攻略対象の影薄い姉になったけど、モブってなにしたらいいの?

スズキアカネ

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番外編

ペット大歓迎・温泉旅館へGO! withマロンちゃん【中編】

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「マロンちゃん、うちの近所に住んでるタロくんだよ。仲良くしてね」
「ウゥゥ…」
「グルルル…」
「みんなで仲良く遊ぼうね」

 会えたのもなにかの縁だ。仲良くしてくれるかなと思ったけど、2匹は目が合った瞬間から威嚇しあっていた。
 タロくんは中型犬の中でも大きめの部類。自分よりも小さい子にちょっかいを出したりしない子なので、マロンちゃんが喧嘩をふっかけない限り大丈夫だろう。マロンちゃんも賢い子だけど、時折天敵に対して牙をむこうとするところがあるので、私は彼らの動きを注視しながらみんなで遊ぼうと誘った。

 そんなわけで、タロくんやマロンちゃん、この場に居合わせた中型犬・大型犬の子たちを交えて戯れていた。言葉にしたら微笑ましいが、彼らの体力は凄まじい。自分の体力がもたない。途中バテバテになって地面に膝をつく。息が続かない…。どうしてこんなに走れるの君たち…

 私が力尽きて大の字に倒れていると、犬たちが心配して駆け寄ってくる。私を見下ろす大型犬のおよだれがすごい。私の顔面やTシャツに降り掛かってくる。
 まぁいいや、この後温泉に入るし汚れても……

「あら、こっち空いてるじゃない」
「ちょっと! そっちは中型・大型用よ!」

 私が息を整えて身体を起こしていると、どこぞのおばさんのはしゃいだ声が聞こえてきた。誰かが注意しているっぽいのにズカズカとこちらのスペースに入り込んできたのは超小型犬・チワワを抱っこしたおばさんである。
 大型犬・中型犬のスペースに超小型犬。まるでぬいぐるみサイズである。踏んでしまったらひとたまりもないだろう。
 それにハッとした大型犬の飼い主さんが自分の飼い犬の首輪を掴んで動きを制御したり、愛犬を呼び戻すために飼い犬の名前を叫んだりしていた。

「やめなさいよ。ほら、大型犬もたくさんいるし…」
「大丈夫よ、うちの子大型犬好きなの」

 そういう問題じゃないだろう。
 迷惑な飼い主は自分の飼い犬チワワのリードを解き放した。そうなれば犬がチョロチョロ走り出すのは当然のこと。
 気が強い子なのか、好奇心旺盛なのか、側にいた犬に挨拶しようとしている。大型犬の子達がチワワを踏まないように気を遣っているのがわかった。飼い主がマナー違反なだけで、あのチワワは悪くないけど、これはちょっとどうなんだろう。

 チワワは犬たちに遊ぼう遊ぼうとお誘いしているが、他の犬達は戸惑うばかり。
 その中でスッと名乗り出てくれたのは立派な体格をしたドーベルマンだ。確か名前はスモモちゃんだったかな。彼女はチワワに害が及ばないようにスローペースで追いかけ始めた。それに気づいたチワワは歓喜してシュバッと走り始める。追いかけっこの始まりだ。

 良かったね、遊んでくれるワンちゃんがいて。
 私はほのぼのとそれを眺めていたのだが、視界の端で何かが動く気配を察知してしまった。──その正体はチワワの飼い主。その人は鬼の形相で彼女らに駆け寄って来たのだ。
 嫌な予感しかしない。私は慌ててドーベルマン・スモモちゃんの背後を守るように割って入っていった。
 直後、バシンと太ももに蹴りが入る。

「いっ…!」

 私のうめき声にぎょっとしたドーベルマンが振り返り、「どうしたの!?」と私を心配してくれる。私は彼女を心配させぬように身体をポンポンと叩くと、痛みを逃がすべく深呼吸した。
 後ろにいるルール違反おばさんを睨むことは忘れずに。

「…な、何よ」

 私の睨みに怯んだように思えたおばさんだが、まだまだ強気でいるようである。

「今この子を蹴りつけようとしましたよね? あんたなにしてるんですか!」

 冷静に行きたかったが、なんだかじわじわと怒りが湧いてきて語気が荒くなってしまった。

「うちのチコちゃんを追いかけてたわ、噛もうとしたのよ!」
「スモモちゃんは一緒に遊ぼうとしていただけでしょうが! 踏まないように気を遣ってくれてましたよ!」

 犬を飼ってるのにそんなこともわからんのか!
 そもそもの原因はあんただ。最初から小型犬エリアで遊ばせておけばよかったものの…! 何のためにエリアが分けられてるか考えたことはないのか!

