攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

文字の大きさ
上 下
312 / 312
番外編

私だって彼とカップル限定スイーツとか食べたりしたい!【林道寿々奈視点】

しおりを挟む

 厳しい冬がようやく終わりを告げ、最近になって徐々に気温が上昇しはじめた。日差しのお陰で日中は暖かくなったけど、薄着じゃ冷える春先のこと。私はひとりで街へお買い物に来ていた。

 今はネットでもいろいろお得に購入できるけど、やっぱり現物を手にとってみたくなるってものだ。店先だと、液晶からは感じ取れない刺激もあるし、外に出てお買い物するのも悪くない。
 今日は春カラーを取り入れた桜色のワンピースを購入した。本当はコスメショップで評判のクッションファンデだけを購入する予定だったけど、街中を歩く女の子が着用しているスカートの色が可愛くて、似たものが欲しくなってしまったので探して購入してしまった。

 予定外の出費のお陰で今月のお小遣いはすっからかん。
 でもいいの、おしゃれは大事だもの。犠牲を払うに値することだから。

 このかわいいお洋服を身につけた姿を大好きな彼に見てもらいたいなぁ。そんで、可愛いとか言ってもらいたいなぁー!
 私は彼に可愛いと言ってもらっている自分の姿を想像してニヤニヤしながら歩いていた。

「……ん?」

 ふと、大通りの道路を挟んだ向こう側にものすごい行列が出来ていることに気づいた。行列の先頭には商業ビルに入った飲食店。そこから列が続いているみたいだ。
 何だろうあれ。新しく出来たスイーツショップ?
 私は何となく興味を持って、信号を渡って向かい側の通りに足を踏み入れた。行列は男女ペアが二列になって並んでいる。これは何の行列なのか、最後尾の看板を持っているカップル連れに声をかけてみた。

「すみません、これって何の行列ですか?」

 突然赤の他人から声をかけられたカップルは少し驚いていたみたいだけど、彼女さんの方がスマホを見せて説明してくれた。
 液晶の中にはイチゴを使ったスイーツの写真が載っていた。その写真下部に、【一日限定スイーツ※カップル限定】と但し書きが書かれている。

「今日はこのお店でカップル限定のスイーツが食べられるの」
「あぁ、カップル限定なんですね。だからこんなに男女ペアのお客さんが……!?」

 イベント的な物で、今日に限ってはカップルのみの入店らしい。それなら私には無縁のことだなと興味をなくしてそのまま通り過ぎようとした私は目を疑った。
 なぜなら、そこに私の好きな人が女と並んでいたからである。しかもその隣にいた女は私のよく知っている人物で……目をカッと見開いた私は、ダッシュで駆け寄った。

「ちょっと和真くん! どういうことなの!?」

 先頭から3番目に並んでいた彼の腕に飛びつくと、和真くんは眉間にしわを寄せて迷惑そうな顔をしていた。ジロッと私を見下ろして誰かを理解したようだが、面倒臭そうな顔を隠さない。
 和真くんその顔やめて。私も傷つくの。

「あれ……林道さん」
「なんでここに並んでるの!? これ、カップル限定スイーツの行列だよね!」
「だって食べたいんだもん、限定パフェ」

 私の大好きな彼の隣に当たり前のように存在している彼女は「それがなにか?」と首を傾げて来る。
 そうじゃない。私が言いたいのはそういうことじゃないの!

「姉弟じゃん! ふたりはカップルじゃなくて血の繋がった姉弟じゃないの!」

 私が心のまま叫ぶと、和真くんの隣にいたあやめちゃんは渋い顔をして「ちょ、林道さんうるさい。周りの人のご迷惑になるでしょ」って注意してきた。
 私が悪いみたいな言い方をしないで。
 あやめちゃんはひどい、私の気持ちを知っているくせに、そんなことするんだ! 
 信じらんない、どうして姉弟でカップル限定スイーツなんて食べに来てるの!?

 あやめちゃんには彼氏がいるのに、ひどい仕打ちじゃないの!

「橘先輩は!?」
「先輩は甘いもの好きじゃないんだもん。食べられないのに連れて行くのは可哀想でしょう」

 先輩も知っているよ。今日は和真とパフェ食べに行ってくるって話したし。と彼氏公認だとのたまうモブ姉。
 だけど私は納得できなかった。それなら私が和真くんとパフェ食べたい! カップル限定のパフェをつつき合って食べさせ合いたい!!

