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Day‘s Eye 花嫁になったデイジー
デコボコ正反対夫婦は最強説
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翌朝、私は痛む腰に湿布薬を塗りつけたガーゼを貼って配達に出かけた。満たされた顔でスッキリニコニコしている奴の顔を見るとゲンコツしたくなる。だけど私の拳まで痛くなるのでそれは我慢した。
「身体きついなら抱えるぞ?」
「結構です」
馬鹿か。幼児でもないのに日中から抱っこされてる姿を人様にお披露目できるわけがないだろう。私が素っ気なく断ると「何怒ってんだよー」とテオが不満そうな表情を浮かべていた。
最初に1回だけと約束したはずなのに、この大うそつき旦那は好きなだけ私を抱き潰したのだ。おかげで身体のあちこちバキバキだよ。
さて、それよりも目の前の仕事である。ベルさんたちに薬を届けたら、お次は水銀中毒に悩んでいるという患者さんのもとに行って説明とか色々しなくては。朝から右行って左に行って、魔術師としての仕事に奔走していたが、お昼すぎにようやく一段落ついた。
せっかくテオとやってきたんだから観光気分で近場を見て回って行こうと思って、ビルケンシュトックの一角にある商店街に彼を連れて行った。ビルケンシュトックはグラナーダ辺境にあるので、安く仕入れた珍しいものがたくさん並んでいるのだ。
「若奥様、今晩のメインディッシュにどうだい?」
「あはは…」
鮮魚店の店主に立派な魚を見せられたが私は困った笑いを浮かべてしまう。生魚なぁ、保存魔法かければ鮮度維持できるけど、気分的な問題でちょっとお持ち帰りは避けたい。
テオとこうして買い物に行くことは珍しくないけど、いつもとは場所の違う異国でのんびり穏やかに見て回るってのもなかなか楽しい。テオに握られた手を引っ張ってあっちこっち連れ回して市場を物色していた私は、安いドライフルーツとナッツの瓶詰め放題に挑戦していた。
「俺がやろうか?」
「テオは力任せにして粉砕しそうだからいい」
「なんだよそれ」
握力の強いテオが詰めたら中身全部潰れちゃいそうだからやめとく。断るとテオは面白くなさそうに膨れていた。
隙間の出来ないようにギュッギュと詰めて詰めて満足行くくらい詰め終わったら、お会計を済ませて商品を受け取った。
「お前って割と庶民的な所あるよな」
「血筋はあれだけど、育ちって意外と大きいもんだよ」
そんな事言って私のこと貴族令嬢扱いしたことないくせに。何を今更。
市場にはエスメラルダでは流通しないであろう商品で溢れていた。見てるだけで楽しいが、折角だから色々買いたい。何も買わずに帰るのはつまらないだろう。
「ねぇテオ、お土産になりそうなものなにか買っていこうか」
「あぁそうだな。急に休みもらっちまったし、職場のみんなでつまめそうな物をなにか…」
「話が違います!」
……ん?
店の裏側の奥まった路地裏から聞こえてきた非難の声に私とテオは顔を見合わせた。
聞こえなかったふりして通り過ぎることも出来たのだが、向こうの方から市場の通りに飛び出してきたもんだからこちらとしても声を出さずにはいられなかった。
「人聞きが悪いねぇ、返金には応じないと最初に渡した契約書に書いてあるはずですよ?」
「そんな…! そもそも紹介料もらうために入会金が必要って話自体、詐欺なんじゃないですか!?」
八百屋と小物細工屋の店の間の小道からヌッと現れた男はその日も整髪料の付けすぎて頭がテカっていた。胸元には趣味の悪いブローチ。貴族の服装を真似しているかもしれないが、成金臭がプンプンする着こなし方をしたその男は、2日前にフォルクヴァルツの青空市場で私に話しかけてきた……
「お前! デイジーに水銀クリーム押し付けようとした奴!」
私よりも早く反応したテオが吠えた。その声に商人はぎくりと身を固めた。
商人の後ろには追いすがる女性の姿。その顔には見覚えがある。昨晩会ったあの女性である。またあのクリームの容器持ってるし……一体なにをして……私は考えを巡らせてピンときた。
「あんた、水銀入り美容品販売だけでなく紹介料詐欺もしてるのか!」
「チッ…」
向こうもこちらのことを覚えていたのか、あの奇妙なほどの愛想の良さをかなぐり捨てて、凶悪な顔で舌打ちしていた。
「フォルクヴァルツの警備隊からの出頭命令を無視してどういうつもり? 任意じゃなくて命令なのに…」
「…どけっ!」
私が問いかけると、ヤケクソになった商人が突進してきた。私を突き飛ばして人で賑わう商店街に紛れ込もうとしていた。
あわや転倒とまでは行かず、ドサリ、とテオの腕の中に庇われた。腰にズクンと鈍い痛みが走る。今のは昨晩の酷使(原因テオ)のせいで腰に来たぞ…!
