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Day‘s Eye 咲き誇るデイジー
閑話・望んでいないえにし【ルル視点】
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幼かった私の活動範囲は狭かった。
私を育ててくれた爺様もかなり年をとっていたため、身体が自由に動くというわけじゃなく、住んでいた巣穴の周辺の森に餌を狩りに行く程度。
爺様はドラゴンにしてはとても長生きした個体だった。そのため色々なことを知っていた。食べてもいい魔獣や獣、それと薬草類のこと、水場の探し方、危険な場所、この森の外の世界の話、人間たちの恐ろしさ…その他にも彼にはたくさんのことを学んだ。
爺様いわく、若い頃は血気盛んだったというが、私の知っている彼は穏やかだった。加齢で変色した鱗も白く濁った瞳も長い時を生きてきた彼の生きた証。爺様は孤独を知っている人だった。人間たちによる乱獲という理由があったにせよ、この広い森の中でひとりで生きるのは寂しかったと思う。
私にとって爺様は祖父であり父でもあった。私は口には出さないが思っていた。爺様が私の本当の父だったら良かったのにって。爺様ならあの父親のように家族を捨てなかったんじゃないかって。
身近な存在が運命の番を断ち切り、好きな女を選んだ姿を見て、ますますその思いは深まった。
■□■
チビたちに乳歯が生えた。この間まで歩くことすら覚束なかったのに今じゃ2匹であちこち走り回っている。人の子の成長は早いものだ。最近じゃ親の食べているものを欲しがってキャンキャン鳴いている。
仕方なく主が細かく切った肉を与えていると、木でできた匙まで食べる勢いでがっついていた。主としては野菜や魚も食べてほしいらしいが、身体が肉を欲しているのだろうと犬っころが言っていた。
狼の血が流れたチビ共にはやはり肉だな。自分の食事のために森へ入り、そのついでにチビ共への肉を狩って帰ることにした。
森の奥の方へ入っていくといくつもの獣の気配がした。
私は手頃な魔獣を捕まえてバリむしゃと食べる。やはり生き餌のほうが腹に貯まる気がする。満腹になるまで同じことを繰り返した。いつもと変わらない食事をしていただけなのだが、その日の私は珍しいものと遭遇した。
餌を飲み込んだその時、別の生き物の気配がした。私が気配を探ると、木々の影に何者かが突っ立っていた。──それはドラゴンたる私と形が似ていた。色こそ赤みがかった白で異なったが、おそらく同族のドラゴンであろう。ただ、私よりもだいぶ身体は小さかったが。絶滅の危機に瀕しているのに同族と遭遇するなんて珍しいことである。
──だがどうにもひっかかる。周りには私とその小さなドラゴン以外のドラゴンの気配がない。まだ親の庇護を必要とする子供がなぜ森の中で一頭佇んでいるのだろうか。
『おい、小童。親はどうした』
私が声をかけると子供がこちらを見た。
赤い目をしたドラゴンの仔だった。その子供を目にした時、私はなんとなく違和感を持ったが気のせいだろうと考えを振り払った。
子供は私を不思議そうに見上げて首をかしげていた。警戒心などは全くないまっさらな子供。このまま放置していたら密猟者に見つかって殺されるんじゃないだろうかという危機感さえ抱かせる。
『おとうさんとおかあさんがまいごになっちゃったの』
『お前が迷子になったんじゃなくてか』
こんな幼子を一頭にするとは随分不用意な親である。──一瞬、幼い頃の自分のことが頭をよぎった。まさかとは思うけど……
『おねえちゃんはどこのドラゴン?』
『私は西の国に住んでいる』
『わたしはね…』
無邪気な仔ドラゴンだった。初対面の相手に物怖じすることなくよくもここまでぺらぺらと話せるものだと逆に感心してしまうほどに。
だけど私も昔はそうだった。両親が健在だった頃は……無邪気だったあの頃を思い出して暗い気持ちに襲われる。あの男が去った後、狂って泣いて衰弱して死んでいった母のことを。母の遺骸の側で父が帰ってくるのを待っていた幼く愚かな自分のことを──…
空腹で力が入らなくなり、このまま寝てしまおうかと考えていた時やってきた一頭の老ドラゴン……爺様のことを。
ばさりと翼の羽ばたく音が聞こえ、私は我に返る。上空を見上げれば一頭の雌ドラゴンの姿。
