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Day‘s Eye 花嫁になったデイジー
眩しいあいつ
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幼い頃、私を見る大人の目は異物を見る目だった。それは町に出てもそう。
ただし意味合いはちょっと違う。村では村唯一の人間でよそ者扱い。人間のいる街では得体のしれない捨て子というのが私の評価だった。周りの子供と同じことをしていても、同じようには扱われなかった。
私について回ったその評価。私が悪いわけでもないのに、私は勝手に評価されていた。
私にとって生まれ育った地は決して居心地のいい場所ではなかった。
それは初等学校でも同じだった。村の学校に通う人間は私だけ。ここでも私は異物だった。だから私は友達を作らず、自分の殻にこもってひたすら勉強していた。それが周りからしてみたら生意気に見えたようで反感を買うこともあったけど、どっちにしても同じだ。私が愛想を振りまいてもよそ者だってバカにされる。
どうせこの村の輪には入れないのだ。諦めたほうが早い。
『はい、正解ですね。難しいのによく解けましたね。数式も完璧です』
黒板に書かれた数式を解いた私は指についた粉をはたいて席に戻る。視線が刺さるがそのどれも無視してまっすぐ歩いていく。
勉強は好きだ。私を裏切らないから。こうしてクラス一番の成績を維持していれば一目置かれるし、誰も馬鹿にしないもの。
先生が説明しながら黒板に何かを書き込みはじめた。私は机の端に置いておいた羽ペンを手に取ると、教科書に書き込もうとペン先をインクに浸す。
文字を書こうとしたその時、がくんと頭が後ろに引っ張られた。みつ編みにしている髪を引っ張られたのだ。誰に、って私をいじめるクラスの悪ガキである。後ろでプププと笑って面白がっている声が複数聞こえるもの。
後ろを見なくても誰が犯人かわかっている。
『先生』
私は手を上げた。
『はい、どうしましたか?』
背後の悪ガキは慌てた様子で私の髪の毛から手を離したが、もう遅い。
『タルコット君が次の問題を解きたいそうです』
『はぁ!?』
私が指名すると、後ろに座っていた悪ガキ・テオがひっくり返った声を出していた。
『おや珍しいですね。じゃあ、解いてみましょう』
テオに注目が集まる。
私は素知らぬ顔をして、『ほらどうしたの、解きたいんでしょ?』と意地悪を言うと、奴はキッとこちらを睨んできた。
仕方無しに黒板前に立つが、チョークを持ったまま固まるテオ。授業聞かずに遊んでるからそうなるんだぞ。
私はフン、と鼻を鳴らすと席を立ち上がった。そして再度教壇に向かい、黒板前に立った。
そしてテオが持ってたチョークを奪い取ると、サラサラサラーと計算式と解答を黒板に書き連ねてやった。
唖然とするテオに向かって私はニヤリと笑ってやる。
『こんな問題も解けないんだね』
鼻で笑ってやると、テオは頬を赤くして恥じている様子であった。
『生意気女』
ボソリと言われた言葉だが、私は痛くも痒くもない。
この村で生き抜くためには生意気なくらいが丁度いいのだ。
私が学校生活で苦手なのは昼休みの時間帯だ。お弁当をぱぱぱっと食べ終えると、私は一目散に教室を飛び出す。行き先は決まって学校の図書室。イチオシは最近発見した屋根裏部屋である。埃っぽくてとてもじゃないけど過ごしにくい空間を、数日掛けて掃除してキレイにした私だけの隠れ家である。扉を締めたら誰も邪魔しに来ないであろう。
日当たりの良い窓辺に座ると私は町の図書館から借りてきた本を開いた。本を読む時間は大好き。周りのことを何も考えなくて済むから。
静かな空間。誰もいないこの場所は私の居場所だ。
──ガチャッ
『こんなところにいやがったのか!』
『……』
撒いたのに。扉も閉めたのに。
何故お前が来るんだテオ・タルコット…!