「デイジー大丈夫か!?」
「…テオ! 追って!」
テオが心配そうに声を掛けてきたが、私は相手を追うように指示を飛ばす。その言葉に反応したテオはすぐに行動に出た。
店主や客が金額交渉したり、最近の仕入れについて語り合ったりしている穏やかな商店街に変な男が駆け込んできて騒然となった。それだけでも異様なのに、背後から怒りの形相の狼獣人が追いかけてきている。異変を感じた人々は慌てて道を開けた。
テオの腕が伸びて、商人の服をつかもうと空を切る。あともうちょっとだ。もうすぐで捕まるという時だった。
商人は往生際悪く、その辺の店にある果物が入ったカゴをひっくり返して追跡を妨害をしていた。ゴロゴロと柑橘系の果物が地面を転がり、進行を妨害する。
──しかし相手が獣人だったのがまずかった。
テオは地面を蹴りつけて高く跳ぶと、身軽な動作で日よけの屋根に掴まる。そして振り子のように身体を大きく揺らして勢いをつけてから手を離すと、商人目掛けて飛び掛かった。
「うぐぁっ!?」
その素早さに勝てなかった商人はうつ伏せ状態で地面に倒れ込んでいた。獣人の身体能力を舐めていたようだ。それが命取りだったな。背中にはテオが乗って、相手の逃亡を抑えている。
私は腰を庇いながらそこに近づいた。
「捕縛せよ!」
テオの下敷きになっている男目掛けて捕縛術を掛けると、テオに言った。
「フォルクヴァルツに伝書鳩飛ばすから、邪魔にならないところに転がしておいて」
テオは私の指示通りにゴロンゴロンと商人を乱雑に転がして店や人の邪魔にならない場所に商人を放置した。
「客が欲しいと言うから商品を売っただけだ! 紹介料についても前もって契約書に説明書きをしていたんだ、何も悪いことは…」
私が父上宛に連絡をしていると、後ろから喚く声が聞こえてきた。
まぁ、そうだろうね。被害者の女性も考えなしに契約したんだ、完全なる被害者ってわけじゃない。
ただ、勘違いしないで欲しい。今回私達が商人を捕獲したのは別の理由からである。
「今あんたを捕獲した理由はそれじゃない」
「へ…」
さっき私が指摘した言葉を忘れたのか?
「フォルクヴァルツの警備兵から出頭命令を出されたのにそれを無視して逃亡したから、あんたを捕まえたの」
命令に逆らったこの商人はフォルクヴァルツ領内で指名手配されていることであろう。国の法律とは別に領内で適用される法律ってものがあるんだよ。ビルケンシュトックでは合法でも、フォルクヴァルツでは違法になることだってあるんだ。
「水銀入りのクリーム、フォルクヴァルツでは使用禁止なの。それを販売したあんたは厳罰の対象なんだよ。……もしかして知らずに販売していたの?」
商人から押収したクリームの成分鑑定も多分済んでいることであろう。水銀が入っているかどうかは調べればわかるんだ。
知らなかったとしても罪は罪だ。観念しなさい。
「恋人と結婚するために駆け落ち婚したっていうから、世間知らずの頭空っぽなお姫様かと思ったのに、とんだでしゃばり女じゃねぇか!」
転がったままの商人がツバを飛ばしながら悪態をついてきた。
失礼な。駆け落ちなんかしてないよ。架空のロマンス小説を真に受け過ぎじゃない? あれ脚色されてるからね?
