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Day's Eye 森に捨てられたデイジー
むかしのお話【テオ視点】
しおりを挟む『この子はデイジーよ。テオと同い年だけど、皆と比べて少し成長が遅いから身体が小さいの。優しくしてあげてね』
小さな女の子だった。
瞳は珍しい紫でその色に引き込まれそうになる。どの村人よりも漆黒の黒髪がとても綺麗だった。
小さくて白くて柔らかそうで甘い匂いがした。かじったら美味しいんだろうな、って思った。
俺はその子と仲良くなりたくて飛びついた。村の友達ともよくやるじゃれ合いみたいなものだ。
だけど彼女は驚きに固まって呆然としている。幼かった俺は気遣う余裕もなく、彼女にスリスリとすり寄った。
甘い匂い、いい匂い。可愛い女の子。肌色のツルンとした耳をカプリと噛む。この子は耳が小さくて噛みにくい。
『やっ』
『こらテオ! お前にはまだ早い!』
じゃれていただけなのに、俺はその子から引き離された。
父ちゃんに邪魔されて苛ついた。首根っこを押さえられている間に彼女は別の雄に抱き上げられていた。それが見た俺は腹が立った。俺が目をつけたのにって。
大人の手を跳ね除けて飛びつこうとしたが、彼女の目に光る涙を見て俺は止まった。
『うぇぇん…!』
『おーよしよし、もう大丈夫だぞ。兄ちゃんがお前を守ってやるからな』
彼女はその男の首にしがみついて震えて泣いていた。俺には理解が出来なかった。なんで泣くのだろうって。
後で母ちゃんに窘められた時、言われたのは、
『デイジーは違うのよ、人間なのよ』
って言葉だ。
なんだよ、それ。
俺は気に入ったから仲良くしようと思っただけなのに、なんで泣くんだよ。何が違うんだよ。
訳が分からなかった。
親に言われたことが納得できないまま、俺はあいつと仲良くなろうと動いた。
あいつの名前と同じ花を見つけたので、持っていって渡した。その花を見たあいつは紫の瞳を輝かせていた。それがとても綺麗でもっとその目を見てみたかった。
『痛っ!』
だけどあいつは花を受け取らずに地面に落としてしまう。
俺は呆然として地面に落ちた花を見たのだが……気づかなかった。花には棘のついた毛虫が付いていたのだ。毛虫に指を刺されたデイジーは手を抑えて泣いていた。
しばらくあいつの手は腫れ上がって大変だったそうだ。毒持ちの毛虫だったのだ。
その後俺は父ちゃんに拳骨された。
■□■
村の大人たちはデイジーに大して微妙な対応をしていた。デイジーもそれを感じ取っていつも遠慮がちにしていた。
学校でも同じだ。本ばかり読むデイジーはクラスになじまない。いつも一人どこかへ行く。気になって探し出して遊ぼうと誘うが、本が読みたいとあしらわれる。
引っ張り込んでクラスの輪の中に入れようとするが、デイジーはいつも困惑した表情を浮かべるのだ。
自分から輪に入ろうとしないあいつは同級生の中でも浮いた存在になっていた。
かまってほしいのに避けられる、逃げられる。
気を引くのに髪の毛を引っ張った。よそ者とデイジーの気にしていることを言ってからかったりもした。
そうしたら、あいつは俺を見てくれるから。そうでもしないと、あいつは俺を見てくれないから。
デイジーの紫の瞳に見つめられると胸がざわつくんだ。だけどその瞳に映りたくてたまらない。
実のところをいえば、笑って欲しい。家族の前では笑顔を見せるのに、俺の前ではいつだって無表情かしかめっ面なんだ。
なんだかんだ言って、あいつはこの村に住み続けるのだと思っていた。
──なのにあいつは村の外に出ようとするんだ。
なぜ村から離れていこうとするんだ。
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