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Day‘s Eye デイジーの花が開くとき
ろくでなしと苦労人妹
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突然襲われて腕を押さえつけられた私は考えていた。
何を言っているんだろう。
この人はパーティでただ私にしつこく声掛けして、無理やり個室に引きずり込もうとしただけじゃないか。そこを実妹に阻止されて追い払われたけども、あれは立派な迷惑行為だ。コケにしたとか思い上がりも甚だしい。言っとくけど辺境伯位のほうが上だからな? 当時の私にも選ぶ権利はあったからな?
そんでもって、貴族籍を捨てた庶民になったとしても、貴族様のお戯れに付き合う義理など存在しないのだ!
「手紙を無視しただろう」
「は…」
「お高く留まってるつもりか知らないが、舐めた真似をして…小賢しい女は嫌いだ」
手紙とは。
……殺到した恋文のことか? 兄上に相談して燃やしたものの1つかな? だけどその気がないならお返事しなくてもいいとマナー教本にも、母上にも教えられた。だから燃やしてお空へ昇華させた。それが気に入らなくて犯行に及んだというのか…? 馬鹿なのだろうか。
今の状況はとても拙い。早くこの男から逃げねば。
しかし、ドレスの裾を踏まれて動きが拘束されている今、私にできることは限られている。
「相手してやるのを光栄に思…」
ゴツッ…!
顔を近づけてきた相手に頭突きを噛ましてやった。ちょうど相手の鼻に私のオデコがぶつかったらしく、「ぐふぉ」とくぐもった声を漏らしながら鼻を押さえて身を引いていた。
「このろくでなしが……私の家族を、恋人を、バカにするな…! 我に従う雷の元素たちよ、痴れ者へ怒りの一撃を与え給え…!」
バチバチッと稲光が走る。外じゃなくても雷の元素は操れるんだからな!
私が放ったのは、人を軽く吹っ飛ばせる程度の雷撃。これは防御だ。正当防衛である。雷撃をまともに食らった相手は身体をビリビリさせながら壁に叩きつけられていた。
「…ぐっ…庶民が楯突いてただで済むと思ってるのか…!」
「お前は尊敬するに値しない、よって問題なし!」
この人がエスメラルダの内部に干渉できるなら話は別だろうが、そうなればその時、周りへ助けを求めるから大丈夫だ。私は悪いことはしていない。悪いのはむしろこの男である。
身体を走った雷撃に耐えかねていた相手は生まれたての仔ロバのようになっていた。……いや、仔ロバのほうが余程愛嬌あるな。こんな言い方じゃロバに失礼か。
「何事ですか!?」
大きな音に異変を感じたのだろう。慌てて駆けつけたサンドラ様は神殿騎士を連れて飛び込んできた。部屋の真ん中に突っ立つ私と、壁際で雷ビリビリの仔ロバ状態の男を見ると、彼女は目を丸くして驚愕していた。
「…お兄様!? 何故あなたがここにいるのです!」
「…騒ぐなみっともない」
あんた偉そうにサンドラ様をたしなめてるけど、そんな事言える義理ないよ? あんたはただの侵入者だからね?