私の顔は思わずしかめっ面になってしまう。休み時間くらい自由に過ごさせてくれ。
私は本にしおりを挟むと、テオが開けた扉のもとに近づく。そして開けられた扉を閉じた。
『閉めんな!』
しかしそれじゃお引取り願えなかったようだ。
『なによ、算術の授業の恨み言でも言いに来たの? あんたが喧嘩を売ってきたのが悪いんだからね』
もう一度扉を閉めようとしたのだが、テオがそれを阻止してくるので諦めた。
『ちげーよ! 外で追いかけっこするからお前もこいよ』
『結構です』
どうせ私はすぐに捕まるし、外で遊ぶよりは本を読んでいたい……
何なのだこいつは。人をいじめる割にこうして人の輪に私をねじ込もうとするし…私にとっては余計なお世話なんだが。
私はうんざりした気持ちで奥に戻ると、本を開いた。もうテオのことは無視して本を読もう。
『こんなかび臭いところにいたら頭どうかするぞ! 太陽の光浴びねぇと!』
だけどあいつは私を外に連れ出そうとするのだ。私が嫌がっていたら抱えてでも外に無理やり。
私はどんよりした気分のまま、走り回るクラスメイトをぼんやりと眺めていた。
キラキラと太陽の光が反射する。
白銀色のあいつの髪の毛に太陽の光が当たると光が屈折してキラキラ輝く。
『おいっデイジー! お前ボーッとしてたら捕まるぞ!』
眩しい。
太陽の光さながら、クラスの中心となって駆け回るあいつが眩しいや。私とはまるで正反対。
……嫌いな相手とは会話したくなくなるものなのに、なんで私に構うんだろう。あいつがよくわからないや──……
■□■
「…う、うぅん…」
眩しい。
チカチカどころじゃなくかなり眩しいぞ。私は目をぎゅっとつぶって呻き声を漏らした。
「…デイジー、飯の準備できたぞ」
「ん…?」
低い男の声に私は眉間にシワを寄せた。眩しさに目を眇めながら開いた瞳の先に、白銀色を持つ青年の姿を見つけた私は自分が夢を見ていたのだと納得した。
「うなされてたぞ」
「どこぞのいじめっ子にいじめられてる夢を見ていたの」
「まだそれ引っ張るのかよ…」
あの頃のいじめっ子による悪行はテオにとって完全に黒歴史らしい。私がたまにこうしてチクリと言うと、彼のへにょんと耳が垂れ下がる。それを見て溜飲を下げる辺り私も意地が悪い。
幼い頃の私はわからなかった。
私に意地悪するくせにこのいじめっ子はいつも私を外に出そうとした。逃げようとするとすぐに見つかって引き戻される。
そんな事されても余計に居心地が悪くなるだけなのに。あの頃の私はひとりでいるのが楽だったんだ。
テオの普段の態度も相まって、私はその気遣いを理解することすら拒絶していた。
私はいつの日か村の外、そしてこの村の隣の町よりも外の世界に飛び出していきたいと夢を抱くようになった。勉強して、いい学校を出て、良い職業につけたらきっと周りの私の評価を変えられる。そう信じていたから。
見返してやりたかったんだ。私はただの捨て子じゃないんだぞって。村唯一の人間だけど、ひ弱なだけじゃないんだぞって。
──なのに今ではそのいじめっ子と結婚して、居心地の悪かったはずの村に永住を決めたんだから人間の心というものは不思議なものである。
努力の結果、高等魔術師というとびきりいい地位につけたし、今では自由業としてのびのび働ける。後悔も特にしていない。
「今日は天気もいいから、外のテラス席で食べよう」
朝食の準備をしてくれたというテオは寝室の窓を開けて空気の入れ替えをはじめた。ふわっと風が流れ込んできてカーテンが揺れる。
「どっかの誰かさんのせいで足腰立たないんですけど」
ベッドに寝転がったまま私が恨みがましく言うと、テオは困ったように眉尻をたらし、そっと抱き上げて運んでくれた。
私はテオに横抱きされながらテオの整った顔を間近で見つめた。子供の頃の丸みはすっかりない。夢の中のボーイソプラノなテオがただただ懐かしく思う。
「…私ってさ、昔とは大分変わったと思わない?」
周りの評価は随分変わったと思う。それは私の努力の賜物だと今では自負しているのだが。