『──あぁいた! 良かった探したのよ!』
仔ドラゴンと同じ色を持つその雌は母親であろう。仔ドラゴンの前に着地すると、仔ドラゴンは『おかあさん!』とくっついていた。
なんだ良かった。てっきり私と同じく親に捨てられた子供なのかと……
『あら…あなた…』
私の存在を認識した雌ドラゴンはまじまじと私を観察していた。
その視線の不躾さに不快感を抱いた私は目を細めて相手を見返した。──知らんな、会った記憶が全くない。
『彼と同じ匂いがするわ』
“彼”という単語に不穏なものを感じ取った私はぞわりとした。
──ゴウッ…
先程よりも強い風が身体を叩きつけてきた。風で舞う砂埃が目に刺さって痛くて目を眇める。風と砂埃が落ち着いてから目を開くとそこには、仔ドラゴンと再会できて喜ぶ雄ドラゴンの姿があった。
私と同じ金色の鱗。幼い頃の記憶。私と母を捨てた父親の姿とかぶった。あぁ、こいつは。
私は牙を食いしばり、グルグルグル…と唸った。
怒りを通り越して殺気を飛ばすと、相手はそれに反応し、子供と雌ドラゴンを守るように立ちふさがった。
大きくなったとはいえ、私のことを忘れることはあるまい。
自分と同じ血を継ぐ子供のことを。
『…お前は』
『お前が捨てた子供だよ……久しぶりだな』
──クソ親父。
主と野営をしていたときに出会ったみすぼらしい小娘が使っていた単語を使って呼びかけると、相手は嫌そうに顔をしかめていた。まさか私がなんとも思っていないとは思っていないよな? 恨まれることは重々の承知の上で私と母を捨てたんだろう?
まさかこんな場所で出会うことになるとは嫌な縁である。
『…元気そうだな』
『私と母を捨てて出ていったお前にまさかそんな言葉をかけられるとは思わなかったよ』
何様目線なのか。
私が友好的ではないと察したのだろう、父は難しい表情を浮かべた。
『…お前の母は…』
『死んだよ。あんたに捨てられて狂って衰弱して、私の目の前で死んだ』
相手の言葉を遮るようにして教えてやると父は閉口していた。自らがドラゴンという生き物なのだからそれくらいわかるだろう。番に捨てられたドラゴンの末路くらい。
これで満足か? どうせ捨てた雌のことなんてどうでもいいんだろうお前は。お前が大事なのは背中に隠した運命の番とその子供だけなんだろうが。母はお前が殺したようなものだ。
『私は衰弱死しかけたところを長老ドラゴンに保護されて育てられた。爺様もつい先日亡くなったがな』
お前よりも立派な父親だった。最後は密猟者から守ろうと文字通り身体を張って守ってくれた。
私は牙を剥き出しにして父を睨みつけた。ここで殺してやろうかという気持ちに襲われたのだ。ここで出会ったのも運命なのかもしれない。妻子の前で無様な姿をお披露目してやろうか。殺気を隠さず、戦闘態勢に出た私に身構えた父が妻子を庇おうと体勢を整える。
その、運命の番とやらに思うところもあるが、私が一番殺してやりたいと考えているのは父、お前だ。母の無念をここで晴らさずにおいてどうする?
『おねえちゃんはわたしのおねえちゃんなの?』
のんきな声が飛んできて私の気が散った。
父の運命の番に守られている子供が発した言葉であった。
『そんな可愛い存在じゃない。私はお前の父親に見捨てられた。殺されたようなものだ。お前よりもずっと幼い頃だった』
この父親と同じ血が流れていると考えるだけでおぞましい気持ちになる。この最低男の血が半分流れているのだぞ? 最悪である。
『母から夫を奪った雌と、運命の番のために妻子を捨てた父の血が流れたお前を可愛い妹だと思えるわけがないだろう? たとえお前が悪くなかったとしてもだ』
いくら子供といえど、私は甘やかしてはやらん。
お前は敵の娘のようなものだ。最低親父と略奪雌の血が流れた妹よ。
『私の妻子に危害を加えるならいくら娘でも容赦せんぞ! それでもいいならお前の挑戦を受け取ろう!』
まるで私が悪者のような言い方をするじゃないか。
運命の番を理由にして逃げたやつが何を偉そうに。縊り殺してやろうか。
目の前の雄の言動が滑稽すぎておかしくて私は嘲笑してしまった。
『獣人でな、同じように運命の番と出会った男を知っているが、そいつは昔から好いていた女を選んで運命を跳ね飛ばした。奴は呪いを断ち切ったんだ』
お前の都合を私達に押し付けるな。どんな理由があったにせよ、お前が裏切ったのは明白だ。運命を理由にするんじゃない…!
