42 / 209
Day's Eye 森に捨てられたデイジー
変化薬と三つ編み
しおりを挟む
私の定位置となっている村の外れにある丘の上でもくもくと薬作りをしていた。別の生き物に擬態できるという“変化薬”。王立図書館の本に書いてた古の薬に今回私は挑戦してみた。
本に書かれていた手順通り、決まった分量で作られた薬剤を作ると、煮沸消毒した熊の毛を入れる。ゴポゴポと音を立てて溶けて消えた熊の毛。私はその薬剤を見下ろす。少しだけ躊躇ったものの、意を決して呷った。
ごくごくっと喉を鳴らして飲み込んだ変化薬。薬なので決して美味しくはない。口直しの水を続けて飲み干した。効果はすぐに現れると文献には書かれていたが。
……ムズムズッと頭の上に異変が現れたのはその直後であった。
私は薬の失敗に凹んでトボトボと家に帰ってきた。手順通り分量守って作ったのに…変化薬の材料費高かったのになぁ…
私が家にたどり着くと、ちょうど仕事から帰ってきたリック兄さんと遭遇したのだが、彼は私の頭の上を見て笑っていた。
「俺らとお揃いだな!」
「…間違ってないはずなのになぁ…予定では獣の熊になるはずだったのに…」
私は頭上でピコピコ動く熊耳を撫でた。
変化は現れた。だけど現れたのは熊獣人のような耳と、小さすぎて隠れて見えない尻尾である。
熊になると思っていたのに、ただの獣人もどきになってしまった。
「人間の耳は消えたのか?」
「うん。今は熊耳に変わってる。聞こえ方は変わらないから問題はないけど…薬作り失敗した。はぁぁ…」
「いいじゃねーか。似合ってんぞ。髪色と合ってて」
うん、別に兄さんたちとおそろいが嫌なわけじゃないの、ただ自分の期待と違ったのでがっかりしたと言うか…あの毛、熊獣人の毛をむしっただけだったんじゃ…じゃなきゃおかしいでしょ…
こうして話している間にもピコピコと耳が動く。その感覚が人間である私には新鮮でどうにも落ち着かない。
「何、カチューシャ付けてんだよお前」
クイッ、と軽く引っ張られた熊耳。ただそれだけなのに耳の付け根がまるで弱点のように感じて私は身震いしてしまった。
「ひゃん!」
私は変な声を漏らしてしまった。頭を庇って後退りすると、そこにいたのは仕事帰りらしいテオの姿。
いきなり何するんだこいつ。背後から急に人の耳触るなよ!
「…な、なんだよ、大げさな…これオモチャなにかだろ?」
私の反応に戸惑いつつも疑っている様子のテオは私から熊耳を引っこ抜こうとする。やめろ、今は私の耳なんだ! もごうとするんじゃない!
「やっ! やめてよ、今は私から生えてる耳なんだからぁ…! ひぅっ…」
ビリビリと脳天にしびれるような感覚が伝わってくる。耳は獣人の弱点でもあるって聞くけど、こんな風になるの!?
私は自分で自分の反応が恥ずかしくなって、必死になってテオの手を振り払った。身体がじんじんしびれて、体中の熱が一気に上がった。
なにこれ、こわい…! 私の身体は火照ってしまったかのようだ。
おかしくなってしまった私を呆然と見下ろしていたテオは、一拍遅れた後になにかに反応したかのようにピクリと肩を揺らした。奴の頬にカッと赤みが差す。
「…お、前ぇ! このバカッ」
「!?」
何をトチ狂ったのかテオは私を俵抱きにした。私は目をぎょっとさせて固まる。
歯を食い縛っておっかない顔で私を睨みつけるもんだから、大人しくされるがまま抱え上げられると、何故かそのまま家の中に押し込められた。バタンと閉じられた扉の音が虚しく響く。私は今何をされたのか、一瞬理解が出来なくて呆然としていたが、そう時間を置かずに正気に戻った。
「ちょっと! なにすんのよ!」
「うるせぇ! お前はその耳治るまで出てくんな!」
ドア越しに文句を言ったら、怒鳴り返された。
「なんで!? 獣人と同じものがついているだけでしょ!」
「他の男が見るだろ!」
はぁぁ!? 獣人と同じもんがついているだけなのになんだそれ! 耳は恥ずかしいものじゃないでしょうが!
