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もしもあやめが男なら【12】

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 弟のクラスに顔を出すと阿鼻叫喚となった。
 その頃にはフ○ディだから仕方がないと開き直っていた俺は頭に鉢巻きをしてクレープを焼いている和真に声かけた。

「よぉ。調子はどうだよ兄弟」
「…………兄貴?」
「そうだよ。優しいお兄様が来てやったぞ」

 鉤爪をシャリシャリ鳴らしながら笑顔でそう言うと和真は引きつった顔をしていた。
 余程俺の姿が怖かったのか、これやるからどっか行ってと締め出しを食らった俺は和真から貰ったバナナクレープを食べながらその辺を徘徊していた。

「あれっ、もしかして田端くん?」
「三栗谷。…陸上部たこ焼きやってんの?」
「うんっそう! 良かったら食べていかない?」

 いつの間にか部活動生の出店エリアに来ていたようだ。
 三栗谷は俺だとひと目で見抜いたらしい。弟は気づくのに時間がかかったというのにどういうことなのだろうか。

 たこ焼きを購入して飲食スペースで食べていると、「あっくん! やっと見つけた!!」とおこ気味の本橋が現れた。

「おー本橋。カジノは入れたか?」
「入ったけど…あっくんいないから全然楽しくなかった!」
「お前ディーラー目的で行ったんだろうが。会長と副会長はいなかったのかよ」
「違うもん! あ、そう言えばね、あっくんが整理券を譲った女の子、伊達先輩の婚約者なんだって!すごいきれいな子だったよね!」 

 …あれ?

「ちょっと会話したんだけど、本物のお嬢様って感じだったの! 伊達先輩にお似合いの婚約者さんだったなぁ」

 これ、副会長ルート外れちゃった感じ?

「それでね、あっくんに整理券のお礼を言っておいて下さいって言伝があったよ」
「…おー、そうか」

 まさか俺のせい? …いやいやまさか。
 俺はたこ焼きを食べながら小石川雅を思い出していた。
 うん、でも…あの子が好きな人と結ばれることになるんであればそれはそれでいいかな。本橋も特に副会長に恋心抱いているようには見えないし。

 目の前の本橋はフ○ディ姿の俺にキラキラした目を向けてくる。
 あの日以来俺を避けていたと言うのに、階段転落事件からまた以前のように俺に近づいてくる。何がお前をそうさせるのか。

 俺はため息を吐いて、最後のたこ焼きを本橋の口に近づけた。勢い余って唇に押し付けたのでソースとマヨネーズが本橋の口周りにべっとり付いてしまった。

「む、」
「食べたいなら頂戴って言えばいいだろ」
「ち、ちがうよ!」
「いいから食え」

 グイグイ押し付けていると渋々本橋がたこ焼きを食べたので俺は立ち上がってゴミ箱にトレイや竹串を捨てに行った。
 慌ててついて来た本橋は俺の逃走防止のつもりなのか、腕にひっついてくる。あら腕が幸せ。
 
 いつもそういうのやめなさいって言ってるのに。
 本橋を注意しようとあいつに顔を向けた俺だったが、思わず吹き出してしまった。

「…口周りにめっちゃ青のり付いてるぜお前」
「!? あ、あっくんのせいじゃないの!!」
「いてぇ!」

 脇腹をつねられた。
 文化祭終了時間まで本橋に連れ回され、俺はすっかり疲労困憊になっていた。
 男が女の買い物付き合いたがらない心理ってこれかな…


☆★☆

 二日間の文化祭は幕を閉じた。
 その後は在校生のみ参加の後夜祭だ。

『告白大会はーじまーるよ~!』

 運動場の中央で生徒会役員の久松が生徒会企画の出し物の開始を宣言していた。
 未だにフレデ○姿の俺は生徒たちが壇上で告白するのをぼんやりと眺めていた。そんな俺の腕には本橋がピットリくっついていたが、何言ってもやめないのでもう放っている。
 
 比較的後方で出し物ならぬ告白大会を眺めていたんだけど、俺達の元にとある人物が近づいてきた。
 
「花恋」
「あれ、間先輩?」
「ちょっと来いよ。話があるんだ」
「え? …だけど」

 今日で生徒会長引退の間克也だった。
 壇上にいないなと思ったらサボりですか。いいご身分ですこと。
 本橋は狼狽えていた。
 なんだけど、間会長はゲームそのもので強引な性格なため、本橋の腕を引っ張って連れて行こうとしている。
 
