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Day‘s Eye 芽吹いたデイジー
おめでたの福音
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私の体調は良くなるどころか悪いまま、寝たきりな日々が続いていた。
医者を呼ぼうというテオの提案を却下して寝て治す手法を取っていたのだが、一向に良くならない。私はベッドの上でぐったり寝たきりになっている事が増えた。
身体がしんどくて頭がまわらないし、薬草や材料、その他の匂いで気分が悪くなるのだ。そのためお仕事もお休みしている状況だ。働きもせず、だからといって家事もせず、私は一体何をしているのだろうか……状況と体調が私の心まで病ませて、私は少しばかり情緒不安定になっていた。
仕事から帰ってからすぐに、自分の食事よりも先に私の面倒を見ようとするテオの優しさに涙が出るのと同時に、何も出来ない自分に嫌気が差した。
「…ごめんね、テオ」
ぽそりと呟いた謝罪の言葉は部屋に大きく響いた。獣耳をピクリと動かしたテオは気遣わしげに私の顔を覗き込むと、屈んでおでこにキスを落としてきた。
「気にすんな、俺達は夫婦なんだ。支え合うのは当然だ」
そうは言うけど、体調が悪いのを理由にもう何週間もテオの相手をしていない。何もせずにベッドの上でごろごろしている。私は妻失格なのじゃないだろうか。
いくら夫婦と言っても私は甘え過ぎなんじゃないだろうか。不安でなんだか泣けてしまいそうなのだ。じわじわと視界がゆがむのをそのままにしていると、テオの指がそっと私の目元を撫でた。
「お前が渋ってたから様子見してたけど、明日は医者を呼ぶ、いいな?」
彼の言葉は決定事項のようだった。
私はそれに仕方なく頷く。大げさだと思って医者の診察を拒んでいたけど、こうなったら診てもらったほうがいい。テオに迷惑をかけ続けるのは忍びない。
「とにかく何かを食べたほうがいい。お前昼飯も手を付けなかったろ? 果物だけじゃ駄目だ」
「…食欲がないの」
「一口でいい。ただでさえ細いのに、骸骨になっちまうぞ」
テオに助け起こされた私はお皿に乗ったパン粥を見てため息を吐く。……何も食べたくないのだ。…匂いを嗅いでるだけで胃の中身がせり上がってきそうになる。…酸っぱい果物が欲しくなって、そればかり口にしていた。
しかしわざわざ作ってくれたものを残すのもあれだ。一口頑張って食べよう……匙ですくって口の中に含む。そのまま飲み込もうとしたが、私の体に起きたのは吐き気である。
「オェッ…!」
口元を抑えて漏れ出すのを抑えたが、耐えきれずに吐き出してしまった。
まずい。吐き出してしまった。ベッドの掛け布団の上にもかかってしまった嘔吐物に私は自己嫌悪する。片付けしなきゃと思うけど身体がだるくてそれすら億劫だ。
「テオ、ごめん…!?」
作ってくれたのに吐き出してごめんと謝りかけていた私は目を剥いた。
テオは掛け布団ごと私を抱き上げると、血相を変えて部屋を飛び出したのだ。私はてっきり洗面所にでも連れて行かれるのかと思ったのだが、違った。
吐き気と倦怠感でぐったりしていた私はぼーっとしていた。私を抱えたまま、真っ暗になった道をテオが駆けていく。
どこにいくんだろう、医者の所? しかし、今の私はそれを尋ねることすら億劫だった。…走ってる振動でまた吐き気を催してきた。
「婆様! 助けてくれ!」
このまま町に行くのかと思ったが、テオは村一番の長寿婆様のお宅に突撃していた。
中から驚いた様子の家人が出迎えるなり、テオは吐き気と格闘している私を婆様に見せた。
「デイジーが吐き出した! ここ最近食欲もなくてずっと寝たきりなんだ! どうすればいい!?」
そばで私が衰弱していく姿を見ていたんだ。そりゃあ怖いだろう。
ごめんね、私が大げさにしたくないと言ったせいだ。こんなに悪化するまで放置していた私が悪いんだ……。テオにこんな顔をさせたいわけじゃなかったのに、私は本当に……
「あぁこりゃ、悪阻だろう。おめでとさん」
婆様は軽い調子でおめでたをお知らせしてきた。
テオは目を丸くして固まっている。私はぼんやりする頭で悪阻という単語について考える。
……えっ、妊娠? 獣人の子供って中々授からないのではなかったっけ…? 私は長期戦を覚悟していたんだけど……じゃあ倦怠感も眠気も吐き気も…妊娠の兆候ってことか?