「この不埒者から襲われたので、反撃しました」
報告すると、すぐさま神殿騎士らは男を確保した。大巫女様の実兄であってもただじゃすまないであろう。
「なんてことを…!」
「今はただの庶民女だ。そう騒ぎ立てることもあるまい」
「…あなたという人は…!」
サンドラ様は激怒していた。目の前のろくでなしに怒鳴りつけたいのに頭が沸騰して言葉が出てこないようである。わなわな震えてその白い肌を真っ赤に染めた彼女を、兄である男は小馬鹿にするように見ている。
こんなのでも血のつながった兄。サンドラ様は苦労人なのだな…と他人事のように考えていると、彼女の細い肩を支えるように後ろから包み込む男がいた。
「──やめたほうがいい。アステリアに手を出すとオオカミに殺される」
「…ラウル殿下」
そう、ラウル殿下である。彼は比喩っぽく言っているが、まさしくテオのことを指している…あれ、テオが狼獣人だってこの人に話したことあったかな? 面識あったっけ…
ラウル殿下の登場に怯んだ男はそのまま神殿騎士によって腕を掴まれて引きずられて行った。本当なんだったのあんた…手紙無視されたのそんなに傷ついたの。でもあんな調子じゃ丁寧にお断りの手紙を送ったところでしつこくつきまとってきそうだよね。
全くもう、女好きもあそこまで来たら病気の域だな。疲れたようにため息を吐き出す。
「デイジー様! 何もされてませんか!? 本当に本当に申し訳ありません!」
サンドラ様は泣いて謝ってきた。血相変えて可哀想なくらいにうろたえている。
「アレキサンドラ、気にすることはない。こうして何もなかったんだ」
あんたが答えるな。そこは私が答えるところだろう。
サンドラ様をなだめるラウル殿下は甘い甘い視線を彼女に送りつけている。あんたが助けたのは私じゃないんかい。サンドラ様にいいとこ見せたかっただけかい。別にいいけどさ。
「本当に恥ずかしい、本当に、本当にごめんなさい」
「あー…見習い巫女に頼んで侵入したらしいので、警備について考え直させたがいいかもしれませんね?」
ラウル殿下の言葉が聞こえてないのか、サンドラ様は私の手を握って涙ながらに謝罪する。本当に本当に申し訳ないと頭を下げる彼女を責める気は一切なく、むしろ哀れにも思えてきた。
「サンドラ様が淹れたお茶が飲みたいです。…私のために淹れてくれます?」
話をそらそうとおねだりをすると、彼女は「はい!」と飛び上がる勢いでお茶セットを取りに戻った。
「──災難だったねぇ、貴族籍を捨てた弊害が出てきて」
「元々あるようでないものでしょう……殿下はいつまでここにいらっしゃるおつもりで?」
からかうような言い方をしてくるラウル殿下に対して、冷たい視線を送って差し上げると、彼は肩をすくめていた。
まさかここに居座るつもりか? 私が久々にサンドラ様に会いに来た日を狙って来るとか……今までに何度もお茶会に乱入されたけど、改めて厚かましい人だな。
「…私はこの国の王太子だよ?」
「そうでしたね、失礼いたしました」
私は形ばかりの謝罪をする。
だが今日という今日は言わせてもらうぞ。
「今日はサンドラ様と2人で話をするお約束してるんで、席外してもらえます?」
あんたがいるとサンドラ様も私も気を遣って話が出来ないんだ。
サンドラ様へ近づきたいなら、私のいないときに正式なお約束を取り付けてからにしてくれないか。
「そんな事言わないでおくれよ……君の前じゃないとアレキサンドラは口数が少なく、笑ってくれない」
「知りませんよそんなの。殿下と一緒にいても楽しくないんじゃないですか」
そんなの私には関係ない。
なんなのだ。私はあんたのキューピッドじゃないんだ。
ラウル殿下はちょっと傷ついたのか口ごもって黙ってしまった。だけど割と真実だと思うんだ。
「おまたせしましたデイジー様、いただきもののケーキがございますからこちらも…あら、殿下……まぁどうしましょう、ケーキは2つしかないのに…」
「大丈夫です、殿下はすぐにお帰りになるそうですので。お見送りお願いします」