「ちょ、まっ」
「……会長、後夜祭終わるまで生徒会役員なのにサボっていいんスかー?」

 本橋が困っている様子だったので俺は口出ししてみた。
 すると俺の存在に今気づいたのか、はたまた気づいてたけど眼中になかったのか間会長がこっちに目を向けて…悲鳴を上げた。

「うわぁぁあああああ!?」
「!?」
「…あ、すいません俺のクラス、お化け屋敷だったんで」

 間会長の悲鳴に本橋だけでなく、近くにいた生徒がびっくりした顔で振り返っていた。
 間会長、俺様強引野性的イケメンなのに型なしである。

 ちょっと悪いことしたな。悪気はまったくなかったんだけどね。ほんとだよ。ぜーんぜんなかった。

「でも無理やりは良くないですよ。暗がりに連れ込んでアレコレしたいんでしょうけど…」
「う、うううるせぇよ!! なんなんだよお前気持ち悪ぃな!」

 間会長が騒いでいるのが聞こえたのか、『克也、今すぐ戻ってきなさい』と副会長がマイクで呼び出しした。
 大人数に見つかってしまった会長は仕方なしに、俺をきつく睨みつけると壇上に向かっていった。


「やべぇ怒らせた」

 ちょっと注意しただけなんだけど、あんなに睨まれるとは思わなかった。
 学年違うからまぁ、大丈夫かなー?

「あっくん…ありがとう」
「お前もその気ないならはっきり断ったほうが良いぞ。勿体振っているように見えるから」
「ち、違うもん! そんな事してない!」 

 ぎゅう、と俺の腕に抱きつく力を強める本橋。
 もうなんなの。そんなんじゃ襲われてもお前は文句言えない立場なのよ。
 ぐぐぐと引き抜こうとするけど、俺の手に指を絡めてロックしたぞコイツ。

「…もー…お前そんな事して襲われても知らないからなー…」

 警告のつもりで言ったんだけど本橋が「え…?」と小さく呟く。
 え…? ってお前わかってなかったんか。
 
「わかったなら離せよ、もー」
「あっくん…私、私ね…」
「2年A組本橋花恋さん! 好きです! 俺と付き合って下さい!!」

 大声の告白に、全校生徒が俺の腕にくっつく本橋に注目した。
 自動的に俺にも注目が集まるんだけどフレ○ィな姿に所々で悲鳴が起こっていた。二次被害がひどすぎる。なんかごめん。
 告白された本橋はといえば、目をまんまるにして壇上にいる男子生徒(遠くて顔が見えないし、名前も名乗ってないので誰かわからない)を見ていたが、俺の腕をギュウと握りしめて口を開いた。

「…ごめんなさい! わたし…私この人が好きなんです! だからお付き合いできませーん!!」
「…は?」

 なんか今とんでもない言葉が飛び出してきたんだけど。俺はぎょっとして本橋を見た。

「やっぱり私、あっくんが好き!」
「…いやいやいやいや…」
「あっくんが覚えてなくてもいいの。私、8歳の頃からずっとあっくんを想ってきた。あっくん以上の男の子には出会えなかったの…!」

 なんかグイグイ迫られてるんですけど。俺は自分の事なのにまるで他人事のように冷静に観察していた。
 何いってんだコイツ。
 俺以上の男なんて五万といるわ。
 ていうかあちこちから殺気が飛んできて俺は逃げたいです。

「本橋あのな、」
「いいの。あっくんは今そういう気がないのは分かってるから。でも私諦めないからね!」
「え…」
「絶対に振り向かせてみせるから!」


 なんでか俺への告白を始めた本橋。
 俺はこれは夢だと現実逃避したくて仕方がなかった。

 だけど夢ではなかったらしく、翌日から本橋のアタックがパワーアップして、俺は本橋狙いの男たちに睨まれることになった。
 
 本橋、お前は乙女ゲームのヒロインなんだぞ?
 モブとはくっつけないんだって!
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