ブルブルブルと私を抱きかかえる腕が震える。
一瞬引っ込んだ吐き気が蘇るからそれやめて欲しい。
「デイジー!」
「うぐぇっ」
テオは腕の中にいた私を力いっぱい掻き抱くと、そのまま踊りだしそうな勢いでステップを踏み始めた。私の顔中にキスを落としながら、婆様の家を一旦出ると、大声で叫んだ。
「俺は父親になるんだー!」
ちょ、遠吠えすんな。近所迷惑じゃないの…
注意したかったけど、私は声を出すのも辛くて、悪阻に苦しんでいた。
「テオ、振り回すのはおやめ、デイジーが吐きたそうにしてる」
私は死にそうな顔でぐったりしているのに気がついたテオが慌てて私を地面に下ろす。私はへなへなとしゃがみこんでその場でオエオエとえづいていた。
「苦しいだろうけど吐けるだけ吐いておきなさい。お腹が大きくなるころには落ち着くからそれまでの辛抱だよ」
婆様はそう言って私の背中を擦ってきた。
辛抱ってそんな。妊娠って幸せいっぱいなイメージがあったのに、こんなに体調崩すのか。
「テオ、お前さんもこの子の妊娠に薄々気づいてたと思っていたけど、全然わかってなかったんだね」
「デイジーの匂いが変わったのはわかってたけど、それには気づかなかった」
婆様が「顔をお拭き」と濡らしたタオルを手渡してくれた。それを受け取ったテオが私の口元を拭ってくれる。
体が冷えるからと抱き上げられた私は声出すことなく、テオに身を委ねていた。完全に介護されている。
辺りの民家からはテオの遠吠えを聞きつけて家から出てこちらを窺う村人たちの姿がみえた。
「おめでとう」
「もしかしたらと思っていたけど、やっぱりね」
なんとなく気づいていたという口調で祝福してくるのは皆、私達よりも年上で、育児経験のある人ばかりだった。……もしかして、周りの年嵩の獣人が過保護だったのって、本能で私の妊娠に気づいていたからだろうか。
■□■
翌日医者に診てもらい、私の諸症状が妊娠であると診断を受けた。
……自分の体のことなのにその考えに行き着かなかったってどうなんだろうとは思ったが、悪い病気じゃなくてよかった。
ただ、私は悪阻が酷い方みたいで、相変わらずぐったり寝込むことが多かった。
いろんな要因で身体が衰弱しかけているので、もしかしたら子が流れる可能性もある。出来るなら安静にしておいて心穏やかに過ごしたほうがいいとお医者さんにも言われた。
そのためテオにはお願いだからおとなしくしててくれと懇願されてしまった。
私を心配した養両親と兄夫婦とテオの両親が交代でお世話してくれて本当に助かった。私が青ざめた顔でゲロゲロ吐いたり、死んだように横になっている姿を見てものすごく心配してくれていたみたいだが、私はとにかく体調が悪くて周りに気を使うどころじゃなかった。
「まぁまぁアステリア、かわいそうに。わかるわ、わたくしもあなたとディーデリヒを宿した時ものすごく悪阻に悩まされましたからね」
いつも定期的に薬草の注文で里帰りしているのだが、妊娠が判明したのでそちらに行けないと伝書鳩を送ると、母上がフォルクヴァルツから馬車数台引き連れてやってきた。
彼女の侍女とか従者とは顔見知りなので、彼らがいるのにはなんの疑問も抱かなかったのだが、今回は全くの赤の他人も同行していた。
その人達はフォルクヴァルツ総合病院のお医者様たちなのだという。
「い、医者には診てもらいましたが…」
ちゃんと伝えたのになぜ医者を連れてくるのか。大きな病院のお医者さんが必要なくらい深刻な病気じゃないんだぞ。
