上 下
12 / 209
Day's Eye 森に捨てられたデイジー

むかしのお話【テオ視点】

しおりを挟む

『この子はデイジーよ。テオと同い年だけど、皆と比べて少し成長が遅いから身体が小さいの。優しくしてあげてね』

 小さな女の子だった。
 瞳は珍しい紫でその色に引き込まれそうになる。どの村人よりも漆黒の黒髪がとても綺麗だった。
 小さくて白くて柔らかそうで甘い匂いがした。かじったら美味しいんだろうな、って思った。

 俺はその子と仲良くなりたくて飛びついた。村の友達ともよくやるじゃれ合いみたいなものだ。
 だけど彼女は驚きに固まって呆然としている。幼かった俺は気遣う余裕もなく、彼女にスリスリとすり寄った。
 甘い匂い、いい匂い。可愛い女の子。肌色のツルンとした耳をカプリと噛む。この子は耳が小さくて噛みにくい。

『やっ』
『こらテオ! お前にはまだ早い!』

 じゃれていただけなのに、俺はその子から引き離された。
 父ちゃんに邪魔されて苛ついた。首根っこを押さえられている間に彼女は別の雄に抱き上げられていた。それが見た俺は腹が立った。俺が目をつけたのにって。
 大人の手を跳ね除けて飛びつこうとしたが、彼女の目に光る涙を見て俺は止まった。

『うぇぇん…!』
『おーよしよし、もう大丈夫だぞ。兄ちゃんがお前を守ってやるからな』

 彼女はその男の首にしがみついて震えて泣いていた。俺には理解が出来なかった。なんで泣くのだろうって。
 後で母ちゃんに窘められた時、言われたのは、

『デイジーは違うのよ、人間なのよ』

 って言葉だ。
 なんだよ、それ。
 俺は気に入ったから仲良くしようと思っただけなのに、なんで泣くんだよ。何が違うんだよ。
 訳が分からなかった。

 親に言われたことが納得できないまま、俺はあいつと仲良くなろうと動いた。
 あいつの名前と同じ花を見つけたので、持っていって渡した。その花を見たあいつは紫の瞳を輝かせていた。それがとても綺麗でもっとその目を見てみたかった。

『痛っ!』

 だけどあいつは花を受け取らずに地面に落としてしまう。
 俺は呆然として地面に落ちた花を見たのだが……気づかなかった。花には棘のついた毛虫が付いていたのだ。毛虫に指を刺されたデイジーは手を抑えて泣いていた。
 しばらくあいつの手は腫れ上がって大変だったそうだ。毒持ちの毛虫だったのだ。
 その後俺は父ちゃんに拳骨された。
 

■□■


 村の大人たちはデイジーに大して微妙な対応をしていた。デイジーもそれを感じ取っていつも遠慮がちにしていた。
 学校でも同じだ。本ばかり読むデイジーはクラスになじまない。いつも一人どこかへ行く。気になって探し出して遊ぼうと誘うが、本が読みたいとあしらわれる。
 引っ張り込んでクラスの輪の中に入れようとするが、デイジーはいつも困惑した表情を浮かべるのだ。
 自分から輪に入ろうとしないあいつは同級生の中でも浮いた存在になっていた。

 かまってほしいのに避けられる、逃げられる。
 気を引くのに髪の毛を引っ張った。よそ者とデイジーの気にしていることを言ってからかったりもした。
 そうしたら、あいつは俺を見てくれるから。そうでもしないと、あいつは俺を見てくれないから。

 デイジーの紫の瞳に見つめられると胸がざわつくんだ。だけどその瞳に映りたくてたまらない。
 実のところをいえば、笑って欲しい。家族の前では笑顔を見せるのに、俺の前ではいつだって無表情かしかめっ面なんだ。

 なんだかんだ言って、あいつはこの村に住み続けるのだと思っていた。
 ──なのにあいつは村の外に出ようとするんだ。
 なぜ村から離れていこうとするんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【本編・改稿版】来世でも一緒に