ドアを開けようとするが、表から押さえつけられており外に出られない。テオめ、私を閉じ込めるつもりか…!
「余裕ねぇなお前」
「るせぇ!」
一連の流れを観ていたリック兄さんが低く笑う声が漏れ聞こえてきた。それに対してテオが反発している。
ちょっとリック兄さんどうにかしてよ、なんで私がこんな扱いを受けなきゃならないの!
後で兄さんになぜテオを注意しないのかって言ったら、「まぁ雄の本能というか…気持ちはわからんでもないからなぁ」と意味深なことを返され、余計に納得できなかったのであった。
■□■
「デイジー・マックさんに郵便だよ、カンナ・サンドエッジさんから」
カンナから届いた手紙には、毎日下の兄弟たちが暴れまくって大変だと書かれていた。カンナは5人兄弟の真ん中で、まだ幼い兄弟が2人いるのだそうだ。その兄弟もカンナのように魔法魔術学校に通いたいとわがままを言っているそうだ。カンナのマネをして呪文を唱えるが、魔法は何も起きずに癇癪を起こして困っているんだって。
日々の日記を見せられている気分になるカンナの手紙だが、それが彼女らしいなと思える。
その日は朝からずっと丘の上で読書をしていた。休憩がてらカンナからの手紙を読んでいたら肩の力が抜けたので、手紙の返事を書くことにした。
本を下敷きに便箋を敷くと羽ペンを動かす。親愛なるカンナへ、のその後、何を書けばいいだろう。私も日々のことを書き連ねて近況報告でもしておけばいいのであろうか。
この間薬作り失敗して獣人もどきになりました…ってか?
「誰から?」
何を書くか考え込んでいると、フッと目の前が陰り、傍らにおいていた手紙を誰かに取られた。
「人の手紙読まないで」
「カンナ…って女か。学校の友達か?」
差出人の名前を勝手に確認したテオは中身を読まずに元にあった場所に戻していた。
なんだってこいつは私の居場所をすぐに特定するんだ……匂いか、やっぱり私は臭いのか…そういえば、自分の匂いを消す香水のレシピが王立図書館の薬学の本に書かれていた……今度それ試してみようか……
「…お前が友達と文通とか珍しい」
その言葉に私は苦笑いしてしまった。
村の学校では友達らしい友達のいなかった私のことだ。テオには奇妙に見えているに違いない。
だけど私は今も昔もそう変わらない。ただカンナは特別枠なだけだ。
「カンナは特別なの。…勇気があって心優しい子なんだ」
今から思えば、カンナは色々気にかけてくれた。
始めはそれが鬱陶しかったけど、私が同級生から嫌がらせを受けていた時も自分のことのように憤ってくれたし、学年が変わっても気にせずあちこちで声を掛けてきた。
変な風に目立ってしまった私のことを色眼鏡で見なかったのはカンナくらいだ。あんな事件に巻き込まれても以前と変わらずに接してくれる。
友達がいなかった私は、友達って存在がよく分からなかった。だけどカンナと出会ってから、これが友達って存在なのかなってようやく理解できた気がする。
今までは素っ気なくしてきたけど、少しくらいはその気持ちを返してあげなきゃね。
デイジーデイジーと私を呼びながら笑顔で駆け寄ってくるカンナの姿を思い出すと、私は思い出し笑いを浮かべてしまった。──そんな私を、テオは眩しそうに目を細めて見つめてきた。
「…王都の学校、楽しそうだな」
その声音はどこか安堵が含まれていた。
しかし素直に頷くほど、学校が楽しいわけでもない私は肩をすくめる。
「そう見える? 結構面倒なことが多いよ。…私は勉強だけがしたいのに、事件や妨害が多くて」
「それで?」
珍しいな。私が王都の学校に進学することあれだけ反対していたくせに。話を聞きたがるとか。学生が羨ましくなっちゃったか。
だけど初等学校以上に勉強しなきゃいけない環境だから、勉強嫌いのテオには向いてないぞ。