「俺のデイジーを出しゃばり女だと!?」
私が言われた悪口にテオが激怒した。
なぜあんたが怒るのか。
「いや、あんたも似たような悪口、私に言ってたから」
「はぁ!? 言ってねぇよ!」
人のこと言えない、と指摘しようとしたらテオは否定していた。おい元いじめっ子、自分の発言を忘れるんじゃないよ。
「弱くてとろいんだからしゃしゃり出るなって言った! ほら、初等学校時代、村に水銀クリーム売りに来た商人が私を殴ろうとした時!」
ムカついたので気持ち強めに言ってやると、テオは目を丸くして、そして。
「…弱くてとろいのはホントのことだろ」
開き直って過去の自分の発言を肯定しやがった。
「私は普通! 獣人の平均と比べないで!」
私はとろくないし、弱くもない! 本より重いものを持ったことがなさそうなその辺の貴族令嬢と一緒にしないでもらおうか!
「そんな華奢な体でなに強がってんだよ! 女はか弱いって言われたほうが嬉しいんだろ?」
「私は嬉しくない! それとあんたがそのつもりで言ったとしても、ただの悪口になってたから!」
その言葉を言われたのはまだ10か11位の時のことだから、テオも気の利いた言葉選びができなかったのかもしれないが、私にとっては悪口に聞こえたからな!
私とテオは睨み合った。
過去のことをいつまで引きずるのかと指摘されたらそれまでだが、なんか反発しなきゃ気が済まなかったのだ。
「あのーアステリア様…」
恐る恐るといった体で話しかけてきたのは私と同じ魔術師のマントを着用した、見覚えのある男性だった。
「ゲオルク様の指示を受けまして、例の水銀商人の捕縛に参りました」
「あっ、すみません。そこにいます」
父上の直属の部下(魔術師)がやってきたので、被疑者を引き渡し、後のことはすべて丸投げした。
逃亡商人を捕獲していた筈が私とテオの口論になり、なんかいまいち締まらなかったが、一件落着ということでこの件は幕を下ろした。
ちなみに転がった柑橘系の果物はお土産としてすべて買い占めさせて頂いた。
「身体きついなら抱えるぞ?」
「結構です」
馬鹿か。幼児でもないのに日中から抱っこされてる姿を人様にお披露目できるわけがないだろう。私が素っ気なく断ると「何怒ってんだよー」とテオが不満そうな表情を浮かべていた。
最初に1回だけと約束したはずなのに、この大うそつき旦那は好きなだけ私を抱き潰したのだ。おかげで身体のあちこちバキバキだよ。
さて、それよりも目の前の仕事である。ベルさんたちに薬を届けたら、お次は水銀中毒に悩んでいるという患者さんのもとに行って説明とか色々しなくては。朝から右行って左に行って、魔術師としての仕事に奔走していたが、お昼すぎにようやく一段落ついた。
せっかくテオとやってきたんだから観光気分で近場を見て回って行こうと思って、ビルケンシュトックの一角にある商店街に彼を連れて行った。ビルケンシュトックはグラナーダ辺境にあるので、安く仕入れた珍しいものがたくさん並んでいるのだ。
「若奥様、今晩のメインディッシュにどうだい?」
「あはは…」
鮮魚店の店主に立派な魚を見せられたが私は困った笑いを浮かべてしまう。生魚なぁ、保存魔法かければ鮮度維持できるけど、気分的な問題でちょっとお持ち帰りは避けたい。
テオとこうして買い物に行くことは珍しくないけど、いつもとは場所の違う異国でのんびり穏やかに見て回るってのもなかなか楽しい。テオに握られた手を引っ張ってあっちこっち連れ回して市場を物色していた私は、安いドライフルーツとナッツの瓶詰め放題に挑戦していた。
「俺がやろうか?」
「テオは力任せにして粉砕しそうだからいい」
「なんだよそれ」
握力の強いテオが詰めたら中身全部潰れちゃいそうだからやめとく。断るとテオは面白くなさそうに膨れていた。
隙間の出来ないようにギュッギュと詰めて詰めて満足行くくらい詰め終わったら、お会計を済ませて商品を受け取った。
「お前って割と庶民的な所あるよな」
「血筋はあれだけど、育ちって意外と大きいもんだよ」
そんな事言って私のこと貴族令嬢扱いしたことないくせに。何を今更。
市場にはエスメラルダでは流通しないであろう商品で溢れていた。見てるだけで楽しいが、折角だから色々買いたい。何も買わずに帰るのはつまらないだろう。
「ねぇテオ、お土産になりそうなものなにか買っていこうか」
「あぁそうだな。急に休みもらっちまったし、職場のみんなでつまめそうな物をなにか…」
「話が違います!」
……ん?