前置きなしのその問いかけにテオはキョトンとしていたが、何故かフッと笑っていた。
「いんや、全然変わらない。デイジーはずっと昔からキレイで賢くて可愛かった」
テオは混じりけのない笑顔で言ってのけた。朝日の眩しい光に照らされたテオがキラキラと眩しくて、目の前がチカチカした。
……朝からよくそんなどストレートな口説き文句を吐けるものである。
「……そういう意味で聞いたんじゃないけど」
まぁいいかと思った私は彼の首に抱きついて、少し熱を持った頬を見られないように隠したのである。
ただし意味合いはちょっと違う。村では村唯一の人間でよそ者扱い。人間のいる街では得体のしれない捨て子というのが私の評価だった。周りの子供と同じことをしていても、同じようには扱われなかった。
私について回ったその評価。私が悪いわけでもないのに、私は勝手に評価されていた。
私にとって生まれ育った地は決して居心地のいい場所ではなかった。
それは初等学校でも同じだった。村の学校に通う人間は私だけ。ここでも私は異物だった。だから私は友達を作らず、自分の殻にこもってひたすら勉強していた。それが周りからしてみたら生意気に見えたようで反感を買うこともあったけど、どっちにしても同じだ。私が愛想を振りまいてもよそ者だってバカにされる。
どうせこの村の輪には入れないのだ。諦めたほうが早い。
『はい、正解ですね。難しいのによく解けましたね。数式も完璧です』
黒板に書かれた数式を解いた私は指についた粉をはたいて席に戻る。視線が刺さるがそのどれも無視してまっすぐ歩いていく。
勉強は好きだ。私を裏切らないから。こうしてクラス一番の成績を維持していれば一目置かれるし、誰も馬鹿にしないもの。
先生が説明しながら黒板に何かを書き込みはじめた。私は机の端に置いておいた羽ペンを手に取ると、教科書に書き込もうとペン先をインクに浸す。
文字を書こうとしたその時、がくんと頭が後ろに引っ張られた。みつ編みにしている髪を引っ張られたのだ。誰に、って私をいじめるクラスの悪ガキである。後ろでプププと笑って面白がっている声が複数聞こえるもの。
後ろを見なくても誰が犯人かわかっている。
『先生』
私は手を上げた。
『はい、どうしましたか?』
背後の悪ガキは慌てた様子で私の髪の毛から手を離したが、もう遅い。
『タルコット君が次の問題を解きたいそうです』
『はぁ!?』
私が指名すると、後ろに座っていた悪ガキ・テオがひっくり返った声を出していた。
『おや珍しいですね。じゃあ、解いてみましょう』
テオに注目が集まる。
私は素知らぬ顔をして、『ほらどうしたの、解きたいんでしょ?』と意地悪を言うと、奴はキッとこちらを睨んできた。
仕方無しに黒板前に立つが、チョークを持ったまま固まるテオ。授業聞かずに遊んでるからそうなるんだぞ。
私はフン、と鼻を鳴らすと席を立ち上がった。そして再度教壇に向かい、黒板前に立った。
そしてテオが持ってたチョークを奪い取ると、サラサラサラーと計算式と解答を黒板に書き連ねてやった。
唖然とするテオに向かって私はニヤリと笑ってやる。
『こんな問題も解けないんだね』
鼻で笑ってやると、テオは頬を赤くして恥じている様子であった。
『生意気女』
ボソリと言われた言葉だが、私は痛くも痒くもない。
この村で生き抜くためには生意気なくらいが丁度いいのだ。
私が学校生活で苦手なのは昼休みの時間帯だ。お弁当をぱぱぱっと食べ終えると、私は一目散に教室を飛び出す。行き先は決まって学校の図書室。イチオシは最近発見した屋根裏部屋である。埃っぽくてとてもじゃないけど過ごしにくい空間を、数日掛けて掃除してキレイにした私だけの隠れ家である。扉を締めたら誰も邪魔しに来ないであろう。
日当たりの良い窓辺に座ると私は町の図書館から借りてきた本を開いた。本を読む時間は大好き。周りのことを何も考えなくて済むから。
静かな空間。誰もいないこの場所は私の居場所だ。
──ガチャッ
『こんなところにいやがったのか!』
『……』
撒いたのに。扉も閉めたのに。
何故お前が来るんだテオ・タルコット…!