神殿騎士のひとりに任せて、殿下を力づくで追い出した。パタンと談話室の扉が閉まると、私はふぅとため息を吐き出した。
全くもう……貴族様と関わるとろくなことがない。背中はじんじん痛むが、後で自分に治癒魔法をかけよう。今はサンドラ様が気に病まぬよう話を逸らしてあげるのが先決。
私は普段は回らない口をフル稼働させて、村のこと、仕事のこと、両家の家族のこと、幼馴染と恋人同士になったこと、運命の番の存在で結婚話は膠着していることなど、自分の近況をペラペラ話した。普段こんな事自分から話しないからね。今日だけは特別だよ。
私の話を聞いていたサンドラ様は時折ハラハラしたお顔をしていらしたが、彼女の意識は完全にそれた様子。
「デイジー様の結婚式にはぜひとも参列させてくださいな。陛下にお願いして外出許可を頂いてまいりますので」
大巫女様にも休暇が与えられる制度があるそうで、事前に申告すればお休みがいただけるそうだ。ただし条件として神殿騎士数名が護衛で同行する事となっているそうだが。今まで使ってなかった休暇を使ってお祝いに来てくれるという。
私の結婚式にわざわざ足を運ぶと言ってくれるのは嬉しいが、運命の番の問題が残っており、まだ話は全く固まっていないのだ。テオがお相手にお断りの手紙を送ってから何の音沙汰もない。あちらに手紙が届くまで多少の時間差があるせいかもしれないが…
私はそれが妙に引っかかって胸騒ぎを憶えていたりする。
■□■
フォルクヴァルツへ帰城すると、大神殿で起きた事件の情報が既に彼らの耳に届いていたようだ。私の護衛でやってきた兵士が神殿騎士から聞かされて早馬で情報が駆け巡ったのだそうだ。
母上は自室にこもってなにか怪しげな薬を作っているというし、兄上は趣味のフェンシングの道具を手入れしている。父上はどこかに手紙を書いており、なんだか全体的にピリピリしている。…物々しい雰囲気が漂っていた。
彼らに「何しているの」とは聞かずに、私は自分に与えられた部屋で現実逃避もとい読書をしていた。
「…大巫女様が実家を嫌って出られたと噂の原因はまさしく獣ですわね」
頼んだ覚えはないのに、私の髪のお手入れをしていたメイドがむっすりと顔をしかめていた。
「男を引き入れたという神殿の見習い巫女というのも大丈夫ですの? お嬢様になにかあった時はどうするおつもりだったのでしょう!」
私の足のマッサージをして爪紅を付けているメイドもぷりぷり怒っていた。ちなみにこれも頼んでない。
「お嬢様、大丈夫ですよ。旦那様に奥様、お兄様がきっと仇をとってくださいますからね」
「大丈夫に聞こえませんが」
──でもいやしかし…あの不埒男には二度と同じ真似をしないように釘を差してほしいってのはあるかな。
……とりあえずこれで今回の目的は達成したので、早々に村へ戻ろうと思う。後のことは彼らに任せることとしよう。
何を言っているんだろう。
この人はパーティでただ私にしつこく声掛けして、無理やり個室に引きずり込もうとしただけじゃないか。そこを実妹に阻止されて追い払われたけども、あれは立派な迷惑行為だ。コケにしたとか思い上がりも甚だしい。言っとくけど辺境伯位のほうが上だからな? 当時の私にも選ぶ権利はあったからな?
そんでもって、貴族籍を捨てた庶民になったとしても、貴族様のお戯れに付き合う義理など存在しないのだ!
「手紙を無視しただろう」
「は…」
「お高く留まってるつもりか知らないが、舐めた真似をして…小賢しい女は嫌いだ」
手紙とは。
……殺到した恋文のことか? 兄上に相談して燃やしたものの1つかな? だけどその気がないならお返事しなくてもいいとマナー教本にも、母上にも教えられた。だから燃やしてお空へ昇華させた。それが気に入らなくて犯行に及んだというのか…? 馬鹿なのだろうか。
今の状況はとても拙い。早くこの男から逃げねば。
しかし、ドレスの裾を踏まれて動きが拘束されている今、私にできることは限られている。
「相手してやるのを光栄に思…」
ゴツッ…!