店の裏側の奥まった路地裏から聞こえてきた非難の声に私とテオは顔を見合わせた。
聞こえなかったふりして通り過ぎることも出来たのだが、向こうの方から市場の通りに飛び出してきたもんだからこちらとしても声を出さずにはいられなかった。
「人聞きが悪いねぇ、返金には応じないと最初に渡した契約書に書いてあるはずですよ?」
「そんな…! そもそも紹介料もらうために入会金が必要って話自体、詐欺なんじゃないですか!?」
八百屋と小物細工屋の店の間の小道からヌッと現れた男はその日も整髪料の付けすぎて頭がテカっていた。胸元には趣味の悪いブローチ。貴族の服装を真似しているかもしれないが、成金臭がプンプンする着こなし方をしたその男は、2日前にフォルクヴァルツの青空市場で私に話しかけてきた……
「お前! デイジーに水銀クリーム押し付けようとした奴!」
私よりも早く反応したテオが吠えた。その声に商人はぎくりと身を固めた。
商人の後ろには追いすがる女性の姿。その顔には見覚えがある。昨晩会ったあの女性である。またあのクリームの容器持ってるし……一体なにをして……私は考えを巡らせてピンときた。
「あんた、水銀入り美容品販売だけでなく紹介料詐欺もしてるのか!」
「チッ…」
向こうもこちらのことを覚えていたのか、あの奇妙なほどの愛想の良さをかなぐり捨てて、凶悪な顔で舌打ちしていた。
「フォルクヴァルツの警備隊からの出頭命令を無視してどういうつもり? 任意じゃなくて命令なのに…」
「…どけっ!」
私が問いかけると、ヤケクソになった商人が突進してきた。私を突き飛ばして人で賑わう商店街に紛れ込もうとしていた。
あわや転倒とまでは行かず、ドサリ、とテオの腕の中に庇われた。腰にズクンと鈍い痛みが走る。今のは昨晩の酷使(原因テオ)のせいで腰に来たぞ…!
「デイジー大丈夫か!?」
「…テオ! 追って!」
テオが心配そうに声を掛けてきたが、私は相手を追うように指示を飛ばす。その言葉に反応したテオはすぐに行動に出た。
店主や客が金額交渉したり、最近の仕入れについて語り合ったりしている穏やかな商店街に変な男が駆け込んできて騒然となった。それだけでも異様なのに、背後から怒りの形相の狼獣人が追いかけてきている。異変を感じた人々は慌てて道を開けた。
テオの腕が伸びて、商人の服をつかもうと空を切る。あともうちょっとだ。もうすぐで捕まるという時だった。
商人は往生際悪く、その辺の店にある果物が入ったカゴをひっくり返して追跡を妨害をしていた。ゴロゴロと柑橘系の果物が地面を転がり、進行を妨害する。
──しかし相手が獣人だったのがまずかった。
テオは地面を蹴りつけて高く跳ぶと、身軽な動作で日よけの屋根に掴まる。そして振り子のように身体を大きく揺らして勢いをつけてから手を離すと、商人目掛けて飛び掛かった。
「うぐぁっ!?」
その素早さに勝てなかった商人はうつ伏せ状態で地面に倒れ込んでいた。獣人の身体能力を舐めていたようだ。それが命取りだったな。背中にはテオが乗って、相手の逃亡を抑えている。
私は腰を庇いながらそこに近づいた。
「捕縛せよ!」
テオの下敷きになっている男目掛けて捕縛術を掛けると、テオに言った。
「フォルクヴァルツに伝書鳩飛ばすから、邪魔にならないところに転がしておいて」
テオは私の指示通りにゴロンゴロンと商人を乱雑に転がして店や人の邪魔にならない場所に商人を放置した。
「客が欲しいと言うから商品を売っただけだ! 紹介料についても前もって契約書に説明書きをしていたんだ、何も悪いことは…」
私が父上宛に連絡をしていると、後ろから喚く声が聞こえてきた。
まぁ、そうだろうね。被害者の女性も考えなしに契約したんだ、完全なる被害者ってわけじゃない。
ただ、勘違いしないで欲しい。今回私達が商人を捕獲したのは別の理由からである。
「今あんたを捕獲した理由はそれじゃない」
「へ…」
さっき私が指摘した言葉を忘れたのか?