殺してやるつもりだった。だが、腹違いの妹の茶々とクソ親父の言葉に白けてしまった私はため息を吐き出すと方向転換した。もういいや、相手する時間が勿体ない。
『今度は殺す。私と遭遇せぬようビクビクしながら暮らすがいい……狂って死んだ母の気持ちをお前も味わいたいか?』
私が笑いかけると、父の後ろにいた雌ドラゴンが娘を庇っていた。警戒して私を睨みつけている。──殺すならまず父を殺すからそんなに警戒せずともいいのに。
『…お前から人間…獣人の匂いがする』
クソ親父は背中に向かって声をかけてきた。
私は振り向かずに前へ進んでいく。
『人間に混ざって生きるつもりか? お前、人間が我らドラゴンにしてきたことを知らないのか』
わかっているさ。育ててくれた爺様は人間によって殺された。
だけど私は知っているんだ。人間にもいいやつと悪いやつが居る。ドラゴンと同じだ。案外、人間に混じって暮らすのも楽しいもんだぞ。
『二度と会わないだろうが、次会った時は殺すからな』
クソ親父の問いかけには応えてやらなかった。
これ以上話したら口が腐ってしまう。
あー腹が立つな。
私はそのへんにいた鹿を生きたまま鈎爪で掴みあげるとそのまま主の住む村の方向に飛んでいった。また犬っころに血抜きしてこいって言われるかもしれんが、知らん。チビ達に食わせるんだから新鮮な方が良いだろうが。
私を育ててくれた爺様もかなり年をとっていたため、身体が自由に動くというわけじゃなく、住んでいた巣穴の周辺の森に餌を狩りに行く程度。
爺様はドラゴンにしてはとても長生きした個体だった。そのため色々なことを知っていた。食べてもいい魔獣や獣、それと薬草類のこと、水場の探し方、危険な場所、この森の外の世界の話、人間たちの恐ろしさ…その他にも彼にはたくさんのことを学んだ。
爺様いわく、若い頃は血気盛んだったというが、私の知っている彼は穏やかだった。加齢で変色した鱗も白く濁った瞳も長い時を生きてきた彼の生きた証。爺様は孤独を知っている人だった。人間たちによる乱獲という理由があったにせよ、この広い森の中でひとりで生きるのは寂しかったと思う。
私にとって爺様は祖父であり父でもあった。私は口には出さないが思っていた。爺様が私の本当の父だったら良かったのにって。爺様ならあの父親のように家族を捨てなかったんじゃないかって。
身近な存在が運命の番を断ち切り、好きな女を選んだ姿を見て、ますますその思いは深まった。
■□■
チビたちに乳歯が生えた。この間まで歩くことすら覚束なかったのに今じゃ2匹であちこち走り回っている。人の子の成長は早いものだ。最近じゃ親の食べているものを欲しがってキャンキャン鳴いている。
仕方なく主が細かく切った肉を与えていると、木でできた匙まで食べる勢いでがっついていた。主としては野菜や魚も食べてほしいらしいが、身体が肉を欲しているのだろうと犬っころが言っていた。
狼の血が流れたチビ共にはやはり肉だな。自分の食事のために森へ入り、そのついでにチビ共への肉を狩って帰ることにした。
森の奥の方へ入っていくといくつもの獣の気配がした。
私は手頃な魔獣を捕まえてバリむしゃと食べる。やはり生き餌のほうが腹に貯まる気がする。満腹になるまで同じことを繰り返した。いつもと変わらない食事をしていただけなのだが、その日の私は珍しいものと遭遇した。