「えぇ、わかってるわ。こちらのお医者様を疑っているわけじゃないのよ。ただ、あなたの身体が心配だから詳細を調べてもらいたくて今回お忙しい中来ていただいたの」
私が休んでいた寝室にお医者さんがぞろぞろ入ってきて、助手的な人が見たことのない道具を設置し始めた。
「これは大きな病院にしか設置していない最新の魔道具なの。お腹の状態が見れるのよ。病気の他にも、胎内の様子も確認できるの」
「アステリア様、この道具は魔力を使用して体の内部を確認します。御身やお子様にはなんの影響もございませんのでご安心を」
母上とお医者さんに怖くない怖くないとなだめすかされ、私は仕方なく妊娠状態の検査を受けた。
まだ膨らんでないお腹に機材をそっと乗せられたが、別に痛くもなんともない。
「見えますか? この豆粒のようなものが胎児です」
投影術みたいに壁に映されたそれは、影が映っているだけに見える。私には全然何がなんやらわからなかった。
だがそこに私とテオの子どもが確かに宿っているそうだ。
「まだ小さいので、獣人寄りか人間寄りかは判断つかないですが、見る限りでは元気よく心臓が動いてますよ…もしかしたら双子かもしれませんね」
双子かもしれない。
獣人は子どもができにくいって言われてるのに一気に2人生まれるの? 私初産なんですけど。
「俺たちの子だ。かわいいなぁ」
しかしテオはデレデレと幸せそうに笑っている。産まなくていい男は呑気で楽しそうだ。
私は影として映っている、私の中に宿った我が子をまじまじと眺めた。
……豆粒にしか見えないんですけど。可愛いかなぁ……
医者を呼ぼうというテオの提案を却下して寝て治す手法を取っていたのだが、一向に良くならない。私はベッドの上でぐったり寝たきりになっている事が増えた。
身体がしんどくて頭がまわらないし、薬草や材料、その他の匂いで気分が悪くなるのだ。そのためお仕事もお休みしている状況だ。働きもせず、だからといって家事もせず、私は一体何をしているのだろうか……状況と体調が私の心まで病ませて、私は少しばかり情緒不安定になっていた。
仕事から帰ってからすぐに、自分の食事よりも先に私の面倒を見ようとするテオの優しさに涙が出るのと同時に、何も出来ない自分に嫌気が差した。
「…ごめんね、テオ」
ぽそりと呟いた謝罪の言葉は部屋に大きく響いた。獣耳をピクリと動かしたテオは気遣わしげに私の顔を覗き込むと、屈んでおでこにキスを落としてきた。
「気にすんな、俺達は夫婦なんだ。支え合うのは当然だ」
そうは言うけど、体調が悪いのを理由にもう何週間もテオの相手をしていない。何もせずにベッドの上でごろごろしている。私は妻失格なのじゃないだろうか。
いくら夫婦と言っても私は甘え過ぎなんじゃないだろうか。不安でなんだか泣けてしまいそうなのだ。じわじわと視界がゆがむのをそのままにしていると、テオの指がそっと私の目元を撫でた。
「お前が渋ってたから様子見してたけど、明日は医者を呼ぶ、いいな?」
彼の言葉は決定事項のようだった。
私はそれに仕方なく頷く。大げさだと思って医者の診察を拒んでいたけど、こうなったら診てもらったほうがいい。テオに迷惑をかけ続けるのは忍びない。
「とにかく何かを食べたほうがいい。お前昼飯も手を付けなかったろ? 果物だけじゃ駄目だ」
「…食欲がないの」
「一口でいい。ただでさえ細いのに、骸骨になっちまうぞ」
テオに助け起こされた私はお皿に乗ったパン粥を見てため息を吐く。……何も食べたくないのだ。…匂いを嗅いでるだけで胃の中身がせり上がってきそうになる。…酸っぱい果物が欲しくなって、そればかり口にしていた。
