乙女ゲームの影薄いモブのはずだけど、何だかどこかおかしい。

スズキアカネ

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もしもあやめが男なら【7】

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 中間テスト前なので俺は今、図書館の自習室にいる。
 朝イチから真面目に勉強していたら、思わぬ人物に声を掛けられた。

「田端君! 偶然だね。田端君もテスト勉強?」
「あー…うん」
「同席してもいいかな」
「…いいけど」

 ヒロイン乗っ取りを企んでいる疑いのある林道寿々奈だ。あっちもテスト勉強に来たらしい。
 俺の返事を聞くなり、正面の席に座って勉強道具を広げて勉強を始めた。あっちは俺に話しかけることもなく勉強をしていたのでちょっとホッとした。

 それからどのくらいか。
 多分一時間は過ぎた頃だと思うけど、静かに勉強している空間に賑やかな声が聞こえてきた。
 図書館では静かにしましょう。

「あれー? あいつ田端じゃない?」
「…あっくん…?」

 その声に俺の集中が途切れた。
 少々険しい顔になっていたかもしれない。顔をあげるとそこには久松と本橋の姿。
 お休みの日まで一緒とは仲がよろしいようで。

「えーなになに彼女~? 田端には勿体無いくらい可愛い子だね~」
「そんなんじゃねーし。林道が可哀相だからそういうのやめろ」
「えー?」
「もしも林道に好きな奴がいたとしたら誤解を産むかもしれないだろ。ていうか気が散るから他所行ってくれねぇ?」

 俺は前世と同じくこの久松が嫌いなようだ。コイツと会話してるとなんかイライラするんだもん。
 シッシッと犬猫を追い払うようにあしらったけど、久松の野郎は林道の隣に勝手に座っていた。
 人の話聞いてた?

「林道ちゃんって言うの~? きみ可愛いねー。今度遊ばなーい?」
「…どうも…いやいいです…」
「林道こっち来い。そいつに近づくと妊娠させられるぞ」

 ドン引きしている様子の林道にそう声を掛けると林道はすばやく荷物をまとめて俺の隣にやってきた。林道はこういうタイプが苦手か。奇遇だな。俺もだ。
 久松は「照れ屋さんだな~」とぼやいてるが引かれてんだよ。林道の引きつった顔見たらわかるだろ。お前の頭はめでたいな。
 そんでもって俺の正面…先程まで林道が座っていた席に本橋が座っていた。いや公共の場所だから俺がダメとか言える立場じゃないんだけどさ…この面々で勉強とか……気まずいと思うのは俺だけ?

 なるべく前の席は意識しないように勉強を再開した俺だったが、やっぱり気になる。集中できないわ。
 場所変えようかな。どうせ昼飯持ってきてないから外行くつもりだったし。
 そこでタイミングよく昼を知らせるチャイムが鳴ったので、俺は片付けを始めた。

「田端君、お昼どうするの?」
「んー…場所移動しようかなと思って。昼飯がてらファーストフードにでも行こうかな」

 林道にこの後のことを尋ねられたので、俺は帰る旨を伝える。
 目の前で久松と本橋がヒソヒソしてるのが気になって気が散るんだよ。 
 …俺マジでテストの点数落としたくないのよ。

 自習席はいっぱいだし、席移動は難しいし。
 場所移動するしか無いだろ?

「なら私も一緒に行ってもいい?」
「…いいけど、和真のことはいいのか?」
「えっ」
「好きなんだろ? 弟のこと。俺といたら変な勘違いされるかもよ?」

 そう指摘すると林道の頬は林檎みたいに赤く染まった。分かりやすいなコイツ。
 ていうかそういう可能性を考えないのだろうか。
 俺と一緒にいたら和真だけでなく同じ学校のやつが勘違いするかもしんないのに。

「え、それはないでしょ…」
「それに俺なにも協力してやれないよ?」
「そんな! そんな気はないよ! …いや、でも、和真君のことは教えてほしい…」
「…素直でよろしい」

