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続編
彼の両親のとある会話【三人称視点】
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「じゃあ…またね……」
向こうの通話が切れたのを確認すると、彼女はゆっくり耳から電話を離す。彼女は電話が終わった後もしばらく携帯電話を眺め、ぼんやりしていた。
携帯電話の待受画面には15分にも満たない通話記録が残されていた。
「……亮介に電話をしていたのか?」
「…お帰りなさい…今日は早いのね。……そうよ…今日はあの子の誕生日だから…」
「…家を出てからというもの、ちっとも家に寄り付かなくなったな。あいつは」
彼女に声を掛けてきた男性は、表情に疲労を滲ませたままソファに座ると、首元をきつく締めたネクタイを緩めていた。
「……亮介の彼女が言うには、あの子自炊も頑張っているみたいよ。剣道サークルでも上級生に可愛がってもらってるようだし…」
「………彼女?」
「…知らなかったの? 同じ高校の後輩の子なんですって。亮介の卒業式以降お付き合いしているのよ」
男性は彼女の言葉にピクリと反応した。眉間にシワを寄せ、彼女…自分の妻にどういうことかと視線で問いかける。
その仕草だけで彼女は夫が訴えていることをすぐに察知し、二番目の息子の彼女の話をし始めた。
「…今年は彼女が受験生だから二人でよく勉強してるんですって。…気立ての良さそうな子よ。それとお菓子作りが上手で、前にはどら焼きを…」
「…どら焼き?」
「あ、いえ何でもないわ」
ゴホンと咳払いをする妻の様子を不審そうに見ていた男性だったが、次男の交際相手のことが少なからず気になっているようだ。
……まさか自分の妻が、次男の彼女が作ってきた菓子を自分の分まで食べてしまっているなんて想像すらしていないだろう。しかも二度も。
「二人で今度うちに来るよう誘ってみたけど、亮介忙しいんですって。あやめさんも受験生だし……仕方ないわよね」
「………高校の、後輩だったな。去年の秋頃に高校の文化祭があったはずだ」
「え? …確かあったはずだけど……でもどうして?」
妻の問いに彼は視線を向けると、人によっては冷たく見えるらしい瞳を細めた。
「……あいつがまた堕落して、道を踏み外す恐れがないか確認しに行くだけだ」
「…裕亮さん……でもあやめさんは」
「…あいつには言うなよ。英恵」
そう念押しすると彼は妻の返事を必要としない様子で、ゆっくりソファから立ち上がって風呂場へ向かっていってしまった。
英恵は夫が去っていくのを引き止めること無く見送っていたが、先程の電話での次男の反応を思い出し、少し気分が暗くなった。
夫と一緒に大学の文化祭に行くからと伝えた時の次男の反応は、ひどく緊張をしている様子だった。その反応を誤魔化すようにあの子は「仕事が忙しいだろうから無理して来なくていい」と言っていた。……あれは、来ないで欲しいという意味……いや、考えるのはよそう。
それに先程の夫の様子だと、亮介の彼女を見定めに行くつもりなのだろう。
英恵は夫の気持ちを理解できた。子供の将来に関わることだ。悪い芽は摘み取って置いて損はないはずだ。
…だけど自分は亮介の彼女とも面識があるから複雑でもある。
義父が見た印象では亮介が自然体で居られる相手だったと言っていた。実際に会ってみた自分も印象は悪くはなかった。優しくて気遣いのできるいいお嬢さんだった。
息子にそんな大切な存在が出来たのなら、引き離すような事態にはなってほしくはない。
だけど、夫が不釣り合いと見たら……亮介の邪魔にしかならないと判断したら……
もしもそうなったらその時亮介は……?
だが自分が表立って庇ったとして、果たして堅物の夫が自分の話を聞いてくれるだろうか…?
英恵は頭痛がした気がしてしばらくの間、コメカミを手で抑えていた。
向こうの通話が切れたのを確認すると、彼女はゆっくり耳から電話を離す。彼女は電話が終わった後もしばらく携帯電話を眺め、ぼんやりしていた。
携帯電話の待受画面には15分にも満たない通話記録が残されていた。
「……亮介に電話をしていたのか?」
「…お帰りなさい…今日は早いのね。……そうよ…今日はあの子の誕生日だから…」
「…家を出てからというもの、ちっとも家に寄り付かなくなったな。あいつは」
彼女に声を掛けてきた男性は、表情に疲労を滲ませたままソファに座ると、首元をきつく締めたネクタイを緩めていた。
「……亮介の彼女が言うには、あの子自炊も頑張っているみたいよ。剣道サークルでも上級生に可愛がってもらってるようだし…」
「………彼女?」
「…知らなかったの? 同じ高校の後輩の子なんですって。亮介の卒業式以降お付き合いしているのよ」
男性は彼女の言葉にピクリと反応した。眉間にシワを寄せ、彼女…自分の妻にどういうことかと視線で問いかける。
その仕草だけで彼女は夫が訴えていることをすぐに察知し、二番目の息子の彼女の話をし始めた。
「…今年は彼女が受験生だから二人でよく勉強してるんですって。…気立ての良さそうな子よ。それとお菓子作りが上手で、前にはどら焼きを…」
「…どら焼き?」
「あ、いえ何でもないわ」
ゴホンと咳払いをする妻の様子を不審そうに見ていた男性だったが、次男の交際相手のことが少なからず気になっているようだ。
……まさか自分の妻が、次男の彼女が作ってきた菓子を自分の分まで食べてしまっているなんて想像すらしていないだろう。しかも二度も。
「二人で今度うちに来るよう誘ってみたけど、亮介忙しいんですって。あやめさんも受験生だし……仕方ないわよね」
「………高校の、後輩だったな。去年の秋頃に高校の文化祭があったはずだ」
「え? …確かあったはずだけど……でもどうして?」
妻の問いに彼は視線を向けると、人によっては冷たく見えるらしい瞳を細めた。
「……あいつがまた堕落して、道を踏み外す恐れがないか確認しに行くだけだ」
「…裕亮さん……でもあやめさんは」
「…あいつには言うなよ。英恵」
そう念押しすると彼は妻の返事を必要としない様子で、ゆっくりソファから立ち上がって風呂場へ向かっていってしまった。
英恵は夫が去っていくのを引き止めること無く見送っていたが、先程の電話での次男の反応を思い出し、少し気分が暗くなった。
夫と一緒に大学の文化祭に行くからと伝えた時の次男の反応は、ひどく緊張をしている様子だった。その反応を誤魔化すようにあの子は「仕事が忙しいだろうから無理して来なくていい」と言っていた。……あれは、来ないで欲しいという意味……いや、考えるのはよそう。
それに先程の夫の様子だと、亮介の彼女を見定めに行くつもりなのだろう。
英恵は夫の気持ちを理解できた。子供の将来に関わることだ。悪い芽は摘み取って置いて損はないはずだ。
…だけど自分は亮介の彼女とも面識があるから複雑でもある。
義父が見た印象では亮介が自然体で居られる相手だったと言っていた。実際に会ってみた自分も印象は悪くはなかった。優しくて気遣いのできるいいお嬢さんだった。
息子にそんな大切な存在が出来たのなら、引き離すような事態にはなってほしくはない。
だけど、夫が不釣り合いと見たら……亮介の邪魔にしかならないと判断したら……
もしもそうなったらその時亮介は……?
だが自分が表立って庇ったとして、果たして堅物の夫が自分の話を聞いてくれるだろうか…?
英恵は頭痛がした気がしてしばらくの間、コメカミを手で抑えていた。
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