しかしわざわざ作ってくれたものを残すのもあれだ。一口頑張って食べよう……匙ですくって口の中に含む。そのまま飲み込もうとしたが、私の体に起きたのは吐き気である。
「オェッ…!」
口元を抑えて漏れ出すのを抑えたが、耐えきれずに吐き出してしまった。
まずい。吐き出してしまった。ベッドの掛け布団の上にもかかってしまった嘔吐物に私は自己嫌悪する。片付けしなきゃと思うけど身体がだるくてそれすら億劫だ。
「テオ、ごめん…!?」
作ってくれたのに吐き出してごめんと謝りかけていた私は目を剥いた。
テオは掛け布団ごと私を抱き上げると、血相を変えて部屋を飛び出したのだ。私はてっきり洗面所にでも連れて行かれるのかと思ったのだが、違った。
吐き気と倦怠感でぐったりしていた私はぼーっとしていた。私を抱えたまま、真っ暗になった道をテオが駆けていく。
どこにいくんだろう、医者の所? しかし、今の私はそれを尋ねることすら億劫だった。…走ってる振動でまた吐き気を催してきた。
「婆様! 助けてくれ!」
このまま町に行くのかと思ったが、テオは村一番の長寿婆様のお宅に突撃していた。
中から驚いた様子の家人が出迎えるなり、テオは吐き気と格闘している私を婆様に見せた。
「デイジーが吐き出した! ここ最近食欲もなくてずっと寝たきりなんだ! どうすればいい!?」
そばで私が衰弱していく姿を見ていたんだ。そりゃあ怖いだろう。
ごめんね、私が大げさにしたくないと言ったせいだ。こんなに悪化するまで放置していた私が悪いんだ……。テオにこんな顔をさせたいわけじゃなかったのに、私は本当に……
「あぁこりゃ、悪阻だろう。おめでとさん」
婆様は軽い調子でおめでたをお知らせしてきた。
テオは目を丸くして固まっている。私はぼんやりする頭で悪阻という単語について考える。
……えっ、妊娠? 獣人の子供って中々授からないのではなかったっけ…? 私は長期戦を覚悟していたんだけど……じゃあ倦怠感も眠気も吐き気も…妊娠の兆候ってことか?
ブルブルブルと私を抱きかかえる腕が震える。
一瞬引っ込んだ吐き気が蘇るからそれやめて欲しい。
「デイジー!」
「うぐぇっ」
テオは腕の中にいた私を力いっぱい掻き抱くと、そのまま踊りだしそうな勢いでステップを踏み始めた。私の顔中にキスを落としながら、婆様の家を一旦出ると、大声で叫んだ。
「俺は父親になるんだー!」
ちょ、遠吠えすんな。近所迷惑じゃないの…
注意したかったけど、私は声を出すのも辛くて、悪阻に苦しんでいた。
「テオ、振り回すのはおやめ、デイジーが吐きたそうにしてる」
私は死にそうな顔でぐったりしているのに気がついたテオが慌てて私を地面に下ろす。私はへなへなとしゃがみこんでその場でオエオエとえづいていた。
「苦しいだろうけど吐けるだけ吐いておきなさい。お腹が大きくなるころには落ち着くからそれまでの辛抱だよ」
婆様はそう言って私の背中を擦ってきた。
辛抱ってそんな。妊娠って幸せいっぱいなイメージがあったのに、こんなに体調崩すのか。
「テオ、お前さんもこの子の妊娠に薄々気づいてたと思っていたけど、全然わかってなかったんだね」
「デイジーの匂いが変わったのはわかってたけど、それには気づかなかった」
婆様が「顔をお拭き」と濡らしたタオルを手渡してくれた。それを受け取ったテオが私の口元を拭ってくれる。
体が冷えるからと抱き上げられた私は声出すことなく、テオに身を委ねていた。完全に介護されている。
辺りの民家からはテオの遠吠えを聞きつけて家から出てこちらを窺う村人たちの姿がみえた。
「おめでとう」