私の顔は思わずしかめっ面になってしまう。休み時間くらい自由に過ごさせてくれ。
私は本にしおりを挟むと、テオが開けた扉のもとに近づく。そして開けられた扉を閉じた。
『閉めんな!』
しかしそれじゃお引取り願えなかったようだ。
『なによ、算術の授業の恨み言でも言いに来たの? あんたが喧嘩を売ってきたのが悪いんだからね』
もう一度扉を閉めようとしたのだが、テオがそれを阻止してくるので諦めた。
『ちげーよ! 外で追いかけっこするからお前もこいよ』
『結構です』
どうせ私はすぐに捕まるし、外で遊ぶよりは本を読んでいたい……
何なのだこいつは。人をいじめる割にこうして人の輪に私をねじ込もうとするし…私にとっては余計なお世話なんだが。
私はうんざりした気持ちで奥に戻ると、本を開いた。もうテオのことは無視して本を読もう。
『こんなかび臭いところにいたら頭どうかするぞ! 太陽の光浴びねぇと!』
だけどあいつは私を外に連れ出そうとするのだ。私が嫌がっていたら抱えてでも外に無理やり。
私はどんよりした気分のまま、走り回るクラスメイトをぼんやりと眺めていた。
キラキラと太陽の光が反射する。
白銀色のあいつの髪の毛に太陽の光が当たると光が屈折してキラキラ輝く。
『おいっデイジー! お前ボーッとしてたら捕まるぞ!』
眩しい。
太陽の光さながら、クラスの中心となって駆け回るあいつが眩しいや。私とはまるで正反対。
……嫌いな相手とは会話したくなくなるものなのに、なんで私に構うんだろう。あいつがよくわからないや──……
■□■
「…う、うぅん…」
眩しい。
チカチカどころじゃなくかなり眩しいぞ。私は目をぎゅっとつぶって呻き声を漏らした。
「…デイジー、飯の準備できたぞ」
「ん…?」
低い男の声に私は眉間にシワを寄せた。眩しさに目を眇めながら開いた瞳の先に、白銀色を持つ青年の姿を見つけた私は自分が夢を見ていたのだと納得した。
「うなされてたぞ」
「どこぞのいじめっ子にいじめられてる夢を見ていたの」
「まだそれ引っ張るのかよ…」
あの頃のいじめっ子による悪行はテオにとって完全に黒歴史らしい。私がたまにこうしてチクリと言うと、彼のへにょんと耳が垂れ下がる。それを見て溜飲を下げる辺り私も意地が悪い。
幼い頃の私はわからなかった。
私に意地悪するくせにこのいじめっ子はいつも私を外に出そうとした。逃げようとするとすぐに見つかって引き戻される。
そんな事されても余計に居心地が悪くなるだけなのに。あの頃の私はひとりでいるのが楽だったんだ。
テオの普段の態度も相まって、私はその気遣いを理解することすら拒絶していた。
私はいつの日か村の外、そしてこの村の隣の町よりも外の世界に飛び出していきたいと夢を抱くようになった。勉強して、いい学校を出て、良い職業につけたらきっと周りの私の評価を変えられる。そう信じていたから。
見返してやりたかったんだ。私はただの捨て子じゃないんだぞって。村唯一の人間だけど、ひ弱なだけじゃないんだぞって。
──なのに今ではそのいじめっ子と結婚して、居心地の悪かったはずの村に永住を決めたんだから人間の心というものは不思議なものである。
努力の結果、高等魔術師というとびきりいい地位につけたし、今では自由業としてのびのび働ける。後悔も特にしていない。
「今日は天気もいいから、外のテラス席で食べよう」
朝食の準備をしてくれたというテオは寝室の窓を開けて空気の入れ替えをはじめた。ふわっと風が流れ込んできてカーテンが揺れる。
「どっかの誰かさんのせいで足腰立たないんですけど」
ベッドに寝転がったまま私が恨みがましく言うと、テオは困ったように眉尻をたらし、そっと抱き上げて運んでくれた。
私はテオに横抱きされながらテオの整った顔を間近で見つめた。子供の頃の丸みはすっかりない。夢の中のボーイソプラノなテオがただただ懐かしく思う。
「…私ってさ、昔とは大分変わったと思わない?」
周りの評価は随分変わったと思う。それは私の努力の賜物だと今では自負しているのだが。
前置きなしのその問いかけにテオはキョトンとしていたが、何故かフッと笑っていた。
「いんや、全然変わらない。デイジーはずっと昔からキレイで賢くて可愛かった」
テオは混じりけのない笑顔で言ってのけた。朝日の眩しい光に照らされたテオがキラキラと眩しくて、目の前がチカチカした。
……朝からよくそんなどストレートな口説き文句を吐けるものである。
「……そういう意味で聞いたんじゃないけど」
まぁいいかと思った私は彼の首に抱きついて、少し熱を持った頬を見られないように隠したのである。
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