「自分の犬が大事なら棲み分けしたらどうですか! ここは大型犬と中型犬専用エリアです! チワワのような超小型犬が遊ぶ場所じゃないんです! ルール違反した上に暴行って何考えてるんだ! 飼い主失格だあんたは!」

 それで噛みつかれても文句言えないぞ!
 犬が傷つけられたとどんなに被害者ぶっても、あんたは加害者でしかない!

「し、失礼ね。大人に向かって…」
「大人とかそんなの関係ないでしょ。ちゃんとルールを守ってくださいって言ってるんです。超小型犬が入ってきたせいで、他の犬達がのびのび走れないんですよ。ここはみんなのスペースです。自分の都合ばかり考えないでください」

 大きい犬専用のエリアに小型犬入れたら、おもちゃにされても仕方ないんだぞ。大きい犬からしてみたらチワワなんてぬいぐるみやおもちゃにしか見えないんだ。
 いくら躾をしていても本能が出てきてしまう。散歩のときと違って、ドッグランでは犬たちは興奮気味なんだ。おばさんは犬を飼っているなら、もう少し犬のことを勉強したほうがいいぞ。

「ウ゛ゥン…」
「グルル…」

 どこからか唸り声が聞こえてきた。
 視線を下ろすと、いつの間にかマロンちゃんとタロくんが私の足元にいた。彼らは前屈みになって唸り声を漏らしながら、とある人物を睨みつけていた。くるりと周りを見てみたら、エリア内にいた大型犬・中型犬が揃って一点を睨んでいるように思えた。

「キャワキャワ!」
「ギャウ!」

 フェンスで分断されているお隣の小型犬スペースからは小型犬・超小型犬がめっちゃ吠えている。
 ……どうやら吠えられている対象はチワワの飼い主であるおばさんみたいだ。彼ら彼女らはルール違反おばさんを敵と認定したらしい。

「不快だわっ」

 顔を真っ赤にさせたおばさんはチワワを抱き上げると、ぶつくさ文句を吐き捨てながらエリア内から出ていった。
 その腕に抱かれたチワワの子が戸惑っているようで少し可哀想に思えたが、チワワがここにいること自体まずいんだ。せっかく遊んでたのにごめんね…

「あの、大丈夫? さっきはこの子を庇って蹴られたのよね? ごめんなさいね」

 恐る恐ると声を掛けてきたのはドーベルマンの飼い主さんだ。おばさんに蹴られたことを心配してくれたようだ。

「大丈夫です。…ほら、遊んでおいで。友達が待ってるよ」

 こちらを見上げるドーベルマン・スモモちゃんの身体をパシパシと叩くように撫でると、犬は犬同士で遊んでこいと促す。
 全く、悲しいことだ。どの犬も飼い主にとっては我が子も同然の大切な存在なのに、大型とか超小型とかでこう扱いが変わるなんて……。

「ほんと困ったものだわ。ルールを守ろうとしないくせに被害者ぶって」

 やれやれといった空気を出しながら陽子様が呟く。陽子様も柴犬であるマロンちゃんをうちの子に近づけないで! と超小型犬飼いの飼い主に言われたことがあるそうで、トラブルに発展しかけたこともあるそうだ。
 大型犬を引き連れてるだけで謂れのない非難をされることをあるそうで、飼い主がキッチリ躾していようと文句を言われる。何もしてなくても文句を言われるという…なんというか世知辛い世の中である。

「本当に大丈夫?」
「平気です」

 鋭い蹴りだったけど、いい感じに筋肉にぶつかった感じだったのでそこまで……痣にはなるかもしれんが。

「バウッ」

 そこで一鳴き。
 大きな吠え声にそのエリアにいた飼い主の視線が集まった。中心にいたのは大型犬一匹と中型犬二匹。
 吠えたのはタロくん。犬たちの間にタロくんが割って入って、自分よりも小さい中型犬を庇ってあげていたのだ。小さい子がいじめられていたか、調子に乗った大型犬に中型犬が追い詰められていたかのどっちかだろうな。
 私はそこに近寄ると、タロくんをワシワシ撫でてあげた。

「タロくん、お友達助けてあげたの? 優しいねぇ偉いねぇ」

 君は偉いぞ。犬同士のトラブルは犬が介入するべき、それが健全な関係だ。できることなら飼い主は介入しないほうがいいのである。危険がない限りね。

「タロくんえらいえらい」

 ワシャワシャと撫でていると、フンスッと鼻息荒く、タロくんがドヤ顔していた。

「ウゥゥ…」

 私の横でマロンちゃんがシワマズルで唸る。それを見たタロくんがニヤニヤ挑発するように笑っているように見えた。
 タロくん、ケンカ売っちゃ駄目。美犬さんなはずのマロンちゃんが歯を剥き出しにしてブサイクな顔で威嚇してるじゃないか。業を煮やした彼女は私が着用しているジーンズに噛み付いてきた。まるで私とタロくんを引き離そうとするかのように。

 …なんか間先輩と陽子様を見ているような感じをするな。この仲の悪さ見てると。
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