霜月
恋愛
「お父様にはお母様がいて、後継には弟がいる。後は私が素敵な殿方をゲットすれば万事おっけー! 親孝行にもなる!!」 そう豪語し、その為に血の滲むような努力をしてきたとあるご令嬢が、無愛想で女嫌いと噂される王弟・大公に溺愛される話。 ◆8月20日〜、改稿版の再掲を開始します。ストーリーに大きな変化はありませんが、全体的に加筆・修正をしています。 ◆あくまで中世ヨーロッパ『風』であり、フィクションであることを踏まえた上でお読みください。 ◆R15設定は保険です。 本編に本番シーンは出て来ませんが、ちょいエロぐらいは書けている…はず。 ※R18なお話は、本編終了後に番外編として上げていきますので、よろしくお願いします。 【お礼と謝罪】 色々とありまして、どうしても一からやり直したくなりました。相変わらずダメダメ作家で申し訳ありません。 見捨てないでいてくださる皆様の存在が本当に励みです。 本当にすみません。そして、本当にありがとうございます。 これからまた頑張っていきますので、どうかよろしくお願い致します。 m(_ _)m 霜月

記憶喪失になったら、義兄に溺愛されました。

せいめ
恋愛
 婚約者の不貞現場を見た私は、ショックを受けて前世の記憶を思い出す。  そうだ!私は日本のアラサー社畜だった。  前世の記憶が戻って思うのは、こんな婚約者要らないよね!浮気症は治らないだろうし、家族ともそこまで仲良くないから、こんな家にいる必要もないよね。  そうだ!家を出よう。  しかし、二階から逃げようとした私は失敗し、バルコニーから落ちてしまう。  目覚めた私は、今世の記憶がない!あれ?何を悩んでいたんだっけ?何かしようとしていた?  豪華な部屋に沢山のメイド達。そして、カッコいいお兄様。    金持ちの家に生まれて、美少女だなんてラッキー!ふふっ!今世では楽しい人生を送るぞー!  しかし。…婚約者がいたの?しかも、全く愛されてなくて、相手にもされてなかったの?  えっ?私が記憶喪失になった理由?お兄様教えてー!  ご都合主義です。内容も緩いです。  誤字脱字お許しください。  義兄の話が多いです。  閑話も多いです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

多産を見込まれて嫁いだ辺境伯家でしたが旦那様が閨に来ません。どうしたらいいのでしょう?

あとさん♪
恋愛
「俺の愛は、期待しないでくれ」 結婚式当日の晩、つまり初夜に、旦那様は私にそう言いました。 それはそれは苦渋に満ち満ちたお顔で。そして呆然とする私を残して、部屋を出て行った旦那様は、私が寝た後に私の上に伸し掛かって来まして。 不器用な年上旦那さまと割と飄々とした年下妻のじれじれラブ(を、目指しました) ※序盤、主人公が大切にされていない表現が続きます。ご気分を害された場合、速やかにブラウザバックして下さい。ご自分のメンタルはご自分で守って下さい。 ※小説家になろうにも掲載しております

聖女を巡る乙女ゲームに、いないキャラクターの神子(私)がいる。

木村 巴
恋愛
 ヒロイン、ライバル令嬢、政略対象の王子様達、騎士、魔術師、神官といった面々が、震えている私を見つめている。その人達をみて、その絵が完成している事に衝撃を受けた。  私のポジションのキャラクターなんて居なかったよね?  聖女を決める試験を通して攻略するのよね?…聖女候補でもないし、居ないキャラクターの神子が私ってどういう事―?  大好きだったキャラクターも、三次元イケメンとなった彼らを、そのキャラクターだと認識出来なかった残念な私だけど…やっぱり推しに恋して推しと結ばれたい!そんなお話し。 ※本編10話で完結済みです。 ※番外編の聖女7話完結 ☆ヘンリー、侍女、神子とリオンの番外編を落ち着いたら更新予定です。

三年目の離縁、「白い結婚」を申し立てます! 幼な妻のたった一度の反撃

紫月 由良
恋愛
【書籍化】5月30日発行されました。イラストは天城望先生です。 【本編】十三歳で政略のために婚姻を結んだエミリアは、夫に顧みられない日々を過ごす。夫の好みは肉感的で色香漂う大人の女性。子供のエミリアはお呼びではなかった。ある日、参加した夜会で、夫が愛人に対して、妻を襲わせた上でそれを浮気とし家から追い出すと、楽しそうに言ってるのを聞いてしまう。エミリアは孤児院への慰問や教会への寄付で培った人脈を味方に、婚姻無効を申し立て、夫の非を詳らかにする。従順(見かけだけ)妻の、夫への最初で最後の反撃に出る。

処理中です...