餌を飲み込んだその時、別の生き物の気配がした。私が気配を探ると、木々の影に何者かが突っ立っていた。──それはドラゴンたる私と形が似ていた。色こそ赤みがかった白で異なったが、おそらく同族のドラゴンであろう。ただ、私よりもだいぶ身体は小さかったが。絶滅の危機に瀕しているのに同族と遭遇するなんて珍しいことである。
──だがどうにもひっかかる。周りには私とその小さなドラゴン以外のドラゴンの気配がない。まだ親の庇護を必要とする子供がなぜ森の中で一頭佇んでいるのだろうか。
『おい、小童。親はどうした』
私が声をかけると子供がこちらを見た。
赤い目をしたドラゴンの仔だった。その子供を目にした時、私はなんとなく違和感を持ったが気のせいだろうと考えを振り払った。
子供は私を不思議そうに見上げて首をかしげていた。警戒心などは全くないまっさらな子供。このまま放置していたら密猟者に見つかって殺されるんじゃないだろうかという危機感さえ抱かせる。
『おとうさんとおかあさんがまいごになっちゃったの』
『お前が迷子になったんじゃなくてか』
こんな幼子を一頭にするとは随分不用意な親である。──一瞬、幼い頃の自分のことが頭をよぎった。まさかとは思うけど……
『おねえちゃんはどこのドラゴン?』
『私は西の国に住んでいる』
『わたしはね…』
無邪気な仔ドラゴンだった。初対面の相手に物怖じすることなくよくもここまでぺらぺらと話せるものだと逆に感心してしまうほどに。
だけど私も昔はそうだった。両親が健在だった頃は……無邪気だったあの頃を思い出して暗い気持ちに襲われる。あの男が去った後、狂って泣いて衰弱して死んでいった母のことを。母の遺骸の側で父が帰ってくるのを待っていた幼く愚かな自分のことを──…
空腹で力が入らなくなり、このまま寝てしまおうかと考えていた時やってきた一頭の老ドラゴン……爺様のことを。
ばさりと翼の羽ばたく音が聞こえ、私は我に返る。上空を見上げれば一頭の雌ドラゴンの姿。
『──あぁいた! 良かった探したのよ!』
仔ドラゴンと同じ色を持つその雌は母親であろう。仔ドラゴンの前に着地すると、仔ドラゴンは『おかあさん!』とくっついていた。
なんだ良かった。てっきり私と同じく親に捨てられた子供なのかと……
『あら…あなた…』
私の存在を認識した雌ドラゴンはまじまじと私を観察していた。
その視線の不躾さに不快感を抱いた私は目を細めて相手を見返した。──知らんな、会った記憶が全くない。
『彼と同じ匂いがするわ』
“彼”という単語に不穏なものを感じ取った私はぞわりとした。
──ゴウッ…
先程よりも強い風が身体を叩きつけてきた。風で舞う砂埃が目に刺さって痛くて目を眇める。風と砂埃が落ち着いてから目を開くとそこには、仔ドラゴンと再会できて喜ぶ雄ドラゴンの姿があった。
私と同じ金色の鱗。幼い頃の記憶。私と母を捨てた父親の姿とかぶった。あぁ、こいつは。
私は牙を食いしばり、グルグルグル…と唸った。
怒りを通り越して殺気を飛ばすと、相手はそれに反応し、子供と雌ドラゴンを守るように立ちふさがった。
大きくなったとはいえ、私のことを忘れることはあるまい。
自分と同じ血を継ぐ子供のことを。
『…お前は』
『お前が捨てた子供だよ……久しぶりだな』
──クソ親父。
主と野営をしていたときに出会ったみすぼらしい小娘が使っていた単語を使って呼びかけると、相手は嫌そうに顔をしかめていた。まさか私がなんとも思っていないとは思っていないよな? 恨まれることは重々の承知の上で私と母を捨てたんだろう?
