太陽のデイジー 〜私、組織に縛られない魔術師を目指してるので。〜

スズキアカネ

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Day‘s Eye 花嫁になったデイジー

攻守逆転(※R18)

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 目の前の客は、『精力剤』を作って欲しいと言った。

「──そのようなご依頼であればお断りいたします。…前もって受け付けない仕事をお知らせしていたはずですが、確認されなかったのですか?」

 私は目の前の依頼人を冷たい目で睨んでやった。今までにも女性魔術師である私をからかいたいのかそういう性的な薬を注文する客はいたけど、私はそのどれもお断りしている。
 だって急を要しない薬じゃないか。それに体には良くないんだぞ。

「そんなつれないことを言わずに。私はまだまだ若く美しい女を抱きたいのだ」

 対面のソファを立ち上がったと思えば、その男はテーブルを回ってこちらに近づいてきた。あ、嫌な予感がすると思ったら、私に向かって手を伸ばしてきた。

「やめてください。私には夫がおります」

 パシリと手を叩き落とすと素早く距離をとった。魔術師をなんだと思ってるんだこいつは。早いところお引き取り願おう。

「…地味な服で隠しているが、いい体してるなぁ…毎日旦那と楽しんでるんだろう」
「あなたには関係ありません。ご依頼はお断りいたしますので、お帰りください」

 吹っとばしちゃ駄目だろうか。
 地味な服なのは仕事着だよ悪かったな。そして人の体を見透かして想像するな気持ち悪い。

「貞淑で真面目そうな女ほど、一度他の男の味を知れば人が変わるんだ」

 諦めの悪い男なのだろう。精力剤に頼らなくてはそういう行為が出来ないだろうに盛ってきた。こういう奴には絶対に売っちゃ駄目だ。危険過ぎる。

「私に手を出すおつもりなら、魔法で攻撃しますよ」

 次に手を出されそうになったら容赦なく魔法を行使しよう、そう思って警告を口にしたのだが、相手は私が女だと思って舐めてかかっていた。ニヤニヤ笑ってにじり寄ってくるではないか。

「嫌がる女を組み敷くのもまた一興、旦那しか男を知らないのはつまらないだろう?」

 気持ち悪さ倍増だ。薬というのは口実で、もしや最初からこういう目的で私に近づいてきたのでは……

「我に従う雷の元素たちよ…」

 私は小さく呪文を唱える。適当に雷流して気絶したら村の外に投げ捨てておこうと思ったのだ。

 しかし、それをする必要はなくなった。

「……誰の嫁を、組み敷くだって……?」

 依頼主の背後に無表情で佇むこの家の主が気配を消して立っていたからである。
 ──いつ、帰ってきたんだ。私まで心臓バクッとしてしまったぞ。

「なっ…ぐぇっ!?」

 テオは男の首根っこを掴むと、リビングからテラス席につながる扉を開いてヒューンと投げ飛ばした。まるで砲丸でも投げるかのように軽々と。
 獣人の腕力すごい。
 私がそれをポカーンと眺めていると、向き直ったテオが冷たい表情で見下ろしていた。思わずギクリとしてしまう。
 よく見てみれば冷酷そうに見えた彼のその目はめらめらと燃える薪の炎のように熱く燃えていた。

「テオ……?」
「……他の男に抱かれようとしたのか」
「えっ?」

 テオは私の胸元に手を持っていくと、ぐっと力を入れてブチブチッと破いた。ボタンが弾け飛び、カツンと床に落ちた音が響き渡る。……服を引き裂かれてしまった。私は驚きすぎて声も出せずに固まっていた。
 テオは私をソファに押し倒すと、シュミーズをずり下ろして私の胸にむしゃぶりついてきた。

「……ちょ、ご、誤解だってば!」

 私はテオの腕を突っぱねて拒絶したが、一度嫉妬に着火したテオは衝動を抑えられないみたいで、スカートの下に手を突っ込むと性急にドロワーズを脱がしてきた。
 私の意志を無視した無理やりな行為。
 なのにテオの手は優しい。嫉妬に狂ってるが、あくまで私の体を傷つけない。

「まって、話……ぁんっ」

 私の感じる部位を把握しているその指は焦らすことなく重点的に責め立ててきた。襲い来る快感に私は酔いかけるが、このままでは駄目だと歯を食いしばる。

「テオ、違う…私は襲われかけただけで」
「……俺の嫁だ、他の男には絶対に渡さない」

 今のテオには私の声が届かないようである。下穿きの前を寛げて、私の中に入ろうとしているテオは嫉妬と怒りに感化されていつも以上に興奮している様子である。
 ……仕方ない。人の話を聞かないテオが悪いんだもの。

「捕縛せよ」
「!?」

 私が捕縛術を唱えると、テオの体は急に力を失ったようにがくりと倒れ込んできた。私はその熱い体に押しつぶされたが、下からなんとか這い出て、テオをごろんと仰向けに転がした。
 急に魔法で動きを拘束されたテオは目を白黒させている。どうだ、今さっきの私の気持ちと似た気分だろう。話を聞かずに一方的にされるのってあまり気分が良くないだろう。