「カンナは…今は私と学年が違うってのに試験前になると毎回私に泣きついて……私が先に卒業したら留年しちゃうって騒ぐの。自分で勉強する癖をつけろって言ってるのに、いつも私のベッドでゴロゴロして…」
「ふぅん」
「太っちゃうが口癖のくせに、世話焼きおばちゃんみたいにお菓子配ってくるし…」
なんだかカンナの悪口になってしまっているが、本当のことを話しているだけなので大丈夫。
それよりもテオだ。私の話なんか聞きたがって珍しいにもほどがあるだろう。
「…私おしゃべり苦手なんだけど、聞いていて楽しい?」
話が聞きたいなら村の女の子のほうが面白おかしく話してくれるんじゃないかな。
「お前の声は聞いていて飽きない」
「…そうですか」
声が飽きない…。まぁ、褒められているのだと受け取ろう。
なんだか変な空気になったな。どうして声の話になったんだ…あぁそうだテオが学校での話をねだるから……
クイッと後ろでひとつ結びにしていた髪の毛を一房引っ張られた。犯人は隣に座るテオだ。この年齢にもなってまた人の髪の毛引っ張って…私この間言ったよね、女子の髪の毛に触ったら痛い目見るよって。
指先でぎこちなく梳いてくるその手は優しく、粗暴なテオらしくない。私はそれがムズムズして落ち着かない。
「引っ張んないで」
「痛くねーだろ」
痛くはないけど、変な感じがするんだよ。
私の戸惑いを無視して、テオは私の髪の毛で三つ編みを始めた。しかしその出来栄えは下手くそそのものである。飛び飛びになってるじゃないか。
「下手くそ。不器用か」
「しかたねーだろ」
不器用加減に笑うと、テオはもう一度やり直しとばかりに一から三つ編みを始めた。
あの、私の髪の毛はオモチャじゃないんですけど。
真剣な眼差しで三つ編みするその姿は子どもみたいである。……どんなに大人っぽくなっても根っこの方が子どもだな。
私はフッと鼻で笑ってやったのである。
本に書かれていた手順通り、決まった分量で作られた薬剤を作ると、煮沸消毒した熊の毛を入れる。ゴポゴポと音を立てて溶けて消えた熊の毛。私はその薬剤を見下ろす。少しだけ躊躇ったものの、意を決して呷った。
ごくごくっと喉を鳴らして飲み込んだ変化薬。薬なので決して美味しくはない。口直しの水を続けて飲み干した。効果はすぐに現れると文献には書かれていたが。
……ムズムズッと頭の上に異変が現れたのはその直後であった。
私は薬の失敗に凹んでトボトボと家に帰ってきた。手順通り分量守って作ったのに…変化薬の材料費高かったのになぁ…
私が家にたどり着くと、ちょうど仕事から帰ってきたリック兄さんと遭遇したのだが、彼は私の頭の上を見て笑っていた。
「俺らとお揃いだな!」
「…間違ってないはずなのになぁ…予定では獣の熊になるはずだったのに…」
私は頭上でピコピコ動く熊耳を撫でた。
変化は現れた。だけど現れたのは熊獣人のような耳と、小さすぎて隠れて見えない尻尾である。
熊になると思っていたのに、ただの獣人もどきになってしまった。
「人間の耳は消えたのか?」
「うん。今は熊耳に変わってる。聞こえ方は変わらないから問題はないけど…薬作り失敗した。はぁぁ…」
「いいじゃねーか。似合ってんぞ。髪色と合ってて」
うん、別に兄さんたちとおそろいが嫌なわけじゃないの、ただ自分の期待と違ったのでがっかりしたと言うか…あの毛、熊獣人の毛をむしっただけだったんじゃ…じゃなきゃおかしいでしょ…
こうして話している間にもピコピコと耳が動く。その感覚が人間である私には新鮮でどうにも落ち着かない。
「何、カチューシャ付けてんだよお前」
クイッ、と軽く引っ張られた熊耳。ただそれだけなのに耳の付け根がまるで弱点のように感じて私は身震いしてしまった。
「ひゃん!」
私は変な声を漏らしてしまった。頭を庇って後退りすると、そこにいたのは仕事帰りらしいテオの姿。
いきなり何するんだこいつ。背後から急に人の耳触るなよ!