まさかこんな場所で出会うことになるとは嫌な縁である。
『…元気そうだな』
『私と母を捨てて出ていったお前にまさかそんな言葉をかけられるとは思わなかったよ』
何様目線なのか。
私が友好的ではないと察したのだろう、父は難しい表情を浮かべた。
『…お前の母は…』
『死んだよ。あんたに捨てられて狂って衰弱して、私の目の前で死んだ』
相手の言葉を遮るようにして教えてやると父は閉口していた。自らがドラゴンという生き物なのだからそれくらいわかるだろう。番に捨てられたドラゴンの末路くらい。
これで満足か? どうせ捨てた雌のことなんてどうでもいいんだろうお前は。お前が大事なのは背中に隠した運命の番とその子供だけなんだろうが。母はお前が殺したようなものだ。
『私は衰弱死しかけたところを長老ドラゴンに保護されて育てられた。爺様もつい先日亡くなったがな』
お前よりも立派な父親だった。最後は密猟者から守ろうと文字通り身体を張って守ってくれた。
私は牙を剥き出しにして父を睨みつけた。ここで殺してやろうかという気持ちに襲われたのだ。ここで出会ったのも運命なのかもしれない。妻子の前で無様な姿をお披露目してやろうか。殺気を隠さず、戦闘態勢に出た私に身構えた父が妻子を庇おうと体勢を整える。
その、運命の番とやらに思うところもあるが、私が一番殺してやりたいと考えているのは父、お前だ。母の無念をここで晴らさずにおいてどうする?
『おねえちゃんはわたしのおねえちゃんなの?』
のんきな声が飛んできて私の気が散った。
父の運命の番に守られている子供が発した言葉であった。
『そんな可愛い存在じゃない。私はお前の父親に見捨てられた。殺されたようなものだ。お前よりもずっと幼い頃だった』
この父親と同じ血が流れていると考えるだけでおぞましい気持ちになる。この最低男の血が半分流れているのだぞ? 最悪である。
『母から夫を奪った雌と、運命の番のために妻子を捨てた父の血が流れたお前を可愛い妹だと思えるわけがないだろう? たとえお前が悪くなかったとしてもだ』
いくら子供といえど、私は甘やかしてはやらん。
お前は敵の娘のようなものだ。最低親父と略奪雌の血が流れた妹よ。
『私の妻子に危害を加えるならいくら娘でも容赦せんぞ! それでもいいならお前の挑戦を受け取ろう!』
まるで私が悪者のような言い方をするじゃないか。
運命の番を理由にして逃げたやつが何を偉そうに。縊り殺してやろうか。
目の前の雄の言動が滑稽すぎておかしくて私は嘲笑してしまった。
『獣人でな、同じように運命の番と出会った男を知っているが、そいつは昔から好いていた女を選んで運命を跳ね飛ばした。奴は呪いを断ち切ったんだ』
お前の都合を私達に押し付けるな。どんな理由があったにせよ、お前が裏切ったのは明白だ。運命を理由にするんじゃない…!
殺してやるつもりだった。だが、腹違いの妹の茶々とクソ親父の言葉に白けてしまった私はため息を吐き出すと方向転換した。もういいや、相手する時間が勿体ない。
『今度は殺す。私と遭遇せぬようビクビクしながら暮らすがいい……狂って死んだ母の気持ちをお前も味わいたいか?』
私が笑いかけると、父の後ろにいた雌ドラゴンが娘を庇っていた。警戒して私を睨みつけている。──殺すならまず父を殺すからそんなに警戒せずともいいのに。
『…お前から人間…獣人の匂いがする』
クソ親父は背中に向かって声をかけてきた。
私は振り向かずに前へ進んでいく。
『人間に混ざって生きるつもりか? お前、人間が我らドラゴンにしてきたことを知らないのか』
わかっているさ。育ててくれた爺様は人間によって殺された。
だけど私は知っているんだ。人間にもいいやつと悪いやつが居る。ドラゴンと同じだ。案外、人間に混じって暮らすのも楽しいもんだぞ。
『二度と会わないだろうが、次会った時は殺すからな』
クソ親父の問いかけには応えてやらなかった。
これ以上話したら口が腐ってしまう。
あー腹が立つな。
私はそのへんにいた鹿を生きたまま鈎爪で掴みあげるとそのまま主の住む村の方向に飛んでいった。また犬っころに血抜きしてこいって言われるかもしれんが、知らん。チビ達に食わせるんだから新鮮な方が良いだろうが。
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