ぐんぐん抜いてるね」
ヒロインちゃんと一緒に現在のレース状況を確認すると、橘君が暫定2位になっていた。1位を追い抜く勢いである。
足速いなぁ。剣道部ってそんなに走ることあるっけ?
ゴール付近でとうとう先頭になり、橘君はトップでゴールした。
それには黄色ブロックから大歓声が上がる。
「ちょっとちょっとやるじゃん橘君! すごいすごい!」
「…1位にならないとお前にシバかれる所だったからな」
「まったまたー女の子たちのために頑張ったんでしょ? やっさしーじゃん!」
トラック内に戻ってきた橘君にそう声を掛けていると、彼は微笑んだ。
彼の笑みを目の当たりにした私はぴしりと固まる。
……そう言えば笑う顔正面から見るの初めてかも。
「お前だってそうだろ?」
「え?」
なにが?
彼の笑みに衝撃を受けてポカーンとしていると彼と同じレース走者だった女子二人が半泣き顔で頭を下げて謝罪をはじめた。
「橘先輩すいません!」
「ありがとうございます!」
「気にするな。お前たちは十分頑張った」
そう言って二人に気負わないように優しい声を掛けていた。
ワァオ…イッケメェン……
流石攻略対象様である。
「勝てねぇなぁ…」
「…俺とお前は味方同士だろうが」
私のつぶやきが聞こえていたのか、橘君に冷静に突っ込まれた。
そういう意味じゃないよ。えーこれ橘君ルート間違いないでしょ!
近いうちにイベントで事故チューがあるんだよね! オラわくわくすっぞ!
その後優勝した黄色ブロックはお祭り騒ぎだ。
MVPとして表彰された橘君は沢山の生徒に囲まれてワチャワチャ楽しそうだった。
私はヒロインちゃんの姿が見えないのが気になって、彼女を探していたのだけど…ヒロインちゃんが生徒会会計の男に声を掛けられている姿が見えた。
げ。あいつ下半身節操なし攻略対象じゃないの。
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