顔を近づけてきた相手に頭突きを噛ましてやった。ちょうど相手の鼻に私のオデコがぶつかったらしく、「ぐふぉ」とくぐもった声を漏らしながら鼻を押さえて身を引いていた。
「このろくでなしが……私の家族を、恋人を、バカにするな…! 我に従う雷の元素たちよ、痴れ者へ怒りの一撃を与え給え…!」
バチバチッと稲光が走る。外じゃなくても雷の元素は操れるんだからな!
私が放ったのは、人を軽く吹っ飛ばせる程度の雷撃。これは防御だ。正当防衛である。雷撃をまともに食らった相手は身体をビリビリさせながら壁に叩きつけられていた。
「…ぐっ…庶民が楯突いてただで済むと思ってるのか…!」
「お前は尊敬するに値しない、よって問題なし!」
この人がエスメラルダの内部に干渉できるなら話は別だろうが、そうなればその時、周りへ助けを求めるから大丈夫だ。私は悪いことはしていない。悪いのはむしろこの男である。
身体を走った雷撃に耐えかねていた相手は生まれたての仔ロバのようになっていた。……いや、仔ロバのほうが余程愛嬌あるな。こんな言い方じゃロバに失礼か。
「何事ですか!?」
大きな音に異変を感じたのだろう。慌てて駆けつけたサンドラ様は神殿騎士を連れて飛び込んできた。部屋の真ん中に突っ立つ私と、壁際で雷ビリビリの仔ロバ状態の男を見ると、彼女は目を丸くして驚愕していた。
「…お兄様!? 何故あなたがここにいるのです!」
「…騒ぐなみっともない」
あんた偉そうにサンドラ様をたしなめてるけど、そんな事言える義理ないよ? あんたはただの侵入者だからね?
「この不埒者から襲われたので、反撃しました」
報告すると、すぐさま神殿騎士らは男を確保した。大巫女様の実兄であってもただじゃすまないであろう。
「なんてことを…!」
「今はただの庶民女だ。そう騒ぎ立てることもあるまい」
「…あなたという人は…!」
サンドラ様は激怒していた。目の前のろくでなしに怒鳴りつけたいのに頭が沸騰して言葉が出てこないようである。わなわな震えてその白い肌を真っ赤に染めた彼女を、兄である男は小馬鹿にするように見ている。
こんなのでも血のつながった兄。サンドラ様は苦労人なのだな…と他人事のように考えていると、彼女の細い肩を支えるように後ろから包み込む男がいた。
「──やめたほうがいい。アステリアに手を出すとオオカミに殺される」
「…ラウル殿下」
そう、ラウル殿下である。彼は比喩っぽく言っているが、まさしくテオのことを指している…あれ、テオが狼獣人だってこの人に話したことあったかな? 面識あったっけ…
ラウル殿下の登場に怯んだ男はそのまま神殿騎士によって腕を掴まれて引きずられて行った。本当なんだったのあんた…手紙無視されたのそんなに傷ついたの。でもあんな調子じゃ丁寧にお断りの手紙を送ったところでしつこくつきまとってきそうだよね。
全くもう、女好きもあそこまで来たら病気の域だな。疲れたようにため息を吐き出す。
「デイジー様! 何もされてませんか!? 本当に本当に申し訳ありません!」
サンドラ様は泣いて謝ってきた。血相変えて可哀想なくらいにうろたえている。
「アレキサンドラ、気にすることはない。こうして何もなかったんだ」
あんたが答えるな。そこは私が答えるところだろう。
サンドラ様をなだめるラウル殿下は甘い甘い視線を彼女に送りつけている。あんたが助けたのは私じゃないんかい。サンドラ様にいいとこ見せたかっただけかい。別にいいけどさ。
「本当に恥ずかしい、本当に、本当にごめんなさい」
「あー…見習い巫女に頼んで侵入したらしいので、警備について考え直させたがいいかもしれませんね?」
ラウル殿下の言葉が聞こえてないのか、サンドラ様は私の手を握って涙ながらに謝罪する。本当に本当に申し訳ないと頭を下げる彼女を責める気は一切なく、むしろ哀れにも思えてきた。
「サンドラ様が淹れたお茶が飲みたいです。…私のために淹れてくれます?」
話をそらそうとおねだりをすると、彼女は「はい!」と飛び上がる勢いでお茶セットを取りに戻った。
