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番外編
私と先輩の馴れ初めは話せば長くなるので割愛させていただきます。
しおりを挟む全部話し終えて改めて思った。
なんで彼氏のお父さんに自分の両親の馴れ初めを話しているんだろうかと。
しかしその話を最初から最後まで橘父は黙って聞いていた。
「…意外な事なんですけど、落ちたのは母の方みたいなんです」
「…なんとなく、気持ちはわかる」
「そうなんですか?」
わかるのか。…橘父が恋バナにここまでのめり込むとは思わなかったぞ。橘父の方はどういう馴れ初めなのだろうか…
私は勇気を出して英恵さんとの馴れ初めを聞こうとしたのだが、橘父は私を見て真顔で「…あやめさんと亮介はどういう経緯で交際に発展したんだ?」と尋ねてきた。
「…えっ?」
「…あいつは中学から高校1年まで交際していた彼女に手酷い仕打ちを受けたと聞いていてな…女性不信になっているんじゃないかと心配していたんだが…今までそういう話を亮介から聞いたことがなかったんだ」
多忙で疎遠な上に、高校受験失敗の際にギクシャクしたと聞いていたけど…そういう事は知っているのね。橘兄がチクったのだろうか。
「えーと私が風紀検査で引っかかったのがきっかけですね。当時亮介さんは風紀副委員長でしたので指導ついでに話す機会が増えて…」
「…それだけではないだろう」
「まぁ、色々あったんですよ! それよりお父様と英恵さんの馴れ初めを聞かせてくださいよ!」
先輩と私が交際するまでの話をするとなると、私のハチャメチャ武勇伝(?)を話さないといけなくなりそうだったので、私は話をすり替えようとした。
不良から弟を救出するためにティファ○ー姿で飛び込んだとか、弟が拐われたので不良の巣窟に特攻しようとしたとか、それで先輩に色々迷惑かけたとか…好きな人のお父様に誰が言えますか。
文字にすると和真がピー○姫に見えてきた。私は救出に向かうマ○オってわけね。
「…亮介に聞いてみるか」
「…お父様、私の話を種にして息子さんとコミュニケーションを図ろうとするのはいかがなものかと思いますよ」
「…そういうつもりではないが」
以前よりは会話が増えたものの、まだ何処かギクシャクしてるんだよなぁ橘親子は。橘父の雰囲気に圧倒されているのか、橘家全員真面目なのが原因なのか。…全部かな。
「お父様、一度ご家族で何処かにお出かけをしてみてはいかがでしょうか。例えば日帰り温泉施設まで足を伸ばすとか」
旅行先だと気が緩むし、会話も弾むんじゃないかな。
「…旅行か…」
「私は今年の2月に亮介さんとスキー旅行に行ってきましたけど、楽しかったですよ!」
大学一年の春休みに先輩とスキー旅行に行ったんだ。その旅行中にちょっとだけ痴話喧嘩しちゃったけど、旅行自体は楽しかったよ。
私の提案に橘父は難しそうな顔をして沈黙していた。
【コツンコツン】
真横で窓ガラスを叩く音が聞こえて、そっちに目を向けると、そこには困惑した表情の先輩の姿があった。
「…あ、先輩」
「亮介…」
確かに橘父と2人でお茶しているというのは珍しい風景だろうけどさ。先輩はここで何してるんだろう。実家に帰る予定だったのか?
喫茶店の中に入って来た先輩は「なにがあったんだ?」と最初から疑ってかかってきた。
失礼な、私がいつもなにかを起こしているかのような言い方をしなくてもいいではないか。
「…電車で彼女が痴漢にあっていて…その場に居合わせたんだ」
自分の口から言うよりも橘父が話してしまった。
「…また痴漢にあったのか!?」
「大丈夫、3年ぶりくらいですから! ちょっとペロンってお尻触られただけです。大丈夫ですよ!」
「そういう問題じゃない!」
もーほら、絶対に怒るんだもん! だから言いたくないんだよ!
「私は被害者ですよ! 怒るんじゃなくて慰めてください!」
「怒っているんじゃなくて心配をしているだけで」
「…お前たち、店の中で騒ぐんじゃない。他の方のご迷惑になるだろう」
橘父に注意されたので私達は静かにした。
もー…橘父と英恵さんの馴れ初め話を引き出そうと思ったのにとんだ邪魔(先輩)が入ってしまった。
橘父から痴漢は捕まえたからと説明を受けた先輩は煮え切らない表情をしていた。もう大丈夫だってば。先輩はもうちょっと落ち着いたほうがいいと思う。
私はそんな先輩にとある提案をしてみた。
「先輩、今度お父様と温泉スパリゾートに行ってきてください」
「…えっ?」
「男同士、裸の付き合いってのも悪くないかもしれませんから」
橘父よ、痴漢から助けてもらったお礼に、助け船を出してあげるよ。後のことは頑張ってください。
先輩は話についていけないようで首を傾げていたが、先輩が学生の内にお父さんと向き合う時間を作ったほうが良いと思うのよ。4年になってからだと忙しくなるだろうし、卒業後は警察学校に入ったりで多忙を極めるに違いないから。
「…なら2月に行くか。お前の学校の試験が終わってからにでも。2月半ばには春休みに入っているだろう?」
「え? …あ、あぁ…うん」
橘父は表情には出ていないが乗り気らしい。内心では結構ワクワクなんじゃないだろうか。先輩は戸惑っているけども。
よし、これで父と息子の距離を縮めるきっかけを作れたかもしれないぞ!
折角だ。私も親孝行で両親をスパリゾートに連れて行ってあげようかな。高級コースじゃなくて、日帰りならバイト代で支払えるし。
状況を把握できていない先輩を置いて、私はスマホで温泉スパのサイトにアクセスすると、橘父にそれを見せて説明してあげたのであった。
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