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番外編
私だって彼とカップル限定スイーツとか食べたりしたい!【林道寿々奈視点】
しおりを挟む厳しい冬がようやく終わりを告げ、最近になって徐々に気温が上昇しはじめた。日差しのお陰で日中は暖かくなったけど、薄着じゃ冷える春先のこと。私はひとりで街へお買い物に来ていた。
今はネットでもいろいろお得に購入できるけど、やっぱり現物を手にとってみたくなるってものだ。店先だと、液晶からは感じ取れない刺激もあるし、外に出てお買い物するのも悪くない。
今日は春カラーを取り入れた桜色のワンピースを購入した。本当はコスメショップで評判のクッションファンデだけを購入する予定だったけど、街中を歩く女の子が着用しているスカートの色が可愛くて、似たものが欲しくなってしまったので探して購入してしまった。
予定外の出費のお陰で今月のお小遣いはすっからかん。
でもいいの、おしゃれは大事だもの。犠牲を払うに値することだから。
このかわいいお洋服を身につけた姿を大好きな彼に見てもらいたいなぁ。そんで、可愛いとか言ってもらいたいなぁー!
私は彼に可愛いと言ってもらっている自分の姿を想像してニヤニヤしながら歩いていた。
「……ん?」
ふと、大通りの道路を挟んだ向こう側にものすごい行列が出来ていることに気づいた。行列の先頭には商業ビルに入った飲食店。そこから列が続いているみたいだ。
何だろうあれ。新しく出来たスイーツショップ?
私は何となく興味を持って、信号を渡って向かい側の通りに足を踏み入れた。行列は男女ペアが二列になって並んでいる。これは何の行列なのか、最後尾の看板を持っているカップル連れに声をかけてみた。
「すみません、これって何の行列ですか?」
突然赤の他人から声をかけられたカップルは少し驚いていたみたいだけど、彼女さんの方がスマホを見せて説明してくれた。
液晶の中にはイチゴを使ったスイーツの写真が載っていた。その写真下部に、【一日限定スイーツ※カップル限定】と但し書きが書かれている。
「今日はこのお店でカップル限定のスイーツが食べられるの」
「あぁ、カップル限定なんですね。だからこんなに男女ペアのお客さんが……!?」
イベント的な物で、今日に限ってはカップルのみの入店らしい。それなら私には無縁のことだなと興味をなくしてそのまま通り過ぎようとした私は目を疑った。
なぜなら、そこに私の好きな人が女と並んでいたからである。しかもその隣にいた女は私のよく知っている人物で……目をカッと見開いた私は、ダッシュで駆け寄った。
「ちょっと和真くん! どういうことなの!?」
先頭から3番目に並んでいた彼の腕に飛びつくと、和真くんは眉間にしわを寄せて迷惑そうな顔をしていた。ジロッと私を見下ろして誰かを理解したようだが、面倒臭そうな顔を隠さない。
和真くんその顔やめて。私も傷つくの。
「あれ……林道さん」
「なんでここに並んでるの!? これ、カップル限定スイーツの行列だよね!」
「だって食べたいんだもん、限定パフェ」
私の大好きな彼の隣に当たり前のように存在している彼女は「それがなにか?」と首を傾げて来る。
そうじゃない。私が言いたいのはそういうことじゃないの!
「姉弟じゃん! ふたりはカップルじゃなくて血の繋がった姉弟じゃないの!」
私が心のまま叫ぶと、和真くんの隣にいたあやめちゃんは渋い顔をして「ちょ、林道さんうるさい。周りの人のご迷惑になるでしょ」って注意してきた。
私が悪いみたいな言い方をしないで。
あやめちゃんはひどい、私の気持ちを知っているくせに、そんなことするんだ!
信じらんない、どうして姉弟でカップル限定スイーツなんて食べに来てるの!?
あやめちゃんには彼氏がいるのに、ひどい仕打ちじゃないの!
「橘先輩は!?」
「先輩は甘いもの好きじゃないんだもん。食べられないのに連れて行くのは可哀想でしょう」
先輩も知っているよ。今日は和真とパフェ食べに行ってくるって話したし。と彼氏公認だとのたまうモブ姉。
だけど私は納得できなかった。それなら私が和真くんとパフェ食べたい! カップル限定のパフェをつつき合って食べさせ合いたい!!
「じゃあ、私と食べよう和真くん!」
お財布の中は冬に逆戻りだけど、ワリカンすれば多分足りる!
だから私とカップルスイーツ食べようと大好きな彼を誘った。
「ヤダ。限定パフェ食べたいのは姉ちゃんであって、俺じゃないから」
「なんでヤダとか言うの!?」
そっけなさ過ぎでしょ!?
女の子とデートしたいとか思わないの!? 姉と仲良くお出かけしてカップルパフェとか食べて虚しくならないの!?
「姉だよ!? 姉とカップルと間違えられて恥ずかしくないの?」
和真くんがシスコンなのは紛れも無い事実だけどさ、流石に仲良すぎでしょう!?
姉離れしないと後々困るよ!? 主に私が!
あやめちゃんが出張っているから、いつまで経っても和真くんと恋人になれないんですけどねぇ!
「だってこれに着いてきたら、姉ちゃんが唐揚げ作ってくれるっていうから」
金も姉ちゃん持ちだし。と和真くんは言う。
クッ……汚いぞ、田端あやめ……! 物で釣るとか卑怯過ぎる!!
私がキッとあやめちゃんを睨むと、あやめちゃんは口をへの字にして私を見下ろしていた。
なにその困った顔。そんな顔しても許さないから!
「唐揚げなら私が作ってあげるよ!?」
「いや、いい」
パフェ全額負担は今日のところは厳しいけど、唐揚げなら後日持っていくからと言おうとしたのに、和真くんは遠慮してきた。
どうしてどうして、どうして和真くんはそんなにつれないの……!
「次のお客様、田端さまーどうぞー」
私が拳を握ってわなわな震えていると、店員が待ちの客を呼んだ。
「和真、早く早く」
「ん」
目先のパフェに意識が向いているあやめちゃんは和真くんの腕をつついて先を促した。私の気を知らない田端姉弟は、こちらの存在を忘れたように通りすぎてお店に入店していったのだ。
彼らが通されたのは大通りに面した窓際のテーブル席だ。とても目立つ席。私は外からそれをぼんやりと眺めていた。
私の横では次から次にカップルが呼ばれてはお店に吸い込まれていく。だけど私は入れない。お金ないし、ひとりだし……
ヒュウと冷たい風が吹いて前髪を乱した。
届いたパフェに目を輝かせたあやめちゃんがいろんな角度から撮影する中、和真くんはそれを見て笑っている。
そしてふたりは仲良くひとつのパフェを食べていた。
窓際でひとつのパフェを分け合いっこ。彼女を見て微笑む彼氏。
私が、夢見た世界が……
おかしいでしょ……
姉弟のくせに、姉弟のくせにカップルみたいに……!
悔しい!
私は悔しさに耐え切れず、その場で地団駄を踏んだ。
「ママーあのお姉ちゃんこわ~い」
「こら、やめなさい」
カップルが並ぶ店先で私は幸せいっぱいのカップル達に哀れみの目を向けられ、通りすがりの親子連れに冷ややかな視線を向けられたのであった。
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