 なら行くかと林道に声を掛けると「えっ!?」と本橋が声を上げた。俺は訝しげに本橋を見る。
 本橋が眉を八の字にして俺のこと見てくるけど…何だよ。

 お前はヒロインだろ。
 久松を攻略してるから一緒にいるんだろ。
 なんでそんな俺を責めるような目をしてんだよ。

「なに? なにか言いたいことあんの?」
「…だって…」
「お前久松と来てんだろ。午後はこの席ゆったり使ってくれていいから。じゃあな」

 本橋は泣きそうな表情をしていたがそれを見た俺はなんでか苛ついた。
 俺なにかした? ホント意味がわかんないんだけど。

 俺は荷物を持って席を立つ。林道が慌てて荷物をまとめて小走りでついてくる。

「田端君、いいの?」
「なにが」
「あの子…」
「いんじゃない?」

 林道が質問してくるけど、こいつにとっても願ったりなんじゃない? 久松ルートに行けば和真はヒロインに攻略されないんだから。

「お前だってこの方がいいだろ」
「え?」
「本橋が久松とくっついた方が助かるだろ?」
「それは…」
「俺勉強したいからもうやめね? 点数落としたくないのよ」
「う、うん…ごめん…」

 俺の「これ以上詮索するな」という圧を感じ取ってくれたのか、林道はそれ以上その話をしなくなった。
 そのままファーストフード店に入って昼飯を摂ると、予定通り勉強をした。
 自分の微妙に苦手な教科(英語)が林道の得意教科だったので教えてもらったのでありがたかった。
 お返しに向こうの苦手な物理を教え返しておいた。
 
☆★☆


 テスト期間が終わった。
 いくつか答案が返ってきたが、少し点数を落としてしまった。ゲームを没収されるレベルじゃないのが幸いだけども…いくつかケアレスミスがあって悔しい。
 …なんか、なんかあの事がちらつくんだよなぁ…

 俺はがっくりと項垂れていたのだが、沢渡が興奮した様子で「あっちゃん! あっちゃんちょっと!」と呼んできた。

「寿々奈ちゃんが呼んでるよ!」
「寿々奈? ……なんだ林道かどうしたよ」
「田端君! 聞いて欲しい話があるの!」
「なんだよ。どうせ和真絡みだろ」
 
 めんどくせぇと思いつつも、林道のお陰で英語の点数が上がっていたのを恩に感じていたので、俺は鞄を持って席を離れた。
 廊下に出ると一緒についてきた沢渡が俺の肩をガシッと掴んで問い詰めてきた。心なしか奴の目に妬みの色が宿っているのは気のせいじゃないと思う。
 ちょ、肩が痛いんだけど。痛い痛い。

「ちょっとあっちゃん! いつの間に寿々奈ちゃんと仲良くなったの!?」
「はぁ? こいつ和真が好きなだけだぞ」
「もうっ田端君! デリカシーが無いんだから!」
「お前隠してないじゃん」

 軽く突くと林道は頬を膨らませた。
 そうしてると余計幼くなって中学生に見えるなコイツ。 
 和真はロリには興味ないぞ。

「和真ってオトナな女が好きなんだけどなぁ…」
「年上!? よっしゃあ!」

 なんか勝手にポジティブ解釈されたけど放置しておく。

「で、なんだよ。聞いて欲しい事って」
「和真君の好物って唐揚げだよね?」
「…そうだな唐揚げだな」
「作っていったら喜んでくれなかったんだけど!」
「…まずかったんじゃないの」
「ひどい! お父さんは美味しいって言ってくれたもん!」

ばしっ
 腕を叩かれた。暴力イクナイ。
 俺は実際に食べてないから判断できないけど、林道の父親が娘可愛さで美味しいと言った可能性も否めないじゃない。

「聞いて欲しい事ってそれだけ? 俺今から沢渡とゲーセン行くからもう帰っていい?」
「もう! 田端君冷たい!」
「俺はクールな男だからね」
「そういう意味じゃない!」

 また林道にベシっと叩かれたが、俺は沢渡の鞄のご当地キャラキーホルダーを引っ張って沢渡とともに教室を出ていく。
 教室の中から本橋がこっちに目を向けているのに気づいていたけど、あの顔をする本橋を見たくなかったから俺は顔を背けた。
 
 攻略対象と親しくしてるくせに…あいつがよくわからないよ。 


 来週から文化祭の準備が始まる。
 俺はモブだから関わらないと決めていたのに、あんなことに巻き込まれるなんてこの時の俺は思ってもいなかった。

ーーーーーーーーーーー
未来のお義兄さん(仮)から落とそうとする寿々奈。
そして敦は何かを感じているものの、ヒロインを避けるように。
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