「デイジー…!」

 私はテオの上に乗っかると、身をかがめて顔を近づけた。灰銀色の瞳を覗き込むと、私の顔が映り込んでいた。

「私は誰にでも腰をふる女じゃないの。旦那様は私を見くびり過ぎじゃない?」

 熱り立ったテオの分身の上に濡れそぼった秘部を擦り付けると、テオはぐっと息を呑み込んでいた。

「馬鹿な旦那様はどうしたら信じてくれるのかな?」

 挿入はせずに、擦り合うだけの睦み合い。テオによってトロトロのぐずぐずに溶かされたそこはテオを欲しがって蠢いているが、ここであげたら駄目なのだ。

「で、デイジー…ッ」
「なぁに? キスしてほしいの?」

 快感に歪むテオは獣のような目をしていた。多分体が動かないのに私に好き勝手されて我慢できないんだろうな。

「でも駄目だよ? 私を信じないで無理やりしようとした旦那様が悪いんだから」
「わ、悪かったっ」
「口だけ謝罪しても駄目」

 普段はテオに好き勝手されている私だが、今日は攻守逆転で私がテオを翻弄させている。
 面白い。
 私はゆっくりとテオの高ぶりに手を伸ばすとそれをギュッと握った。テオが息を呑んだ姿を見てニヤリと笑う。はちきれんばかりの熱をしごくようして手を動かした。

「う…っくぅっ」
「テオ可愛いねぇ、女の子みたいに鳴いてもいいんだよ?」

 快感によるものなのか、テオの目元には涙が滲んでいた。その表情は普段とは違った色気が含まれており、私は思わず舌なめずりしてしまった。
 ただ擦るだけでなく、親指でなぞるように触れればビクリと震える。

「デイジ、手じゃ」
「大丈夫、手でもイケる、いい子だからイッちゃおうね」

 私はテオの半開きの口に噛み付くような口づけを送ると、テオの高ぶりを握る手を早く動かした。

「ぅんん…!」

 手の間から弾け飛んだ白濁がぴゅっとかかり、私のスカートに模様を付けた。
 はぁはぁと息をするテオはぐったりとしていた。私はテオの息が整うのを待つことなく、彼の中心部に顔を近づけると、萎えてしまったそれに口を付けた。

「あっ!?」

 テオが驚いて悲鳴のような声を上げた。
 嫉妬してるのが馬鹿らしいくらいに、私が抱いてやる。あれで疑われたのがもうムカつくから、いつものお返しをしてやる。


 今日はいつもの逆だった。普段は私が「もう無理」と言う側だが、今日はテオがそのセリフを言っていた。顎とか手首とかが痛くて私も「もう無理」ってつぶやきそうだったが、意地でも攻め続けた。

「デイッ…! うごき、動きたい…!」
「どうして? 私が動いてあげてるでしょ?」

 テオの上に乗っかって腰を動かすと。テオがたまらないとばかりに叫ぶ。いつもはテオが私を攻める側なので落ち着かないのだろう。しかし今日という今日は私が主導権を握らせてもらう。
 熱く張り詰めた熱杭が体の中に入っていると感じるときゅうと無意識に締め付けてしまう。

「ぅうう…!」

 熱い飛沫が胎内ではじけると、私は天井を仰いで熱いため息を漏らした。充足感に浸りながら下にいるテオを見下ろすと、テオは目を閉じて意識を失っていた。



 夕暮れが迫る日時、オレンジ色の光が部屋に差し込んで部屋を薄暗く照らしていた。
 ソファの上には気を失っているテオがあられもない姿でぐったりしている。その体を蒸しタオルで拭ってやり、窓を開けて換気をする。
 窓の外を眺め、私はふぅ…とため息を吐いた。
 ちょっとやりすぎた。途中自分に治癒魔法をかけて体を回復させたら更にテオを鳴かせることに没頭していたので加減を忘れていた。……テオの反応が可愛くてつい。

 しかし、こんな事があっては接客方法も変えなくてはだな。今までにもああいう客はいたけど、結婚しても尚絡まれるとは思わなかった。

「……デイジー…」
「気がついた?」

 ソファに転がったまま、掠れた声を漏らすテオの声に反応した私は水をコップに生成させてそれをテオに手渡す。
 テオは精根尽き果ててもう嫉妬とかどうでもいいみたいな風になっていた。よほど快楽地獄が苦しかったようだ。

「ねぇテオ」

 気怠そうに背を丸めているテオに私はとある提案をしてみた。

「私を疑うなら貞操帯つけるよ。カギはあんたが持てばいい」

 作るとなると時間がかかるけど、それでテオが安心するなら私も精神的に楽だし。

「…いや、わざわざ外すのが面倒だし、身体に悪そうだからいらない」

 賛成すると思ったテオの反応は芳しくなかった。

「いいの? あんなに嫉妬していたくせに」
「うん大丈夫」

 テオはまるで去勢された犬みたいにおとなしくなってしまった。

「だけど、男の依頼人の時は俺が家にいる時間か、外のテラス席とかで受け付けてほしい。密室にふたりきりはだめだ」

 テオはそう言って私の腰を抱き寄せると、膝の上に私を乗っけた。

「お前は自覚してないかもしれないけど、ものすごく魅力的な女なんだ。俺は心配でたまらないんだ」

 独占欲の強い私の旦那様は甘えるように私の首元に顔を擦り付けて甘えてきた。その仕草が可愛いかったので彼の頭を抱き寄せてギュッとしてあげた。

「不安になったらまたシてあげるから」
「…魔法使って拘束するのはやめてくれ」

 つまりそれ以外は良かったと。
 どうやらなんだかんだ言いながら満更ではなかったようである。
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