「フォルクヴァルツの警備兵から出頭命令を出されたのにそれを無視して逃亡したから、あんたを捕まえたの」
命令に逆らったこの商人はフォルクヴァルツ領内で指名手配されていることであろう。国の法律とは別に領内で適用される法律ってものがあるんだよ。ビルケンシュトックでは合法でも、フォルクヴァルツでは違法になることだってあるんだ。
「水銀入りのクリーム、フォルクヴァルツでは使用禁止なの。それを販売したあんたは厳罰の対象なんだよ。……もしかして知らずに販売していたの?」
商人から押収したクリームの成分鑑定も多分済んでいることであろう。水銀が入っているかどうかは調べればわかるんだ。
知らなかったとしても罪は罪だ。観念しなさい。
「恋人と結婚するために駆け落ち婚したっていうから、世間知らずの頭空っぽなお姫様かと思ったのに、とんだでしゃばり女じゃねぇか!」
転がったままの商人がツバを飛ばしながら悪態をついてきた。
失礼な。駆け落ちなんかしてないよ。架空のロマンス小説を真に受け過ぎじゃない? あれ脚色されてるからね?
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私が言われた悪口にテオが激怒した。
なぜあんたが怒るのか。
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「はぁ!? 言ってねぇよ!」
人のこと言えない、と指摘しようとしたらテオは否定していた。おい元いじめっ子、自分の発言を忘れるんじゃないよ。
「弱くてとろいんだからしゃしゃり出るなって言った! ほら、初等学校時代、村に水銀クリーム売りに来た商人が私を殴ろうとした時!」
ムカついたので気持ち強めに言ってやると、テオは目を丸くして、そして。
「…弱くてとろいのはホントのことだろ」
開き直って過去の自分の発言を肯定しやがった。
「私は普通! 獣人の平均と比べないで!」
私はとろくないし、弱くもない! 本より重いものを持ったことがなさそうなその辺の貴族令嬢と一緒にしないでもらおうか!
「そんな華奢な体でなに強がってんだよ! 女はか弱いって言われたほうが嬉しいんだろ?」
「私は嬉しくない! それとあんたがそのつもりで言ったとしても、ただの悪口になってたから!」
その言葉を言われたのはまだ10か11位の時のことだから、テオも気の利いた言葉選びができなかったのかもしれないが、私にとっては悪口に聞こえたからな!
私とテオは睨み合った。
過去のことをいつまで引きずるのかと指摘されたらそれまでだが、なんか反発しなきゃ気が済まなかったのだ。
「あのーアステリア様…」
恐る恐るといった体で話しかけてきたのは私と同じ魔術師のマントを着用した、見覚えのある男性だった。
「ゲオルク様の指示を受けまして、例の水銀商人の捕縛に参りました」
「あっ、すみません。そこにいます」
父上の直属の部下(魔術師)がやってきたので、被疑者を引き渡し、後のことはすべて丸投げした。
逃亡商人を捕獲していた筈が私とテオの口論になり、なんかいまいち締まらなかったが、一件落着ということでこの件は幕を下ろした。
ちなみに転がった柑橘系の果物はお土産としてすべて買い占めさせて頂いた。
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