「もしかしたらと思っていたけど、やっぱりね」
なんとなく気づいていたという口調で祝福してくるのは皆、私達よりも年上で、育児経験のある人ばかりだった。……もしかして、周りの年嵩の獣人が過保護だったのって、本能で私の妊娠に気づいていたからだろうか。
■□■
翌日医者に診てもらい、私の諸症状が妊娠であると診断を受けた。
……自分の体のことなのにその考えに行き着かなかったってどうなんだろうとは思ったが、悪い病気じゃなくてよかった。
ただ、私は悪阻が酷い方みたいで、相変わらずぐったり寝込むことが多かった。
いろんな要因で身体が衰弱しかけているので、もしかしたら子が流れる可能性もある。出来るなら安静にしておいて心穏やかに過ごしたほうがいいとお医者さんにも言われた。
そのためテオにはお願いだからおとなしくしててくれと懇願されてしまった。
私を心配した養両親と兄夫婦とテオの両親が交代でお世話してくれて本当に助かった。私が青ざめた顔でゲロゲロ吐いたり、死んだように横になっている姿を見てものすごく心配してくれていたみたいだが、私はとにかく体調が悪くて周りに気を使うどころじゃなかった。
「まぁまぁアステリア、かわいそうに。わかるわ、わたくしもあなたとディーデリヒを宿した時ものすごく悪阻に悩まされましたからね」
いつも定期的に薬草の注文で里帰りしているのだが、妊娠が判明したのでそちらに行けないと伝書鳩を送ると、母上がフォルクヴァルツから馬車数台引き連れてやってきた。
彼女の侍女とか従者とは顔見知りなので、彼らがいるのにはなんの疑問も抱かなかったのだが、今回は全くの赤の他人も同行していた。
その人達はフォルクヴァルツ総合病院のお医者様たちなのだという。
「い、医者には診てもらいましたが…」
ちゃんと伝えたのになぜ医者を連れてくるのか。大きな病院のお医者さんが必要なくらい深刻な病気じゃないんだぞ。
「えぇ、わかってるわ。こちらのお医者様を疑っているわけじゃないのよ。ただ、あなたの身体が心配だから詳細を調べてもらいたくて今回お忙しい中来ていただいたの」
私が休んでいた寝室にお医者さんがぞろぞろ入ってきて、助手的な人が見たことのない道具を設置し始めた。
「これは大きな病院にしか設置していない最新の魔道具なの。お腹の状態が見れるのよ。病気の他にも、胎内の様子も確認できるの」
「アステリア様、この道具は魔力を使用して体の内部を確認します。御身やお子様にはなんの影響もございませんのでご安心を」
母上とお医者さんに怖くない怖くないとなだめすかされ、私は仕方なく妊娠状態の検査を受けた。
まだ膨らんでないお腹に機材をそっと乗せられたが、別に痛くもなんともない。
「見えますか? この豆粒のようなものが胎児です」
投影術みたいに壁に映されたそれは、影が映っているだけに見える。私には全然何がなんやらわからなかった。
だがそこに私とテオの子どもが確かに宿っているそうだ。
「まだ小さいので、獣人寄りか人間寄りかは判断つかないですが、見る限りでは元気よく心臓が動いてますよ…もしかしたら双子かもしれませんね」
双子かもしれない。
獣人は子どもができにくいって言われてるのに一気に2人生まれるの? 私初産なんですけど。
「俺たちの子だ。かわいいなぁ」
しかしテオはデレデレと幸せそうに笑っている。産まなくていい男は呑気で楽しそうだ。
私は影として映っている、私の中に宿った我が子をまじまじと眺めた。
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