「…な、なんだよ、大げさな…これオモチャなにかだろ?」
私の反応に戸惑いつつも疑っている様子のテオは私から熊耳を引っこ抜こうとする。やめろ、今は私の耳なんだ! もごうとするんじゃない!
「やっ! やめてよ、今は私から生えてる耳なんだからぁ…! ひぅっ…」
ビリビリと脳天にしびれるような感覚が伝わってくる。耳は獣人の弱点でもあるって聞くけど、こんな風になるの!?
私は自分で自分の反応が恥ずかしくなって、必死になってテオの手を振り払った。身体がじんじんしびれて、体中の熱が一気に上がった。
なにこれ、こわい…! 私の身体は火照ってしまったかのようだ。
おかしくなってしまった私を呆然と見下ろしていたテオは、一拍遅れた後になにかに反応したかのようにピクリと肩を揺らした。奴の頬にカッと赤みが差す。
「…お、前ぇ! このバカッ」
「!?」
何をトチ狂ったのかテオは私を俵抱きにした。私は目をぎょっとさせて固まる。
歯を食い縛っておっかない顔で私を睨みつけるもんだから、大人しくされるがまま抱え上げられると、何故かそのまま家の中に押し込められた。バタンと閉じられた扉の音が虚しく響く。私は今何をされたのか、一瞬理解が出来なくて呆然としていたが、そう時間を置かずに正気に戻った。
「ちょっと! なにすんのよ!」
「うるせぇ! お前はその耳治るまで出てくんな!」
ドア越しに文句を言ったら、怒鳴り返された。
「なんで!? 獣人と同じものがついているだけでしょ!」
「他の男が見るだろ!」
はぁぁ!? 獣人と同じもんがついているだけなのになんだそれ! 耳は恥ずかしいものじゃないでしょうが!
ドアを開けようとするが、表から押さえつけられており外に出られない。テオめ、私を閉じ込めるつもりか…!
「余裕ねぇなお前」
「るせぇ!」
一連の流れを観ていたリック兄さんが低く笑う声が漏れ聞こえてきた。それに対してテオが反発している。
ちょっとリック兄さんどうにかしてよ、なんで私がこんな扱いを受けなきゃならないの!
後で兄さんになぜテオを注意しないのかって言ったら、「まぁ雄の本能というか…気持ちはわからんでもないからなぁ」と意味深なことを返され、余計に納得できなかったのであった。
■□■
「デイジー・マックさんに郵便だよ、カンナ・サンドエッジさんから」
カンナから届いた手紙には、毎日下の兄弟たちが暴れまくって大変だと書かれていた。カンナは5人兄弟の真ん中で、まだ幼い兄弟が2人いるのだそうだ。その兄弟もカンナのように魔法魔術学校に通いたいとわがままを言っているそうだ。カンナのマネをして呪文を唱えるが、魔法は何も起きずに癇癪を起こして困っているんだって。
日々の日記を見せられている気分になるカンナの手紙だが、それが彼女らしいなと思える。
その日は朝からずっと丘の上で読書をしていた。休憩がてらカンナからの手紙を読んでいたら肩の力が抜けたので、手紙の返事を書くことにした。
本を下敷きに便箋を敷くと羽ペンを動かす。親愛なるカンナへ、のその後、何を書けばいいだろう。私も日々のことを書き連ねて近況報告でもしておけばいいのであろうか。
この間薬作り失敗して獣人もどきになりました…ってか?