「じゃあ、私と食べよう和真くん!」

 お財布の中は冬に逆戻りだけど、ワリカンすれば多分足りる!
 だから私とカップルスイーツ食べようと大好きな彼を誘った。

「ヤダ。限定パフェ食べたいのは姉ちゃんであって、俺じゃないから」
「なんでヤダとか言うの!?」

 そっけなさ過ぎでしょ!?
 女の子とデートしたいとか思わないの!? 姉と仲良くお出かけしてカップルパフェとか食べて虚しくならないの!?
 
「姉だよ!? 姉とカップルと間違えられて恥ずかしくないの?」

 和真くんがシスコンなのは紛れも無い事実だけどさ、流石に仲良すぎでしょう!? 
 姉離れしないと後々困るよ!? 主に私が!
 あやめちゃんが出張っているから、いつまで経っても和真くんと恋人になれないんですけどねぇ!

「だってこれに着いてきたら、姉ちゃんが唐揚げ作ってくれるっていうから」

 金も姉ちゃん持ちだし。と和真くんは言う。
 クッ……汚いぞ、田端あやめ……! 物で釣るとか卑怯過ぎる!!

 私がキッとあやめちゃんを睨むと、あやめちゃんは口をへの字にして私を見下ろしていた。
 なにその困った顔。そんな顔しても許さないから!

「唐揚げなら私が作ってあげるよ!?」
「いや、いい」

 パフェ全額負担は今日のところは厳しいけど、唐揚げなら後日持っていくからと言おうとしたのに、和真くんは遠慮してきた。
 どうしてどうして、どうして和真くんはそんなにつれないの……!

「次のお客様、田端さまーどうぞー」

 私が拳を握ってわなわな震えていると、店員が待ちの客を呼んだ。

「和真、早く早く」
「ん」

 目先のパフェに意識が向いているあやめちゃんは和真くんの腕をつついて先を促した。私の気を知らない田端姉弟は、こちらの存在を忘れたように通りすぎてお店に入店していったのだ。

 彼らが通されたのは大通りに面した窓際のテーブル席だ。とても目立つ席。私は外からそれをぼんやりと眺めていた。
 私の横では次から次にカップルが呼ばれてはお店に吸い込まれていく。だけど私は入れない。お金ないし、ひとりだし……
 ヒュウと冷たい風が吹いて前髪を乱した。

 届いたパフェに目を輝かせたあやめちゃんがいろんな角度から撮影する中、和真くんはそれを見て笑っている。
 そしてふたりは仲良くひとつのパフェを食べていた。

 窓際でひとつのパフェを分け合いっこ。彼女を見て微笑む彼氏。
 私が、夢見た世界が……

 おかしいでしょ……
 姉弟のくせに、姉弟のくせにカップルみたいに……!
 悔しい!

 私は悔しさに耐え切れず、その場で地団駄を踏んだ。

「ママーあのお姉ちゃんこわ~い」
「こら、やめなさい」

 カップルが並ぶ店先で私は幸せいっぱいのカップル達に哀れみの目を向けられ、通りすがりの親子連れに冷ややかな視線を向けられたのであった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します

桜桃-サクランボ-
恋愛
人身御供(ひとみごくう)は、人間を神への生贄とすること。 天魔神社の跡取り巫女の私、天魔華鈴(てんまかりん)は、今年の人身御供の生贄に選ばれた。 昔から続く儀式を、どうせ、いない神に対して行う。 私で最後、そうなるだろう。 親戚達も信じていない、神のために、私は命をささげる。 人身御供と言う口実で、厄介払いをされる。そのために。 親に捨てられ、親戚に捨てられて。 もう、誰も私を求めてはいない。 そう思っていたのに――…… 『ぬし、一つ、我の願いを叶えてはくれぬか?』 『え、九尾の狐の、願い?』 『そうだ。ぬし、我の嫁となれ』 もう、全てを諦めた私目の前に現れたのは、顔を黒く、四角い布で顔を隠した、一人の九尾の狐でした。 ※カクヨム・なろうでも公開中! ※表紙、挿絵:あニキさん

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生した世界のイケメンが怖い

祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。 第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。 わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。 でもわたしは彼らが怖い。 わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。 彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。 2024/10/06 IF追加 小説を読もう!にも掲載しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...