「──災難だったねぇ、貴族籍を捨てた弊害が出てきて」
「元々あるようでないものでしょう……殿下はいつまでここにいらっしゃるおつもりで?」
からかうような言い方をしてくるラウル殿下に対して、冷たい視線を送って差し上げると、彼は肩をすくめていた。
まさかここに居座るつもりか? 私が久々にサンドラ様に会いに来た日を狙って来るとか……今までに何度もお茶会に乱入されたけど、改めて厚かましい人だな。
「…私はこの国の王太子だよ?」
「そうでしたね、失礼いたしました」
私は形ばかりの謝罪をする。
だが今日という今日は言わせてもらうぞ。
「今日はサンドラ様と2人で話をするお約束してるんで、席外してもらえます?」
あんたがいるとサンドラ様も私も気を遣って話が出来ないんだ。
サンドラ様へ近づきたいなら、私のいないときに正式なお約束を取り付けてからにしてくれないか。
「そんな事言わないでおくれよ……君の前じゃないとアレキサンドラは口数が少なく、笑ってくれない」
「知りませんよそんなの。殿下と一緒にいても楽しくないんじゃないですか」
そんなの私には関係ない。
なんなのだ。私はあんたのキューピッドじゃないんだ。
ラウル殿下はちょっと傷ついたのか口ごもって黙ってしまった。だけど割と真実だと思うんだ。
「おまたせしましたデイジー様、いただきもののケーキがございますからこちらも…あら、殿下……まぁどうしましょう、ケーキは2つしかないのに…」
「大丈夫です、殿下はすぐにお帰りになるそうですので。お見送りお願いします」
神殿騎士のひとりに任せて、殿下を力づくで追い出した。パタンと談話室の扉が閉まると、私はふぅとため息を吐き出した。
全くもう……貴族様と関わるとろくなことがない。背中はじんじん痛むが、後で自分に治癒魔法をかけよう。今はサンドラ様が気に病まぬよう話を逸らしてあげるのが先決。
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私の結婚式にわざわざ足を運ぶと言ってくれるのは嬉しいが、運命の番の問題が残っており、まだ話は全く固まっていないのだ。テオがお相手にお断りの手紙を送ってから何の音沙汰もない。あちらに手紙が届くまで多少の時間差があるせいかもしれないが…
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■□■
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母上は自室にこもってなにか怪しげな薬を作っているというし、兄上は趣味のフェンシングの道具を手入れしている。父上はどこかに手紙を書いており、なんだか全体的にピリピリしている。…物々しい雰囲気が漂っていた。
彼らに「何しているの」とは聞かずに、私は自分に与えられた部屋で現実逃避もとい読書をしていた。
「…大巫女様が実家を嫌って出られたと噂の原因はまさしく獣ですわね」
頼んだ覚えはないのに、私の髪のお手入れをしていたメイドがむっすりと顔をしかめていた。
「男を引き入れたという神殿の見習い巫女というのも大丈夫ですの? お嬢様になにかあった時はどうするおつもりだったのでしょう!」
私の足のマッサージをして爪紅を付けているメイドもぷりぷり怒っていた。ちなみにこれも頼んでない。
「お嬢様、大丈夫ですよ。旦那様に奥様、お兄様がきっと仇をとってくださいますからね」
「大丈夫に聞こえませんが」
──でもいやしかし…あの不埒男には二度と同じ真似をしないように釘を差してほしいってのはあるかな。
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本当にすみません。そして、本当にありがとうございます。
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m(_ _)m
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