「誰から?」
何を書くか考え込んでいると、フッと目の前が陰り、傍らにおいていた手紙を誰かに取られた。
「人の手紙読まないで」
「カンナ…って女か。学校の友達か?」
差出人の名前を勝手に確認したテオは中身を読まずに元にあった場所に戻していた。
なんだってこいつは私の居場所をすぐに特定するんだ……匂いか、やっぱり私は臭いのか…そういえば、自分の匂いを消す香水のレシピが王立図書館の薬学の本に書かれていた……今度それ試してみようか……
「…お前が友達と文通とか珍しい」
その言葉に私は苦笑いしてしまった。
村の学校では友達らしい友達のいなかった私のことだ。テオには奇妙に見えているに違いない。
だけど私は今も昔もそう変わらない。ただカンナは特別枠なだけだ。
「カンナは特別なの。…勇気があって心優しい子なんだ」
今から思えば、カンナは色々気にかけてくれた。
始めはそれが鬱陶しかったけど、私が同級生から嫌がらせを受けていた時も自分のことのように憤ってくれたし、学年が変わっても気にせずあちこちで声を掛けてきた。
変な風に目立ってしまった私のことを色眼鏡で見なかったのはカンナくらいだ。あんな事件に巻き込まれても以前と変わらずに接してくれる。
友達がいなかった私は、友達って存在がよく分からなかった。だけどカンナと出会ってから、これが友達って存在なのかなってようやく理解できた気がする。
今までは素っ気なくしてきたけど、少しくらいはその気持ちを返してあげなきゃね。
デイジーデイジーと私を呼びながら笑顔で駆け寄ってくるカンナの姿を思い出すと、私は思い出し笑いを浮かべてしまった。──そんな私を、テオは眩しそうに目を細めて見つめてきた。
「…王都の学校、楽しそうだな」
その声音はどこか安堵が含まれていた。
しかし素直に頷くほど、学校が楽しいわけでもない私は肩をすくめる。
「そう見える? 結構面倒なことが多いよ。…私は勉強だけがしたいのに、事件や妨害が多くて」
「それで?」
珍しいな。私が王都の学校に進学することあれだけ反対していたくせに。話を聞きたがるとか。学生が羨ましくなっちゃったか。
だけど初等学校以上に勉強しなきゃいけない環境だから、勉強嫌いのテオには向いてないぞ。
「カンナは…今は私と学年が違うってのに試験前になると毎回私に泣きついて……私が先に卒業したら留年しちゃうって騒ぐの。自分で勉強する癖をつけろって言ってるのに、いつも私のベッドでゴロゴロして…」
「ふぅん」
「太っちゃうが口癖のくせに、世話焼きおばちゃんみたいにお菓子配ってくるし…」
なんだかカンナの悪口になってしまっているが、本当のことを話しているだけなので大丈夫。
それよりもテオだ。私の話なんか聞きたがって珍しいにもほどがあるだろう。
「…私おしゃべり苦手なんだけど、聞いていて楽しい?」
話が聞きたいなら村の女の子のほうが面白おかしく話してくれるんじゃないかな。
「お前の声は聞いていて飽きない」
「…そうですか」
声が飽きない…。まぁ、褒められているのだと受け取ろう。
なんだか変な空気になったな。どうして声の話になったんだ…あぁそうだテオが学校での話をねだるから……
クイッと後ろでひとつ結びにしていた髪の毛を一房引っ張られた。犯人は隣に座るテオだ。この年齢にもなってまた人の髪の毛引っ張って…私この間言ったよね、女子の髪の毛に触ったら痛い目見るよって。
指先でぎこちなく梳いてくるその手は優しく、粗暴なテオらしくない。私はそれがムズムズして落ち着かない。
「引っ張んないで」
「痛くねーだろ」
痛くはないけど、変な感じがするんだよ。
私の戸惑いを無視して、テオは私の髪の毛で三つ編みを始めた。しかしその出来栄えは下手くそそのものである。飛び飛びになってるじゃないか。
「下手くそ。不器用か」
「しかたねーだろ」
不器用加減に笑うと、テオはもう一度やり直しとばかりに一から三つ編みを始めた。
あの、私の髪の毛はオモチャじゃないんですけど。
真剣な眼差しで三つ編みするその姿は子どもみたいである。……どんなに大人っぽくなっても根っこの方が子どもだな。
私はフッと鼻で笑ってやったのである。
10
お気に入りに追加
149
あなたにおすすめの小説
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。
せいめ
恋愛
婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。
そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。
前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。
そうだ!家を出よう。
しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。
目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?
豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。
金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!
しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?
えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!
ご都合主義です。内容も緩いです。
誤字脱字お許しください。
義兄の話が多いです。
閑話も多いです。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
逃げるための後宮行きでしたが、なぜか奴が皇帝になっていました
吉高 花
恋愛
◆転生&ループの中華風ファンタジー◆
第15回恋愛小説大賞「中華・後宮ラブ賞」受賞しました!ありがとうございます!
かつて散々腐れ縁だったあいつが「俺たち、もし三十になってもお互いに独身だったら、結婚するか」
なんてことを言ったから、私は密かに三十になるのを待っていた。でもそんな私たちは、仲良く一緒にトラックに轢かれてしまった。
そして転生しても奴を忘れられなかった私は、ある日奴が綺麗なお嫁さんと仲良く微笑み合っている場面を見てしまう。
なにあれ! 許せん! 私も別の男と幸せになってやる!
しかしそんな決意もむなしく私はまた、今度は馬車に轢かれて逝ってしまう。
そして二度目。なんと今度は最後の人生をループした。ならば今度は前の記憶をフルに使って今度こそ幸せになってやる!
しかし私は気づいてしまった。このままでは、また奴の幸せな姿を見ることになるのでは?
それは嫌だ絶対に嫌だ。そうだ! 後宮に行ってしまえば、奴とは会わずにすむじゃない!
そうして私は意気揚々と、女官として後宮に潜り込んだのだった。
奴が、今世では皇帝になっているとも知らずに。
※タイトル試行錯誤中なのでたまに変わります。最初のタイトルは「ループの二度目は後宮で ~逃げるための後宮でしたが、なぜか奴が皇帝になっていました~」
※設定は架空なので史実には基づいて「おりません」
多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?
あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」
結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。
それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。
不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました)
※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。
※小説家になろうにも掲載しております
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
【本編・改稿版】来世でも一緒に
霜月
恋愛
「お父様にはお母様がいて、後継には弟がいる。後は私が素敵な殿方をゲットすれば万事おっけー! 親孝行にもなる!!」
そう豪語し、その為に血の滲むような努力をしてきたとあるご令嬢が、無愛想で女嫌いと噂される王弟・大公に溺愛される話。
◆8月20日〜、改稿版の再掲を開始します。ストーリーに大きな変化はありませんが、全体的に加筆・修正をしています。
◆あくまで中世ヨーロッパ『風』であり、フィクションであることを踏まえた上でお読みください。
◆R15設定は保険です。
本編に本番シーンは出て来ませんが、ちょいエロぐらいは書けている…はず。
※R18なお話は、本編終了後に番外編として上げていきますので、よろしくお願いします。
【お礼と謝罪】
色々とありまして、どうしても一からやり直したくなりました。相変わらずダメダメ作家で申し訳ありません。
見捨てないでいてくださる皆様の存在が本当に励みです。
本当にすみません。そして、本当にありがとうございます。
これからまた頑張っていきますので、どうかよろしくお願い致します。
m(_ _)m
霜月
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる